Home > Reviews > Album Reviews > Helen- The Original Faces
最高のノイズ・ポップ・アルバムがここに誕生した。そう、グルーパーことリズ・ハリスがメンバーでもあるバンド、ヘレンが、2013年の7インチ盤から2年もの月日を経て、待望のファースト・アルバムをリリースしたのである。
しかし、リズなのにヘレンとはこれいかに、という謎は、そのメンバー編成にある。リズ・ハリス(ボーカル/コーラス)、イート・スカルのスコット・シモンズ(ギター/ベース)、本年〈スリル・ジョッキー〉から大作をリリースしたエターナル・タペストリーのジェド・ビンデマン(ドラム)の3人に加え、謎の女性ヘレンがコーラスに参加しているというのだ(?)。
バンドの音楽性は、イート・スカルのトラックに、グルーパーのヴォーカル・ワークが折り重なっていくタイプのものといえるだろう。じっさい、楽曲は二人の共作によるものと思われるが、イート・スカルとのちがいは強烈なノイズ・ギターにある。コードを無化する強烈なノイズの横溢。
それゆえ楽曲の骨格は、ほぼベースによって作られているといっていい。音楽的にはギター・ノイズをマイナスすれば、“モーターサイクル”や“カバード・イン・シェード”などを聴いてもわかるように、多幸感溢れる60年代的なバブルガム/サイケポップ的である(グローパー『ルインズ』がキャロル・キングを思わせる70年代SSW的な楽曲であったのとは対照的。このあたりにスコット・シモンズの個性を感じる)。
サイダーの炭酸のような甘いノイズ。切ない明るさを漂わせるベースのコード進行。そしてリズの透明なコーラス。それらが混然一体となることで生まれる圧倒的な快楽をどう形容にすべきか。まさに至福の音としかいいようがない。シューゲイザーからアンビエント/ドローン、そしてチルウェイヴからドリーム・ポップを経由した2015年型のティーンエイジ・ノイズ・ポップの誕生だ(彼らが10代というわけではない)。
さらに注目すべきは、その音質である。まるでカセットテープに録音されたような歪んだサウンドは、単なる轟音ノイズともちがう独特のアトモスフィアを生んでいる。私などは、この使い古された痕跡のような音にこそ本作の最大の意義を受け取ったのだが、どうだろうか(ちなみに本作はステレオ録音だが音はセンターに集中しており、モノラルな質感を醸し出している点も重要に思えた)?
アルバムはカセットプレイヤーの再生か録音ボタンのような音と、歪み切ったテープのような音質の“ライダー”からはじまり、ラスト1曲まえの“ヴァイオレット”ではカセットプレイヤーを止めるような音が挿入されている。次いでラスト曲“ジ・オリジナル・フェイシズ”がまるでエンディング・テーマにより鳴り始めるのだから、アルバムがカセットテープの録音/再生というコンセプトとして構成されていることは明白ではないか。となれば、このカセットテープなような音質もまた本作の重要な要素とわかってくる。
私は本作を聴きながら、まるで打ち捨てられたカセットテープに残された見知らぬバンドの録音を聴いているような気分になった。グローパーでもイート・スカルでもエターナル・タペストリーでもない。まるで20世紀の後半の、誰とも知らないバンドの録音の痕跡を聴くような感覚。
そう、ヘレンのアルバムには、まるで末期資本主義のゲーム(つまりつねに進化を、つねに新品を、つねに消費を!)を、その内側から止めてしまい、ゴミのようなポップの残骸を、新しいポップへと生成変化させてしまうような「新しさ」がある(何かをリサイクルしたようなアートワークも象徴的)。……と、そんな妄想を思わず繰り広げてしまうほどに、本作のローファイさはイマジネティヴなのであった。
20世紀の痕跡と残骸に刻まれたポップなメロディとノイズの炸裂。これこそが2015年以降のポップ・ミュージックのモードに思えてならない。
デンシノオト