ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. yapoos ──地球最後のニューウェイヴ・バンド、ヤプーズが再始動する (news)
  2. New Order - ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So It Goes.. (review)
  3. Politics 黒船MMTが来航、開国を迫る。その時、日本の与野党は (columns)
  4. James Ferraro - Requiem For Recycled Earth (review)
  5. ハッパGoGo 大統領極秘指令 - 原題 Get the Weed (review)
  6. Bon Iver ──ボン・イヴェールが8月末に新作をリリース (news)
  7. DE BEREN GIEREN ──ベルギーがほこる注目のジャズ・ピアノ・トリオを東京塩麹やスガダイローが迎えうつ (news)
  8. Flying Lotus ──衝撃を与えた映画『KUSO』がまさかの再上映決定 (news)
  9. Ken Ishii ──ケンイシイが13年ぶりのニュー・アルバムをリリース、新曲を公開 (news)
  10. interview with Jordan Rakei 人間性を忘れてはいけない (interviews)
  11. 編集後記 編集後記(2019年7月9日) (columns)
  12. Politics オカシオ-コルテス、“MMT(現代貨幣理論)”を語る (columns)
  13. TODD TERJE JAPAN TOUR 2019 ──ノルウェーのディスコ王、トッド・テリエが来日 (news)
  14. Columns いまだ眩い最高の夜 ──ニュー・オーダーのライヴ盤『NOMC15』を聴きながら (columns)
  15. interview with Francesco Tristano 日本らしいものを作っても意味がない (interviews)
  16. IO - Player's Ballad. (review)
  17. Stereolab ──ステレオラブ再始動キャンペーン第二弾、代表作3枚が一挙リイシュー (news)
  18. Kokoroko - Kokoroko / Various - Untitled (review)
  19. Koji Nakamura - Epitaph (review)
  20. interview with New Order 我らがニュー・オーダー (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Janelle Monáe- The Electric Lady

Janelle Monáe

FunkHip HopR&B

Janelle Monáe

The Electric Lady

Bad Boy Entertainment/ワーナー

Amazon iTunes

木津 毅   Sep 30,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 「戦争より愛 火種はこりごり 暴動ではなく静寂/音楽を演奏して 踊って愛し合うんだ/石を投げない 窓を割らない お尻だけ振って/激しく振って ベイビー/エレクトリック・レディ 105.5WORDを聴きながらね」

 アルバム中に何度かラジオ番組を模したインタールードで、DJがノリノリでそう告げるのが心地よくて、飛ばさずに全部聴いてしまう。ときは2719年......とするにはどこか不釣合いの、なにやらレトロなラジオ番組。ジャネール・モネイのありようが、このインタールードにとてもよく表れているように思える。すなわち、遠い未来のディストピアでも、そこで生きる人間たちはパーティをして「お尻を振って」いるに違いない......という、あっけらかんとした、しかし確信に満ちた楽観主義である。世界中から賞賛されたアフロ・フューチャリズム『ジ・アークアンドロイド』に連なる物語を持ったアルバムである『ジ・エレクトリック・レディ』においても、その舞台は階級闘争が激化するメトロポリスなのだが、そこで描かれるのは闘い以上に、パーティだ。
 ここでキャラクターとして設定された「エレクトリック・レディ」とはジャネール・モネイにとってのスーパーヒーローの象徴だそうで、ステージ上で、あるいはレコード上で彼女はつねにそんな姿で現れる。強くてキュートな、打ちひしがれた人びとを鼓舞するために颯爽と登場するヒロイン......どう考えても、ジャネール・モネイは現代における最高にクールなポップ・アイコンである。

 『ジ・アークアンドロイド』における成功は本作においてゲストを大勢呼ぶことにも繋がったようで、いきなりのプリンスからはじまり、エリカ・バドゥ、(ビヨンセの妹の)ソランジェ、ミゲル、エスペランサといった面々が集まり、このパーティを盛り上げていく(日本盤のボーナス・トラックには彼女を見出したビッグ・ボーイとシーローも登場する)。しかしながら非常に雑多な音楽ジャンルがミックスされた本作を聴いていると、ここにはもっと大勢のミュージシャンが住み着いているように錯覚する。サン・ラからファンカデリック、スティーヴィー・ワンダーからジャクソン5、ボブ・マーリーからアウトキャスト......。ファンク、ソウル、ヒップホップにジャズにロックンロール、エンニオ・モリコーネのサウンドトラックをシャッフルして平然と着こなすジャネールのアルバムは相変わらずパワフルで、色彩と生命力に満ちている。セクシーなファンク"ギヴン・エム・ホワット・ゼイ・ラヴ"でプリンスと絡めば、ミゲルとデュエットを取る"プライムタイム"ではメロウなR&Bヴォーカルを披露し、モータウン・ポップ調の"ダンス・アポカリプティック"ではファンキーに弾けてみせる。
 本作のリード・トラックとなったエリカ・バドゥとの共演ファンク・ナンバー"Q.U.E.E.N."において「あんたがそうやってドープ(麻薬)売ってる間 わたしたちはホープ(希望)を売り続けるから」とラップされるのが印象的だが、その「ホープ」を売りつける相手をモネイは決して見失わない。ネグロイドやゲイ、移民や労働者、そしてとりわけ、すべての女性たち......に"Q.U.E.E.N."は捧げられている。この曲でモネイはセクシズムに対抗するために「ガール、大丈夫よ」と自信を持って囁いてみせる。続くゴージャスなポップ・ナンバー"エレクトリック・レディ"においても同様で、ここで彼女はあらゆる「レディ」を太いベースでともに踊らせることを目論んでいる......そうして、女性たちをセクシャリティとジェンダーの束縛から解放しようとする。そして何より、それをフェミニズムと呼ぶときの「イズム」の堅苦しさを軽やかにかわすように、激しく腰をシェイクする。

 正直に告白すると、ネットなんかでジャネール・モネイの海外でのステージ・パフォーマンスを観ていると、何度となくどうしても目頭が熱くなってしまう。大勢のステージ・メンバーたちほぼ全員が演奏の合間に、いや、演奏をしながらでも踊りまくり、その中心でまるで少年のようなモネイが堂々と楽しそうに、じつに楽しそうに駆け回ってみせる。そこではひとつの理想的なコミュニティが示されており、そして彼女は人びとを楽しませることに全身で自分を捧げている。その目的をけっして見失うことがないからだ。
 ジャネール・モネイがぶち上げる歴史もジャンルもごちゃ混ぜになったパーティは、マイノリティや疎外された人びとを一堂に集め、彼らや彼女らをお互いにミックスする。彼女はたしかに差別や格差やあらゆる束縛と闘うアイコンであろうとしている......が、そこには拳も武器もなく、いかめしい教条もなく、多様性とピュアな高揚がある。アルバムのクロージング・トラック"ホワット・アン・エクスペリエンス"はラヴァーズ・ロックのスウィートネスに乗せて、こんな風に歌われる。「この世界はいつか消える運命/そして全てのパーティはいつか燃え尽きる/でも想い出たちはよみがえる、そうなのよ/不思議よね、曲と一緒に思い出したりするの」。もし未来と呼ばれるものがあるのならば、それはそんな風に生み出されていくのだと、ジャネール・モネイの音楽はわたしたちにそう信じさせてくれる。

木津 毅

RELATED

Janelle Monáe- Dirty Computer Atlantic/ワーナーミュージック・ジャパン

Reviews Amazon

Janelle Monae- The ArchAndroid (Suites II and III) Bad Boy/Wonderland/Atlantic

Reviews Amazon iTunes