「XXXテンタシオン」と一致するもの

LEX - ele-king

 それは2017年の3月。まだ14歳だった。初めて世に発表した曲は “こっち見ろ!(Look At Me!)” のリミックス。ダブステップの重要人物、マーラディジタル・ミスティックズ)を大胆にサンプルしたXXXテンタシオン2015年の同曲が、ショウビズ的なレヴェルで大きな注目を集めることになったのが2017年の2月ころ。なのですぐさま反応していることになる。早い。二重の意味で。
 湘南出身のラッパー、LEXはその後自殺未遂を経て死ねなかったことに意味を見出し、本格的に音楽の道を進むことになる。サウンド的にはトラップやイーモ・ラップ以降の感覚をポップに表現、4つ打ちやロックの技法も貪欲にとりいれてきた。精神的不安定、そこから逃れるためのドラッグ、あるいはスマホ、インスタにTikTok──リリックには洋の東西を問わず2010年代を支配することになった鍵概念が散りばめられ、結果、彼は多くのティーンから絶大な支持を獲得。当人もまた10代の代弁者であることを意識していたという。

 他方で彼は同世代のリスナーたちに「べつの見方」を提供することにも心を砕いてきた。2019年4月にリリースされたファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』のコンセプトは、SNSにとらわれていたり、現実よりもゲームのほうがリアルに感じられたりする状況からティーンたちを解き放つというもので、冒頭 “STREET FIGHTER 888” ではレトロなピコピコ音が鳴り響いている。90年代までのVGMを特徴づけるチップ・サウンドは、以降もときどき彼の曲に顔をのぞかせることになるギミックだ。
 市販薬によるオーヴァードースかヴィデオ・ゲームか──。トー横キッズじゃないけれど、逃走の選択肢が少ないティーンたちの代表たりえているラッパーは、もしかしたら彼以外にもいるのかもしれない。カネを稼ぐことへの執着や「勝つ」という強迫観念、それらヒップホップ/ラップ・ミュージックの世界における定型を活用する一方で、LEXは同業者にはなかなかやれないことをやってのけてもいる。たとえば耳による意味把握が困難なことばたちが走り抜けていく “GUESS WHAT?” (セカンド『!!!』収録)のMV。そこではいまは亡き安倍元首相による国会答弁の様子がブラウン管=旧時代を象徴する機器に映し出され、それをつまらなさそうに眺めるキャラクターたちが配置されていた。政権への違和の表明だ。

 決定的だったのはおよそ1年前、2022年の1月にドロップされた “Japan” だろう。明らかにニルヴァーナを模したサウンドをバックに、やや抽象的な音声が「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」と臆することなく歌いあげている。ブリテン島であればこれくらいは「普通」の範疇に含まれるのかもしれない。けれどもここは日本。名指しで国家を批判する19歳の表現に、拍手を送らないわけにはいかない。
 さらに重要なことに彼は、「オトナ=既得権益をむさぼる老害」というありがちな単純化にも与していない。「政府の意見にうんざりするよ/俺達に優しいフリをするのに/働き詰めの若者 老後に困る老人」──高齢者の「集団自決」を推奨する30代後半の御用学者とはえらいちがいで、豊かな共感力と想像力を持ちあわせているからこそ出てくるリリックだ。10代から圧倒的に支持されているファッション・アイコンであり、人気曲 “なんでも言っちゃって” (プロデューサーはKM)のようにご機嫌な曲を書くことのできるラッパーが、他方でこういうシリアスなテーマにも果敢にチャレンジしていることの意義は、「若者の政治離れ」などという惹句がまかりとおる時代・地域にあって、はかりしれない。

 今年1月にリリースされた5枚めのアルバム『King Of Everything』には、しかし、“Japan” は収録されなかった。テーマが異なるということなのだろう。シンプルなギター・ポップ調の “大金持ちのあなたと貧乏な私” のように、置かれた環境や身分のちがいを描写することで格差社会を喚起させる曲もあるにはある。だがこれまで以上にポップさを増した新作は、全体的に、「思春期」の総括のような様相を呈している。昨年20歳を迎えたことが影響しているのかもしれない。
 序盤は「強い自分」を誇示するタイプの曲が目立つが、後半ではよりセンシティヴな感情に光が当てられている。LEXの武器のひとつである、微細に震えるヴォ―カリゼイション。それがいかんなく発揮された “This is me” ではリスナーの承認欲求を受け止め、苦しみに寄り添ってみせる。ドラッグ依存を描写する “If You Forget Me” とセットで聴くと、なぜ彼がティーンから熱烈に支持されているのか、その理由が見えてくるような気がする。アガったり落ちたり、攻撃的になったり優しくなったり、小さな成功を収めたり大きな失敗を繰り返したり、もう四方八方ぐしゃぐしゃで、なにをどうしたらいいのかわからない──だれもが10代に経験しやがて卒業していくことになる苦悶を、等身大で表現してみせること。
 その総決算が THE BLUE HEARTS “歩く花” の本歌取たる最終曲なのだろう。「自分の色も分からない」「窮屈な檻」に閉じこめられている主人公は、「どなたか僕を刺してください」と声を絞り出す。思い浮かべるのはカート・コベインの「俺は俺を憎んでる、死にたい(I Hate Myself and Want to Die)」だ。若さの特権ともいえる過剰な自意識を、みごとにとらえたフレーズといえる。
 このアルバムはきっと、ある種の成長痛の記録なのだと思う。主人公とともにLEXはいま、オトナの世界に足を踏み入れようとしている。「自分」ではなく社会へと目を向けた “Japan” はその前哨戦であると同時に、これから進む先を指し示す道標だったのではないか。だからこそ収録されなかったのではないか。

 まもなくLEXは21歳を迎える。それはすなわち彼が今後、20歳で銃殺されてしまったテンタシオンがけっして歩むことのかなわなかった道を踏破していくことを意味する。現時点でこれほどの共感力・想像力を持つアーティストだ。20代、30代、40代、50代、60代……歳を重ねるごとにその表現には磨きがかかっていくにちがいない。

LEX - ele-king

 初めて発表した曲は XXXテンタシオンのリミックス。それが14歳のときだというから早熟だ。2019年に16歳で初のアルバムを送り出した若き湘南出身のラッパー、LEX はその後〈Mary Joy〉とサインし、この4年ですでに4枚ものアルバムを送り出している。近年の日本のラップ・シーンを牽引する代表的プレイヤーのひとりだ。
 彼はラップをメッセージをこめることのできるアートフォームとして大いに活用してもいる。たとえば1年前に発表された “Japan”。ニルヴァーナ風のトラックをバックに、抽象的な発声で「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」「不満がある奴は俺と叫んでくれ」とラップされている。あるいはセカンド収録の “GUESS WHAT?” のMVには国会答弁中の安倍元首相が映し出されていたり。「若者の政治離れ」なんて言ったのはだれだ? すくなくとも LEX はまったく萎縮していない。
 というわけでエレキング注目のラッパーが本日、5枚目のアルバム『King Of Everything』をリリースしている。今回の新作にも “大金持ちのあなたと貧乏な私” なる、ロミオとジュリエット的な格差社会を思わせる曲が収録されている。ぜひチェックしてほしい。

LEXが最新アルバム『King Of Everything』をリリース!
LEXをフィーチャーしたAmazon MusicとGQ JAPANのコラボドキュメンタリー「RPZN Stories」が配信開始。

湘南出身のアーティストLEXのニューアルバム「King Of Everything」が本日リリースされた。

客演にJP THE WAVY、Young Coco、Young Dalu、Leon Fanourakis、Only U、ShowyVICTOR、UKのBEXEY、USのMatt OxやKid Trunksなど国内外のアーティストを迎え、LEXらしいレパートリーに富んだ17曲を収録している。

また、アルバムの制作中に撮影されたAmazon MusicとGQ JAPANとのコラボレーションドキュメンタリー「RPZN Stories」が、GQ JAPANのYouTubeチャンネルにて配信開始された。ドキュメンタリーの中で、LEXは自身のキャリアにおける葛藤やメンタルヘルスにまつわるパーソナルなエピソードを赤裸々に語っており、家族や仲間からの証言を交えて、普段のSNSやライブでは知れないLEXの意外な一面を見せている。

LEX - King Of Everything
https://lexzx.lnk.to/KingOfEverything

Tracklist:
01. GOD (produced by 1bula)
02. King Of Everything (produced by VLOT, MrOffbeat, kaaj & evanmoitoso)
03. Killer Queen (produced by Trippop)
04. Busy, Busy, Busy (feat. Only U) (produced by june)
05. 金パンパンのジーンズ (feat. Young Coco & JP THE WAVY)
06. READYMADE (feat. Leon Fanourakis) (produced by k4stet)
07. 1/3 (feat. Kid Trunks)
08. Hertz (feat. Matt Ox)
09. Move (feat. ShowyVICTOR) (produced by DJ JAM)
10. LOVE PISTOL (feat. Young Dalu) (produced by FOUX)
11. Strength blindness (feat. Only U) (produced by Dee B)
12. Come To My World (feat. BEXEY)
13. This is me
14. 大金持ちのあなたと貧乏な私 (produced by In Bloom)
15. If You Forget Me (produced by eeryskies & Arcane)
16. Need It (produced by Kevin Jacoutot)
17. 庭の花 (produced by prodkult)

Artwork by Anton Reva, Photography by Uran Sakaguchi, Motion Cover by FROMKIERAN
Mix & mastering by KM, except #2 “King Of Everything” by VLOT. Contributors: KM, VLOT, DJ JAM & STEELO

「RPZN Stories」
GQ JAPAN YouTube チャンネル 【1月25日(水)9時30分より「RPZN Stories」配信】
https://www.youtube.com/watch?v=e0uB-_IRgC4

LEX (レックス) Profile:
湘南出身、2002年生まれのヒップホップ・アーティスト。天性のメロウボイスと、攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ている。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードしはじめ、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』で衝撃的なデビューを果たす。2019年12月にセカンド・アルバム『!!!』、2020年8月にサード・アルバム『LiFE』を次々と発表。2021年にはBAD HOPやJP THE WAVYらの作品に客演参加し、ロンドンのBEXEYとのコラボEP「LEXBEX」、横浜のOnly U & Yung sticky womとのコラボEP「COSMO WORLD」を発表するなど、勢いは更に加速。8月にJP THE WAVYを客演に迎えたシングル “なんでも言っちゃって”、9月には4枚目となるアルバム『LOGIC』を発表し、同年GQ Men Of The YearのBest Breakthrough Artistを受賞するなどその活動が高い評価を受けた。

2022年3月にSoundCloud初期音源と未発表曲をコンパイルした『20 (Complete Mixtape)』を発表。4月には10代最後となるシングル “大金持ちのあなたと貧乏な私” をリリースし、8月からはZepp Yokohama、なんばHatch他6都市を周る “With U Tour” を成功させた。メンタルヘルスの問題も抱えながらプレッシャーや葛藤と向き合い、2023年1月に満を持して5枚目のアルバム『King Of Everything』を発表する。

2021 GQ Men Of The Year Best Breakthrough Artist
2022 Space Shower Music Awards Best Hip Hop Artist

追加訂正 - ele-king

男は天才であり、稀代の悪党だった
10代なかばでサウンドクラウドに上げた曲が
そしてビルボードで1位になるときには獄中だった
ポップスターになる条件がすべて揃ったところで
過去がものすごい速さで彼を元いた場所へと引きずり戻した
20歳になる前に彼は社会的制裁を受け
そして20歳になると彼は首に銃弾を撃ち込まれて死んだ
しかし彼の死後、彼の曲はヒットした
サブスクではクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を抜くほどに

つまりこういうことだ。
人の為し遂げることに報いなど存在しはしない。
地位、権力、名声、金。
すべてクソだ。
だから僕はこうアドヴァイスする。
ゲームに疑いようもなく裏があり、
しかも、目に見えない社会的圧力が
こちらの行動まで規定してくるような場面では、
できることは一つしかない。
ぜんぶ間違ってやれ。
──本書より

くたばれインターネット』の著者が描く
異色のXXXテンタシオンの評伝
夭折したラッパーの生涯を通して問う
ネット社会や音楽シーンの意味と人種問題、
あるいは、
現代への痛烈な批判とテンタシオンへの思い

解説:二木信

目次

一章 今再びこのアメリカを驚愕せしめん
二章 本当っぽい方がいい
三章 息絶え絶えになお叫びつつ
四章 汝(なれ)は吸血鬼(ヴァンパイア)なるか?
   嬰児(みどりご)の我は死と歩む
五章 保護観察
六章 ♯予期せぬ結
七章 魔女とのまXぐXわXい
八章 歩哨(センティネル)の丘──ウィルバー・ウェイトリーと限りない空虚(ヨグ=ソトース)とともに
九章 ベイビー・イッツ・ユー
十章 ジュネーヴァ
十一章 我痛みを知るより先に朽ち果つるを望む
十二章 死走

訳者あとがき
解説(二木信)

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Special Interest - ele-king

 パンクの時代だ。酔狂なのはスリーフォード・モッズムーア・ジュエリーぐらいだと思ったら大間違い。まずはニューオリンズの4人組、スペシャル・インタレストからいこう。いまもっともラディカルなバンドのひとつ、彼らは・彼女らは……、喩えるなら、そう、ストーンウォールの暴動・ミーツ・CRASS・ミーツ・レイヴカルチャー・ミーツ・ロングホットサマー。え、そこまで言えるのかと、まあたしかに箱庭的なポップスやニューエイジに慣れ老化した耳には刺激が強すぎるかもしれないけれど、このきつい時代をギリギリのところでなんとか生きている人、あるいはまた、音楽が矮小化される以前の記憶をお持ちの方には待ち望んでいたもののひとつだろう。彼らはぶっ飛んでいて、大きい。
 とはいえ、スペシャル・インタレストは過去のいかなるラディカルたちとも違っている。2018年のデビュー・アルバムの1曲目、“Young, Gifted, Black, in Leather” が、その曲名からわかるようにニーナ・シモンの魂(=反白人至上主義/『別冊ブラック・パワー特集』を参照)にリンクしながら、彼らはパラダイス・ガラージにおけるアナーキーな夜の女王たちにも通じている。
 “Disco”と名がつく曲がすでに3つもあるこのバンドは、パンクであり快楽主義者だ。つまりヴォーカリストのアリ・ログアウト(この社会からログアウトする──素晴らしい芸名!)という強烈な個は、インダストリル・ハードコア・サウンドと同化して、激怒と愉楽を両立してみせている。ログアウトはすべて──人種、ジェンダー、再開発、貧困──に怒っているが、と同時にどこかでふざけてもいるのだ。
 「私は街が滅びるのを見る/ガラクラからそびえ立つ、ケバケバしい高級マンション」“All Tomorrow's Carry”
 「急速に崩壊する甘く腐った臭い/クソが私の1日を強いる」“With Love”
 「ソドミー・イン・LSD! ソドミー・イン・LSD!」“Disco Ⅲ”
 荒々しく、野暮ったいハードコア・テクノ的なトラックもログアウトのパンク・ヴォーカルによって鮮度を取り戻し、そして間違いなく、スペシャル・インタレストがいま重要なバンドのひとつであり、『The Passion Of(の情熱)』が重要作であることをわからせている。まずはさあ、ログアウトだ。


Bob Vylan

PunkGrime

Bob Vylan

We Live Here

Venn Records


bandcamp

 さて、“イングランズ・ドリーミング”とはセックス・ピストルズの“ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン”の歌詞の一節(イギリスが夢見ているようではno future)だが、いまや“イングランズ・エンディング”だと。スリーフォード・モッズとバッド・ブレインズとの出会い、グライム・ミーツ・パンクなどと説明されるロンドンの2人組、ボブ・ヴィレイン(ボブ・ヴィランではない)の登場。本作『We Live Here』はセカンド・アルバムで、タイトル曲はボブ・ディランが17分もある例のシングル曲を発表したときにリリースしたとか。
 “Lynch Your Leaders”(リーダーをリンチにしろ)とか、直球で威勢のいい曲が並んでいるが、なかには自助(セルフ・ヘルプ)をうながす“Save Yourself”なんて曲もある。彼らが非白人の移民であることも大きいのだろう。少なくとも福祉国家たるイングランドに彼らはいないようだ。まあ、日本も自助社会に向かっているよね。ちなみに、魅力的な曲のひとつである表題曲の“We Live Here”は、次のようなナレーションではじまる。「ここは美しい場所だった/あんたらがここに来るまでは」


 君はアフリカからグラインドコアやスピード・メタルが生まれるなんて、想像できるだろうか。ウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tape〉からケニヤのナイロビのメタル・シーンで活動する2人(Martin Khanja、Sam Karugu )によるバンド、Dumaのファースト・アルバムは、驚くべきことに90年代半ばぐらいのボアダムスを彷彿させる。いったいこれは何なのか……アフリカだというのに(いや、だからこそ?)凍てつくような、とんでもないカオスが広がっている。そんな彼らが影響を受けたバンドは、スロッビング・グリッスル、ブラック・フラッグ、マイナー・スレット、カート・コベイン、XXXテンタシオン、ボブ・マーリー……、そしてなんとDJスコッチ・エッグ(インタヴューで、彼のことは神だと言っている。おそるべしスコッチ・エッグ)。
...

くたばれインターネット - ele-king

ツイッター時代のヴォネガット ──『ザ・タイムス』
文化的な診断による怒りのコメディ! ──『ガーディアン』
本を読む人種こそはこのネット社会が生み出した地獄絵図に抗う術を手にしている唯一の存在だぞ。本を読む人種だけがネットに対しても多少なりとも興味深い反論を試みることができるのだ。 ──本書より

ビヨンセもレディー・ガガも
マーク・ザッカーバーグも
スティーヴ・ジョブスもだいきらい!
21世紀にもっともやってはいけない
唯一の大罪を犯してしまったアラフォー女子一名、
ツイッターで自衛し、
ツイッターで攻撃を仕掛けるが……

インターネットという地獄絵のなかで我々一般庶民はいったい何をさせられているのか。
アメリカのウエルベック、現代のヴォネガットなどと評され、現代アメリカ文学において唯一読むに値するとまで言われたネット時代を痛快なまでに風刺する問題作。

自費出版からスタートして、『ニューヨーク・タイムス』や『ガーディアン』などで賞賛され、いまのところ12か国で刊行されている異形の国際的ベストセラー、ついに本邦上陸!

ジャレット・コベック (Jarett Kobek)
トルコ系の在米移民の子孫で、カリフォルニア在住の小説家。本書『くたばれインターネット(I Hate the Internet)』は国際的なベストセラーで、9つの言語に翻訳され、12カ国で刊行されている。最新作にラッパーのXXXテンタシオンについて書いた『DO EVERY THING WRONG』と『ONLY AMERICANS BURN IN HELL (=地獄で灼かれるのはアメリカ人だけ)』がある。

浅倉卓弥
作家・翻訳家。東京大学文学部卒。レコード会社洋楽部ディレクター、団体職員等を経て作家へ。著書に『四日間の奇蹟』『君の名残を』『向日葵の迷路』『黄蝶舞う』ほか、訳書に『安アパートのディスコクイーン──トレイシー・ソーン自伝』(トレイシー・ソーン著)『父と僕の終わらない歌』(サイモン・マクダーモット著)『天才作家の妻』(メグ・ウォリッツァー著)などがある。

interview with Phony Ppl - ele-king


Phony Ppl
mō'zā-ik.

300 Entertainment / Pヴァイン

SoulFunkHip Hop

Amazon Tower HMV iTunes

 現代の“What's Going On”──そう称されたのは2018年の優れたアルバムのひとつ、ジ・インターネットの『Hive Mind』で冒頭を飾る“Come Together”だった。かのLAのバンドは同曲で、われわれに衝突を強いてくるものについて歌っている。深刻な人種差別が続く合衆国の惨状は、いまなおアーティストたちを突き動かし続けているようだ。
 西海岸だけではない。東にもまたおなじ問題意識を共有するグループがいる。ブルックリンの新世代5人組ソウル・バンド、フォニー・ピープル。ジョーイ・バッドアスらの属するプロ・エラとともにビースト・コースト・ムーヴメントを盛り上げてきた彼らは、ジ・インターネットと同様、ことさらにポリティカルなバンドというわけではないけれど、彼らの新作『mō'zā-ik.』の最終曲“on everythinG iii love.”でもやはり、警察の暴力によって命を落としたアフリカ系たちのことが歌われている。
 おもしろいことにフォニー・ピープルの音楽は、言葉だけでなくそれを輝かせるサウンドのほうもまたマーヴィン・ゲイを想起させるところがある。ミーゴスの所属する〈300 Entertainment〉から発表された『mō'zā-ik.』にはマーヴィンやスティーヴィー・ワンダーといった70年代黄金期のソウル・ミュージックの真髄が見事に受け継がれているが、この殺伐とした現代、トラップのような音楽が猛威をふるういま、彼らはあえてかつての“古き良き”サウンドを信頼することで、改めてソウル・ミュージックのなんたるかを示そうとしているのかもしれない。
 では彼らにとってソウルとはいったいなんなのか? じっさいのところ彼らはどのような思いで『mō'zā-ik.』を作り上げたのか? ヴォーカルのエルビー、ギターのイライジャ、ベースのバリ、ドラムのマフュー、キイボードのエイシャ──大きな盛り上がりを見せた渋谷 WWW X での公演前日、バンド・メンバー全員が取材に応じてくれた。

人間が人生を歩むなかで経験するたとえばトラウマとか喪失感とか心の痛みとか失恋とか、あらゆる痛みを音楽として表現する。それがソウルだよ。

今回日本で『mō'zā-ik.』がCDリリースされますが、タイトルの綴りが特徴的ですよね。

エルビー(Elbee Thrie、ヴォーカル):音声記号(IPA)のとおりに書くとこうなるんだ。

そうしたのには何か特別な理由が?

エルビー:音声記号で書くとひとつひとつの文字にフォーカスできて、1文字ごとの意味が深くなると思ったんだよね。あと、ヴィジュアル面でもこっちのほうがきれいなんじゃないかなと。「モザイク(mosaic)」って本来は「c」で終わるんだけど、「k」にしている。発音記号だと子音が「k」の音だから、こういうスペルにしたんだ。グループ名の「Phony」も音声学(phonetics)と関連しているんだよね。サウンドを意味する「-phone」ともつうじるし。

曲名にはすべてピリオドがついていますよね。

エルビー:ピリオドは「この曲はここで終わっている」ということを示すために打っているんだ。それにも意味があるんだよ。

イニシャルでないところが大文字になっていたり。

イライジャ(Elijah Rawk、ギター):「G」はいつも大文字なんだ。

エルビー:子どものころ、ジュヴィナイルの“Ha”って曲がすごく大好きだったんだ。そのなかに、「ビッグ・Gならブロック・オン・ファイア(Big G, you got your block on fire)」という歌詞があってね。「ビッグ・G」だから、「G」は大文字。

では一人称の「I」が「iii」と三つになっているのは?

エルビー:ひとつの「I」のときと三つの「iii」のときがあるんだけど、ひとつの「I」はふつうの、「私はトイレに行きます」や「私はご飯を食べます」みたいな一人称なんだ。肉体的なものとしての自分を指すときはひとつの「I」。でも三つの「iii」は肉体的なものから離れて、もっとスピリチュアルな、精神的なものを表すときに使う。前世とか来世とかね。そういう自分の体を越えたものは三つにする。そこには肉体的なものも含まれてるんだけど、それを越えた自分まで含めて、ということだね。

先祖とか、そういうことではないんですよね。

エルビー:ノー。先祖ではなくて、自分が生まれるまえの前世とか、死んだあとの来世とか。それから、なぜいまここに自分がいるのかとか、そういう意味のときも三つ繋げてる。

そういったことを考えるようになったきっかけは?

エルビー:いまここにこうしてみんなが集まっているのは、ここに肉体があるということだけど……この考えは一日でできたものじゃなくて、人生を重ねるうちに認識していったアイディアなんだ。まだ自分のなかでもいろいろ問いかけている最中で……たとえば肉体はここにあるけど、魂みたいなものはもしかしたらべつのところにあるかもしれない。そういうことを人生を重ねていくなかで考えるようになったんだ。だからそういったことをテーマに歌詞を書いたりもしているよ。

サウンド面では、前作の『Yesterday's Tomorrow』の時点ですでに洗練されていましたけれど、新作の『mō'zā-ik.』はさらに洗練されているように感じました。

イライジャ:そういってもらえて嬉しいよ。

今回、音作りの面でもっとも意識したことはなんでしょう?

イライジャ:ファースト・アルバムを褒めてもらえてすごく嬉しいけど、じつはあれにはいろんなドラマがあって、さまざまなストレスや不安を抱えながら作ったアルバムだったんだ。あれは、それまでにあったものをぜんぶひとまとめにして出したものだから、その過程で辞めるメンバーもいたりして、「未来はどうなるんだろう」「自分たちはこれでいいのか」って、ものすごい不安を抱えながらリリースしたものだった。だから今回の『mō'zā-ik.』のほうがもっときちんとしていると思う。インフラも整っていたし、ツアーの回数も増えて、経験も積んで、メンバーも再調整されてね。あと、〈300 Entertainment〉と契約したこともすごく大きかった。システム化してもらえたからね。たとえば、あちこちでレコーディングするんじゃなくて、同じミキサーやエンジニアにやってもらえたりとかさ。1曲目の“Way Too Far”以外はどれも1年ぐらいかけて作った曲だから、すごく一貫性のあるアルバムなんだ。だから、今回のほうがより洗練されているっていうのはありえる話だね。

“somethinG about your love.”や“Move Her Mind.”といった曲にはロックからの影響が表れています。

イライジャ:子どもの頃からクラシック・ロックとかコンテンポラリー・ロックとか、ポップ・パンクを聴いて育ったからね。俺がこのバンドに貢献している部分があるとしたら、それはやっぱりロック的な要素だと思う。泥くさい音とか、汚い感じの音とか、「これ、ここには入らいないよね」みたいな音だから、メンバーのみんなはおもしろく思ってないかもしれないけど。だろ? エイシャ。

エイシャ(Aja Grant、キイボード):いや、俺もヤバい音は好きだよ!

イライジャ:そういうコントラストが生まれるからこそおもしろいと思っている。このバンドはすごく極端なものを持ってきてくれるんだ。3曲目の“somethinG about your love.”は最近書いた曲じゃなくて、前回のアルバムよりもまえに書いた曲なんだけど、時間をかけてどんどん前進していって、いまのような曲になった。8曲目の“Move Her Mind.”のほうはすごくアグレッシヴな、直球でパンチを食らうような曲で、スタートからいきなり迫力がある。“Move Her Mind.”は70年代のロックから影響を受けた曲なんだ。当時のロックはすごく多岐にわたる音楽性を持っていたと思う。R&Bやソウル出身のキイボーディストとかギタリストがいておもしろかったよね。そういうところから影響を受けて書いた曲なんだよ。で、スタジオで一気に録音した。エルビーの自宅の地下で、メンバーそれぞれが楽器を持って、一発録りしたんだ。

70年代のロックという話が出ましたが、アルバム全体としてはマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーのような、70年代のソウルの遺産が良いかたちで受け継がれていると感じました。トラップ全盛のいま、このようなスタイルのソウルをやろうと思ったのはなぜですか?

バリ(Bari Bass、ベース):もちろん、いまどういうものが流行っているかとか、トラップのような方向性は知っている。それはアルバムのレコーディング中も把握してた。でも、いま世の中で起きていることとは違うエネルギーをあえて持ってくることで、新しいこと、違うことに挑戦して、より多岐にわたる音楽を作ったほうがリスナーにチャレンジできるんじゃないかと思ったんだ。ただじつは、トラップから影響を受けて書いた曲も今回のアルバムには入っているんだよ。だから、トラップの領域も知っているけど、もっと違うものを作りたかったし、結果としてそれをうまく表現できたと思ってる。

エルビー:えーっと、バリが言ったこととは違う話になってしまうけど……バリはリスナーにチャレンジしたかったって言ったけど、必ずしもそういうわけじゃなくて、僕らがそれぞれ楽器を持つと、リスナーのことは意識しないで自然に、やりたいように演奏するから、すごくオーガニックになったんだ。

バリ:俺が言っていることと違ってくるからまずいって!

エイシャ:まあ、そういった細かいところまでは話さなかったよな。『mō'zā-ik.』に収録されている曲は何年もライヴで演奏してきたんだ。とくにニューヨークのブルーノートでね。レジデンシーをもらえたのはすごくラッキーだった。そこで演奏することによってレスポンスが得られたからね。「ここはもうちょっと変えよう」とか「これは引き算しよう」とか、ライヴで得られるものが大きかった。曲ってその時代のスナップショットみたいなものだから、俺たちの代表曲“Why iii Love The Moon”も、いま演奏しているものは、かつて演奏していたものとまた変わってくるよね。

ちょっと水を買いに近くの店まで行ってそのまま戻ってこられなかったりとか、家族が仕事へ行って「帰ってこないな」と思ったら突然殺されていて、今日が最後だったなんてこともありえる時代になってきている。

去年はXXXテンタシオンの殺害が大きな話題になりましたけれど、いまのヒップホップにはある種の過剰さ、「いっちゃうところまでいっちゃう」みたいな状況があるように思います。いまのヒップホップに問題があるとすれば、それはなんだと思いますか?

イライジャ:エゴじゃないかな。

マフュー(Matt "Maffyuu" Byas、ドラム):ドラッグも大きな問題じゃないかな。ドラッグを神格化するというか、そういうことをかっこいいことみたいに持ち上げるのは良くないと思う。

エイシャ:個人的にドクター・ドレーは好きなんだけど、でも、まるで水を飲むようにドラッグを自分たちの音楽と関連づけているヒップホップ・アーティストを見ていると、ヒップホップっていま若い世代にもっとも影響力があるから、すごく汚染しているな、ダメにしているな、って残念に思うね。

エルビー:いまのヒップホップが抱えている問題は、ずっとヒップホップのスターの座にいる人たち、スター級のアーティストたちが、それが永遠に続くと思って、ほかのアーティストにたいして失礼だったり「何を言ってもいい」みたいな、そういう風潮があることだね。ある日突然環境がガラッと変わることだってあるんだから、それはどうなのかなって。態度が失礼っていうのも問題のひとつだと思う。

今回のアルバムの最終曲“on everythinG iii love.”では、警察の暴力で命を落とした黒人のことが歌われていますね*。

エルビー: 最近は減るどころかずっと増えている。

マフュー:ここでは三つの「iii」を使っている。肉体から離れた、魂の話をしているからね。

エルビー:僕は基本的にテレビを観ないんだけど、たまにテレビをつけると毎回と言っていいほど、黒人が警察に射殺されただとか、少年が警察官に間違えて殺されただとか、そんなニュースばっかりでうんざりする。それはもちろん僕らの知らない人たちだけれど、でももしかしたら自分たちもちょっと水を買いに近くの店まで行ってそのまま戻ってこられなかったりとか、家族が仕事へ行って「帰ってこないな」と思ったら突然殺されていて、今日が最後だったなんてこともありえる時代になってきている。人種差別をするのはほんっとうにばかげたことだと思う。だから、自分たちでも何かを訴えたいと思ってこの曲を書いたんだ。自分たちはみずから選んでこういう肌で生まれてきたわけではないし、いや、もちろん黒人として生まれてきたことはものすごく誇りに思っているし、それは嬉しいことなんだけど、でもなんで肌の色でこうやって罰せられなくちゃいけないのか、って。

マフュー:撃った側の警察官は刑務所に入ることもなく、ちゃんと給料も支払われる。本来であれば僕たちを守るべき仕事に就いている人なのに、黒人の少年を殺したことで給料をもらえて、裁判があったら必ず勝ってしまう。ありえないなと思う。

* 取材後にエルビーが語ってくれた説明によれば、黒人の主人公が殺された事件の裁判に、本人の魂が現れる。その魂は天井から裁判を見守るが、その主人公を射殺した白人は結局無罪になる。判決にがっかりした主人公が「あぁ、俺は弔いの言葉さえかけてもらえなかった。それなら自分で自分を“安らかに眠れ(Rest In Peace)”と弔おう」とする内容(湯山)。

おばあちゃんの家へ行ったら、そこでおばあちゃんがソウルフードを作ってくれる、その音楽版みたいな感じかな。それがソウル・ミュージック。

あなたたちはジョーイ・バッドアスのプロ・エラと一緒にビースト・コースト・ムーヴメントを牽引していましたよね。ニューヨークのヒップホップだけが持つ特性はなんだと思いますか?

イライジャ:ニューヨークの音楽ってすごく変わってるんだ。一時期は見失っていた時期もあるけどね。いまはエイ・ブギー(A Boogie)とかシックスナイン(6ix9ine)とか、新しいアーティストがでてきた。ニューヨークのプロデューサーが集まるようなスタジオもできた。ニューヨークではいまプロ・エラは大きな存在だよね。お互い助け合って、ニューヨークの音楽を全体的に盛り上げることに貢献している。ヒップホップだけじゃなくて、もっと大きな意味でもね。ニューヨークはすごく幅が広くて多岐にわたる音楽を扱っているから、そこが魅力なんじゃないかな。ありえないぐらい表現力豊か、それがニューヨークの魅力だと思う。

同じくビースト・コースト運動をやっていたジ・アンダーアチーヴァーズはLAの〈Brainfeeder〉からもリリースしています。LAのシーンについてどう見ていますか?

イライジャ:フライング・ロータス!

マフュー:LAのヒップホップって、ケンドリック・ラマーとかブルーフェイスとかジ・インターネットとかがいるけど、ニューヨークと違って天気が良いから、太陽を浴びてすごく自由な感じだよね。もちろんダーティでヴァイオレントなものもあるけど、ダンス的な要素があったり楽しい音楽がある。タイラー・ザ・クリエイターとか。あとはすごく結束力があるよね。

「西のジ・インターネット、東のフォニー・ピープル」と言われることについてはどう思います?

イライジャ:会った瞬間から気の合う人たちだったよ。すごく良いエネルギーを感じるし、お互い助け合っている。応援し合っているよ。東西を行き来して自宅へ遊びに行ったりとか、すごく仲が良いんだ。あと黒人バンドということで、そういう意味でも応援しあっている。

バンドであることの良い点と悪い点はなんでしょう。

イライジャ:唯一悪い点があるとすれば、パーソナルな、プライヴェイトな計画がうまく立てられないことだね。ライヴがあるから、一週間前とかにならないと先のことがわからないし。たとえば最近母親の結婚式があったんだけど、ライヴの予定が入っちゃって。逆にバンドの良いところは、音楽的な面でお互い助け合えることだな。友人というよりは兄弟って感じ。たとえば曲を書いていてライターズ・ブロックにぶつかって、この先どうしようなんて思ったときも、誰かに相談すると会話から何か新しいものが生まれてくる。ひとりじゃないということが大きいね。

バリ:難しいのは、すごく民主的なバンドでみんなの意見を反映させているから、判断するプロセスが非常に難しいんだけど、ひとつ決まるとびしっと協力しあって、結束力が固いところは良い点かな。

メインストリームで成功することについてどう考えていますか? それを目標にすることもある?

イライジャ:そうだね、もちろんメインストリームを目指したいんだけど、バランスが重要だよね。そもそも自分はなぜ音楽をやっているのかっていうのを考えると、全員に気に入ってもらえるポップ・ソングを作るためにやっているわけではないから。

あなたたちにとって「ソウル」とはなんでしょう?

エルビー:ソウル・ミュージックというのは、歌詞の内容がわからなくても、たとえばポルトガル語だとか日本語だとか、英語だとわからなくても、言語がわからなくても、心ですごく感じるものなんだよね。

バリ:そもそも自分たちはフォニー・ピープルをブルックリンで、DIYスタイルで作ってきたわけだ。手作り感があったんだ。「ここブルックリンでソウルを作ろうぜ」っていう形からできあがってきた純粋なエネルギー、自分たちのなかにあるものをぜんぶ出しきったもの、それがソウルなんだ。リスナーにはそれを感じてほしい。

イライジャ:ソウル・ミュージックは、人間が人生を歩むなかで経験するたとえばトラウマとか喪失感とか心の痛みとか失恋とか、あらゆる痛みを音楽として表現する。それがソウルだよ。

マフュー:言葉にするのはとても難しいんだけど、子どものころからソウルを聴きながら育ってきたから、フィーリングがすごく伝わってくる。ソウルを聴くと身体が温かくなる。それがソウル・ミュージックだね。

エイシャ:みんながいろいろ言っちゃったからもう出つくしちゃったけど(笑)、ひとつ言えるのは、黒人の音楽であるということ。おばあちゃんの家へ行ったら、そこでおばあちゃんがソウルフードを作ってくれる、その音楽版みたいな感じかな。すごくノスタルジアを感じるもので、たとえばみんながソウルを聴きながら踊りだしたりね。それがソウル・ミュージック。自分の魂から何かを表現するときの音楽。まあ魂から表現するということは他のジャンルにも言えるけど、特に黒人音楽のソウル・ミュージックにかんしてはそれがすごくあると思うね。


XXXTentacion - ele-king

 XXX(エックスエックスエックス)テンタシオンとジミー・ウォポが相次いで撃たれて亡くなった。20歳と21歳。前者はこのところアメリカのヒップホップにおいて高まっていた世代間の確執では中心人物とも言える存在で、しかし、そのことと撃たれたことは関係がなかったらしい。後者も同じくで、強盗か何かに撃たれたらしく、メジャーと契約を交わしたばかりというタイミングだった。このふたりの死から導き出されるのはヒップホップとか文化に関する話題であるよりは、やはりアメリカの銃社会にまつわる議論に終始するべきだろう。警察とのトラブルではないので、ブラックライヴスマターの案件ですらない。
 実は紙エレキング用に5月の時点で書いた原稿にXXXテンタシオンにも触れていて、そのときにはドレイクやミーゴスと対立するXXXテンタシオンをケンドリック・ラマーが支持するのかしないのか曖昧なままにしてあったんだけれど、訃報が伝わった直後にケンドリック・ラマーどころか「どれだけ君にインスパイアされたかわからない」というカニエ・ウエストやディプロ、ジューシー・Jやマイリー・サイラスなど多くのミュージシャンたちが彼の才能に賛辞を惜しまないツイートをアップする事態となっている(意外とマンブル派ではなくJ・コールのようなリリカル派からリアクションが多い。マンブル・ラップというのは何をラップしてるのか内容がわからないと揶揄されているラッパーたちのことで、フューチャーやミーゴスが代表とされる)。もしかすると黒人版ニルヴァーナのような存在になったかもしれないことを思うと、それなりに納得はするものの、一方で、白人の男の子をステージ上で絞首刑にするという映像表現や妊娠中のガールフレンドに暴力を振るい、その映像をバズらせて喜んでいたことは彼の死に同情できないという声を多く呼び寄せる事態にもなっており、彼の才能の是非についてはXXXテンタシオンが生きていて、彼自身の活動によって証明する以外に方法はなかったとも思う。この3月にはビルボードで1位を獲得したというセカンド・フル・アルバム『?(Success&Victory)』もケンドリック・ラマーと同じく僕も5回ほど聴いてみたけれど、そこまでの作品には思えなかったし(大ヒットした“Sad!”より“Moonlight”の方が良かった気が)、やはり昨年、オーヴァードーズで亡くなったリル・ピープ同様、ロックになったりラップになったりというスタイル(エモ・トラップ)は興味深いものの、これまでのラップのスタイルに取って代わる「叫び」を体現したという評価はやや早計な見解ではなかっただろうか(叫んでいるときはラップじゃないし)。
 ちなみに紙エレキングの記事でXXXテンタシオンはスポティファイから削除されたと書きましたが、正確にはレコメンド機能から外されただけで、聴くことは可能のようです。(三田格)


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