「S」と一致するもの

Special Request - ele-king

 ハウス・プロデューサー、ポール・ウールフォードが、UKダンスミュージックに特化した別名義であるスペシャル・リクエストとしてEP「モダン・ウォーフェア」を〈XLレコーディングス〉より発表する。作品は3作にわかれた12インチと、デジタルのフォーマットでリリースされる。発売日は10月30日。
 彼は2013年にロンドンの有名クラブであるファブリックが主宰するレーベル、〈ハウンズトゥース〉より、同名義でアルバム『ソウル・ミュージック』を発表。ブロークンビーツを用いたバック・トゥ・ベーシックなスタイルや、リミキサーに新人のテセラを起用するなどで話題となり、そのアイデア、そのクオリティともに高い評価を得た。
 今回発売されるEPに向けて、新曲の“アムニージア”が公開されている。



 またリリース元である〈XL〉は、今年に入ってからパウェルやマムダンス×ノヴェリストといった、UK 最先端のダンスミュージックを紹介している。ご存知の通り、姉妹レーベル〈ヤング・タークス〉からはジェイミーXXの『イン・カラー』が。さらにそのサブ・レーベル〈ホワイティーズ〉からは、コウトンやマイナー・サイエンスといった、アンダーグラウンドの先鋭たちのシングルがリリースされた。
もともとはレイヴ・カルチャーを背景に持つレーベルとしてはじまった〈XL〉。今年は、立て続けに重要なクラブ系のEPを出している。近々、日本独自編集盤のコンピレーションが出るのではないかという噂もある。アーティストとレーベルの周辺を今後ともチェックしていきたい。

参照:RA(https://www.residentadvisor.net/news.aspx?id=31361

Special Request
Modern Warfare EP

XL Recordings
Release:2015.10.30

EP1:
A1 Amnesia
B1 Reset It
B2 Modern Warfare

EP2:
A1 Take Me
B1 Damage
B2 Simulation

EP3:
A1 Tractor Beam
B1 Elegy
B2 Peak Dub


Helen - ele-king

 最高のノイズ・ポップ・アルバムがここに誕生した。そう、グルーパーことリズ・ハリスがメンバーでもあるバンド、ヘレンが、2013年の7インチ盤から2年もの月日を経て、待望のファースト・アルバムをリリースしたのである。
 しかし、リズなのにヘレンとはこれいかに、という謎は、そのメンバー編成にある。リズ・ハリス(ボーカル/コーラス)、イート・スカルのスコット・シモンズ(ギター/ベース)、本年〈スリル・ジョッキー〉から大作をリリースしたエターナル・タペストリーのジェド・ビンデマン(ドラム)の3人に加え、謎の女性ヘレンがコーラスに参加しているというのだ(?)。

 バンドの音楽性は、イート・スカルのトラックに、グルーパーのヴォーカル・ワークが折り重なっていくタイプのものといえるだろう。じっさい、楽曲は二人の共作によるものと思われるが、イート・スカルとのちがいは強烈なノイズ・ギターにある。コードを無化する強烈なノイズの横溢。
 それゆえ楽曲の骨格は、ほぼベースによって作られているといっていい。音楽的にはギター・ノイズをマイナスすれば、“モーターサイクル”や“カバード・イン・シェード”などを聴いてもわかるように、多幸感溢れる60年代的なバブルガム/サイケポップ的である(グローパー『ルインズ』がキャロル・キングを思わせる70年代SSW的な楽曲であったのとは対照的。このあたりにスコット・シモンズの個性を感じる)。
サイダーの炭酸のような甘いノイズ。切ない明るさを漂わせるベースのコード進行。そしてリズの透明なコーラス。それらが混然一体となることで生まれる圧倒的な快楽をどう形容にすべきか。まさに至福の音としかいいようがない。シューゲイザーからアンビエント/ドローン、そしてチルウェイヴからドリーム・ポップを経由した2015年型のティーンエイジ・ノイズ・ポップの誕生だ(彼らが10代というわけではない)。

 さらに注目すべきは、その音質である。まるでカセットテープに録音されたような歪んだサウンドは、単なる轟音ノイズともちがう独特のアトモスフィアを生んでいる。私などは、この使い古された痕跡のような音にこそ本作の最大の意義を受け取ったのだが、どうだろうか(ちなみに本作はステレオ録音だが音はセンターに集中しており、モノラルな質感を醸し出している点も重要に思えた)?
 アルバムはカセットプレイヤーの再生か録音ボタンのような音と、歪み切ったテープのような音質の“ライダー”からはじまり、ラスト1曲まえの“ヴァイオレット”ではカセットプレイヤーを止めるような音が挿入されている。次いでラスト曲“ジ・オリジナル・フェイシズ”がまるでエンディング・テーマにより鳴り始めるのだから、アルバムがカセットテープの録音/再生というコンセプトとして構成されていることは明白ではないか。となれば、このカセットテープなような音質もまた本作の重要な要素とわかってくる。
 私は本作を聴きながら、まるで打ち捨てられたカセットテープに残された見知らぬバンドの録音を聴いているような気分になった。グローパーでもイート・スカルでもエターナル・タペストリーでもない。まるで20世紀の後半の、誰とも知らないバンドの録音の痕跡を聴くような感覚。

 そう、ヘレンのアルバムには、まるで末期資本主義のゲーム(つまりつねに進化を、つねに新品を、つねに消費を!)を、その内側から止めてしまい、ゴミのようなポップの残骸を、新しいポップへと生成変化させてしまうような「新しさ」がある(何かをリサイクルしたようなアートワークも象徴的)。……と、そんな妄想を思わず繰り広げてしまうほどに、本作のローファイさはイマジネティヴなのであった。
 20世紀の痕跡と残骸に刻まれたポップなメロディとノイズの炸裂。これこそが2015年以降のポップ・ミュージックのモードに思えてならない。

Metome (Schist) - ele-king

Recently

OG from Militant B - ele-king

ルードモンスターファーム2015秋

DJ ZAZENBEAT (DPT) - ele-king

レコードでかけたい10曲

高橋源一郎×SEALDs - ele-king

 「民主主義ってなんだ?」というコールは天才的だと思った。疑問形のコールは英語ではあったけれど、日本語では難しそうだと思っていた。それどころか、私が2000年くらいに行った古いタイプのデモでは、「勝ち取るぞー」「勝利するぞー」と叫びながら歩いていた。いったい誰が誰になにを訴えたくてそんなことを叫んでいるのか全然わからなくて(すごく自己満足っぽくて)、ついに私はそのコールに声を合わせることが出来なかった。あれから10年以上の間に、街を行くデモの形態は劇的に変わってきた。コールだって「勝利するぞー」なんて聞かなくなった。テンポはロックンロールの歴史のように速くなったり、誰でも(どこから来た人でも)声を合わせやすいものになってきたと思う。
 そして「民主主義ってなんだ?」へ。レスポンスは「なんだ!」から次第に「これだ!」になっていく。何度も何度も繰り返し、先週も今週も来週も繰り返す。そのたびに「なんだ?」と考えたり、「これだ!」と確信したり、そしてまた問いに戻る。あの「これだ!」には、そんなふうに粘り強くデモをする人たちの実感がこもっていた。ある意味、「勝利するぞ」と同様にデモの力を誇示しているかのようだけれど、あれがどうも空元気にしか聞こえなかったことを思い出すと、執拗な「なんだ?」という問いかけは、「民主主義ってなんだろう」という自問を瞬時に、その場にいる人たちの脳みそに去来させ、自分たちがやっていることへの自信につながっていたようにも感じたし、疑問はデモが続く限り、いや終わってからも継続して頭に残るんじゃないかと思えたのだった。

 そんなコールを発明したSEALDsの最初の単行本だという本書は、最初の3分の2がSEALDsの自己紹介だ。奥田愛基、牛田悦正、芝田万奈の三人の生い立ちからはじまる。まさに世界をまたいだ3人3様のストーリーを持った彼らが偶然出会ってSEALDsが生まれ、それにそれぞれがどう関わってきたかをそれぞれの個人的視点から話している。どうしてそうなったか、どう考えてそうしたか、単なる年表ではなく、個人史でもあり日本社会史でもある、知的であり同時に野性的だったりもする。まるで青春小説のように楽しい“歴史”だ。
 そして後半は『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新聞出版)がヒット中の高橋源一郎先生を中心にした民主主義ゼミナール。叫び続け、あたため続けた「民主主義ってなんだ?」の問いを、「これ」の中身を、古代ギリシャの直接民主主義、西欧で成長して来た議会制民主主義だけでなく、ネイティブ・アメリカンやアフリカの民主主義や、そもそも人が言葉を得た時に民主主義は生まれたんじゃないかとか、戦後民主主義から「戦後」の取れたいまの「民主主義」まで、話はどんどん広がって深まっていく。民主主義は危険なものだ、立憲主義って人間を縛る、とか、ネガティヴな話もしながら、それでもやっぱり「民主主義」しかない、民主主義ってどう作っていくんだ、などなどなど。
 数年前、親の荷物を整理していたら、『あたらしい憲法のはなし』という小冊子が出て来た。これは戦後、まだ自衛隊も安保もない日本でほんの短い間、中学1年生の教材だったものだそうで、新しい日本国憲法をそれはもう誇らしげに楽しげに解説している。戦後の日本社会は、こんな大いなる希望ではじまっていたのだ、少なくともこれを教材にしていた子どもたちは。そしてその子たちはやがて大学生や労働者になり、60年安保闘争で国会前を埋め尽くした。
 私は高橋先生とSEALDsの会話を読みながら、この小冊子を思い出した。安保法制が可決されてすぐに刊行された緊急行動の緊急出版は、大急ぎで作ったらしいダイナミックで新鮮な作りのところもそうだが、なにより「はじめの一歩」のような初々しい決意が似てる。
 会話の言葉なのでとても読みやすくて、思考のプロセスがよく見えるので中高生にも充分理解できそうだし、友だちと回し読みしてもすぐに順番が回ってきそうだ。そして自分でも考えたくなる。民主主義ってすごく身近なことなんだ。「日本は民主主義の国ですからデモをやっていただいてもかまいませんが……」だの「デモなんてヒマ人のやること」だの「あれっぽっちで民意だなんて笑わせるな」だの「デモは感情だけ」だのだの、インターネット時代のオープンな陰口がいろいろ聞こえてきて、消沈しているひともいるかもしれない。何ヶ月も国会前に通って疲れた人も多いだろう。いつもなら使わないはずの交通費で出費が増えたとか、友だちと遊べなかったとか、本が読めなかったとか、いろいろ少しはいつもの生活を犠牲にしただろう。それならちょっと休んでもいいじゃない。休んで、何度も声にした民主主義って「これだ!」の中身を少し深く考えてみるのも楽しいに違いない。デモは嫌いだけど民主主義は気になるって人にもぜひとも読んでみて欲しいと思う。考えてるうちにまた、デモに出かけて行くときが来るんだな、きっと。

 ところで「SEALDsは個人の集まりだ」といろいろな人が言っている。それはいい! でも私がいままで行っていたデモもほとんどは「個人の集まり」だった。2003年、イラク反戦のパレードに「孤立を求めて連帯を恐れず」というプラカードがあった(あのころはプラカードはまだ各自の手製だった)。これは全共闘が好んでいたスローガンのひとつだったという、谷川雁のフレーズ「連帯を求めて孤立を恐れず」のもじりだ。今回と同じように家族連れも多い、集合場所になった新緑の公園でその「孤立」の文字は寂しさではなく、シャイな表情の清々しさを放っていた。70年代以降の、とくに団塊世代より若い日本人は「連帯」が恐かった。連帯していがみ合うくらいなら孤立している方がよほどいいと思っていたのだ。それが、「個人」が独立するということではなく、単に分断されているだけだと気づきもせずに、労働組合も政治運動も衰退して来て、政治参加と言えば「選挙で投票すること」だと割り切り、しかしその投票はあまりにも空しい行為になり続けて来た。だからそのデモにひとりで来ているようだった若者が掲げる「連帯を恐れず」というプラカードが、なにかを吹っ切ったあたらしい時代の到来のように感じられたのだ。
 その年からたしかに、反戦や労働運動や脱原発、反ヘイトなど、「個人」の集まりで行われるデモは増えていった。だけど待って。「連帯」ってなんだっけ? それってどうやって作るんだっけ? そういうことをなにも伝承していなかったあたしたちは、それぞれが試行錯誤しながらいろいろやって来たけれど、どこか、「連帯」に対して臆病であり続けていたように思う。
 ところがですね、安保法案が強行採決されるとき、SEALDsはなんと「野党はがんばれ!」とコールしていたのだ。「屁理屈いうな!」には笑ったが、この「野党はがんばれ!」にも私は驚いた。市民運動が野党にこんな屈託のない「連帯」の表明をするところも初めて見た。“国会前でやること”の意味が、抗議だけでなく励ましにもあったとは! ディスるだけじゃなく、誰かを応援するデモに、私は初めて立ち会って、事態の深刻さにも関わらず、思わず笑ってしまったのだ。なんか、いままでの市民運動にはなかなか言えないよなあ。過去の失敗から長い分断を経て、“経験のなさ”から発生するこういう屈託のなさが、こんなに多様でたくさんの人びとを惹きつける力になったのではないか。
 もちろんSEALDsのやり方が唯一の正解というわけではないし、正解のひとつかどうかさえ、本当はまだ分からない。だけど今のところかなりうまくいっていそうだ。昔の人たちが失敗したから、その内容までもダメだった証拠にはならない。次にはもっといいやり方を考える。人間にはそれが出来ると信じること──それ自体が民主主義でもあって、「戦後」の取れた「(僕らの)民主主義」には必要なんじゃないだろうか。焼け野原になった日本で「あたらしい憲法」を学んだ子どもたちの多くが、おそらくはそうだったように。

文部省 あたらしい憲法のはなし
https://www.aozora.gr.jp/cards/001128/files/43037_15804.html

Japanese House - ele-king

 フランス人DJ/プロデューサーのブラウザ、そして東京在住のアリックスクンのふたりは、ここ数年、主に90年代の(そして主にNYガラージに影響を受けた)ジャパニーズ・ハウスを掘り続けている。その成果が来るべき11月、いよいよ1枚のコンピレーション・アルバムとなってお目見えする。

 以下が公表されているトラックリスト。

A1 T.P.O. - Punk Inc. (Hiroshi's Dub)
A2 Katsuya - I Need Luv
B1 The Ecstasy Boys Ft. Shiro Amamiya - Chi Chi Chi Gan Kanon
B2 Jazzadelic - I Got A Rhythm (1991 original mix)
C1 Akiko Kanazawa - Sawauchi Jinku (Terada mix)
C2 Yutsuko Chusonji - Blessing (Magic Ware Remix)
C3 YPF - Trance of Love (Tokyo Offshore Mix)
D1 Yukihiro Fukutomi - It’s Gonna Be Alright
D2 Hiroshi Matsui - Crazy Miracle Dub
E1 Takeharu Kunimoto - Home (6 a.m. mix)
E2 Violets - Sunset
E3 GWM - Deep Loop (edit)
F1 Fake - Square
F2 Hiraku Nagasawa - Matrix Track
F3 Dan K - Turquoise Love

 そして以下は、コンパイラーのひとりであるアリックスクンからのメッセージ。

 本コンピレーションは、ジャパニーズ・ハウスの歴史、そして世界中での普及を考えて日本のアンダーグラウンドハウスプロデューサーの作品を紹介する観点からすると初めてのものです。クラシックな曲から、とんでもなくレアな曲まで、Brawther&Alixkunが本コンピレーションの曲を選び、そのジャパニーズハウスサウンドの基礎であるディープなグルーヴや素直なメロディをしっかりと取り入れました。
 レジェンドに近い存在の寺田創一、福富幸弘、The Ecstasy Boysと共に、忘れられたハウス・ヒーローであるTakecha, Magic Ware、ひだのかつみなどが揃っています。
 そして本コンピレーションでは、ハウスミュージック好きな人をはじめ、もっと幅広く日本の音楽シーンに興味を持っている人のことまで考えています。
 初期ジャパニーズ・ハウス・シーンへの入門編として、本コンピレーションはジャパニーズ・ハウス・シーンの誕生についてさまざまな謎を解き、新しい観点からジャパニーズ・ハウスの歴史を音楽で語っています。

Yomeiriland - ele-king

 マムダンス&ノヴェリストといえば、いまやUKグライムの最強のタッグ。マムダンスは、今年はロゴスとの共作アルバムを出したトラックメイカー、そしてノヴェリストは期待大の若手MCだ。夏前には、彼らは正式にコンビを組んでXLから12インチを出している。
 そのふたりの2014年のコラボ曲“Take Time”を、なんと日本の3人組ラップ・グループ、嫁入りランドがカヴァー。先日SoundCloudで発表すると、さっそくFACT MAGは、「当然ながらブリリアントである」と賛辞を寄せている。
 ※引用訳につきまして「驚きはしないが、ブリリアントである」を「当然ながらブリリアントである」に訂正いたしました。関係の皆さま読者さまにお詫び申し上げます(2015.9.25)

 ちなみに、こちらがマムダンスのオリジナル。

 で、こちらが嫁入りランドのカヴァー。

ルビー・ローズ、ガリポリ、安保法案 - ele-king

 またしてもネットフリックスが当てた海外ドラマ『OITNB(オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック)』(囚人服のこと)の「シーズン3」で一般的にも完全にブレイクを果たしたルビー・ローズは、日本で人気のミランダ・カーと同じくオーストラリア出身のファッション・モデル。ローズの全身にはタトゥーが入っていて、ハイエイタス・カイヨーテのナイ・パームといい、さすがオーストラリア、『マッド・マックス』みたいなキャラが次から次へと出てくるなーと思っていたら、なんと、彼女はガリポリの戦いで生き残ったオーストラリア兵の子孫だという。オーストラリア軍は全滅したと思っていたので、生存者がいたことにも驚き、その子孫が「髪を切ったらジャスティン・ビーバー」などと言われて、いまやレズビアンのアイコン的存在になっているとはなかなか言葉もない。

 100年前、イギリス軍がトルコに上陸するためにオーストラリア兵を人間の楯として使ったのが、いわゆる「ガリポリ」で、ハリウッド進出前にピーター・ウイアーが『MASH』や『キャッチ22』と同じ手法で映画化している。要するに前半は兵士たちがふざけているだけ(邦題はなぜか『誓い』)。『マッド・マックス』と同じ主演のメル・ギブスンは、最初は戦争に行くことを拒否している。「パッとしないから」という理由で志願する友人たちに非国民とそしられても彼は「僕たちの戦争じゃない」「イギリスが勝手に」といって取り合わない。しかし、「ハクがつく」という理由で彼も宗主国であるイギリスとオーストラリアの合同作戦に志願。しまいには「♪イギリスさんが困ったら~ 僕たちがかけつける~」と陽気に合唱し、自分たちがイギリス軍の下部組織であることに大した自覚は持っていない。そして、彼らを取り巻く事態は急変する。イギリス軍が全員無事に上陸し、「お茶でも呑んでいるころ」にオーストラリア軍は上官も含めて全部隊が敵の銃弾に向かってダッシュしていく。エンディングは凄絶なものがある(ブライアン・メイとジャン・ミシェル・ジャールの音楽がいまとなってはかなりダサい)。

 衆参両議院で安保法案について審議されている間、僕の頭には「ガリポリ」が何度もよぎってしまった。前線と後方支援ではまったく意味が異なるし、自衛が人間の楯として使われるという局面が訪れるとはさすがに思わないけれど、実質的には自衛隊が米軍のパシリになるという法案にしか思えなかっただけでなく、最高責任者がどちらの軍に心を寄せているのかという部分でも「ガリポリ」と安部政権は正反対を向いていたとしか思えなかった。僕はずっと安倍は、イランでいえばホメイニ以前のパーレビみたいな存在だと考えていたこともあって、今度のことも独立性の面では右翼の方々が怒ってしかるべき法案ではなかったかと思えたし、スイスなど一国平和主義の国防意識を引き合いに出す賛成派も右翼の不在を過剰なレトリックとして使っていたに等しく、安保法案に関心を示していたテンションの高さに対して、それこそ安倍内閣の答弁はあまりにゆるゆるで、「♪アメリカさんが困ったら~ 僕たち皆がかけつける~」という鼻歌程度のものとしか考えていないような印象さえあった。日本が戦後の方針を大転換させるにしては、なんというか、理屈も弱いし、パッションも低いし、女性の口説き方でいえば「いいじゃん、ちょっとぐらい」とか「先っぽだけ」に近い感触で言い寄られたような法案だったというか。

 政府ではなく、法案に賛成する人のなかには耳を傾けてもいい意見はあった。賛成派にも反対派にもバカな意見というのはもちろんあって、とくに賛成派でも保留派でもバカバカしかったのは個別的自衛権と集団的自衛権を取り違えているもの。影響力が大きい人では、松本人志や田村淳などお笑いで、それが目立ったのはちょっと気になった。アメリカのコメディアンにはリベラルが圧倒的に多く、とはいえ、政治家をからかう時には民主党であれ共和党であれ、とにかく容赦がない。近年で最大のヒットといえばティー・パーティ後ろ盾にして出てきたサラ・ペイリンをまずはティナ・フェイが完コピし、さらにはペイリンが言いかねない政策を先回りして吹きまくるというものがあった。

 ヘタをすれば政治家のスタッフ・ライターになれる域である(ティナ・フェイのサラ・ペイリンが見たいばかりにティー・パーティに復活して欲しいぐらいだと思っていたらドナルド・トランプに呼応して、先週、「私がエネルギー大臣!」とブチあげてペイリンが復活してきました。いやー、お笑い的には面白くなるかも~)。
 ティナ・フェイが辞めた後に「サタデー・ナイト・ライヴ」のヘッド・ライターに就任したセス・マイヤーズがホワイトハウスのディナー・スピーチでドナルド・トランプを叩き潰した瞬間もなかなかのものがある。カメラに抜かれたトランプの表情は完全に固まっていた。

 ジミー・ファロンやクリス・ロックなど、この辺りは例を挙げれば切りがない。本誌15号でも取り上げたようにウィル・フェレルとスティーヴ・カレルが右翼報道で知られるフォックスTVを笑いのめす映画
『俺たちニュースキャスター』も最高でした。

 お笑いが政治にコミットするというのはこういうことであって、一国民として政治に振り回されるのではなく、個別的自衛権と集団的自衛権の区別がついてから、それを笑いのネタにしてもらいたいものだと思うばかりである。

 話を戻そう。賛成派のなかで耳に残ったというか、僕にもそういう気持ちがあるのは国際貢献である。かつて国境なき医師団(以下、MSF)はルワンダで武力行使を要請した事があり、それを聞いて僕は非常に葛藤を覚えたことがあった。MSFというのは目の前にケガ人がいれば黙々と救援活動を行うだけで、それ以上のことはしないと思っていたのに、最近の政治用語でいえば僕が思っていたよりも「積極的」だったのである。
 そして、そのことによって多数を救うことができると彼らは早期に判断し、実際には国連が武力行使どころか、ほとんど黙って見ていたために、MSFが恐れていた通り、市民同士の虐殺はマックスへと登りつめていく。ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督『ジョニー・マッド・ドッグ』(『憎しみ』のマチュー・カソヴィッツがプロデュース)のような展開を経て現在のルワンダがIT大国として飛躍的な経済成長を遂げたという後日談を知ると、これもまたなんともいえない気持ちにはなるけれど、100万人以上の死者を見過ごしたことはたしかであり、自衛隊がその主体になることはないにしても、国連軍が武力行使をする時に日本が何をできるのかということは、以来、気になり続けていた。
 今回の安保審議では、論点が米軍との連携に集中し、PKOが具体的にどう変わるのか、僕にはよくわからなかった。政府が「国際情勢の変化」というならば、イエメンの内戦やムガベの横暴、あるいはネパールやウクライナでは今年、憲法改正をめぐって暴動や警官の殺害まで起きているし、ISISの空爆に踏み切ったトルコはついでにクルド人まで空爆し始めるなど世界のどの部分を見ても「国際貢献」をしたいという気持ちを掻き立てられた人は少なからずだったのではないだろうか。安陪内閣の答弁を聞いていると、40%前後の支持率のうち、どれぐらいを占めているのかはわからないけれど、そういった真面目に国際貢献をしたいと思う人の気持ちは完全に裏切られていると僕には思えたし、それこそアメリカのニーズに応えて日本政府が憲法を破るというなら、アメリカのニーズがあれば日本国民も刑法や民法を破っていいのかな~と、法に支配される国民としての方針も大転換させたくなってしまう。


 多ジャンルで活躍するルビー・ローズはこのところDJとしてもめきめき評価を上げている。

 ジェンダー・フリーを呼びかけるルビー・ローズからのメッセージ・ヴィデオ。

Alexandre Francisco Diaphra - ele-king

 9年ぶりの新作『断食芸人』が完成した足立正生監督はパレスティナにいた頃、自分はアレルギーがあって食べられないにもかかわらず、現地の人たちにさしみの食べ方を教えようと釣ってきた魚をさばきまくっていたという。ただし、地中海で採れる魚は日本に較べて身が薄く、醍醐味としてはもうひとつだったらしい。シリア難民に関する報道が連日のように伝えられる直前だったが、アフリカからヨーロッパに渡り損ねた犠牲者の数は早くも2600人を超したという数字が出ていて(昨年は3279人)、それだけの栄養が海の底に沈めば魚の質にも変化がありそうだと思いきや、スエズ運河拡張工事の影響で塩の濃度に変化があり、現在はインド洋から流れ込んできたロピレマ・ノマディカというクラゲが地中海には溢れているらしい。自殺しようと思って海に入ったはいいけれど、全身をクラゲに刺されて、あまりの痛さに陸に上がってしまったというエピソードがイニャリトゥー監督『バードマン』には出てきたけれど(なんで、こんなヒドい作品がアカデミー賞?)、地中海というのは政治的にも生態的にもかなりオソロしいところになってきたようです。しかも、その真ん中ではいまやパリス・ヒルトンがアムネジアのレジデントに収まって、金持ちが全身泡まみれで踊っているという。クラゲか泡か。なんだか中世の宗教画みたいな構図というか。

 親が越えたのか自分で辿り着いたのか。現在、リスボン(ポルトガル)で活動するギニア-ビサウ系のDJ、アレキサンドル・フランシスコ・ディアフラのデビュー・アルバムはトライバルなリズムを駆使しながらも実に都会的な感触のアルバムに仕上がっている。こんなに荒廃した印象を与えるアフリカのリズムも珍しいというのか、ジェイミー・XXが抱いているイメージとは正反対のアフリカが一面にぶちまけられて。フォーク・ソングや労働歌がヘンな余韻を伴いながら小刻みにループされ、エフェクトをかけられたアフリカン・チャントはどうあっても能天気には響かない。楽しくも悲しくもなく、感情的には淡々としたもので、いわゆるハードボイルドといった方が収まりはいいかも(そう、まるでワールド・ミュージック・ヴァージョンのレニゲイド・サウンドウェヴか、モー・カラーズに対する闇からのアンサー)。本人いわくジャズを意識しつつも基本はヒップ・ホップで、マルチ・タレントして紹介されるようにサンプリングや楽器の演奏に加えて本人がラップしたり、歌ったり、詩もぶつぶつと読んだり。全体を通して聴くと、気のせいか、30分近い予告編とはだいぶ印象が違うような……。

 CDには曲名の表記はまったくなく、ジャケットを広げると「失くした時の送り先」を書く欄が印刷されている。そして、届けてくれた人に渡す報酬を記す欄も。シリア難民は15万円も払ってボートで国外に脱出しているそうだけど、なんとなく移民のメンタリティを感じてしまうアイディアではある。また、レーベルはスイスの〈メンタル・グルーヴ〉が傘下に設けた〈バザァク〉からで、同レーベルが2011年にリリ-スしたクドゥロのコンピレイションにちなんでいる。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026