ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  2. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  3. Brian Eno ──ブライアン・イーノがレーベル〈Opal〉を再始動、あわせて00年代の2作品がリイシュー
  4. Loraine James ——ロレイン・ジェイムズの新作、突如のリリース(しかも無料DL)
  5. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  6. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  7. Future Sound of Jazz ——蘇る「フューチャー・ジャズ」、ドイツの〈Compost〉の人気シリーズが16作目
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. R.I.P. 鷲巣功
  10. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  11. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  12. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  13. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  14. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開
  15. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  16. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  17. Tohji - angel
  18. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  19. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  20. interview with Kinnara : Desi La 「アートによって、私は世界に満足できるようになりました。アートが、私の孤独の多くを壊してくれたのです」 | ──緊那羅:デジ・ラ、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Grouper- Grid Of Points

Grouper

Folk & Silence

Grouper

Grid Of Points

Kranky/インパートメント

Tower Amazon

野田努   May 14,2018 UP

 点々のグリッド(Grid Of Points)──グリッドとは、網や格子、基盤目のようなものを意味するから、そもそもグリッドは線であり点ではない。が、点々のグリッド──この不思議な題名は、これまでのリズ・ハリスの作品において、『丘の上に死んだ鹿を引きずりながら(Dragging A Dead Deer Up A Hill)』や『ボートで死んだ男( The Man Who Died In His Boat)』『廃墟(Ruins)』のような具象的なイメージを喚起させる言葉とは違っている。『A|A』のように抽象的だ。しかしこのアルバムから聴こえる音/歌は、ある意味まったく変わることのない彼女のものだ。そこでぼくたちは、世界でもっとも孤独なフォーク・ソングと言いたくなる感情を抑えながら話を進めなければならない。

 情緒障害ははじまった
 私が扉を開けることのできなかったその夜
 外からロックされていたから
 私は泣き叫んで悪魔になった
 ふちに身体を叩きつけて
 ドアノブに力を込める
 根元がゆるくなるまで
 そして私の血は床にしたたり落ちる
“BIRTHDAY SONG”

 歌詞を訳せたのは彼女にしては珍しくこの曲のみ歌詞を掲載しているからだが、それにしてもこの国は、ネイティヴでも聞き取りが困難だと思われるほど歌にエフェクトがかけられている。もともと彼女の歌は、歌らしからぬ歌というか、歌としての輪郭が煙か水に浸した水彩画のように茫洋としているのだが、とはいえほかの歌は、これまでの彼女の作品においては抑揚があると言えるだろう。彼女がポップ・ソングに近づくことは500%考えられないが、少し前までを思えば、歌としての体はあるといえばある。前作『Ruins』に引き続き、ときおりフィールド・レコーディグや抽象音などがミックスされるものの、楽曲を構成するのは歌らしからぬ歌と簡素なピアノの伴奏だ。

 それにしてもなぜリズ・ハリスは、“BIRTHDAY SONG”のみ歌詞を掲載したのだろう。記憶は点である。グリッドとは時間のことだろうか。

 グルーパーは、OPNやハイプ・ウィリアムスやティム・ヘッカー、あるいはザ・ケアテイカーなどなどが注目されはじめたほぼ同じ時期に注目されたひとりだった。フリー・フォークの流れで登場したアーティストで、呟きと歌の境界線上をぼやかしながら彷徨うかのようなその作風は、ドローン・フォークなどと呼ばれもした。いくつかの作品のジャケットにプリントされた女性の写真はすべて彼女以外の人の写真だった。2012年に来日して、その幽居なたたずまいと超現実的な静けさで、そこにいることができたじつに幸運なオーディエンスにとって忘れがたい演奏を披露した。いま思えばよくあのとき取材できたものだ。彼女ほどの厭世主義者めいたひとを。

 そして、こうして〈クランキー〉から新しいアルバムをリリースしてくれた。全8曲、全体でわずか22分少々という平均からすればずいぶん短いアルバムではあるが、だから注意深く聴かないといつの間にか終わってしまう。そのかわりにこの音楽に集中すると、やかましかった世界は静まりかえり、スローモーションになる。リズ・ハリスにしか作れない歌とはいつもそういうものだ。

野田努