Home > Interviews > interview with Vashti Bunyan - 旅から歌へ、伝説のフォーク・シンガー、最後のアルバム
Vashti Bunyan Heartleap[歌詞対訳/ボーナストラック1曲のDLコードつき] インパートメント |
イギリスのフォーク・シーンで伝説のごとく語り継がれてきたシンガー・ソングライター、ヴァシュティ・バニアン。まるで英国の深い森に住むフェアリーのような存在だった彼女の名が再びシーンをにぎわすようになったのは、1990年代末期だった。1970年にリリースされた唯一のアルバム『Just Another Diamond Day』が、当時のアメリカーナ〜フリー・フォーク系ミュージシャンたちの間で再評価され、それがきっかけとなって2000年に正式CD化。長い間、音楽シーンから遠ざかっていた彼女も、やがて活動を再開し、2005年にはなんと35年ぶりとなるアルバム『Lookaftering』を発表し、ファンを驚かせた。
それから9年。またしても長い歳月が流れたが、通算3作目となるアルバム『Heartleap』がようやく登場した。新作発表にここまで時間がかかったのは、ほとんどの曲のアレンジと演奏、そしてプロデュースを自分一人でこなしたからのようだ(一部、ストリングスやギターなどでゲストが参加)。そのぶん、前作と比べてかなりプリミティヴかつインティメットな感触の内容となっており、たとえば、編集盤『Some Things Just Stick In Your Mind』(2007年)で現在聴ける60年代デビュー前のデモ音源などに似た印象すら受ける。まさに、手作りの織物のような愛らしさ。
発売元の公式アナウンスによれば、これが最後のアルバムになると本人は語っているという。再び彼女は、森のフェアリーに戻るのだろうか……
“スウィンギン・ロンドン”は、他に類のないくらいインスピレーションが旺盛で創造性に富む時代だったわ。大好きだったし、関わっていたかった。ただし、他人の音楽ではなく、自分の音楽でね。たとえミック・ジャガーやキース・リチャーズの曲だったとしても、自分の音楽として関わっていたかったの。
■今作が最後のアルバムになると宣言しているようですが、なぜこれでやめるのですか?
VB:やめるというか……1枚のアルバムに必要な分だけの曲を書き終えるためには、これから何年もの年月が必要になると思う。でも、その頃にはもうアルバムという形式はなくなるんじゃないかと思っているの。まあ、誰にもわからないことだけどね。
■じゃあ、新しいアルバムは作らないとしても、音楽活動自体は続けるんですよね?
VB:自分がこれまで書いた曲を全てシングルとしてデジタル・リリースすることに興味があるわ。
■全体的に、60年代にレコード・デビューする前の64年のデモ音源に近い印象を受けました。こういう素朴さ、透明感は、制作前から意図していたものなのですか?
VB:アレンジのたくさんの部分に膨大な時間を費やしたこのアルバムを、素朴とか透明感があるとは自分では感じないけど……でもたしかにこれは私の初期の頃、一番最初にレコーディングしていた頃にやりたかったことができた作品なの。あの頃私は楽譜を読めなかったし、書けなかったから、頭のなかにある楽器構成を現実化できなかった。でも、いまはできるわ。
■長い休止期間を経た後の復活作だった前作『Lookaftering』は、ピアノ・サーカスなど実験音楽シーンで活躍してきたマックス・リヒターがプロデュースしてましたが、今回はセルフ・プロデュースです。その理由は?
VB:マックスと一緒に仕事をしたとき、彼から様々なことを学んだし、あの時間は私にとってとても価値あるものだった。私はあれ以来ずっと、自分でパソコンのソフトを使って曲を録音し、アレンジする方法を勉強してきた。そういった方法にとても興味を持つようになったわけだけど、私の場合、その制作プロセスにとても時間がかかるの。そんな自分に辛抱してくれとは、どんなプロデューサーにも頼めないわ。だから今回は、セルフ・プロデュースになった。前作では、マックスに対しては何の不満もなかったし、音楽的才能を惜しみなく提供してくれたマックスと他の若い仲間たちに出会えたことは、本当に運が良かったわ。皆、信じられないくらい素晴らしい人びとだった。
■そもそも前作で、あなたとは縁のないように見えるマックス・リヒターがプロデュースを担当した経緯は、どのようなものだったんですか。
VB:『Lookaftering』は〈FatCat〉レーベルからのリリースだけど、当時マックスも FatCat に関わっていた。で、レーベル関係者が彼の存在を教えてくれたの。しかも彼は、その頃私と同じ町に住んでいた。彼のソロ・アルバム『Blue Notebooks』(2004年)を聴いた瞬間、私の新しい曲を取り扱ってくれるにふさわしい人だとすぐに思ったの。
質問・文:松山晋也(2014年11月19日)