Home > Reviews > Album Reviews > Alexandre Francisco Diaphra- Diaphra's Blackbook Of The Beats
9年ぶりの新作『断食芸人』が完成した足立正生監督はパレスティナにいた頃、自分はアレルギーがあって食べられないにもかかわらず、現地の人たちにさしみの食べ方を教えようと釣ってきた魚をさばきまくっていたという。ただし、地中海で採れる魚は日本に較べて身が薄く、醍醐味としてはもうひとつだったらしい。シリア難民に関する報道が連日のように伝えられる直前だったが、アフリカからヨーロッパに渡り損ねた犠牲者の数は早くも2600人を超したという数字が出ていて(昨年は3279人)、それだけの栄養が海の底に沈めば魚の質にも変化がありそうだと思いきや、スエズ運河拡張工事の影響で塩の濃度に変化があり、現在はインド洋から流れ込んできたロピレマ・ノマディカというクラゲが地中海には溢れているらしい。自殺しようと思って海に入ったはいいけれど、全身をクラゲに刺されて、あまりの痛さに陸に上がってしまったというエピソードがイニャリトゥー監督『バードマン』には出てきたけれど(なんで、こんなヒドい作品がアカデミー賞?)、地中海というのは政治的にも生態的にもかなりオソロしいところになってきたようです。しかも、その真ん中ではいまやパリス・ヒルトンがアムネジアのレジデントに収まって、金持ちが全身泡まみれで踊っているという。クラゲか泡か。なんだか中世の宗教画みたいな構図というか。
親が越えたのか自分で辿り着いたのか。現在、リスボン(ポルトガル)で活動するギニア-ビサウ系のDJ、アレキサンドル・フランシスコ・ディアフラのデビュー・アルバムはトライバルなリズムを駆使しながらも実に都会的な感触のアルバムに仕上がっている。こんなに荒廃した印象を与えるアフリカのリズムも珍しいというのか、ジェイミー・XXが抱いているイメージとは正反対のアフリカが一面にぶちまけられて。フォーク・ソングや労働歌がヘンな余韻を伴いながら小刻みにループされ、エフェクトをかけられたアフリカン・チャントはどうあっても能天気には響かない。楽しくも悲しくもなく、感情的には淡々としたもので、いわゆるハードボイルドといった方が収まりはいいかも(そう、まるでワールド・ミュージック・ヴァージョンのレニゲイド・サウンドウェヴか、モー・カラーズに対する闇からのアンサー)。本人いわくジャズを意識しつつも基本はヒップ・ホップで、マルチ・タレントして紹介されるようにサンプリングや楽器の演奏に加えて本人がラップしたり、歌ったり、詩もぶつぶつと読んだり。全体を通して聴くと、気のせいか、30分近い予告編とはだいぶ印象が違うような……。
CDには曲名の表記はまったくなく、ジャケットを広げると「失くした時の送り先」を書く欄が印刷されている。そして、届けてくれた人に渡す報酬を記す欄も。シリア難民は15万円も払ってボートで国外に脱出しているそうだけど、なんとなく移民のメンタリティを感じてしまうアイディアではある。また、レーベルはスイスの〈メンタル・グルーヴ〉が傘下に設けた〈バザァク〉からで、同レーベルが2011年にリリ-スしたクドゥロのコンピレイションにちなんでいる。
三田格