ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. aus - Eau | アウス
  2. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  3. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  4. 見汐麻衣 - Turn Around | Mai Mishio
  5. P-VINE ──設立50周年記念、公式スタッフ・ジャンパーが発売
  6. Isao Tomita ──没後10年、冨田勲の幻のアルバム『SWITCHED ON HIT & ROCK』が初CD化
  7. Julianna Barwick & Mary Lattimore ──盟友2人による共作アルバム『Tragic Magic』の日本盤がリリース
  8. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  9. Kotoko Tanaka ──3月にバンド・セットでのツアーが開催
  10. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  11. Taylor Deupree & Zimoun - Wind Dynamic Organ, Deviations | テイラー・デュプリー&ジムーン
  12. Ikonika - SAD | アイコニカ
  13. interview with Young Marble Giants たった1枚の静かな傑作  | ヤング・マーブル・ジャイアンツ
  14. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  15. Geese - Getting Killed | ギース
  16. 次郎吉 to JIROKICHI -高円寺のライブハウスが歩んだ50年-
  17. interview with Kneecap (Mo Chara and Móglaí Bap) パーティも政治も生きるのに必要不可欠 | ニーキャップ、インタヴュー
  18. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  19. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  20. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門

Home >  Reviews >  Album Reviews > Janelle Monáe- Dirty Computer

Janelle Monáe

FunkR&B

Janelle Monáe

Dirty Computer

Atlantic/ワーナーミュージック・ジャパン

Amazon

木津毅   Jun 04,2018 UP
E王
ピンクはわたしのお気に入りの一部 “Pynk”

 イケピンク問題である。『女の子は本当にピンクが好きなのか』を読んだ方には説明不要だろう。ピンクがある種の女性性を象徴する色だとして、それがお仕着せのものであればダサピンクであり、主体的に選び取られたものであればイケピンクとなる。ウィミンズ・マーチのピンク・ニットに代表されるように、女性のエンパワーメントを訴える政治的な色でもある。ジャネール・モネイはピンク色のヴァギナを模したパンツを履いて、ファニーなダンスを仲間の女たちと披露する。ヴァギナの形はひとそれぞれで、ヴァギナを持たない女性もいる。だが彼女たちは同じダンスができる。セクシーなフレーズやイメージを挑発的に繰り返す“Pynk”のミュージック・ヴィデオはまず、21世紀におけるフェミニズムとクィア・カルチャーのもっともポップな成果であり、そして、2018年最高のイケピンクである。

 要は中指の立て方の問題なのだと思う。ヴィデオでは例によって女たちのファックが突きつけられるのだが、その指は色とりどりのマニキュアが塗られている。怒りはある……が、それはカラフルで愉しいものであっていい。#MeTooは女性が自分の性を自分で決めるという宣言であって、必ずしも男を怯ませるものではないはずだ。ウィミンズ・マーチに男がピンク・ニットをかぶって参加したっていい。そして『ダーティ・コンピューター』は、ロマンスが困難な時代になったという反動主義者の早急な結論をからかうように、フェミニズム全盛の現代におけるセックスとエロスを祝福する。その真ん中で踊るのは女たちとセクシュアル・マイノリティだ。USガールズのアルバムにも感じたことだが、いま、怒りを担保したままどのような開かれ方がフェミニズムに可能であるかが模索されている。ビヨンセがコーチェラで女の強さを爆発させたならば、ジャネールはここで女として生きる楽しさを謳う。そしてそれは、「お気に入り」だが彼女たちにとってあくまで「一部」でもある。ジェンダー・ポリティクスはある、が、ジェンダーに囚われなくてもいい。

 “Pynk”はまた、音楽的にもジャネールの最新のモードを象徴してもいるだろう。グライムスをフィーチャーしたそのエレクトロ・ポップ調のシングルは、彼女の出自を説明するときに必ず言及された「アウトキャストがフックアップし……」という地点からはかなり離れている。 一貫してタッグを組んできたワンダランドのクルーはもちろん関わっているが、プリンスのファンクを2018年ヴァージョンに仕立てたシングル“Make Me Feel”のように彼らがいない曲もある。ブライアン・ウィルソンがフィーチャーされ、かつて西海岸が見た夢が再現されるかのようなコーラスを聴かせるオープニング“Dirty Computer”をはじめとして、ファースト・アルバムのようなブラック・ミュージックの濃厚さではない軽やかなポップス・コレクションとなっている。 もちろんジャネールはいつでもエクレクティックだったが、本作では使っている色のパレットが原色からパステルカラーに近づいたと言えばいいだろうか。ジョージ・クリントンよりはナイル・ロジャースというか。 ファレル・ウィリアムズが参加したダンスホール調の“I Got The Juice”にしろ、メロウ・ソウルの“Don't Judge Me”にしろ、あるいはフォーキーなサイケデリック・ソウル“So Afraid”にしろ、パワフルさと目まぐるしい展開で押し切っていた初期に比べるとずいぶん洗練された味わいとなっている。そのなかで一貫して感じられるのはやはりプリンスで、それは自分が彼の正当な後継者であると宣誓することであると同時に、20世紀のプリンスの功績を21世紀のクィア・カルチャーの視座からあらためて讃えるということであるだろう。

 『ムーンライト』がアカデミー作品賞を受賞したときに違和感があったのは、作品を評価していないからではなくてむしろ逆で、古い体質のエスタブリッシュメントたるアカデミーには純粋な作品の価値が伝わっていないのではないかと思ったからだ。貧しいブラック・コミュニティにおける同性愛を描いた映画を権威が引き上げるとき、ポリティカル・コレクトネス以外に何があるのか、と。だが、僕は間違っていた。もはやポップの基準は更新され、時代がマイノリティの新しい生き方を本当に感じようとしている。『ムーンライト』で優しく少年に語りかけていたジャネールは、『ダーティ・コンピューター』で現代のポップスターのど真ん中を引き受けながら「マザファッキン・プッシー・ライオット」を始めるのだと言う。街をピンクに染めるのだと。ドリーミーなエレクトロ・ポップ“Crazy, Classic Life”では「わたしはアメリカン・ドリームの象徴」とまで宣言し、それと呼応する“Americans”では「わたしはアメリカン」だと繰り返しながら手を叩き、得意のパーティ・ファンクで締める。
 優等生だと言う意見も理解できる。だが、たとえばバイセクシュアルを公言しているフランク・オーシャンが差別反対のTシャツをステージで着ながら同性愛の官能を歌うように、パンセクシュアルだとカミングアウトしたジャネールがカラフルなポップスを衣装としてエロティックな欲望を掲げるとき、そこにはポジティヴなエネルギーしかない。ジャネールを聴く若い女の子たちがそのパワーを受け取ってくれたら……というのは僕の身勝手な願望だ。だが本当にそう思う。彼女たちの「お気に入りの一部」がポップの未来を変えていくだろう。僕たちもそこに混ぜてもらおう。簡単だ……「We got the pynk」と叫ぶだけでいい。

木津毅