以前リキッドでやった宇川直宏の偽サイン展は大盛況だったようで、多くの人がこのシミュラクラを楽しんでいるというのは、ある意味では驚愕に値する。本物をまがい物が凌駕する......ことはまあ昔からあるとはいえ(ダッチワイフとかそうなのかね、いやあれは現実の代用品か)、しかし、それにしても積極的に偽サインを面白がるという感覚はまったくポスト・モダン的で、宇川直宏はそうした変わりゆく世界の見え方に非常に敏感なのだろう、彼はこのゲームをずっと弄んでいるように思える。
僕は去る11月27日にアルバム発売記念のトークショーを彼と一緒にやった。喋りが終わったあと、宇川は「今日、CD買ってくれた人には偽サインを描きます」と言ってその日のメニューを告げると、誰か忘れたけど何種類もの著名人(もしくはカルト的人物)のサインを描き、そしてその"偽もの"を何十人もの人たちが楽しんでいるのだ。僕はそれを端で眺めながら、「オレも描いてもらおうかな」と思ってしまった。偽物であるから面白いのだ。こうしてシュミラクラは本物を駆逐する。彼はこの更新される現実をこうやって見せているのかもしれない。
XXXレジデンツはご存じのように、彼のプロジェクトのひとつで、そこにはオリジナルのザ・レジデンツへのオマージュを含みつつも、彼のシュミラクラへの興味が恐ろしく注がれている。そもそも1973年にサンフランシスコで誕生したポップ史上で最初に匿名性を打ち出したこのユニットは、そもそも誰が本物のメンバーなのかわかならなかった。交友関係はあった。電気グルーヴの曲名にまでなった故スネーク・フィンガーをはじめ、フレッド・フリスやクリス・カーターといった70年代のUKにおけるアヴァンギャルドの旗手たち、あるいは80年代末にはレーベルが勝手に"カウリガ"――いちど聴いたら忘れられないギターとダークなエレクトロニック・ビート――のヒットによってアシッド・ハウス・フィーヴァーやバレアリックの渦中に投げ込まれたこともあった。それでも彼らの匿名性は守られてきた。XXXレジデンツの活動に先立って、宇川がこのプロジェクトの旨を本物のザ・レジデンツに問い合わせたら「好きにするがいい」との返事がきた。こうして彼は気兼ねなく、ポップ史上において指折りの異端者たちのシュミラクラを演じることができるというわけだ。
ザ・レジデンツは彼らが全盛だった70年代から80年代は、原型がわからないカヴァー集(サード・ライヒン・ロール)や1分ジャストの曲を1枚のアルバムに40曲収録したり(コマーシャル・アルバム)、あるいはモグラ帝国についてアルバムを作ったり(マーク・オブ・ザ・モール)......とかいろいろ1枚ごとコンセプチュアルにやってきた。音は、そのポップなデザインとは裏腹にいたってダークで、気が滅入るような曲も少なくない。
XXXレジデンツにとって最初のアルバム『Attack of the Killer Black Eye Ball』はレジデンツのテクノ・ダンス・ヴァージョンだ。宇川のダンス・ミュージックへの愛情が純粋に注がれている......ように思える。1曲目がいちばんオリジナルのザ・レジデンツっぽい。不吉なそのトラックにミックスされる2曲目はフロアを当たり散らすかのようにトランスする。3曲目は狂ったテクノで、リスナーは暴れるか、さもなければ気色の悪い見せ物小屋に取り残されることになる。4曲目は......普通にクラブの午前3時にかかっていてもおかしくない。できの良いテクノ・トラックだ。5曲目は地味だが、後半になると狂気が爆発する。6曲目は......普通にクラブの午前5時にかかっていてもおかしくない。もっともポップなトラックである。リスナーはそして、メルツバウによる7曲目で再度フリーク・ショーの世界に落とされる。が、最後にはハッピーなアンビエントが待っている。DVDの映像を観るとライヴのステージ上では掃除したりアイロンかけていたりしている。たしかにこの音とヴィジュアルならフロアは笑顔で盛りあがるわ。
そして......ジャケットのアートワークが最高。
ミニマルのテック・ハウス化の中で〈サーカス・カンパニー〉に代表されるジャズや現代音楽をモチーフにした音楽性の高いトラックが多数見受けられるようになりました。その中で、スイスのクラブが設立した新レーベル〈シティ・フォックス〉より〈プレイハウス〉の中心的なアーティストで、マイマイのメンバーとして知られるリー・ジョーンズによる奥深いミニマル・ハウス音響的なところではジャジーな感覚を取り入れている。
ルチアーノとともにミニマルのグルーヴの発展に貢献してきたトルガ・ファイデンによるニュー・シングル。従来よりも低音は強調され、サックスをメロディーとしてではなく"飛び"のアクセントとして用いる。より立体的なトラックへと変化している。
〈フリーレンジ〉とともに新世代のテック・ハウスを牽引する〈リエベ・ディテイル〉よりマティアス・メイヤーとワレイカによるスプリット。両面ともにクオリティが高く、2009年のアンセムと言っても過言ではない。ジャジーでエスニックなテック・ハウスにプログレッシヴ・ロック的な要素が加わり、高音あるいは中低域の持続音が不思議なトランス感を生み出している。ダブというよりはサイケデリック。ヴィラロボスとジョー・クラウゼルが共演したらこんな感じになるんじゃないか。
そしてオランダよりの新鋭ボリス・バニックのダブ・プロジェクト、コンフォースがルーク・ヘスなどもリリースするフランスの〈モデリズム〉から。〈エコ・スペース〉や〈ベーシック・チャンネル〉タイプのミニマル・ダブでありながら、最近のミニマル・ハウスを通過している柔軟なグルーヴが素晴らしい。
ポルトガルのルイ・ダ・シルヴァとファブリックの看板DJ、クレイグ・リチャーズによる共作。ジェイ・トリップワイヤーなどにも通じる大箱に栄えるプログレッシヴなダブ・ハウス。最近では珍しい質感と言える。アシッド・ベースの使い方がクールなトビアスによるリミックスも収録している。
今年も大活躍のベルグハイン勢によるスプリット。シンプルなアシッドハウスに、繊細な持続音が絡む、デットマンによるダビーミニマルと、シカゴハウスを上手く今のグルーヴに当てはめたタマ・スモとプロシューマーによるベースの効いたテックハウス。
デットマンを中心としたハード・ミニマル回帰の中で再び注目を集めるジェームス・ラスキンによるレーベル〈ブループリント〉からヴァルメイによる新作。覚醒的なシンセをアクセントに、ストイックに展開していくハード・ミニマルとなっている。質感は昔のままながら、グルーヴやエディットに新しさを感じる。
エレクトロニカのフィールドからダブを追求するベテランのモノレイクのトラックで、メンバーのトーステン・プロフロックによるT++名義でのリミックス・ヴァージョン。ノイジーでカオティックで、ピッチの早いダブステップと言える。正直に言って、レゲエやグライムからの流れのダブステップは聴くに堪えないものが多い。が、モノレイクのそれは、そのなかで本当にクオリティが高い音響を見せつけている。あるいはまた、これこそがテクノとダブステップの理想的な融合のカタチのひとつだと言える。
これは衝撃的な1枚。ハルモニアとブライアン・イーノによる名作をシャックルトンとアップルブリムがリミックス。テクノでもダブステップでもない。摩訶不思議なアンビエントだと言えるし、ジ・オーブの『ポム・フリッツ』を連想させる。ダブステップ周辺のアーティストでは僕にとってはシャックルトンが抜きん出て面白い。分からないから面白いのであう。
これはシアトル出身のアーティスト、サイト・ビロウによる深海系のダビー・ミニマル。リミキサーにはフィンランドからバイオスフィア。ドローニッシュで凍りつくようなハードコア・アンビエントである。


