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The Internet

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小川充   Sep 13,2018 UP

 デビュー時はベッドルーム・スタジオ的なプロダクションだったが、セカンド・アルバムの『フィール・グッド』(2013年)からバンド・サウンドへと移行したジ・インターネット。シド・ザ・キッドとマット・マーシャンズの2人組のときは、オッド・フューチャー一派から出てきたことを示すヒップホップ、オルタナティヴ~アンビエントR&B色の濃いサウンドだったが、ツアー・バンドが発展して恒常的なバンドへと変わるにつれ、ネオ・ソウルやファンク、ブギーやディスコなどの要素が増えていく。数々のツアーやフェスへの参加などでライヴ・アクトとしても実績を積み、そして発表したサード・アルバム『エゴ・デス』(2015年)。サンダーキャットの兄弟のジャミール・ブルーナーも交えた6人編成のバンドとなり、タイラー・ザ・クリエイター、ヴィック・メンサ、ケイトラナダジャネール・モネイらがゲスト参加し、グラミーにもノミネートされるなど大きな成功を収めた。以前シドがレズビアンであることを公表したことが話題にもなり、またモデルの水原希子と友だちであるということでファッション・アイコン的にも見られるジ・インターネットだが、『エゴ・デス』は彼らのサウンドを揺るぎないものにしたと言える。

 『エゴ・デス』リリース後は、メンバーはそれぞれのソロ活動に専念し、2017年にシドが『フィン』、マット・マーシャンズが『ザ・ドラム・コード・セオリー』、スティーヴ・レイシーが『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』と、それぞれアルバムやEPをリリースしている。マットやスティーヴのアルバムなどは、ジ・インターネットではなかなかできないような実験的な試みをおこなったり、楽器演奏なども含めてそれぞれの個性を出した作品集となっている。それ以外にも、クリストファー・アラン・スミスがC&Tというユニットで『ラウド』というアルバムを出し、2018年に入ってパトリック・ペイジ2世が『レターズ・オブ・イレルヴァンス』というミニ・アルバムを出したが、もともと『エゴ・デス』の後はメンバー個々の創作や充電期間にあて、それを経てジ・インターネットとして再集結し、新作に取りかかるという予定だった。そして、ソロ作の完成や発表などでリリースのタイミングを待っていたが、実際には2017年中に録音がほぼ完了したという4枚目のアルバムが『ハイヴ・マインド』である。

 ジャミール・ブルーナーは『エゴ・デス』のみの参加で、今回はシドことシドニー・バーネット(ヴォーカル、ドラムス)、マット・マーシャンズことマシュー・マーティン(キーボード、ドラムス、シンセ、バック・ヴォーカル)、スティーヴ・レイシー(ギター、ベース、ドラムス、キーボード、シンセ、バック・ヴォーカル)、パトリック・ペイジ(ベース、キーボード)、クリストファー・スミス(ドラムス、パーカッション)の5人編成で、サポートでムーンチャイルドがホーン・セクションを務めるほか、『エゴ・デス』にも参加していたニック・グリーンがバック・ヴォーカルで入り、ビッグ・ルーブがラップで、カリ・フェイクがパーカッションでゲスト参加している。マットやスティーヴのようにメンバーの多くが複数の楽器を操るマルチ・ミュージシャンぶりを発揮し、またマットとシドはレコーディング・エンジニアも務めている。ソロ作で培われたプロデューサーやマルチ・ミュージシャンとしての役割が『ハイヴ・マインド』にそのまま生かされており、ソロ活動を経て一段と大きくなって帰ってきたジ・インターネットを映し出すアルバムと言えるだろう。なお、『ハイヴ・マインド』はアメリカン・コミックが元となったタイトルで、鉢の巣のような六角形の集合体をイメージしている。そうしたメンバー個々の集合体がジ・インターネットである、という意識がより強くなっていることを示すタイトルだ。

 ファースト・シングルとなった“ロール(バーバンク・ファンク)”に示されるように、『ハイヴ・マインド』にはいままで以上にファンキーでグルーヴに満ちたナンバーがある。フェスなどで観客の嗜好を意識していく中で、こうしたよりダンサブルな方向性が生まれていったようだ。なお、この曲のドラムはギャズとなっているのだが、これはサルソウルのディスコ・クラシックであるギャズの“シング・シング”のビートをサンプリングしているからである。セカンド・シングルの“カム・オーヴァー”も重厚なファンク・ビートが土台となっている。しかしジ・インターネットの場合は、いわゆる米国黒人音楽の伝統を継承するファンクやソウルと言うより、どちらかと言えばAORに代表される白人音楽的なメロウさや爽やかさがあり、それはクールで中性的なシドのヴォーカルにも当てはまる。サンダーキャットがAORとブラック・コンテンポラリーの間に位置する、そうした関係性にも通じる微妙な音楽性をジ・インターネットは持っていると言える(ちなみにサンダーキャットに先日インタヴューした際、刺激や影響を受けるアーティストとしてジ・インターネットの名前を挙げていた)。メロウネスということでは、サード・シングルの“ラ・ディ・ダ”がピンとくるナンバーだろう。ボサノヴァを取り入れたビートはファーサイドの“ランニング”を思わせるもので、ダンサブルなグルーヴとブラジル音楽特有のサウダージ感(哀愁)が見事にマッチしている。“ワナ・ビー”も同様にラテン特有の軽やかさと哀愁を取り入れた曲。ちなみに、“ラ・ディ・ダ”のミュージック・ヴィデオには前述した水原希子も登場している。

 スティーヴのギターが印象的な“カム・トゥゲザー”はシャーデーを思わせる感じで、ムーンチャイルドの奏でるフルートがセンチメンタルな味わいをうまくサポートしている。“ステイ・ザ・ナイト”も同様にスティーヴのギター、シドのしっとりしたヴォーカルによる真夜中のムードにピッタリの曲。この曲や“ブラヴォー”や“ムード”など、ソロ・シンガーとしても開眼したシドの個性がジ・インターネットの世界の拡張に貢献していることを示している。ジ・インターネットらしいR&Bナンバーの“ネクスト・タイム”から幻想的な“ハンブル・パイ”へと続く流れは、マットやスティーヴのソロでの実験的な遊びをうまくグループへと落とし込んだものと言える。ビッグ・ルーブのラップをフィーチャーした“イット・ゲッツ・ベター(ウィズ・タイム)”は、楽曲そのものは極めてAOR的なものと言え、後半の楽器のアンサンブルはとてもジャズ的だ。“ビート・ゴーズ・オン”は刺激的なビートを持つ曲で、ロバート・グラスパーなどの新世代ジャズにも通じるところがある。ラストはマットのキーボード、スティーヴのギターのアンサンブルが生み出すメロウネスと、シドの優しいヴォーカルが絶妙に混じりあう。ダンサブルなグルーヴを持つ『ハイヴ・マインド』だが、こうした繊細な表現も随所に見られ、非常に味わい深いアルバムとなっている。

小川充