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90年代はこまめにテクノを聴いていたけれど、2000年代になってからはどうもなー、いまひとつノリが合わず、ダブステップなんてようわからんし……などと開き直る人が僕のまわりにはわりといる。これは世代的もので、とくに庶民の分際で子供ができてしまったりすると、自分の趣味に使えるお金などほとんどないから無理もないのである。いかに家族にばれずにレコードを買うか、これは人生の深刻な問題だと、そんな話はまあどうでもいいのだが、とにかく90年代はテクノを聴いていたけれど、2000年代になってからはどうにもさっぱりという人に、僕はUKのポール・ウルフォードによるスペシャル・リクエスト名義のアルバム、『ソウル・ミュージック』を聴かせたいのである。
〈ハウンズ・トゥース〉から昨年の暮れにリリースされた『ソウル・ミュージック』を簡単に説明すれば、ジャングル+“アナログ・バブルバス”+“ガール/ボーイ・ソング”+デトロイトのファンク。極論すれば、90年代初頭のエイフェックス・ツインとUKジャングルがこのアルバムではアップデートされている。90年代のテクノに思い入れがある人にとっては、おそらく感涙ものの作品だ。しかも、ゾンビーの92年復興運動と違って、『ソウル・ミュージック』はノスタルジーを感じさせない。このところ出すシングル出すシングルが話題になっている若手の注目株、テセラの思い切りの良いエネルギーとも確実に重なっている。
CDは2枚組で、2枚目のCDは、そのテセラのヒット曲“ハックニー・パロット”のスペシャル・リクエストによるリミックスからはじまる。R&Bサンプルの、トゥー・マッチなエディティングと美的叙情性との奇妙な調和が印象的な“ハックニー・パロット”は、いちど聴いたら忘れられない曲で、今日のジャングルにおける大きな目印のひとつだ。〈R&S〉が引き抜きにかかるのも理解できる。
2枚目のCDには、テセラに続いてラナ・デル・レイの曲のスペシャル・リクエスト自身による(ブートレッグ)リミックスも収録されている。このあたりの「やったれ」感、すなわち海賊文化的アティチュートも、UKジャングルのよき気風、一種のトレーマークとも言える。また、2枚目にはリミキサーとして〈ワークショップ〉のカッセム・モッセ、〈TTT〉のアンソニー・ネイプルス、デトロイトのアンソニー・シェイカー、〈PAN〉のリー・ギャンブル等々、魅力的な名前が記されている。
いずれにせよ、今日のUKアンダーグラウンド・ミュージックの最良の部分が垣間見れる内容なのだが、それでも圧倒的なのはスリル満点の1枚目のほうだ。冒頭こそ“アナログ・バブルバス”直系のメロディアスなブレイクビート・テクノだが、アルバム後半にたたみかけるジャングルの、ジェットコースターめいた展開は迫力満点で、解体された音の断片(=ブレイクビート)が息つく暇もなく、シャープに、リズミックに再構築される様は、もう、ファンタスティックと言うほかない。ブリアルや「CMYK」、アンディ・ストットの次を探している人にも一聴の価値あり。
野田努