「E E」と一致するもの

Jam City - ele-king

 グライムからスタートして独自のサウンド・スタイルにたどり着いたジャック・レイサムによるデビュー・アルバム。いまやUKを代表するダンス・レーベルとなった〈ナイト・スラッグス〉からはキングダム「ドリーマ」やヘリックス「ドラム・トラックス」といった画期的なシングルが連打されているわりに、アルバムはまだエジプトリックスに続いて2枚目となる(CDには先行シングルからメイン・アトラキオンズを起用したカップリング曲も採録)。

 シングルから追ってきた人にはわかると思うけれど、「独自の」としたのは、グライムの特徴とされる重いベースは最初から強調せずに、ハットやパーカションを前景化させ、少しずつサウンド全体から丸みを取り除いて細部に至るまでソリッドに仕上げたことで、まるでグライムの骨格だけが残ったようなスタイルだからである。いわば、この10年近くハウス・ミュージックが吸収し続けたエスニック・ビートから音響的な要素をすべて剥ぎ取り、リズム・パターンだけを文脈から切り離して組み替えた状態というか。南アのクワイトが、いまやジャーマン・テクノにしか聴こえなくなってきたのとは正反対の位相にあり、発想的にはオランダのバブリングに近いといえる。グライムからハウスへのベスト・アンサーといったら大袈裟だろうけれど、ボルティモア・ビートにはじまり、バイレ・ファンキなどを経由して、いままたニュー・オリンズ・バウンスへと邁進する辺境マニアのディプロとは裏表のような位置関係にあるのかもしれない。

 そもそもグライムはUKガラージをエスニック化した音楽だし、ガラージが都会的な音楽であるためには、やはり、一定時間が経過した後で脱臭作用が必要だったとも考えられる。レイサムが「シティ」を名乗っているのはなるほど必然であり、そもそも様々なエスニシティを外縁化させたままでいられると思うほうが傲慢で、外縁化させておくポーズのためにジャム・シティを必要としたともいえる。レイサムの「気取り」は徹底しているし、そのために彼がリズム感を手離したわけでもない。むしろオフ・ビートだけで成り立っている曲もあるぐらいで、ディスコ・ミュージックがここまで複雑なリズムを獲得したことには歴史を感じてしかるべきだろう。あるいは、これは〈ナイト・スラッグス〉全体にもいえることなのかもしれないし、レーベルのボス、L-ヴィス1990のデビュー・アルバムが〈マッド・ディセント〉に提供した路線とはかなり方向性が異なっていたことでもそれはよくわかる。

 かつてレニゲイド・サウンドウェイヴは「ダンス・ノイズ・テラー」あるいは「パブリック・エネミーへのイギリスからの回答」と評されたことがある。両者を結びつけるものは、ブレイクビーツがまだ新鮮なトレンドであった時期に混沌とした音楽をつくったということしかないように思えるけれど、ここでもブラック・ミュージックに特有の騒々しさは整理され、ソリッドな質感のものに磨き上げるという転換はおこなわれていた。同じフェイクでもトーキング・ヘッズ『リメイン・ライト』に腹を立てたコニー・プランクが『ゼロ・セット』をつくったときにも似たようなことは起きていたのではないだろうか。そのような剥き出しの人工性に対する愛着が最大の魅力であり、ジャム・シティが繰り返したこともきっと同じことなのである。都市というのはどうだか知らないけれど、「都会」はまだ生きている。ジャック・レイサムはそれを証明した。そう思いたい。

 といいつつも、ハウスやテクノに溶け込もうとするエスニック・ビートにも僕はまだまだ消費意欲は掻き立てられるw。そもそも2年前にUKガラージにのめり込むきっかけをつくってくれたロスカの2作目は前作よりもかなりグライム寄りだったし、ドイツの〈ディスコB〉からはディプロへのアンサーとしては上出来のシュラフトーフブロンクス(Schlachthofbronx)『ダーティ・ダンシング』、急速に多様化を進める〈ハイパーダブ〉からはDVA『プリティ・アグリー』、プラティナム・パイド・パイパーズから〈ナイト・スラッグス〉に乗り換えつつあるシオン・ロックハート(Tiombe Lockhart)のキュービック・ジルコニア(Cubic Zirconia)『フォロウ・ユア・ハート』ほか、今年に入ってからも紹介し切れなかったものはけっこう多い。まだまだ気取らない日のほうが多いということか。

Back to Chill - ele-king

 ゴス・トラッドの『ニュー・エポック』、欧米ではかなり好意的に受け取られているようで、もうすぐ本サイトでupされるボーニンゲン(ロンドン在住の現地で評判となっている日本人バンド)のインタヴューでもさんざん語られているのだが、どうやら「トーキョーに行ったら〈バック・トゥ・チル〉を体験したい!」がロンドンのディープ・リスナーの合い言葉になっているようだ。
 さて、アメリカ・ツアーを終えたばりのゴス・トラッドも2ヶ月ぶりのホームとなる。今月の〈バック・トゥ・チル〉は7月5日、思う存分にダブステップを経験してくれ!

DATE: 7月5日
TIME: 23:00 ~ LATE
PRICE: DOOR: 3000yen/1d WF and Girls: 2000yen/1d
[All Girls Before 24:00 → FREE!!! (500yen for a drink)]
ARTISTS: GOTH-TRAD, DJ 100mado, ENA, HEAVY1, DUBTRO, DJ メメ, π, yuitty, O-konogi, CITY1, DON, and more!
https://backtochill.com/

日食どころではない、

7月25日(奇しくもよい子たちの終業式である......!)、
ふたつの巨大な惑星が衝突する!

●LIQUIDROOM 8th ANNIVERSARY 電気グルーヴ vs 神聖かまってちゃん

リキッドルームの恵比寿移転後8年目を記念したこのイヴェント、「VS」の意味するところはいまだ謎であるが、オーディエンスの年齢層や生息圏にもおそらくはいくばくかの「VS」があるはず、おもしろい撹拌が起こりそうだ! それぞれがそれぞれの時代から寒天のように押し出されてきたような批評性を帯びたればこそ、この企画はエキサイティングな予感にみちている。

出演:電気グルーヴ、神聖かまってちゃん

日時:2012年7月25日(水) 開場/開演 18:30/19:30
会場:リキッドルーム
前売券料金:5,250円[税込・1ドリンク代(500円)別途]
6月14日(木) 20:00より<https://www.liquidroom.net>にて販売開始
*先着順受付になります。受付予定枚数に達し次第、受付終了となります。ご了承ください。

問い合わせ先:リキッドルーム 03-5464-0800 <https://www.liquidroom.net

younGSoundsのアルバム「more than TV」
7月18日発売です!宜しくお願い致します。
https://1fct.net/archives/3744

percepto music lab
https://xxxpercepto.com/

ここ最近。2012年6月20日


1
キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者

2
OH NO - Ohnomate - FIVE DAY WEEKEND

3
THE GENTLEMEN - The Gentlemen - MR.BONGO

4
OWEN MARSHALL - The Naked Truth - JAZZMAN

5
櫻井響 - This One - self release

6
CE$ & SCRATCH NICE - Live Now, Pay Later - self release

7
BLAQ CZA - The Dice Life - WHATEVA MUZIK

8
YOTTU - Dance Or Chill/Slow Flow - self release

9
TRONICS - Love Backed By Force - WHAT'S YOUR RUPTURE?

10
DJ MAYAKU - EP - GOLDFISH

DJ END (B-Lines Delight / Dutty Dub Rockz) - ele-king

B-Lines Delight/Dutty Dub Rockz主宰
栃木のベース・ミュージックを動かし続けて10数年。へヴィーウェイト・マッシヴなDrum&BassパーティーRock Baby Soundsystemを主宰。同時に伝説的なレコード・ショップBasement Music Recordsでバイヤーを務め栃木/宇都宮シーンの様々な下地を作った。現在はDutty Dub Rockzに所属、北のリアルなベース・ミュージックの現場を作り出すべくスタートしたパーティーB-Lines Delightを主宰している。
https://soundcloud.com/dj-end-3
https://b-linesdelight.blogspot.com/
https://duttydubrockz.blogspot.com/

宇都宮をホームに開催してきたB-Lines Delightが遂に東京に上陸! この記念すべき日にゲストに迎えるのはRob Smith aka.RSDと"野蛮ギャルド"なドラム&ベース・パーティ「Soi」よりDx!!師と兄が揃ったBLD的にこれ以上ない鉄板なメンツで送る6.30B-Lines Delight in Tokyo、よりカンペキな一夜をお約束します!
North Bass Music Movement
"B-Lines Delight" in TOKYO
2012.06.30(sat) open.24:00
@SECO www.secobar.jp
info : https://b-linesdelight.blogspot.jp/

BLDクルー、DD BlackのEPがAlterd Natives主宰EYE4EYE Recordingsより12"&Digitalでリリースされます!!リリース日及び詳細はブログで後程紹介しますので是非チェックしてください!

DJ END REWIND CHART


1
DD Black - EP - Forthcoming EYE4EYE Recordings

2
Henry & Louis feat.Prince Green - Love Like(RSD Remix) - 2Kings

3
Swindle - Do The Jazz - DEEP MEDi Musik

4
Grenier - Here Come The Dark Lights - Photek

5
ENA - Analysis Code - 7even Recordings

6
Pearson Sound - Footloose - PEARSON SOUND

7
Dubmonger - Experiments In Dub - Dubmonger

8
LHF - Keepers Of The Light - Keysound

9
VA - Shanggan Shake - Honest Jones

10
Death Grips - The Money Store - Epic

Hot Chip - ele-king

 ■以下、見出し例------------------------------

 ホット・チップも〈もしもし〉からデビューして8年が経つ。ザ・ビートルズであれば、とっくにコンサートはやらず、おまけの最後っ屁『レット・イット・ビー』を発表して解散裁判を開始している時期だ。

 サウンドと歌詞の相互作用というよりむしろ、歌詞の変化こそがこの端正に整理されたサウンドを求めたのだと言ってしまえるかもしれない。どうやら、この変化を指摘している日本語のレヴューはないようだ。

 アルバムを通してホット・チップが高らかに歌い上げているのは「プリーズ・プリーズ・ユー(お願いだから君を喜ばさせてくれ)」だ。リスナーへの応援歌。しかも、非常に啓発的で、啓蒙主義の性格が強い。

 もしくはUK的クラブ・ポップの進化論とねじくれた政治性のアクロバット、と同時に、UKガラージを横目に見ながら玄関先でお出かけ前の夫婦のチューをかまし、中産階級的前向きさであたりいち面のシニシズムにラヴラヴ度を見せつけたポエム型啓発本である。


 ■以下、本文----------------------------------

 ホット・チップも〈もしもし〉から『Coming On Strong』(「強引な振る舞い」の意)でデビューして8年が経つ。ザ・ビートルズであれば、とっくにコンサートはやらず、おまけの最後っ屁『レット・イット・ビー』を発表して解散裁判を開始している時期だが、幸いなことにホット・チップはいまだに世界をツアーで巡るし、ゆりかごから墓場まで―赤子から老人まで全人類/一生涯対応の、これ以上ないほど完成されたポップ・ソングを作り続け、5枚目のアルバムを発表したばかりだ。
 相変わらずの80年代のスムースなアップデート・サウンドとはいえ、モチーフはシンセ・ポップよりはむしろファンクやR&Bの影響が色濃くなっており、非常にスウィートなアルバムになっている。シングルカット曲"Night And Day"がプリンスの"All Day All Night"のオマージュであることはタイトルと節の引用(「make me feel alright」)とセクシャルな歌詞からも明らかだし、"Look At Where We Are"のサウンドは完全に(ホット・チップのTシャツではエナジードームを被せられている)R・ケリーだ。よく比較されていたニュー・オーダーの面影はだいぶ薄くなっている。"Now There Is Nothing"のテンポチェンジは決してビートルズほどナチュラルではないが、メロディはさながらエミット・ローズというかポール・マッカートニー以上にポール・マッカートニーに聴こえるほどで、影響といった枠から遂に抜け出し、完全にいまのポールを超えたのではないかと思う。

 2010年の前作『ワン・ライフ・スタンド』に対して、ファンからは賛否両論の声が上がっていた。クラブで安易に踊らせまいとするような批評的な態度のリズムを鳴らしてきたホット・チップ。彼らの変化球的なクラブ/ダンス・ミュージックのギミックを愉しんできた人たちにとって、デトロイト・テクノやシカゴ・ハウスからの影響が強い『ワン・ライフ・スタンド』のラフでシンプルなビートはあまりにも単調でスムース過ぎ、ゴスペルのように強調された歌声のハーモニーもダンスの邪魔だったのかもしれない(とはいえ、その予兆は2008年の『メイド・イン・ザ・ダーク』で見えていたのだが)。
 そんな『ワン・ライフ・スタンド』よりさらに歌声・メロディが強調されているにも関わらず、本作『イン・アワ・ヘッズ』が「いままでよりダンス・ミュージックになった」と数多から称賛されている理由は、歌の息がトラックとピタリと組み合わさり、リズムの構築をより強固なものにしているからだろう。それを実現に導いたのは、メンバーのソロ・プロジェクトでも引っ張りだこのエンジニアMark Ralph(マーク・ラルフ)の手腕によるところも大きいと思われる。

 しかし、本作『イン・アワ・ヘッズ』には、サウンド以上に歌詞においてかなり重要な変化が表れている。サウンドと歌詞の相互作用というよりむしろ、歌詞の変化こそがこの端正に整理されたサウンドを求めたのだと言ってしまえるかもしれない。どうやら、この変化を指摘している(少なくとも)日本語のレヴューはないようなので、ぜひここに記しておきたい。そして、なんといってもこの原稿が遅れたのは、その変化に筆者がひどく動揺して魘されてしまっていたからだ(野田編集長、すみません)。

 『ワン・ライフ・スタンド』(およびそれ以前の作品)と『イン・アワ・ヘッズ』のあいだにある決定的な違いは、メッセージを発する彼らの態度にある。

 ずっとずっとわかっていたんだ
 君は 僕の愛ある人生(マイ・ラヴ・ライフ)
 だから僕も 君のように輝けていいはずだ
"Hand Me Down Your Love"(2010)

 僕はただ 君の「一生かぎり」の相手になりたいだけなんだ
 教えて 君は 君の男の側に一生いますか?
"One Life Stand"(2010)

 前作『ワン・ライフ・スタンド』での歌詞から感じ取れるのは、恋人への真摯な愛を表明しつつも、そこに「自分は、相手のようには輝いていない」という劣等のコンプレックスが潜んでいることだ。それはレディオヘッドの"クリープ"のような自己嫌悪や諦念とも違い、コンプレックスが重要事項として歌われているのではなく、あくまで主題は相手に向けられた誠実な愛である。
 また、ルックスやサウンドを頻繁に「ナード」や「ギーク」などと揶揄されながらも、クラブ・ミュージックを意識的に分解しポップ・ソングに組み込んで8年ものあいだ歌ってきたのには、若さやセクシャルな熱狂を囃し立てる流行のダンス・ミュージックおよびそれを享受するクラバーに対する批評的な意識が彼らのなかに常に潜在し、そして、それはやはり劣等のコンプレックスに基づいたものでもあったということではないだろうか。ホット・チップ―つまり「山椒は小粒でもぴりりと辛い」というバンド名にもそれが窺える。

 しかし、この『イン・アワ・ヘッズ』で歌うホット・チップは、そんな劣等のコンプレックスなどまったく忘れてしまったか、大したことではないとタカを括って開き直ってしまったかのようだ。そんな彼らの居直りを、端正で非の打ち所がないサウンドが、恐ろしいほどなんの疑いもなくガッチリと肯定している。1曲目"Motion Sickness"(モーション・シックネス)のイントロで威風堂々と吹かれるホーンなどは、まるで巨大な戦艦に乗って海の向こうから彼らがやってくるかのようだ。ゼロ年代を経て、彼らはテン年代のインディ・ミュージック大海戦での勝利を確信しているのだろうか。それどころか、むしろ、「自分たちは勝ったのだ」と高らかに宣言しているようでもある。

 そうか もうやっていけないと、君は思ったんだね
 (中略)
 僕らは強くなってきていると思うし
 僕らが帰着すべき場所も 僕は知ってる
 (中略)
 今夜 もし君がステップを踏みたいなら
 僕も君とともにステップを踏もう
 前に向かって歩こう 歩きとおすんだ
 君はあっという間に成長してしまうだろう
"Don't Deny Your Heart"(2012)

 このアルバムに収められているのは、いまある平和と愛を享受するための音楽であって、悲しみを和らげたり、苦しみからの救済をリスナーに施すようなポップ・ソングではない。"Don't Deny Your Heart"(君の心を否定しないで)――ここにある言葉は、光り輝く壇上から降り注いでくるような、いわば勝者のメッセージに感じられる。恋人を鼓舞するような歌詞はまるでビートルズの"プリーズ・プリーズ・ミー"(「お願いだから僕を喜ばせてくれ」)を思い起こさせるが、アルバムを通してホット・チップが高らかに歌い上げているのは「プリーズ・プリーズ・ユー(お願いだから君を喜ばさせてくれ)」だ。リスナーへの応援歌。しかも、非常に啓発的で啓蒙主義の性格が強いムードが、ほぼアルバム全体に流れている。これは、いままでのホット・チップには見られなかった態度である。彼らは、はっきりと変わったのだ。

 そんな彼らの変化を、僕は易々とは受け入れられないでいる。「Parental Advisory」シールを貼られていた8年前の『Coming On Strong』を恋しく思ってしまうほどだ。「君の『一生かぎり』の相手になりたい」と愛を乞うていた人間が、なぜ相手に「僕はいままでいつだって君の恋人だったでしょう」("Always Been Your Love")と歌うことになるのか。やはり、彼ら自身が「ハッピー・ノイズ」と形容する結婚・出産がもたらした力なのだろうか。"How Do You Do"の「君が僕を目覚めさせてくれる時―それが僕のとっておき」などは、もはや出勤前の夫婦のチューの光景と変わらない。僕のような新卒就職を逃がしたばかりの独り身フリーターにはなかなか堪える。いまのホット・チップはあまりにも眩(まばゆ)すぎて、向き合うのが苦しい。

 僕は、たったいま、君の方を向こうとしている
 見てのとおり、僕は薄っぺらい人間だよ
"Motion Sickness"(2012)

 某日、野田編集長から何の前触れもなく「大統領選どう思う?」と電話で聞かれたときに答に詰まってしまったのは、その質問の唐突さもさることながら、どうも4年前に比べて盛り上がっていないように自分には感じられるからだ。アーケイド・ファイアが「爆弾がどこに落ちるか教えてくれ」と歌い、ゼロ年代最高のアメリカ映画の一本『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』においてポール・トーマス・アンダーソンが石油産業の血塗られた歴史を掘り起こしたのが2007年。そのときアメリカのポップ・カルチャーにはたしかに政治があった。それからリーマン・ショックがあり政権交代がありオキュパイがあり......この2012年、ブルース・スプリングスティーンが「We take care of our own(俺たちは自分たちで支え合う)」と言うとき、その「We」はオバマが4年前に支持者たちと繰り返していた「We can change」の「We」と異なる響きをしているように僕には聞こえる。そこにはもう政治家には頼りたくない、という拒絶がいくらか含まれている(「俺たちは自分たちで支え合う、星条旗がどこで翻っていようと」)。長引く不況やイラク戦争の「終結」の残尿感を噛み締めざるを得ないオバマ政権の(かつての)支持者たちは、4年前の熱狂を自己反省してしまっているのだろうか......。

 電話で話を聞きながら僕は、この4年ほどのジョージ・クルーニーの円熟、そして枯れと疲労感について考えていた。カウンター・カルチャーに対するビターなノスタルジーあるいはレクイエム『ヤギと男と男と壁と』(グラント・ヘスロヴ監督、09年)、資本主義の暴挙に傷つけられるか弱い共同体によるささやかな抵抗『ファンタスティック・Mr.Fox』(ウェス・アンダーソン監督、09年)、人びとが職を失い衰退していくアメリカの上空をただ飛び続けるしかない『マイレージ、マイライフ』(ジェイソン・ライトマン監督、09年)......。クルーニーはそれらの映画で、人生の黄昏に突入する中年男の侘しさと諦念を静かに受け止めるかのように立っている(あるいは、発話している)。彼がそのような境地を醸し出せる俳優にまでなったという事実は、それこそ『ER』の頃から何となく追い続けていた自分には驚きだし、客観的に言ってもゼロ年代半ばにはコーエン兄弟やスティーヴン・ソダーバーグといったハリウッドの優等生監督たちとつるんだり、『シリアナ』(スティーヴン・ギャガン監督、05年)や『グッドナイト&グッドラック』(ジョージ・クルーニー監督、05年)、『フィクサー』(トニー・ギルロイ監督、07年)といったわかりやすくポリティカルな作品の「顔」を引き受けたりしていたことを思い返せば、その緩やかだがたしかな変化に何かを嗅ぎ取りたくなってくる。「ハリウッドでもっとも重要な男」にまでなっていたはずのジョージ・クルーニーが――いまもその地位は他に譲ってはいないだろうが――、しかし映画のなかではくたびれた中年であるのはどうしてなのか?


ファミリー・ツリー
監督/アレクサンダー・ペイン
出演/ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー他
配給/20世紀フォックス映画
2011年 アメリカ

Official Site

 今年日本で公開された出演作二作はとくに象徴的だ。自身が監督・出演しアメリカでは昨年公開された『スーパー・チューズデー』においてクルーニーは、若くカリスマティックで、そして革新的な――同性婚を若者との討論のなかで支持するような――大統領候補を演じている。ライアン・ゴズリングが扮するその参謀は彼をはじめ信奉しながらも、彼のスキャンダルを知ってしまうことで政治の泥仕合の渦中に放り込まれ、理想を失っていく......というのは原作の戯曲を書いたボー・ウィリモンが2004年の民主党大統領予備選挙で実際にした経験から着想を得た物語ではあるのだが、ここでクルーニーは民主党内部のリーダーに対する失望感、もしくはアメリカの政治のあり方そのものへの徒労?感の表象になっているのである。それが極めて2012年的なテーマのように感じられるのは、何も劇中でクルーニー演じる大統領候補の選挙ポスターがオバマのそれと酷似しているからだけではないだろう。そこでは民主党を支持し続けることへのいくらかの疑念や、政治そのものへの疲労感が滲んでいる。現実世界では変わらずオバマ政権を支持し、資金集めのパーティ(参加費は4万ドルだそうだ)を開催するいっぽうで、クルーニーはこの2012年にオバマ(あるいは政治)に熱狂することの難しさを代弁する。
 そしてアレクサンダー・ペイン監督の『ファミリー・ツリー』では、アメリカの辺境としてのハワイを舞台にしながら、白髪のジョージ・クルーニーは人生のどうにもならなさに翻弄されるばかりだ。もちろん、それはペイン監督が描いてきた中年以降の人生の苦さについての物語ではあるのだが、そこにこれまででももっとも枯れたクルーニーがいることでアメリカの斜陽を思う。昏睡状態に陥った妻の不倫を聞かされても、怒りの行き着く場所はない。そうたぶん、いまのアメリカでは正義や理想に基づく怒りの矛先は定まらず、何となく落ちぶれていく「中年男のような」侘しさが漂っているようなのだ。けれども『ファミリー・ツリー』は、全編を緩やかに覆うペーソスと拭いきれない愛によって、枯れてゆく人生をゆっくりと肯定する。

 きわめてアメリカ的なアイコンであり続け、浮き沈みを経ながらもゼロ年代を通して申し分ないキャリアを積んできたジョージ・クルーニーはいま、誰よりも年老いていくことを受け止めているように見える......それは、あの国がゆっくりと老いていることをどこか慈しむようでもある。チョコレートのカカオの成分が舌に残るようなその後味は、じわじわとたしかに衰えていくこの国に住む我々にも覚えがあるのではないか。
 4年前のような盛り上がりはまだ感じられなくとも、秋にもなればまた政治の季節はやってくるだろう。それまでは、この哀愁に浸ることも悪くはないと僕は思う。『ファミリー・ツリー』でクルーニーは、透き通った涙を流していた。

interview with Richard Russell - ele-king


Bobby Womack
The Bravest Man In The Universe

XL Recordings/ホステス

Amazon iTunes

 一作年は詩人ギル・スコット・ヘロンの(結局は......)遺作となった『アイム・ニュー・ヒア』を、昨年はアフリカのコンゴのミュージシャンとのプロジェクト、DRCミュージックによる『Kinshasa One Two』を、ともにデーモン・アルバーンらと共同で制作しているのがリチャード・ラッセル、〈XL・レコーディングス〉の社長である。
 今年に入ってつい先日も、フレッシュ・タッチなる名義でエチオピアのミュージシャンとの共同作業の成果を12インチ・シングルとして発表しているが、リチャード・ラッセルと〈XL・レコーディングス〉はこの6月にもボビー・ウーマックの『ザ・ブレイヴェスト・マン・イン・ジ・ユヴァース(The Bravest Man In The Universe)』をリリースしたばかりだ。1960年代から活動しているアメリカの超ベテランのソウル・シンガーをポップの最前線へとフックアップしたのはデーモン・アルバーンのゴリラズだったけれど、ウーマックにとって18年ぶりのオリジナル・アルバムとなる本作『ザ・ブレイヴェスト・マン・イン・ジ・ユヴァース』は、アデルの『21』がロング・セラー中のレーベル社長の音楽愛、そして同時に英国音楽産業のプライドの高さを感じる1枚でもある。

 ギル・スコット・ヘロンに引き続き、リチャード・ラッセルは、USのブラック・ミュージックの伝説にUKのクラブ・サウンドの――ベース・ミュージック以降の――モードを注いでいる。古いソウルと更新されたビートがある。つまり、『アイム・ニュー・ヒア』とジェイミー・XXによるそのリミックス盤『ウィアー・ニュー・ヒア』の2枚と同じように、『ザ・ブレイヴェスト・マン・イン・ジ・ユヴァース』は世代に関係なく楽しめるアルバムである......などと適当なことを言ってしまいそうなほど、アップデートされたソウル・アルバムとしての完成度は高い。
 たとえばアルバムのオープニングをつとめるタイトル曲、ウーマックによる迫力満点の、宇宙を震わせるかのようなヴォーカリゼーションからはじまって、そして鋭いビートがミックスされる、この展開、わかっちゃいるけどグッと来る。ウーマックのアコースティックな響きのブルース・ギターもフィーチャーされているように、『ザ・ブレイヴェスト・マン・イン・ジ・ユヴァース』はメロウで、とてもリラックスしている。情報筋によれば、このところUKではブロークン・ビーツがリヴァイヴァルとしているそうだが、たしかに僕は本作を聴きながらニュー・セクター・ムーヴメントの最初のアルバムの陶酔を思い出した。20年前にプロディジーで一発当てた社長が、10年前に4ヒーローがやっていたようなことをいまやるというのも、歴史を知る人には感慨深いモノがあるだろう......。まあ、そういうわけで、ジャザノヴァの新作とも共通した感覚を有している。

熱心な音楽ファンは、素晴らしいアーティストの音楽を聴けばその価値がわかるものさ。そして独自性があって素晴らしいアーティストを人びとに紹介するのが僕らの役割だ。そういう役割を担うっていうのはとても名誉のあることだよ。

ボビー・ウーマックの功績、素晴らしいキャリアについていまさら言うまでもありませんが、彼をリリースした理由は、彼があなたの個人史におけるヒーローのひとりだからでしょうか? それともレーベル・オーナーとしてのあなたにとって新しい試みのひとつとして重要だったのでしょうか? あるいは、あなた個人のプロデューサーとしての試みとして重要だったのでしょうか?

リチャード・ラッセル(以下、RR):〈XL・レコーディングス〉はただこのアルバムが良いアルバムだからリリースしたいと思ったんだ、それが唯一の基準だよ。もちろんボビーは偉大な功績を持った素晴らしいアーティストだけど、それだけでなくこのアルバム自体が彼自身の最高傑作と言えるだけのクオリティでなければならなかったんだ。

レーベルの経営と音楽の制作現場への介入とでは作業や考えることが違いますが、ギル・スコット・ヘロンをやり遂げたことで、あなたのなかによりプロデュースへの情熱が燃えたぎったんじゃないですか?

RR:ギルと一緒に働くのはとても光栄なことだったし、いろいろなことを学べる素晴らしい機会だった。そして間違いなく僕自身にとって、自分がどれだけスタジオが好きかを思い出すいい機会にもなったね。

こういうプロジェクトをやっていて何がいちばん面白いですか?

RR:僕は自分でクリエイティヴなことをする機会を持つってことと、他の人びとがクリエイティヴになれる環境を提供するっていうことが大好きなんだ。そういうことが楽しくてたまらないね!

あなたの言葉でボビー・ウーマックの音楽の魅力、そして彼の人柄を説明してください。

RR:彼はとても優しくて繊細であると同時にタフで厳格でもあって、それがとてもバランスのいい組み合わせになっていると思う。とてもユニークで、惹き付けるような魅力のある人物だよ。

デーモン・アルバーンのどんなところをあなたは評価していますか?

RR:デーモンとは、アフリカ・エクスプレスと一緒にエチオピアに行ったときに知り合ったんだ。その後一緒にコンゴに行って、Oxfam(イギリス発祥の慈善事業団体)のためのプロジェクト、DRCミュージックとしてアルバム『Kinshasa One Two』を制作した。彼は素晴らしいミュージシャンだし、みんなにやる気を起こさせる、非常にカリスマ性のある人物だね。

実際に今回のアルバム制作はどんな風に進行したのでしょうか?

RR:僕らは一緒にスタジオにあるテーブルを囲んで、ボビーはアコースティック・ギター、デーモンはシンセサイザー、僕はアカイのMPCを持って、一緒にジャムをしながらアイデアを引き出していったんだ。とても良い制作の仕方だったよ。

あなた自身、スタジオでは具体的にどんなことをしているのでしょう? プログラミングも自分でやられるんですか?

RR:僕自身はMPCとロジック、そしてCDJを使うよ。僕が20年以上かけて集めている膨大な量のサンプルやサウンドのライブラリがあって、それらを自分の手で実際に操作して使っている。あとは、アメリカのFolktechという会社が作っている楽器も使っている。どれもとても面白くて、変わっているんだよ。その他には生のドラムとパーカッションも演奏するし、その場にある楽器や叩けるモノ何でも叩いて鳴らしてみたりするのも好きだね!

ボビー・ウーマックといっしょに作業してみて、とても面白かったエピソードをひとつ教えてください。

RR:ボビーは僕が〈XL〉と関わりがあるとすら知らなかったんだ。彼は、僕がデーモンの連れてきたミュージシャンだと思っていた。とても光栄なことだね!

〈XL・レコーディングス〉の主要リスナーにとってギル・スコット・ヘロンやボビー・ウーマックのような音楽家はそれほど馴染みがないだろうし、ギル・スコット・ヘロンやボビー・ウーマックの昔ながらの年配のリスナーがジ・XXやM.I.A.に夢中になっているとも思えないですよね。とても興味深い文化的なシェイクだと思うのですが、反応はいまのところどうでしょうか?

RR:熱心な音楽ファンは、素晴らしいアーティストの音楽を聴けばその価値がわかるものさ。そして独自性があって素晴らしいアーティストを人びとに紹介するのが僕らの役割だ。そういう役割を担うっていうのはとても名誉のあることだよ。

ギル・スコット・ヘロンのファンがダブステップに興味を持ったなんていう話はありますか?

RR:すべてのものは繋がっているし、人びとはみんな広い視野を持って、さまざまなジャンルの音楽を好きになることができると信じているよ。

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僕自身はMPCとロジック、そしてCDJを使うよ。僕が20年以上かけて集めている膨大な量のサンプルやサウンドのライブラリがあって、それらを自分の手で実際に操作して使っている。

昔と同じように、いまの音楽シーンも愛していますか?

RR:僕は現在の音楽シーンが大好きだよ。驚くほどエキサイティングだし、音楽シーンっていうのはいつだってそうだ。本当に独創性のある音楽というのを探し続けることが大事だよ。

ラナ・デル・レイの起用は誰のアイデアですか? リスキーな起用とも言えますよね?

RR:〈XL〉のImran Ahmed(ヴァンパイア・ウィークエンドのマネージャー)が提案したことだよ。それまで僕は彼女(ラナ・デル・レイ)のことを知らなかった。彼女はスタジオで素晴らしい仕事をしてくれたよ、ボビーは彼女に感銘を受けていたね。でき上がったアルバムでも彼女の歌は素晴らしく聴こえていると思う。

アルバムのタイトルはあなたが付けたんですよね? どういう経緯で生まれたのですか?

RR:ボビーが書いて来た歌詞の中のフレーズで、ボビー自身それをアルバムのタイトルにしたいと思っていたんだ。

ギル・スコット・ヘロンのときのようにリミックスは当然考えてらっしゃるでしょうけど、もしも、すでにミキサーが決まっていたら教えてください。

RR:しばらくは時間をおいて、いいアイデアが出てくるのを待つよ。まずは人びとに僕らがアルバムとして作ったものを聴いてもらって理解してもらうのが大事なんだ。

〈XL・レコーディングス〉は今後もこうしたリジェンドとの共同制作を続ける予定はありますか?

RR:あまり先のことを予測はしないようにしているよ。いままで一緒にやったアーティストもみんな、もともとはそうなるとは予期していなかったしね。

実は自分は〈XL・レコーディングス〉がプロディジーの「チャーリー」がヒットしていた頃、1992年ですが、ロンドンのオフィスまで行って取材をお願いしたことがあります。たしか住宅街の坂を上ったか、下がったところあったように記憶しています。あの頃、〈XL・レコーディングス〉がギル・スコット・ヘロンやボビー・ウーマックのアルバムを出すことになるとは誰も想像できなかったと思います。しかし、あなた自身のなかには、いつかはこういうことをやりたいという夢がずっと前からあったんでしょうか?

RR:僕自身、元々ソウル・ミュージックに大して深い情熱を持っていた。その情熱が僕の血に流れているんだ。でもどの音楽のジャンルにも、何かしら好きな部分があるよ。そこに流れるスピリットが何より大事だね。

〈XL・レコーディングス〉はこの20年、なんだかんだとダンス・カルチャーと関わっていますが、20年前の良かったところ、そして現在の良いところとふたつについて話してください。

RR:いつの時代も誰かしら他と違っていてエキサイティングなものを作っている人がいるよ、いまならジェイミー・XXみたいにね。

レーベルのこの20年の歩みについてどのような感想を持っているのか話してください。

RR:昔を振り返ったりはしないよ、そしてできる限り先のことも考えないんだ。なるべくいま現在に集中して、いま自分がやっていることをやっている最中にしっかり体験するようにしている。

ここ1~2年のUKのインディ・シーンについてはどのような感想を持っていますか? ノスタルジックな空気も感じますし、ダブステップ以降のクラブ・ミュージックの勢いも感じます。

RR:どんなときも、どんなジャンルでも、必ず誰かマジカルなことをやっている人間がいるし、誰かしら純粋に独創的な人はいる。個人的には、ザ・ホラーズやジ・XXは素晴らしいと思うよ。

最後に、もういちど生まれたら、またレーベル経営をやりたいですか?

RR:いや、鳥になりたいな。彼らはすごく自由に見えるからね。


Various - ele-king

 なにも知らずにこのコンピレーションを聴いたら、どう感じるのだろうか......。ベッドルームで作られたローファイ・ソウル? ドリーミーで、ちょっとドラッギーでソウルフルなザ・フライング・リザーズ? これは......シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノが生まれる前の、1970年代なかばから80年代初頭の忘却の記録。
 
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの1971年のマスターピース『暴動(There's a Riot Goin' On)』には、スライ自身によるドラムマシン(リズムボックス)の重ね録りによるビート――麻薬的で、陶酔的なビート――が注がれていることは有名な話だが、〈チョコレート・インダスリーズ〉(1990年代後半から2000代にかけてアブストラクト・ヒップホップの拠点でもあったシカゴのレーベル)が発表する『パーソナル・スペース』、17曲からなるこのアンソロジーは、そうしたドラムマシンやシンセサイザーの普及にともなって、1970年代後半にひっそりと作られ、ドーナッツ盤としてひっそりとリリースされた"個人的な空間"すなわちベッドルーム・ミュージックすなわち黒人宅録音楽の記録だ。ダン・カーファンガとロブ・ゼヴィアによるライナーノーツにはこのように書いてある。「70年代から80年代前半に、自主制作の、多くの単独作業から生まれたエレクトロニック・ソウル。多くが耳にしたことのない、そのひっそりとした地下世界的姿を垣間見せてくれるのが本作だ」
 たしかに彼らが主張する通り、それらは「のどか、奇怪、ファンキーと姿を変える」「時代の先を行っていた広大なるサウンド」なのだ。シンセとBOSSのドラムマシンで作った1曲目のジェフ・フェルプスの"Excerpts From Autumn"を聴けばよくわかる。感情を引っ掻くようなひどく安物のドラムマシンの音がたまらない(フェルプスはもう1曲収録されているが、それはいわば黒いクラフトワークである)。以下、興味深い曲が最後まで続いている。ギター・レッドの"Disco From A Space Show "のドラミングは学研のおまけのような音質だが、しかし、これはシカゴ・ブルース界の巨匠による作品だというから驚きだし、ジェリー・グリーンの"I Finally Found The Love I Need"はヤズーの青写真のようであり、ベースラインはサイボトロンのようなロボット・ファンク。トライバルなキー&クリアリーの"A Man"もいいが、彼の人生の躁鬱病が影を落としているとライナーで説明されているスポンタネアス・オーヴァースローによるエレクトロ"All About Money"の不気味さは、オッド・フューチャーやクラウド・ラップともそう離れてはいない。
 スケベ心いっぱいのUSエリーズの"Are You Ready To Come?"やダビーなミキシングによるその"Pt.2 "、メーカーズによる風呂上がりでトロピカルな"Don't Challenge Me"、デトロイトのジョニー・ウォーカーによるプレ・ムーディーマンとも言える"Love Vibrator"......デボラ・ワシントン&ジ・アスターズによる出来損ないのファンク"Shortest Lady"、スティーヴ・エリオットによる哀愁を誘う"One More Time"、女のあえぎ声が反復する宇宙的ダブ"My Bleeding Wound"......。

 いまさながら、金をかけずにアイデアを捻り出す連中の音楽の素晴らしさを知る。アルバムの最後では、オーティス・G・ジョンソンによるシンセ"ゴスペル"ポップの"Time To Go Home"が彼らの栄光を讃えている。我々と同じように彼らも時代に翻弄され、決して平坦ではない人生を歩みながらもこんなに大きな、そしてユニークな夢を見ていたのである。

Cold Specks - ele-king

 夢を見ることさえ虚しく思えるこの時代に、それでも夢の世界を自由に、あるいは華麗に歩いて見せたのが、仮にビーチ・ハウスによるドリーミー・ソウルだったとすれば、コールド・スペックスは、数十年前にソウル・ミュージックが見た夢、その甘い記憶に耳を澄ませながら、沸き起こる余韻のいっさいを保留して、ささくれだった荒野を颯爽と、それも堂々と歩いている。素晴らしいモダン・ソウルの登場だ。ある時代を、しかもその時代のユースとされる世代が、同時代から消去された時代遅れなスタイルで生きること。それは二度と戻らない人生において、ある重要な季節を異邦人として生きることと言えよう。『ガーディアン』曰く、「過去100年のうちのどの時点で録音されたものだと言われても信じてしまいそうな」、なるほどたしかに同時代性の薄いオールドスクール・ソウルであるが、単なる懐古趣味とは言わせない気合、「私は誇りを持ってこのスタイルを選んでいるの」という迫力のようなものがある。

 『ピッチフォーク』によれば、コールド・スペックスを名乗るAl Spxは、現在24歳の女性シンガー/ソングライター(かつギタリスト)であり、「デモ音源が放つ強烈な印象」によって、今年早々に〈Mute〉と契約している。今月29日発売、エレクトロニック・ミュージックにおける"浮女子"特集を組んだ本誌紙版『vol.6』。そこに登場する先端的なアーティストとほぼ同年代であるが、彼女は彼女の道を行っている。そこでは、ビル・キャラハン(a.k.a. スモッグ)めいたミニマルなインディ・フォークが丁寧に紡がれている。あるいは、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのようなディープ・ソウルが、優美な弦アレンジとともに夜を照らしている。バンドはときに、エレクトリック編成とエモーショナルなコーラスによって、アーケード・ファイヤーを彷彿するロックの高揚感を打ち出してもいる。ホーン・アレンジも情熱の花を咲かせている。そして、ほぼすべての曲において、ゴスペルの祝福が舞い降りている。

 大げさではなく、『I Predict a Graceful Expulsion』は、モダン・ソウル・ミュージックの偉大なる1年となった2008年の火照りを少し思い出させてくれる。TV・オン・ザ・レディオの『Dear Science』、そして、ボン・イヴェールの『For Emma, Forever Ago』から譲り受けたような、情熱の手触りによって。惜しむらくは......アルバムに収録された約半分の曲が、オーヴァー・アレンジメントの装飾性に微妙に絡み取られている点である。これは作者に敬意を欠いた言い方だろうか? もちろん、インディのシーンから出発してさらに大きな世界を目指す過程において、すでに実績を積んだ人物たちと協働するのは、悪いことではないと思う。多くの人に会う前に、最低限の外装、身だしなみ、その清潔さに気を使うのは、むしろ自然なことだ。「メイシー・グレイのウィスパー版」なんて評が出るくらい洗練されたヴェルヴェット・ソウル、ないしはインディ・ゴスペルというべき本作の完成度は、リード・ギター以外のほとんどのサウンド・プロダクションに大きく関与したというジム・アンダーソン抜きには成し得なかったものだろう。

 だが、このポスト・インターネットの時代にあって、聴衆を広く集めるひとつの手段は、(矛盾するようだが)聴衆の一部を想定から捨てることでもあるのではないか。「売りたくてウズウズしている音楽」には、やはりどこか類型的な出力があり、仮にアーティストが古いイメージのリスナー像を想定しているとすれば、敏感なリスナーにはすぐバレてしまう。「この音楽は自分に向けられたものではない」と。私が言うのではあまりにも生意気だが、ポップ・ミュージックの短くも長い歴史は、そんな聴き手を相当数、すでに育てているはずである。事実、ナイトメア・ロックの"Hector"などをジ・XXと比較する評論家さえ、いるのだ。無名の段階で〈Mute〉とサインするような逸材だ、いるかもわからない不特定の聴衆に目配せをする前に、もっと小規模で親密なリスナーを信頼してもいい。『I Predict a Graceful Expulsion』には、少しだけ勇気が足りていない。日本語で書いても伝わらないのはわかっているが、それでも書く。あなたの素顔、装飾の裏側、そのほころびがもっと見たい。

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