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There are many many alternatives. 道なら腐るほどある

There are many many alternatives. 道なら腐るほどある

第1回 現象になりたい

文:高島鈴 Mar 01,2019 UP

 現象になりたい。現象。自分自身の連続性を失わせたい。自分のなかの何かが勝手に固定されていくのがどうにも気持ち悪い。私に会うたびに新しく私を「観測」し、そのたびに新しい存在としての私を行動で判断してほしい。だって変化するかもしれないから。たとえば誰かが3秒前まで「女性」だったとして、次の瞬間「男性」とか「女性よりの男性」とか「なんでもない人間」になる可能性をどうして否定できるだろう? 性格、ジェンダー、思想、全部毎秒更新されうる。その幅を加味して、どんな相手とも「人間」として向き合うのが当たり前になればいい。揺らぐのも揺らがないのも個人の自由だ。誰もさまたげるべきではない。
 今このエッセイでは筆者が日頃もっとも頻繁に使用するからという理由で「私」という一人称を使っているが、葛藤がある。「私」という響きはあまりにも行儀がよすぎるからだ。速度でいえば遅い。もっと素早く鋭く自我の杭を地面に突き立てるには、「私」ではかどが取れすぎていて何もかも足りない。じゃあ「俺」を使えばどうか? じっさい「俺」と自称することは間々ある。望む速度と鋭角にうまく合致するので使っていて気持ちがいい。しかし結局攻撃的に話すには「男性」の形を取らねばならないのかと思うとそれはそれで悔しい。さらに世間的では「一人称が俺の女」は「痛々しい存在」として認知されがちであり、そこにも葛藤がある。ニュートラルで素早く己を地層にぶっさせる攻撃的な一人称がほしい。何かいいのないですかね? ひとまずこの文章では自我の葛藤を説明したので、一人称は「私」に設定したまま続行しておこう。次回はまた変わるかもしれないが、気にせず読んでほしい。

 自己認識と他者からの認識をめぐる悩みが完璧に汲まれるように願うのは、現状すさまじい高望みだ。たとえば私はおおむね力仕事が嫌いではなく、大きなダンボールを運ぶのも得意だが、「女性に運ばせるのはあれだから」といって「私」より痩せた先輩が私の手からダンボールを取り去っていく。自分自身の身体がネタにされないかぎりにおいてセクシーな話題も好きだが、話題がエロティックな方向に流れそうになると「女の子がいるところではちょっと」「セクハラだと思われたら嫌だから」といってすっと口をつぐむ人がいる。
 これらは「配慮」なのだと思う。「女性」だけが荷物を運んでいて「男性」はそのあいだ何もしようとしないとか、拒んでいるのに私自身の性体験について根ほり葉ほり聞こうとしてくるとか、そういう状況よりはよっぽどましだ。気を遣うべきだという気持ちを持っているのはよいことだと思う。しかし、そこにあるのは距離と断絶で、「歩み寄られている」感じはいっさいしない。根本的な部分にあるのは「面倒なことになる前に少し離れておこう」という保身で、目の前にいる相手に真剣に向き合う姿勢とは似て非なるやり方だ。力仕事慣れてるし得意だよ、えろい話聞くの結構好きだよ。その場で同意を示したとしても、それまで築いてきた付き合いのなかである程度理解してもらえていると思っていても、「でも君は「女性」だからなあ……」という線引きで全てが遠のいていく。そりゃあ、例えば教授と学生とか上司と新卒社員とか、権力関係上表面的な同意を簡単に同意として判断できないという場合はあるので難しいよ、難しいけど、そこまで勝手に対話を忌避されたうえで「いやあ、面倒なルールができちゃったけど仕方ないよね」みたいな態度を取られると本当にどうすればいいのかわからなくなるのだ。「女性」は一括でくくって「配慮」する一方で、「男性」は「男性」であるだけで重い荷物を持たせてもいいし、(多くの場合異性愛を前提にした)下ネタを言ってもいいと解釈する人を目の前にすると、もうこれは、……何? としか言いようがない。「邪魔してしまってどうもすみません」と言って輪から外れるべきなんだろうか? それを繰り返して、いつになったら話ができるようになるんだ? 
 多分この文章を読んで「責められている」と感じる人もいるかもしれないが、私には個人を責めるつもりはない。私も今まで死ぬほど失敗してきたし、実際どうするのが正解なのかわからない場合だって多い。そして人間の思考回路は多くの場合社会環境によって構築されていくもので、人間ひとりの責任に帰することではないからだ。最終的なメッセージは「性別問わずどうするのがいいのかを毎回一緒に考えたいです」、これに尽きる。

 目の前にいる人が誰なのか、本当はいつもわからないのだと思う。何がどう変わっているのか、今相手に何が起きているのか。自分から見て相手のアイデンティティーに見えるものが相手にとってはアイデンティティーではない場合もあれば、その逆もある。何をどう尊重するのがいいのかは全員毎秒変わるといっていい。無限だ。難しい。難しいからこそ敬遠すべきではないし、間違えて謝ってやり直し、間違えて謝ってやり直すしかないと思う。みんなでいっせ〜の〜せで腹をくくって、毎秒うつりかわる現象になろうぜ、私も人のこと言えないけど勝手に頑張るからさ。

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高島鈴/Takashima Rin高島鈴/Takashima Rin
1995年、東京都生まれ。ライター。
https://twitter.com/mjqag

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