「S」と一致するもの

 そろそろヒップスターの話をしよう。ヒップスターとは、ブルックリンは、ウィリアムスバーグやブッシュウィック辺りに生息する新感覚を持ったヤング・キッズの事。男の子はチェックのシャツや、短パンを履き、少しヒゲを生やしていたりする。女の子は、ショート・パンツやデニムシャツを着たり、ワンピースだったり、バンダナを可愛く首に巻いたり、ポニーテールにしている。クリーンで、オーガニック思考で、アートと音楽が大好きで、タトゥーが入っていて、Lトレインに乗るとこういったヒップスターがたくさんいる。
 以前はベッドフォード・アヴェニューを歩くとヒップスターにぶつかった。いまはブシュウィックやベッド・スタイ、リッジウッド辺りに散らばっている。わかりやすいところでいうと、ロバータス(ピザ屋)ドウ(ドーナツ屋)などの人気店で働いている人たちや友だち。
 もちろん、誰も自分がヒップスターであるとは思っていない。「ヒップスター」とは、他人を語るときに皮肉を交えて使う言葉である。日本でいうオシャレさんという感じでしょう。ただ、ブルックリンのコラムを書く上で、ヒップスターは切っても切れない。
 私がお店に行ってまずチェックすることは、ヒップスターがいるかどうか。ヒップスターがいるとこの店はオシャレなんだと思うし、いなければ少しホッとする。イコール良い店とは限らないが、判断材料になる。先日、ヒップスターの聖地と噂を聞いていたレストラン〈do or dine〉に行った。

 オープンした当時は、ヒップスターがオープンしたレストランと賛否両論だったが、ハイプも冷めた4年目にして初挑戦。外観は、昔のデリの看板そのまま、入り口を入るとドクロのウエルカム・マットがお出迎え。中を通ってバックヤードへ行くとゆったりした雰囲気で、テーブルや椅子、屋根まで手作り感が溢れ、巨大な壁画が描かれている。メニューはフュージョン・アメリカンでフォアグラ・ドーナツとヘン・アンド・ワッフルが人気だが、ニッポン・ナチョス(=まさごサワークリーム)やE666S(=デヴィルド・エッグ)、ポンド・ウィング(=蛙の足のフライ)、ジェリーフィッシュ・サラダなど、興味そそられるメニューが並ぶ。シェフ/オーナーのジャスティンは、フードネットワークの次のスターだとも言われ、自分の料理本「ザ・ロウ・オブ・クッキングーハウ・トゥ・ブレーク・ゼムー料理の法則、どのように破るか」を出版している。例えば、甘いと酸っぱいハーブと油、ファンキーと新鮮さなど、普通では考え付かない組み合わせを楽しませてくれる。デザートはスニッカーズ・バーの袋のまま、サーブするご愛嬌。「ナプキン・リングなんて使う必要ないんだ、みんなリアルな食べ物を求めてるのさ」とヒップスターらしきコメント。ドリンクはビール、ワイン、リカーなどフル・バーですが、ドラフト・ビールはなしで、キャッシュ・オンリーなところが、インディ感を醸し出していた。

 料理本と言えば、ミュージック・ブルースでドラムを叩いているブルックス・ヘッドレイも少し前に、ロックンロール料理本『ファンシー・デザート』を出版している。デル・ポストというハイエンド・イタリアン・レストランのシェフだが、彼はその以前に、パンク・ドラマーとしての顔を持つ。ユニバーサル・オーダー・オブ・アルマゲドン、ボーン・アゲンスト、スカル・コントロールなどの由緒あるパンク・ヘビー・バンド、いまはノー・エイジやミカ・ミコのメンバーが参加するC.R.A.S.H.やハーベイ・ミルクのベーシストでもある。そしてミュージック・ブルースのステファン・タナーも、NY一美味しいフライド・チキンを作るシェフである(ただいま引っ張りだこ)。


Justin @do or dine

 音楽も食も基本アートセンスが必要なので、〈do or dine〉のような法則を破るシェフが現れるのも彼のバック・グラウンドがミュージシャン/ヒップスターだからである。そんな新感覚なレストランでは、夜な夜な面白いDJイベントが行われたり、レストランを貸し切ってパーティしたりと、普通のショーに行くより、楽しさを倍約束してくれる。


Justin's cook book "law of cooking"

interview with Tigercub - ele-king


Tigercub
ミート・タイガーカブ

Pヴァイン

Indie RockGarage

Tower HMV Amazon

 音楽不況云々、CDが売れなくて云々、専門誌も減って云々……などという話題はもう耳タコかもしれないが、それは産業としては(そんなかたちでつづけることに)無理があるでしょうというだけの話で、むろん音楽そのものになんら瑕疵があるわけではない。それが文化の真ん中で巨万の富を築くツールではなくなったというだけで、のびのび、勝手に、雑草みたいに、新たな音は日々生まれてきていて、生まれてき過ぎなほどだ。

 考えてみればレコードなりCDなりというかたちで音楽が売り買いされていた時代のほうがその長い歴史の中では特殊というか、むしろいまはカネにならなくなったぶん、音楽もアーティストもそもそもの自由さを取り戻しているとさえ言えるかもしれない。ここ最近のインディの充実ぶりを見ても、あるいはネットに音源があふれかえっていることを考え合わせても、「売れなきゃいけない」というオブセッションはほぼ崩されていて、音楽はやり手にとってもっとずっとよい距離で楽しまれているように見える。

 それは、なにが自分にとって楽しいか、ということが素直に優先される環境でもある。新しいものをつくらねば、モードに乗らねば、いや、モードを出し抜かねば、みたいなことはさほどの問題ではなくなって、時代も洋の東西も関係なく、というか、すべてそれらが一並びで定額な環境下で、あるスタイルを選択することに以前ほど社会的な意義もなく、リヴァイヴァルという言葉さえいよいよ空転しはじめた。

 そしてわれわれは前置きなくタイガーカブを聴く!

 タイガーカブはシンプルだ。UKはブライトンの3人組ロック・バンド。聴けばわかるというお手本でもあり、しかし「あえてオシャレに2分間のポップスの永遠性を再現する」という手合いの作為性も感じられない。まだアルバムすら持たないニュー・カマーだが、ブラッド・レッド・シューズが新たに立ち上げたレーベルからシングルをリリースしたり、彼らのライヴのオープニング・アクトとして起用されるなど、期待と注目が寄せられているさなかである。

 今回はこれまでにリリースされた2枚のシングルにB面や未収録曲を収録した日本独自企画盤がリリースされた。これをアルバムとして評価することは難しいが、案外、できてみればこんな感じかもしれない。「アルバム」よりは「曲」をつくり、演奏とコミュニケーションを大事にする、粗暴ではないけれど気取らない、ビートルズが好きな、愛すべきバンドなのだ。もちろんそれは「いい曲」が詰め込まれたものになるだろう。

 なんてそのまんまニルヴァーナなんだろう、いや、ザ・ヴァインズを経由しているだろうか、そうすればたしかにビートルズも透けて見えてくる──カート・コバーンやクレイグ・ニコルズのようなカリスマがいるわけではなく、インタヴュー内でもソニックスの名が挙がっているようにガレージ色が強め。本当にシンプルなバンドだ。

 以下をお読みいただければ、「なぜこんな音を?」を筆頭とした筆者のいくつかの「なぜ」がすべて壁打ちに終わっているのがおわかりいただけるだろう。なぜもなにもない。好きな音を、その内側で謳歌しているのだ。そのまんま聴いて楽しい、スタイル選択にけれんみのない、ゆえにこちらも何も考えずに身をまかせられるロックだ。長らく、それには何かしらの前置きが必要だったけれども。

■Tigercub / タイガーカブ
2013年に結成された、UKはブライトンの3人組。メンバーはジェイミー・ホール(Jamie Hall / guitar, vocals)、ジェイムス・ホイールライト(James Wheelwright / bass, backing vocals)、ジェイムス・アレクサンダー(James Alexander / drummer)。2014年、デビュー・シングル「ブルー・ブラッド(Blue Blood)」が注目を集め、同年、ブラッド・レッド・シューズが立ち上げた〈ジャズ・ライフ〉からセカンド・シングル「センターフォールド(Centrefold)」をリリース。翌2015年には名門〈トゥー・ピュア(Too Pure)〉からもシングル「You」を発表。ロイヤル・ブラッドやブラッド・レッド・シューズらのオープニング・アクトとして抜擢されるなど、フル・アルバムをふくめ今後の活躍が期待されている。

アメリカン・ハードコアや90年代グランジのバラ色のメモリーは音楽のドキュメンタリーとか再放送で情報を集めて結んでいった感じかな。(ジェイミー)

みなさんは何年生まれですか? グランジはリアルタイムで体験しています?

ジェイムス・ホイールライト(以下James):1986年、ワールドカップのアルゼンチン対イングランドで”神の手”事件が起きた年に生まれた。最初のグランジ・ムーヴメントで記憶にあるのは、「kids in flannel」のシャツとニルヴァーナがTVに出ていたこと、でも当時はまだ本当にガキだったけど! フー・ファイターズのファースト・アルバムを買ったのはおぼえてる。そこが自分にとって最初の入り口だった。

ジェイミー・ホール(以下Jamie):俺は1990年生まれ、イギリスの北にあるサンダーランドで育った。グランジがメインストリームをヒットした当時なんてまだ子どもだったから、アメリカン・ハードコアや90年代グランジのバラ色のメモリーは音楽のドキュメンタリーとか再放送で情報を集めて結んでいった感じかな。

同年齢くらいのまわりの人びとは、多くがアメリカン・ハードコアやグランジのバンドたちの作品を聴いているのですか? それともあなたたちが孤立しているのでしょうか?

ジェイムス:俺たちが住んでいるブライトンは音楽的にとてもアクティヴな町だから、友だちもハードコアやロックにハマってるやつらばかりだよ。俺が育ったレディングでは、たしかにもっと孤立しているように感じてたね。

ジェイミー:サンダーランドにいたときは、そんなことはぜんぜん感じなかった。俺は他の誰よりも体がデカいから、どこにいってもハマらないんだ。当時はだいたいいつも一人の友だちとツルんでたし、クラッシュ、G.B.Hとかバッド・ブレインズなんかを聴きながら、トニー・ホークのプロスケーター・シリーズを見ながら毎日遊んでたな。

俺は他の誰よりも体がデカいから、どこにいってもハマらないんだ。(ジェイミー)

あなたがたはどういったきっかけでそうした音楽を聴きはじめたのでしょう?

ジェイムス:バンドとオーディエンスで共有したり、経験を積んだり、オーディエンスから学ぶことがいまの音楽をやっているいちばんのモチヴェーションにつながるよ。

ジェイミー:子どものときはビートルズにぞっこんだったね。自分にとっていまの音楽をやっているのもじつはビートルズからの影響だよ。

UKの音楽で世界に誇るべきものはこれだというアーティストやバンドを、あなたがたの基準で教えてください。理由も添えていただけるとうれしいです。

ジェイミー:イギリスのバンドだとザ・ウィッチズの大ファンだよ。彼らは彼らなりのやり方ですべてをやっているし、惰性的じゃなく、彼らの音楽はリンク・レイやメルヴィンズとかレナード・コーエンからオリジナルのブレンドを作り出していると思う。

あなたがたにとってセックス・ピストルズはどのような存在ですか? また、ニルヴァーナを愛するのはなぜですか?

ジェイミー:彼らはすべてさ。でもストゥージズやソニックスほどではないけどね。

ブリティッシュ・ロックはポリティカルになるべきだと思いますか?

ジェイミー:ポリティカルな音楽、俺はいいと思うよ。でも、露骨に政治的なことを歌ってる曲は嫌いだね。いちばん好きなのはメッセージが曲の中に複雑に編みこまれていて、リスナーに説教するものではなく啓示するような音楽がベストだね。

なぜ髪をのばすんです?

ジェイムス:なまけものだからさ。

ジェイミー:俺たち美容院にいく金もないしな。

3ピースっていう形態はすごく好きで。アドヴァンテージのほうがはるかにディスアドヴァンテージを上回ってると俺は思うよ。ニュートラル・ミルク・ホテルを見れば明らかさ。(ジェイムス)

3人の間柄や、バンドの結成の経緯を教えてください。

ジェイミー:3ピースであることは制限でもあるけど、同時に俺たちがよりハードに演奏して、経済的にバンドをアレンジしなければならないってことで、つまり曲はよりストロングなものにしなければならないし、全部さらけだすし、どこにも隠れる場所はないってことさ。

ソングライティングはおもにどなたが担っているのでしょう? 

ジェイミー:最初はみんなそれぞれ家でアイディアを練って、デモを送りあって、スタジオに持ち込んで、そして精練するというのがパターンだね。あと新しめの曲を路上で演奏するんだ。そうすれば、何がうけるのかうけないのか、リアルタイムにフィードバックをもらうことができるからね。

あなたがたはスリーピース・バンドのよさをシンプルかつストレートなかたちで体現する存在だと思いますが、一方で、いまのかたちに限界を感じることはありますか?

ジェイムス:3ピースっていう形態はすごく好きで。アドヴァンテージのほうがはるかにディスアドヴァンテージを上回ってると俺は思うよ。ギターは1つだし、ベースも1つ、音の帯域幅では制限があるかもしれないけど、3人が効果的に動けばオーディエンスの視点から見てもすごくパワフルなものに映るし、ニュートラル・ミルク・ホテルを見れば明らかさ。

ジェイミー:そうだね、曲をかけば書くほど、もっとこうしたいって大望が生まれてくる。だから、いくつかの新曲はそのまま演奏できないから、ライヴのために作り直さないといけなかったり、3人でそういう曲を同じエナジーでやるっていうのは、かなりハード・ワークだよ。

あなたがたにとってはライヴのほうがアルバム作品より重要なものですか?

ジェイムス:スタジオに持っていくまでは曲は存在しないと思うし、少なくとも完成したとは言えないと思うよ。ライヴで演奏するのは曲が実際どういうものなのか確認するにはいちばんの経験になる。

ジェイミー:ライヴはとても重要だよ。でも、いまは自分たちモードをスタジオ作業にフォーカスしているのさ。

俺たちは本当に日本のファンがタイガーカブを聴いて、情報を更新して、自分たちとの旅の一部のように感じてくれることを願っているよ。(ジェイミー)

トム・ダルゲティとの仕事はどうでしたか?

ジェイミー:彼はとても親しい友人であり、素晴らしいエンジニアでもあり、グレイトなレコードを何枚も作っていて、いっしょに働くことで彼からはたくさんのことを学んだよ。

今作の録音やプロダクションにおいて、バンド側からとくに希望したことや意図などがあったら教えてください。

ジェイミー:日本で今作を出すことで、まずやりたかったのは自分たちのバック・カタログを紹介したかったんだ。UKで活動して、いまの地位に落ち着くまでに1年以上かかったし、ちょうどストーリーができたように思うしね。俺たちは本当に日本のファンがタイガーカブを聴いて、情報を更新して、自分たちとの旅の一部のように感じてくれることを願っているよ。

タイガーカブというバンド名の由来は?

ジェイミー:純粋に偶然の思いつきだよ。俺たちの音に合う名前だと思ったんだ。

同世代で共感できるアーティストを教えてください。

ジェイミー:ザ・ウィッチズ、ロイヤル・ブラッド、TRAAMS

音楽をやっていなかったら何をやっていたと思います? また、もともとからミュージシャンになるのが夢だったのですか?

ジェイミー:音楽をやっていない人生なんて想像できないね。自分にとっては避けられないことさ。

KGE & HIMUKI - ele-king

 今年2015年、キングギドラの1stアルバム『空からの力』の20周年記念盤が出て、合わせてアニバーサリー・ライヴが開催された。Zeebraはみずからのレーベル〈Grand Master〉の動きと連動していまもシーンを率いているし、K DUB SHINEは名実ともに文化人というか、すっかりタレントだ(120%いい意味で)。
 ここで書きたいのはキングギドラについてではなく、20年前に出た『空からの力』の歌詞カードの最後に記されたスペシャルサンクスのクレジットのことで、当時、高校生だった筆者は、リアルタイムで『空からの力』の歌詞カードのZeebraのスペシャルサンクス欄にある日本のヒップホップ・アーティストの名を、ひとつひとつ「これも聴いた」「これも知ってる」とチェックし、そこに挙がったアーティストをほぼ全員を網羅して楽しんでいた。
 そのときの衝撃の延長線上で、現在もヒップホップのアーティストを取材するライターをやっているわけだが、高校生ラップ選手権や全国で開催される数多のフリースタイル・バトル出演者の名前を聞いても、顔触れを一瞥しても、正直もはや誰が誰だかわからない。全部を網羅しているなどとは口が裂けてもいえないし、そもそも網羅したいという願望がない。ただ、この豊穣な状況はまったく喜ばしいことだと傍観者として見ているだけだ。
 だが、もちろん傍観者としてライターに任じているわけではない。
 本題に入ろう。
 すべてを追いきれない以上、自分である程度取捨選択して聴く以外ないわけだが、その基準はひとつだ。単純に良作を求めてるのではなく、凄いアルバム、凄い曲に触れたい。その作品に触れた瞬間、あるいは凄いものが生まれていると確信めいた予感が脳内を突き抜けたときだけ、傍観者でなくなることができる。いわば自分を傍観者でなくしてくれる音源だけを純粋に探していると言えるだろう。傍観者でなくなるとは、突き詰めれば結局スピーカーであったりヘッドホンと自分だけになるということで、そうなったときはじめて、筆者は書きたいとかインタヴューをしたいと思うのだ。そこに曇りはない。
 9月9日リリースされるKGE&HIMUKI の『LOVE & BLUES』は凄いアルバムだ。
 今作でKGE&HIMUKI のタッグ作品は3作目で(1stアルバム『LOCAL FAMILY』、2ndアルバム『2ND IMPACT』)、これまでもシーンでふたりの評価は一貫して高かった。それでも、この豊穣なシーンの中で、このふたりはやはり知る人ぞ知る存在ということになる。
 トピックの多彩さ、フロウ巧者で知られるラッパーKGE、USでも名高いKOOL G RAPやGuilty Simpsonなど(これはほんの一例だ)の海外勢とのコラボを果たし、安定したプロデュースワークを誇るHIMUKIのふたりのタッグで、下手なものができるわけがない。彼らを知っていれば、この専門誌のレビュー的な評価も、自然に頷けるものに違いない。だが、それがイコール凄いかどうかは、また別の話だ。
 これまでも良作を生み出しているふたりがここにきて、本当に凄いアルバムを作った。ワンループ、サンプリング、ドープ、タイト、王道のヒップホップ、太い、黒い、黄色い。評論家や音楽ライターなら、こういった言葉を駆使して、本作の魅力を解説するだろう。そして、そこに書かれたことは、きっとその通りなのだ。だが、このアルバムの聴きどころ(魅力といってもいい)は、そういったキーワードを並べただけでは足りない。
 この作品が一朝一夕では生まれないスキルの結晶というのは一面真実だが、何より素晴らしいのはソウルがスキルや手管を超えていることだろう。クサい言い方だが『LOVE & BLUES』というタイトルを本当に表現するのであれば、ソウルがみなぎっていなければならないのは必要不可欠だった。だが、それを狙ってやるのは簡単ではない。
 ライムと向き合いながら、感情がライムではなく違う言葉を選んだとしたら、KGEは遠慮なくライムではなく感情の言葉を選びとっている。これは同時に、本作のKGEのキレキレのライムには、すべて感情がほとばしっていることを意味している。
 収録曲中でKGEは「流行りにのっかるのは下手くそ」とラップするが、昔からKGEはビートに乗っかるのが超ウマいラッパーだった。意味と無意味のヘアピンカーブのギリギリのラインを縫うように繰り出すフロウは、LOVEとBLUESを唯一無二の形で結晶させている。そして、そのフロウを引き出したのはHIMUKIのビートに他ならない。いや、ほとんどHIMUKIのビートだけが、このラップを引き出し得たというのが正確だろう。
 本作品のただ1人の客演であるGAGLEのHUNGER(この人選が既にタイトで意味深だ)が、このアルバムのプレスに「全てをつぎ込んだKGEくんの気持ちを一回通して聞いただけでは受け止め切れないほどエネルギーと愛に溢れたアルバム」と言葉を寄せているのを読み、なるほどと腑に落ちるものがあった。

笑いと破壊、これでいいのだ!! - ele-king

 バカにしか見えない真実がある──天才ギャグ漫画家の赤塚不二夫はそんな言葉を言い残しています。しかし赤塚不二夫の「バカ」とは、「バカだなぁ、でへへへ」などという、そんなクサいものではありません。もっとキョーレツで、破壊と解放があります。戦後日本のサブカルチャーが爛熟した60年代から70年代にかけて、それは広く、そして深く突き刺さっています。たとえば天才バカボンには、アナーキーなすごさがあります。アナーキー・イン・ザ・バカボンです。腹がよじれるほど笑いながら、赤塚作品からは庶民の底知れぬパワーを感じ取るができます。笑いながら物事を変えていくことは、果たして可能なのでしょうか。

 来るべき9月14日は、赤塚不二夫生誕80周年。その日に、ele-king booksは赤塚不二夫の本を2冊同時リリースします。
 まず一冊は『赤塚不二夫 実験マンガ集』。赤塚不二夫がメジャーな少年誌を舞台でヒット作を連載していた国民的な作家なのは周知の通りですが、同時に彼はアヴァンギャルであり、実験精神旺盛な作家でもありました。たとえば『天才バカボン』がどれほど表現の限界に挑んだ作品だったのか、あらためて思い知って欲しいと思います。

 もう1冊は、『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』。こちらでは生前赤塚不二夫とお付き合いのあった方々(赤塚がもっともアナーキーだった70年代、当時のサブカルチャーと呼びうるシーンに関わっていた方々)に取材、そのすごさをあらためて語ってもらいました。70年代の日本のサブカルチャーの狂乱を振り返りつつ、赤塚不二夫がこだわった「バカ」について考えた本です。
 70年代『宝島』編集長、後の「笑っていいとも」のスーパーヴァイザーとして知られる髙平哲郎、いまも活躍中の音楽家・三上寛、フリー・ジャズの巨匠・坂田明、先日亡くなられた詩人にしてジャズ評論家/偉大なるパロディストの奧成達、映画監督にして革命運動家の足立正生、偉大なるジャズマンの山下洋輔……そして、解説には赤塚りえ子+三田格。
 
 ぼくたちはどこから来たのか……いま日本は本当にとんでもないことになっていますが、日本のサブカルチャーにおいて誇れるものがここにあります。この機会に、手にとっていただけたら幸いなのだ!!

『赤塚不二夫 実験マンガ集』


Amazon

定価:1800円
ページ数:384
並製/B6

マンガを左手で描く狂気とは?
近くのものが遠くに見えるマンガとは? 
フキダシに絵を描いて絵の場所に文字を描くマンガとは? 

メジャーな少年マンガ誌を舞台に、マンガ表現のいきつくところまで行き着いた赤塚不二夫のもっともラジカルな作品群を収録。
解説あらためインタビュー取材には、石野卓球が登場。
いわく「赤塚作品とは、アシッド・ハウスなのだ!!」


『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』


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著者:高平哲郎/三上寛/坂田明/奥成達/足立正生/山下洋輔ほ
定価:1850円
ページ数:224
並製/四六判

いま語る70年代日本サブカルチャーの狂乱、
そして赤塚不二夫のすごさ。

ペーソスはいらないのだ!!──高平哲郎
書を捨て町を裸で街を歩くのだ!!──三上寛
深遠なバカなのだ!!──坂田明
クーダラナイから良いのだ!!──奧成達
やりたいことをやるのだ!!──足立正生
破壊するのだ!!──山下洋輔
いまこそ赤塚不二夫が必要なのだ!!──赤塚りえ子×三田格

刊行:ele-king books/9月14日(赤塚先生の生誕日)刊行なのだ!!


Oneohtrix Point Never - ele-king

 2014年度のele-kingのベスト・アルバムがOPNの『R Plus Seven』だったんですが、いまや、OPNは明日のエレクトロニック・ミュージックを占う存在、いや、ソフィア・コポラやアント ニー・ヘガーティにまで目をつけられるほどの、なんとも大きな存在になってしまいました。思わず、かつてのイーノ、かつてのエイフェックス・ツインに重ねたくなるような……。そして彼自身もエレクトロニック・ミュージックの歴史をよく知っています。つまり本気で、(感覚だけではなく)エレクトロニック・ミュージックがいまどこに向かっているのかを考えている人物でもあります。
 OPNは、ミュジーク・コンクレート(録音物を加工する音楽)のパイアオニア、ピエール・シェフェールの21世紀版とも言えるでしょう。彼の音楽は現代=スーパーフラッター・ワールドに生きるものではありますが、その作品は冷酷だったり、攻撃的だったり、あるいは穏やかだったり、起伏に富んでいます。新作はそういう意味では、前作にくらべて躍動的で、OPNらしい挑戦的な作品です。
 ま、それはお楽しみってことで、OPNが来日します!


Andras Fox - ele-king

 オーストラリアはメルボルンを拠点に活動するアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)によるソロ・プロジェクト、アンドラス・フォックス(Andras Fox)の日本独自の編集盤CD。もともとさまざまなレーベルからリリースされていたアナログ盤シングルを集約したディスク1と、アート・ウィルソン(A.r.t Wilson)名義で発表されたニューエイジ・リヴァイヴァルの名作『オーヴァーワールド(Overworld)』をそのまま収録したディスク2という2枚組のボリュームで、彼の音楽性の全体像が網羅できてしまう、なかなか素晴らしい企画です。

 ビューティフル・スイマーズ(Beautiful Swimmers)~フューチャー・タイムズ(Future Times)周辺のバレアリックなアーリー・ハウス・サウンドや、PPUにも通じる80’s シンセ・ブギー~フュージョンが展開されるディスク1は、ヴィンテージなアナログ・シンセの醸し出す穏やかな雰囲気に、相方のオスカー(Oscar)によるソウルフルなヴォーカル曲もあり、メロディアスで聴きやすいダンス・トラックが中心。USインディの名門〈メキシカン・サマー(Mexican Summer)〉からリリースされたEP『ヴァイブレート・オン・サイレント(Vibrate On Silent)』のアートワークをぜひチェックしてもらいたいのですが、その海辺の風景をブルーにプリントした哀愁アートワークの世界観そのまま、かなりAORな用途というか、都会的でちょっとアンニュイな気分に浸らせてくれるBGMの趣きです。

 ディスク2の『オーヴァーワールド(Overworld)』は、アナログ盤のリリース当初から愛聴していたのですが、同作の名義アート・ウィルソンとアンドラス・フォックス(Andras Fox)が同一人物であることに気がついたのは、じつは随分たってからのことでした(こちらも参照)。オブスキュアなアンビエント・ジャズ、マージ(Merge)の音源を発掘したレーベル〈グローイング・ビン(Growing Bin)〉から発表されたこともあり、てっきり80年代の超マイナー・アンビエントのリイシューだと思いこんでしまい、「あら、なんて時代にジャストな音!」と興奮……。よもや現行アーティストとはね。しかしそんな勘違いも頷いてもらえるであろう、ノスタルジックな風情を極めた心地よいニューエイジ・サウンドに、ツボを心得たインスタントB級フィーリング。あのレア盤の醸す独自の雰囲気までしっかりトーレスしております。どうやら彼自身が相当に熱心なレコード・ディガーでもあるようで、つまりすべて巧妙に狙いすました仕掛けとすると、なんだか途端にちょっと憎たらしいかもしれません。それほどによく出来ています。

 さて、僕にとってアンドラス・フォックスの楽しみ方は、幼少期の原風景にあったバブル期アーバン・リゾートの熱帯魚的イメージと、その地点から夢見た未来像の再提示。忘れさられたロスト・フューチャーの記憶を呼び覚ます媒介。そういう意味では完全にヴェイパーウェーヴ同様のエスケーピズムです。試しにリニューアルした品川のEPSONの水族館あたりで聴いてみると、推しのインタラクティブ展示のアーリー90'sセンス(いやー、文明って本当に退行するのね)と相俟ってなかなか乙なマッチングが得られます。さらにオススメの聴き方は、ちょっと奮発してシンガポールあたりまで行ってみる。マリーナ・ベイ・サンズなんて、まさにアーバン・フューチャーそのまんまの超絶ロケーションですからね、最高に気持ちよくハマりますし、もう斜陽の国には帰りたくないなって思っちゃう。なんてことをね、井の頭線の終電で考えております。

Eaux Claires - ele-king

「何見るの?」
「もちろんボン・イヴェールだよ!」
「俺、大学で同級生だったぜ」

 ウィスコンシンは……というか、オークレアは思っていた以上に田舎だった。学校の校庭と言われても信じてしまいそうなサイズの地元の空港に降り立ち、少し車を走らせるだけでそのことはすぐにわかった。同じ大きさの家がひたすら並ぶ住宅街、マクドナルドのドライブスルーに大型スーパー、落ち着いた雰囲気の大学、ただ碁盤状に走る道路……アメリカ映画で観たサバービアそのものだ。この風景から生まれた音楽を聴きに来たんだと、流れる景色を見ながら僕はぼんやりと考える(免許がないので、運転は同行の友人に任せきりだ)。レンタカー屋の受付の兄ちゃんが「ロック・フェスティヴァルに来たの? 何見るの?」と訊いてくるので「もちろんボン・イヴェールだよ!」と答えると、「俺、大学で同級生だったぜ」という。ロ、ローカル! ……そうだ。ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンがザ・ナショナルのアーロン・デスナーとキュレーターを務め、自分の地元であるウィスコンシン州のオークレアで開催するフェスティヴァル〈Eaux Claires〉に参加するために、僕は大阪から東京に行き、そこからシカゴへと飛び、そこからさらに小さい飛行機に乗ってこの田舎町までやって来たのだ。

 ジャスティン・ヴァーノンはこの何の変哲もないアメリカは中西部の小さな町で育った、ごく普通の、素朴なナイス・ガイである――ヴォルケーノ・クワイアとして来日したとき、がんばって覚えたひらがなでファンにサインをする程度には好青年で、穴の開いたスニーカーでノシノシとそのへんを歩く程度には鷹揚な。だから彼は自分は特別なのだと、選ばれた人間だと強調することはなかった。彼がかつてフォーク・ソングにこめた自身の孤独とその震えが生み出す詩情は、固有名詞のないものとして、ただ「よき冬」と名づけられてひっそりと世に流れ出したのだった。その透徹としたアンビエント・フォークに打たれて以来、しだいにアメリカの田舎に息づく何かを感じてみたいと思うようになったが、そうこうしているうちにボン・イヴェールが本国でどんどんビッグになって来日がますます困難になり、僕はバンドのライヴを観ることを諦めかけていた……バンドとしての活動も休止し、ジャスティンはプロデュース・ワークに精を出すようになっていた。が、今年に入って彼が地元でフェスティヴァルを作るのだと聞いて胸がざわついた(最初にこのニュースを知ったのはジャスティンのお父さんのツイートだった!)。しかもラインアップのフックはボン・イヴェールザ・ナショナルスフィアン・スティーヴンススプーン。(テキサス出身のスプーンは別として)中西部が生んだインディ・ロック・スターを軸としていることは明白だった。心は決まった。

手作り感のある飾り付け、
広場にステージがドン、ドンとふたつ、
背後には雄大なチッパワ川。

 車はどんどん森に入っていく。会場への道順を示す素っ気ない看板に従って走らせると、森のなかのキャンプ場に到着した。ほぼ完全にオート・キャンプ、アメリカの各地から何十時間も車を走らせてやってきたという参加者が続々と集まって来る……ほとんどのアメリカ人にとっても、ここはけっこうな田舎なのだ。キャンピング・カーの連中も多く、みんなビールや食料や遊び道具やらを詰め込んでいる。そんな筋金入りのキャンパー族を見て、あー、アメリカのフェスに来たんだなーと思っているうちに、キャンプ・サイトでのミニ・ライヴがはじまる。その日は前夜祭的な位置づけで、キャンプ・サイトだけがオープンしていたのだ。ジャスティンの学生時代からの音楽仲間、フィル・クックがきわめて内陸部の香りのするオーセンティックなアメリカン・ロックで雨上がりのキャンプ場を大いに盛り上げ、僕はミネソタから来たというやたら人懐こい兄ちゃんに謎のアルコール・ドリンクを分けてもらい、テントで爆睡するのだった。

 そして翌日。2日とも見事な快晴となったフェスティヴァルは最初から最後まで作り手の気持ちのこもった、温かいイヴェントだった。自然のなかであるフェスという意味では、日本だと〈フジロック〉なんかとイメージとしては近いとは思うけれど、もっと小規模だしDIYだし、なんというかもっといなたい。手作り感のある飾り付けがエントランスに施され、広場にステージがドン、ドンとふたつ立っていて、背後には雄大なチッパワ川。収益のためにVIPチケットもあるのだけれど、その特典がビールを含むドリンク飲み放題というのは笑った。いい音楽と美味いビールにもっと酔っぱらいたいやつらのためのフェスなのだ。案の定というか何と言うか、飲み放題のビールは1日めで予定量がなくなり、2日めスタッフの兄ちゃんが「いま急いでストックを運んでるところだから!」と叫んで、みんなイエーと答え、そして到着後さらに飲んでいた。

 2万人強とオーディエンスも少なくはないが、スペースがかなりあるのでフリスビーで遊びまくっているグループもチラホラいる。しかもみんな開放感もあってかフレンドリーだ(ヒゲ男子はかわいいし)。アジア人が珍しいのか不憫なのか、ピザをくれたり(なんで?)、お菓子をくれたり、ビールをくれたり、バンバン話しかけてくる。「きみたち日本人? メルト・バナナは観るの?」
 そう、メルト・バナナも出演していた(大人気だった)。フォークやインディ・ロック色が強いとはいえじつはラインアップの幅も広く、スプーンのロックとブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマのゴスペルとジョン・ミューラーのドローンとサム・アミドンのフォークがカブっていたりする。ただ、基本的にはジャスティンとアーロン・デスナーの知人・友人として招かれているミュージシャンが多く、メルト・バナナもジャスティンが10代のときにライヴを観ていたく感銘を受けたというある種の感傷的な理由で呼ばれている。キュレーションにも作り手の想いがよくよく反映されているし、オーディエンスもそのことをよくわかっているのだ。

野外フェスティヴァルのステージが、アメリカの田舎のダイナーでのライヴ風景と重なっていく。
……本当に音楽が中心にあるフェスティヴァルだった。

 素晴らしい演奏がたくさんあった。ザ・ナショナルの双子のデスナー兄弟は元ムームの双子姉妹と小さなステージに現れ、サム・アミドンはオーディエンスを引き連れてステージの下でフォークロアをみんなで歌い、スプーンはソリッドなロック・サウンドを簡潔になかば暴力的に叩きつけ、ヴァージニアの超ファンキーなブラス・バンドであるNO BS!ブラス・バンドはさまざまなステージに飛び入りしていた。カントリー系のシンガーソングライターであるスターギル・シンプソンが「じゃあブルーグラスをやるよ」と言って演奏を始めた瞬間、僕は電撃を食らったような気持ちになった。そうだ、日本ではほとんど知られていないこうしたカントリー・シンガーの存在がアメリカの内側で音楽を支え、そしてそれらはどこかで確実にボン・イヴェールやスフィアン・スティーヴンスとも繋がっているのだ。野外フェスティヴァルのステージが、アメリカの田舎のダイナーでのライヴ風景と重なっていく。アメリカという土地の音楽の層の厚さ、その広大さには唖然とするばかりだ。
いっぽうでコリン・ステットソンのようなエクスペリメンタルの極を描く瞬間もあり、ピースフルななかにひそかなスリルも併せもっているところもニクい。オーディエンスも真面目な音楽好きが多いのか、演奏中に大声でダラダラくっちゃべったりしていない……本当に音楽が中心にあるフェスティヴァルだった。

このフェスの顔となった中西部出身のシンガーとバンドたちはみな、その地名を含んだ曲を演奏し歌った。それはでき過ぎた偶然だったのだろうか?

 このフェスの顔となった中西部出身のシンガーとバンドたちはみな、その地名を含んだ曲を演奏し歌った。それはでき過ぎた偶然だったのだろうか? だけど僕にはただ、そのことが甘美な体験に思えたのだ。

ミツバチの群れが俺をオハイオに運んでいく
俺は結婚しなかった だけどオハイオは俺のことを覚えていない
ザ・ナショナル “ブラッドバズ・オハイオ”


 ザ・ナショナルはいまのアメリカを代表するロック・バンドとして、あるいは中西部生まれのしがない市民の心情の代弁者として、堂々たるトリをやってのけた。とにかく大人気で、みんな歌う歌う。グレイトフル・デッドのカヴァーを挟みつつ、ゲストにスフィアンとジャスティンを呼んでオーディエンスを狂喜させる。この貫禄は、セクシーなバリトン・ヴォイスを持つマット・バーニンガーが書く歌詞とも大いに関係しているのだろう。ザ・ナショナルが歌っているのはいつも、名もなき市井の人びとの悲しみや孤独、それに疲労感だ。だがそれがそこに集まったオーディエンスの合唱となるとき、それはたしかな高揚となる。

僕はたくさんの過ちを犯した
心のなかで 心のなかで
スフィアン・スティーヴンス  “シカゴ”

 スフィアンは……それほど大きくないヴォリュームで演奏された彼の歌は、なんて悲しいのだろうと思った。前半、新譜からの切ないフォーク・ソングが多く選曲されたこともある。だけど、踊りながら歌う『ジ・エイジ・オブ・アッズ』の“ヴェスヴィアス”も、『イリノイ』収録の“カモン! フィール・ザ・イリノイズ!”のめくるめく変拍子も、ブラス・バンドを招いての華やかな“シカゴ”も、その根っこはとてもとてもサッドだ――「スフィアン、内なるパニック」――誰も理解できない、恐らく本人さえも扱えない内面の混乱がそこにはあり、彼はそれをファンタジックな「語り」にするばかり。それが楽しければ楽しいほど、チャーミングであればあるほど、キリキリとした痛みが尾を引いていく。アメリカそのものを祝うはずの独立記念日モチーフとした“フォース・オブ・ジュライ”では狂おしく「僕たちはみんな死ぬんだ」と繰り返し、張り詰めた空気がそこに立ち現われていた。周りを見ると、誰もがただただ立ちつくしている。僕にはアメリカ人がこれを聴いてどう感じるのか想像しきれないけれど、豊かで勇ましいアメリカとは違った、物悲しく貧しく、だけどささやかなファンタジーと物語が宿るスフィアンのアメリカが愛おしくてならなかった。

だから僕はその指を頼りにする
きみが再び証明してくれるから
ボン・イヴェール  “ブラケット、ウィスコンシン”

 ジャスティン・ヴァーノンはそして、相変わらず飾らないナイス・ガイで……相変わらず度を越した理想主義者だった。彼はこの2日間半で、この町の音楽的な土壌の豊かさを証明し、そのことを祝福した――少しばかり感極まり、「言うべきことはたくさんあるけれど……グッド・ジョブ! きみたちは正しい選択をしたよ!」と冗談めかして笑ってみせた。そこに集まった2万人全員が彼のことを愛していたし、それに何か、彼のことを誇りに思っているようだった。それはきっと、ごく普通の青年が彼の誠実さでこの音楽的な共同体を生み出したことへの敬意だ。ザ・ステーヴス、Yミュージック、コリン・ステットソン、それにジャスティンいわく「このフェスティヴァルのMVP」であるNO BS! ブラス・バンドら、フェスティヴァルの出演者が次々に現れて彼と彼のバンドとともに大団円を作り上げていく。ボン・イヴェールの音楽はスフィアンとはそれぞれ美しく対照的に、傷や孤独を抱えながらそれでも地に足をつけて前に進もうとする、タフなものだった――「僕が失ったかもしれないものは、僕を引き止めたりはしない」。それは合唱となり、わたしたちの宣言としてオークレアの夜空に吸い込まれていく。アンコールでは新曲を2曲披露してバンドの先を仄めかし、ジャスティンは5年前に日本で見たのと同じようにノシノシと長身を揺らしつつ去って行った。

 間髪入れずにNO BS! がステージの下に降りてきて、マイクを通さずブリブリとファンキーなナンバーを演奏する。みんな踊っているし、笑っている。「あと一曲だけやるよ!」……わはは、なぜかアーハの“テイク・オン・ミー”だ。Take on me, I’ll be gone……僕のはじめての海外フェス体験は、その楽しい合唱で終わっていった。そうだね、I’ll be gone.
 5年前、大阪でジャスティンに厚かましくも「ウィスコンシンでいつかあなたのステージが観たい」と言ったら、彼はとびきりの笑顔で「ぜひ来てよ!」と言った。それはもう叶ってしまったけれど……僕はきっとまた、この愛おしい田舎町にやってくるだろう。

(Special thanks to Yusuke Fukuda!)

Vashti Bunyan Japan Tour 2015 - ele-king

 フォーク・リヴァイヴァルというのがあったんですね。数年前のことだけど。アニマル・コレクティヴやデヴェンドラ・バンハートが人気だった時代、温故知新的に脚光を浴びたひとりに、たった1枚のアルバムを残して消えた、伝説の女性SSWのヴァシュティ・バニアンがおりました。彼女は実に30年ぶりにカムバックを果たすと、その新作は新しい世代のあいだでも評判となって、そして素晴らしい初来日公演も果たしています。

 9月、5年ぶりに彼女が来日します。どうか見逃さないで下さい。ひょっとしたら、最後になるかもしれません。彼女についてはこちらの記事も参照しましょう。また、今回のサポート・ギタリストであり、フォーク・シンガーでもあるガレス・ディクソンが1日限りのライヴを披露します。こちらにも注目してください。

9月22日(火・祝)京都教育文化センター
9月24日(木) & 9月25日(金)東京・キリスト品川教会

■詳細:https://www.inpartmaint.com/site/13670/

【Gareth Dickson Live in Tokyo 2015】
Vashti Bunyan来日ツアーのサポート・ギタリストとして帯同するガレス・ディクソンの1日限りのソロ公演が決定!

9/26(土)世田谷美術館

■詳細:https://www.inpartmaint.com/site/14159/


赤塚不二夫生誕80周年企画 - ele-king

 秋と言えば学園祭の季節、 一足早く、バカ田大学の学祭情報なのだ!!
 ライヴ出演は電気グルーヴとスチャダラパー(ちなみに、アニも出演した舞台『レッツラゴン』はそうとう面白かったのだ!!)、バカ田大学特別講師として三上寛と宇川直宏のトークもあるのだ!! ちなみに大学祭がおこなわれる9月14日は、赤塚不二夫先生のお誕生日なのだ!!

 そして、この日を皮切りに、赤塚不二夫先生の生誕80周年がはじまるのだ!!
 実は、ele-kingからは、9月14日に『赤塚不二夫 実験マンガ集』と『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』を2冊同時発売。会場内でも売らせていただく予定なのだ!!
 笑いのない人生なんて……賛成の反対なのだ!!
 9月14日はみんなバカになるのだ!!

公演概要

■公演日時 2015年9月14日(月) 開場:18:00/開演:19:00
■会場 渋谷CLUB QUATTRO
■料金 スタンディング/6,500(税込) 生誕80年記念ステッカーつき
※ご入場時、別途ドリンク代が必要です(500円)
※3歳以上要チケット
※記念ステッカーは公演当日、ご入場時のお渡しとなります。
★本日8/1よりオフィシャル先行予約開始(8/7 12:00まで):https://w.pia.jp/t/akatsukafujio/
オフィシャルHP:https://tadpole-lab.com/fujio80/
お問い合わせ ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00-19:00)

赤塚イズムとは・・・
昨今、様々な未曾有の出来事が多い中、経済の閉塞感もあり、日本国民が委縮しているのではないかと考えました。ギャグ漫画の帝王「赤塚不二夫」が描いてきたマンガそして幅広い人脈と活動そのものがイズムであると言えます。これを機に気づきを与え、日本が活気満ち溢れる国になることを願い推進したいと考えています。


Damon & Naomi - ele-king

 もう秋か。なんつって、9月早々に面白いギグがあるので紹介しましょう。元ギャラクシー500のふたりによるデーモン&ナオミ(悲しいドリーム・ポップの大ベテラン)の来日公演が、間近に迫っている。
 今回のライヴは、
 1. ナオミ監督によるサイレント映画を上映しながらライヴ。
 2. 三上寛とキム・ドゥスという日韓の両鬼才との共演。
 という、かなーりスペシャルな2公演です。

 会場も原宿VACANTと青山の月見ル君想フという、とても親密な空間。推薦です!

Damon & Naomi performing "Fortune" in Tokyo
デーモン&ナオミ『Fortune』上映 + 単独コンサート

2015年9月10日(木)原宿 VACANT
開場 19:30/開演 20:00
前売予約 3,500円/当日 4,000円(ドリンク代別)
出演:デーモン&ナオミ
前売予約 (インターネット) : https://www.vacant.vc/contact/reserve.php?id=236
お問い合わせ:原宿 VACANT 03-6459-2962

International Sad Hits
featuring Damon & Naomi, Kim Doo Soo, Mikami Kan
2015年9月11日(金) 青山 月見ル君想フ
開場 18:30 開演 19:30
前売予約 ¥3,500 当日¥4,000(ドリンク代別)
出演:デーモン&ナオミ, キム・ドゥス, 三上寛
前売予約 (電話/インターネット) : https://www.moonromantic.com/?p=26487
お問い合わせ:月見ル君想フ 03-5474-8115


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