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Moonchild

JazzSoul

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Voyager

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小川充   Jun 23,2017 UP

 2010年代に入ってロサンゼルスのジャズ・シーンが注目を集める一方、同地が輩出するR&B~ソウル・アーティストの活躍も目覚ましいものがある。日本でもよく知られるところでは、ジ・インターネット、ライ、インク、キングなどの名前が思い浮かぶし、マックス・ブリック、アンドリス・マットソン、アンバー・ナヴランによる男女3名グループのムーンチャイルドもまたそのひとつだ。ムーンチャイルドの場合は新世代のネオ・ソウル・グループと評されることが多い。紅一点のアンバーのソフトで温かみのある歌声は、ジル・スコット、インディア・アリー、コリーヌ・ベイリー・レイなどネオ・ソウル系の名シンガーたちにも引けをとらず、かつてのミニー・リパートンのようにナチュラルな美しさを持っている。ただし、単純にネオ・ソウルの枠に収まらない音楽的な複合性、多様性もあるのがムーンチャイルドである。彼らの特徴のひとつにオーガニックなジャズ・マナーを持ち込んだ作風が多く、また室内楽風とも言える優美なホーン・アンサンブルをはじめとした器楽演奏がフィーチャーされている点も挙げられる。メンバー3人は南カリフォルニア大学のジャズ・サークル出身で、それぞれテナー&アルト・サックス、トランペット、フリューゲルホーン、クラリネット、フルートなどを演奏する。このようにグループの下地にはジャズがあるので、一般的なR&Bやネオ・ソウルのグループと言うより、ジャズとソウルの中間のようなサウンドとなっている。ローバト・グラスパーからスティーヴィー・ワンダーまで、いろいろなアーティストたちから高い評価を集めるゆえんだろう。

 本作『ヴォイジャー』は、自主制作で発表したデビュー・アルバム『ビー・フリー』(2012年)、〈トゥルー・ソウツ〉を通じてワールドワイドにリリースされた『プリーズ・リワインド』(2014年)に続く、通算3枚目のアルバムとなる。過去2作同様に本作もセルフ・プロデュースなのだが、今回はエミリー・キングの共同プロデューサーで、ディアンジェロ、アンソニー・ハミルトン、ゴードン・チェンバース、ハイエイタス・カイヨーテ、ジェシー・ボイキンス3世などの作品にも関わってきたプロデューサー/ソングライター/ギタリストのジェレミー・モストが、制作におけるインスピレーションとして重要な役割を果たしているそうだ。サウンドは『ビー・フリー』や『プリーズ・リワインド』からの基軸を継承しつつ、ところどころに新しい試みを入れ、より幅広い音楽性を織り交ぜていることが感じられ、そのあたりがモストの影響なのだろう。ラテン風の開放的なムードを持つ“ショウ・ザ・ウェイ”、シンセ・ベースが印象的な“レット・ユー・ゴー”など、今までのムーンチャイルドにはあまりなかったタイプの作品も見られる。ザラっとした質感のビートの“エヴリー・パート(フォー・リンダ)”も、ムーンチャイルドにしては珍しいタイプの作品。どちらかと言えばディアンジェロやエリカ・バドゥなど、ソウルクエリアンズ絡みのサウンドに近いもので、エレクトリック・サウンドの導入もいつもより多目だ。とは言え、ヒップホップ色がそこまで強く出ていないのは、アンバーのヴォーカルと洗練された器楽演奏やアレンジによるところが大きい。モストからの影響によるヒップホップ~ネオ・ソウル的なラインを、うまく自身のカラーの中で消化していることがわかる1曲だ。

 “キュア”はネオ・ソウル色の濃いナンバーで、アンドリスによるピアノ、ローズ、クラヴィネットにシンセを交えた重層的な鍵盤群、アンバーのヴォーカル&コーラスの多重録音が鍵となる。女性3人組のキングに近いタイプの曲で、ここでもアコースティックな要素とエレクトリックな要素の融合が今までよりも進んでいる印象を与える。アンバーのフルート・ソロがフィーチャーされた“6AM”でも、オーガニックなムードにエレクトロニクスが巧みにブレンドされていることがわかる。“ハイダウェイ”や“ザ・リスト”はロバート・グラスパー・エクスペリメントに通じる、ジャズとソウルの中間的なサウンド。前者ではマックスのアルト・サックス&クラリネットが随所に差しこまれてアクセントとなり、後者ではアンドリスのキーボードとトランペット、マックスのアルトのコンビネーション・センスが抜群である。幻想的な雰囲気を持つ“ナウ・アンド・ゼン”もそうだが、アンバーの歌はいたずらに存在感を主張することなく、むしろ器楽の一種として機能し、演奏をうまくフォローする役割も担う。ムーンチャイルドの魅力は、この3人の力がバランスよく結びついていることを再確認させる曲だ。デビュー時からムーンチャイルドはストリングスの導入にも積極的で、ヴァイオリン、チェロ、ハープなどのプレイヤーをホーン・アンサンブルと結び付けて効果的に用いている。本作では“シンク・バック”や“チェンジ・ユア・マインド”あたりが好例だろう。一方、Jディラ風のズレたビート用いた“ラン・アウェイ”は、彼らとしてはヒップホップ色の強い異色作なのだが、トリッキーなシンセがコズミックな質感を醸し出す一方、アンバーの歌の持つ端正さや可憐さが、ムーンチャイルド特有の優美で格調の高い世界を保っている。今までの彼らからは相反するような要素も、違和感なく自然な形で自分たちの世界に取り込み、よりスケールアップしたのが『ヴォイジャー』と言える。

小川充