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野田 努   Apr 19,2012 UP
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E王

 フォークというのは、大ざっぱに言って、情緒的なところに訴えるもっともポピュラーな娯楽音楽のスタイルで、いかなる音をどのように、そしていかなる音楽的主題を追求するのかという音の創作物とは別物だ。それがどんな音楽なのかということ(どんな音色で、どんな音の強度で、どんなパラメーターによるもので......エトセトラ)よりも、どんな意味なのか(何を歌い、どんな言葉を綴っているのか......)ということのほうがが問われ、重視される。そもそも歌というコンセプトが人間にとって、あるいは社会にとっての順応性の高さゆに永遠と言えよう。
 そうした歌の文化に対して、たとえばマウス・オン・マーズ、ザ・ホスト、あるいはコーヘイ・マツナガの音楽には同じような観点での意味があるのだろうか? "アシッド・トラックス"に意味がないように、エメラルズやザ・ホストやコーヘイ・マツナガの音楽にも意味がない。あるのはただ、聴いているさなかに喚起される何か、ある種のムードやアトモスフィア、夢想、さもければ催眠、ふぬけるか、飛ばされるか......だ。
 歌とアコースティック・ギターも使いようによってはこの路線にアプローチできる。たとえばフリー・フォークにはそういう側面があったし、今日のインディ・シーンにおいては、フォーク的なるものとアンビエント的なるものはときに交錯している。そうなったときにフォークは、「平均的な人たち、誰からも愛されたい」というローブローな態度を意識的に放棄する、良くも悪くも。

 ミラーリング......は、リズ・ハリスとジェシー・フォーチノというふたりの女性によるプロジェクトで、これが最初の作品、アルバムだ。
 リズ・ハリスは、いまさら言うまでもなく、グルーパー名義で、何枚もの素晴らしいアルバムを出している。日本でも根強い人気を持っているオレゴン州ポートランドを拠点とする女性アーティストだ。彼女はエレキギターを弾きながら、機材を駆使しながら抽象的な音響のレイヤーを加工して、重ね、ある種のアンビエントめいたサウンドスケープを創出しながら、ときに歌っている。フォークという娯楽型と、催眠的で意味を持たない電子音楽とをまたいでいると言えるが、彼女の作品はアシッド・フォークと呼ばれるスタイルよりは圧倒的にドローンに近い。
 もうひとりのジェシー・フォーチノは、そういう意味ではばりばりのフォーク歌手だ。〈サブ・ポップ〉からタイニー・ヴァイパース名義で2枚の素晴らしいアルバムを出しているが、言うなれば、彼女はヴァシュティ・バニヤン・リヴァイヴァルのひとりである。ミラーリングはこうしたふたりの興味深い組み合わせで、アルバム『異物(Foreign Body)』は、疑う余地のないほど魅力的な作品となっている。彼女たちふたりの方向性は共有され、個性はうまい具合に混合されている。どちらかが欠けてもこの素晴らしいアルバムは生まれなかったのである。
 ジェシーはその声とアコースティック・ギターの音色で、リズのぼやけたアンビエントの世界に踏み入れ、彼女の徹頭徹尾どよーんとした世界に"歌"を届けている。"水浸しの声(Drowning The Call)"はふたりの混合の素晴らしい瞬間のひとつだ。グルーパーの温かみのある抽象的な広がりのなかを彼女たちの綺麗なハミングが流れ、あるいはときおり生ギターの弦がはじかれ、平穏のなかに響いている。"上からの無音(Silent From Above)"のような、愛想の良いフォーク・ソングももちろん悪くはないのだが、クライマックスはコクトー・ツインズをジ・オーブがリミックスしたような9分近くもある"私のもの(Mine)"という曲だ。この曲はぜひ、竹内正太郎のような歌詞マニア、そして1990年代生まれのリスナーにも聴いて欲しい。
 クローザーの"私たちの眠る鏡(Mirror of Our Sleeping)"という曲を聴いていると、本当に眠たくなる。が、この新しい発見がちょっと嬉しいので、すぐに目が覚めてる。ジュリアナ・バーウィックとも、そしてジュリア・ホルターとも何か別の風景が目の前に広がっている。ミラーリングはこの先も続けるべきだ。

野田 努