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Andras Fox

AmbientSynth-pop

Andras Fox

Soft illusions

melting bot

Tower HMV Amazon

中村義響   Aug 28,2015 UP

 オーストラリアはメルボルンを拠点に活動するアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)によるソロ・プロジェクト、アンドラス・フォックス(Andras Fox)の日本独自の編集盤CD。もともとさまざまなレーベルからリリースされていたアナログ盤シングルを集約したディスク1と、アート・ウィルソン(A.r.t Wilson)名義で発表されたニューエイジ・リヴァイヴァルの名作『オーヴァーワールド(Overworld)』をそのまま収録したディスク2という2枚組のボリュームで、彼の音楽性の全体像が網羅できてしまう、なかなか素晴らしい企画です。

 ビューティフル・スイマーズ(Beautiful Swimmers)~フューチャー・タイムズ(Future Times)周辺のバレアリックなアーリー・ハウス・サウンドや、PPUにも通じる80’s シンセ・ブギー~フュージョンが展開されるディスク1は、ヴィンテージなアナログ・シンセの醸し出す穏やかな雰囲気に、相方のオスカー(Oscar)によるソウルフルなヴォーカル曲もあり、メロディアスで聴きやすいダンス・トラックが中心。USインディの名門〈メキシカン・サマー(Mexican Summer)〉からリリースされたEP『ヴァイブレート・オン・サイレント(Vibrate On Silent)』のアートワークをぜひチェックしてもらいたいのですが、その海辺の風景をブルーにプリントした哀愁アートワークの世界観そのまま、かなりAORな用途というか、都会的でちょっとアンニュイな気分に浸らせてくれるBGMの趣きです。

 ディスク2の『オーヴァーワールド(Overworld)』は、アナログ盤のリリース当初から愛聴していたのですが、同作の名義アート・ウィルソンとアンドラス・フォックス(Andras Fox)が同一人物であることに気がついたのは、じつは随分たってからのことでした(こちらも参照)。オブスキュアなアンビエント・ジャズ、マージ(Merge)の音源を発掘したレーベル〈グローイング・ビン(Growing Bin)〉から発表されたこともあり、てっきり80年代の超マイナー・アンビエントのリイシューだと思いこんでしまい、「あら、なんて時代にジャストな音!」と興奮……。よもや現行アーティストとはね。しかしそんな勘違いも頷いてもらえるであろう、ノスタルジックな風情を極めた心地よいニューエイジ・サウンドに、ツボを心得たインスタントB級フィーリング。あのレア盤の醸す独自の雰囲気までしっかりトーレスしております。どうやら彼自身が相当に熱心なレコード・ディガーでもあるようで、つまりすべて巧妙に狙いすました仕掛けとすると、なんだか途端にちょっと憎たらしいかもしれません。それほどによく出来ています。

 さて、僕にとってアンドラス・フォックスの楽しみ方は、幼少期の原風景にあったバブル期アーバン・リゾートの熱帯魚的イメージと、その地点から夢見た未来像の再提示。忘れさられたロスト・フューチャーの記憶を呼び覚ます媒介。そういう意味では完全にヴェイパーウェーヴ同様のエスケーピズムです。試しにリニューアルした品川のEPSONの水族館あたりで聴いてみると、推しのインタラクティブ展示のアーリー90'sセンス(いやー、文明って本当に退行するのね)と相俟ってなかなか乙なマッチングが得られます。さらにオススメの聴き方は、ちょっと奮発してシンガポールあたりまで行ってみる。マリーナ・ベイ・サンズなんて、まさにアーバン・フューチャーそのまんまの超絶ロケーションですからね、最高に気持ちよくハマりますし、もう斜陽の国には帰りたくないなって思っちゃう。なんてことをね、井の頭線の終電で考えております。

中村義響