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The Slits

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野田 努   Oct 22,2010 UP
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E王

 高校に入学した年だ。『カット』のジャケを、実家の近所の輸入盤店の壁で初めて見たときに恐いと思った。そこには裸の、そして泥だらけの3人の女性がいる。アリ・アップはこちら側を見ている。裏ジャケの写真でもそうだ。向かって左下の彼女はこちらをしっかりと見ている。静かに、しかし力強い目で。それは下着姿のランナウェイズとも、男装するパティ・スミスとも、セクシーなデボラ・ハリーとも違う。それは彼女たちがアマゾネスめいた女戦士であることをほのめかすと同時に、あるいは男の、そう男のもっとも嫌らしい視線を嘲り、跳ね返す。
 デニス・ボーヴェルのプロデュースは、女性の音楽が"泣き"や"情緒"ばかりではないことを見事に証明し、パンキー・レゲエのスタイルを創造する。万引きを賞揚する"ショップリフティング"は買い物でしか自分を保てない女性たちへの否定であり、大らかな激励でもある。ディープなレゲエの"ニュータウン"は、都市の再開発に対するストレートな恐怖感を歌う。
 そして『カット』は、ザ・ポップ・グループの『Y』のたったひとつのパートナーだった。プロデューサーも同じで、そしてそのジャケの意味することも同じだった。ふたつのバンドはレゲエのダブを手に入れ、野蛮さを讃えた。
 ザ・スリッツは、セックス・ピストルズやザ・クラッシュができなかったことをやったパンク・バンドだった。女性たちによる最初のパンク・バンドだったし、それがある種のポーズではなく、本当に楽器が弾けないのに演奏してしまった最初のバンドのひとつでもあった。

 アリ・アップの訃報を教えてくれたのは2マッチ・クルーのポエム氏だった。そのメールを読んだのは、井の頭線に乗ってOTOさんに会うために渋谷に向かっている途中だった。OTOさんというのはもちろんじゃがたらのOTOさんであり、サヨコオトナラのOTOさんである。それはたんなる偶然であり、そこに因果関係など......あろうはずがない。アリ・アップはニュー・エイジ・ステッパーズでラスタの神秘主義に浸り、アニミズム的な世界観を展開した。そしてキングストンとニューヨークを往復して、まるでレディ・ソーのようなダンスホール・スタイルを手にした。電話で取材したときには、リアーナは最高だと言った。それから2007年の10月に来日してザ・スリッツとしてのライヴを披露している。"ティピカル・ガール"からはじまったそのときのライヴを、この先何度も思い出すだろう。決して忘れないように。

 彼女に会ったとき、愚かな僕は「あなたは僕のアイドルです」と言った。彼女は真っ直ぐに僕の目を見つめ「アイドルを否定したのが私たちなのよ」と言った。そして「korose sono ai de」と彼女は書いた。

 2009年はザ・スリッツとしては28年振りのサード・アルバム『トラップド・アニマル』を発表した。最初の曲"アスク・ママ"では、「男を生むのは私たち女、男のクソの面倒まで見れないけど、私たちで世界を変えよう」と歌った。"イシューズ"では幼児虐待について歌い、"ピアー・プレッシャー"で彼女は「女子学生のみんな、聞いて」と呼びかけ、外見を気にしながら生きる若い女の子の気持ちを歌った。そしてそのアルバムの"レゲエ・ジプシー"で、2010年10月20日に癌でこの世を去った偉大なる変革者はこう歌った。「アンダーグラウンド代表として地上にやって来た。歳月と涙を費やして恐怖に打ち勝つことを覚えた。私はパンク・レゲエの女王。健全な人間。悪意ではなく高尚な思想のもとにスリッツ宮殿を建てている。かみついたりしない。争わないで。私は放浪者のなかの放浪者。私たちは生き続ける」

野田 努