「AY」と一致するもの

Tohji - ele-king

 Tohji のデビュー・ミックステープ、『angel』がリリースされた。

 これまで、Abema TV の番組「ラップスタア誕生」でポエトリーにも近い独特なスタイルで注目を集めた。同時にオリジナル楽曲や海外のトラックメーカーのビートに乗せた曲を SoundCloud で公開し、2018年にはEP「9.97」をリリースした。

 今年は Mall Boyz (Tohji + gummyboy) 名義での“Mall Tape”のヒットで着実に知名度を高め、渋谷WWW でデイタイムの彼自身の主催イベント《Platinum Ade》では、未成年のファンを中心に550人ものクラウドを沸かせた。Tohji は彼自身の人気に加えて、Mall Boyz 周辺のシーンをまとめ上げる風格を帯びてきている。

 現行のメインストリームであるトラップ・エモーショナルなラップから、ジャージークラブやパラパラなどのダンス・ミュージックも器用に乗りこなし、ジャンルに縛られない柔軟なスタイルで幅広い世代のファンを魅了してきた。そんな Tohji による待望のミックステープには、彼のスピードに対する冴えた感覚、滾る若さ、そして彼の詩人としての才を随所に感じられる。

 MURVSAKI のビートとF1の轟音でスタートする本作は、ヘヴィな“Snowboarding” で幕を開ける。得意にしているメロディックなフロウとは打って変わり、“flu feat. Fuji Taito”で魅せたようなひとつのキーでモノトーンに攻める。続いて SoundCloud で先行公開されていた“Rodeo”では、英語詞のラップを披露。日本語と英語を同列のレヴェルで扱うことで、言葉が持つ音の面白みを感じられる一曲だ。また、ここで比肩すべき人物として北野武を挙げるところも、映像的な表現が光る彼のスタイルらしい部分である。

飲み込めハイチュウ、食べてる最中 “HI-CHEW”

 インタールードを挟んで“HI-CHEW”では、最初の2小節で全てを語りつくしてしまうこのラインに痺れた。言葉では一言も触れていないのにもかかわらず、このラインは若さや彼の勢いを全て表現していて、その勢いは、MURVSAKI のパワフルなビートに張り合ってこの曲を特別なものにしている。Loota が参加した“Jetlife”では、Mall Boyz の“Higher”と同じ“空”のモチーフを、今度は空の上からダイナミックに掴んでいる。この2曲はこのミックステープのハイライトだと思う。

 “トウジ負傷”を挟み、終盤ではグライム・プロデューサーとしても知られる Zeph Ellis の制作したビートに乗せて、彼らしいラヴソングである“on my way”、そして再び MURVSAKI によるビターなラヴソング“miss u”で幕を閉じる。

 このミックステープはこれまでのリリースよりもより多面的な Tohji をのぞかせてくれる。そこにはラッパーとしてのセルフボーストだけでなく、彼の優しさや傷のヒリヒリとした生々しさもある。それぞれの面が魅力的であり、彼の類い稀な才能が世界にさらけ出された一枚だ。

Battles - ele-king

 10月11日に待望のフォース・アルバム『Juice B Crypts』のリリースを控えるバトルスが、同作を引っさげ来日公演をおこなう。11月の4日から6日にかけて、東京・大阪・名古屋の3都市を巡回。イアン・ウィリアムスとジョン・ステニアーの2人組になった彼らは、いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのか? ロンドンでのプレミア公演は随分と盛り上がったようなので、期待大です。チケットは明日のお昼から主催者WEB先行が発売開始、売り切れる前に急ごう!

NEWアルバム『Juice B Crypts』をひっさげ
3都市を巡る来日ツアー開催大決定!
主催者WEB先行は明日正午スタート!

その独創的なアイデアとサウンドで、ロックの常識を更新し続け、音楽ファン達に強烈な衝撃を与えてきた BATTLES が帰ってくる! 11月に東京、大阪、名古屋の3都市を巡る超待望の来日ツアーが決定! そのキャリアを再び更新する型破りな最新アルバム『Juice B Crypts』は10月11日に日本先行リリース! 各公演の主催者WEB先行は明日正午スタート!

キーボード、ギター、エレクトロニクスを操るイアン・ウィリアムスと、ドラムのジョン・ステニアーの織り成すリズムとメロディーは、よりタイトに研ぎ澄まされ、この上ないほど痛快かつ刺激的な領域へと到達! 果たしてどんなライブになるのか? その緻密かつダイナミックなアンサンブルをライブで目撃せよ! これは見逃せない!

先週ロンドンで行われた超プレミアライブでは、パンパンとなった会場が熱気で包まれ爆発寸前に!
https://www.instagram.com/p/B1Ol1-vAXc2/

初めて彼らを見たときに覚えた巨大なスリルがついに戻ってきた。体と心と魂を揺さぶる並外れた音楽は、とんでもないレベルの演奏能力があってこそもたらされるが、今夜見た新生バトルスは、まさにそれを証明するものだった。 ──Quietus

BATTLES
SUPPORT ACT: TBC

前売¥6,800(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)
※未就学児童入場不可

明日正午より主催者WEB先行スタート!

東京公演:2019年11月4日(月・祝日)
GARDEN HALL

OPEN 17:00 / START 18:00
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFR:Rx:f4b65

大阪公演:2019年11月5日(火)
UMEDA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFS:Rx:558d4

名古屋公演:2019年11月6日(水)
NAGOYA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:BEATINK 03-5768-1277

BEATINK主催者WEB先行: https://beatink.zaiko.io/_buy/1kFT:Rx:9c3fa

チケット詳細
先行発売:
8/21 (水) 正午12時〜:BEATINK主催者WEB先行
8/24 (土) 正午12時〜:イープラス最速先行販売 *8/28 (水)18:00まで
8/30 (金) 正午12時〜:ローチケ・プレリクエスト *9/3 (水) 23:00まで
9/2 (月) 正午12時〜:イープラス・プレ(先着) *9/4 (水) 18:00まで

一般発売:9月7日(土)~

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: BATTLES
title: Juice B Crypts
バトルス / ジュース・B・クリプツ

日本先行リリース!
release date: 2019.10.11 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-613 ¥2,200+tax
国内盤CD+Tシャツ BRC-613T ¥5,500+tax
ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

輸入盤CD WARPCD301 ¥OPEN
輸入盤2LP カラー盤 WARPLP301X ¥OPEN
輸入盤2LP WARPLP301 ¥OPEN

CD Tracklist
01. Ambulance
02. A Loop So Nice...
03. They Played It Twice feat. Xenia Rubinos
04. Sugar Foot feat. Jon Anderson and Prairie WWWW
05. Fort Greene Park
06. Titanium 2 Step feat. Sal Principato
07. Hiro 3
08. Izm feat. Shabazz Palaces
09. Juice B Crypts
10. The Last Supper On Shasta feat. Tune-Yards
11. Yurt feat. Yuta Sumiyoshi (Kodo) *Bonus Track for Japan

Vinyl Tracklist [2LP]
A1. Ambulance
A2. A Loop So Nice...
A3. They Played It Twice feat. Xenia Rubinos
B1. Sugar Foot feat. Jon Anderson and Prairie WWWW
B2. Fort Greene Park
C1. Titanium 2 Step feat. Sal Principato
C2. Hiro 3
C3. Izm feat. Shabazz Palaces
D1. Juice B Crypts
D2. The Last Supper On Shasta feat. Tune-Yards

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!
バトルスも所属するレーベル〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが先日公開され、これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。アイテムによって、販売数に制限があるため、この機会をぜひお見逃しなく!
https://www.beatink.com/user_data/wxaxrxp.php

Laura Cannell - ele-king

 この夏の切ない思いはたとえばこんな感じだろう。それを表現するのに複雑なプログラミングもそれらしい言葉も要らない。ヴァイオリンひとつあれば、こんなにも突き刺すような音楽を奏でることができる。ローラ・キャネルの『The Sky Untuned』、すなわち「チューニングされていない空」という素晴らしいタイトルのアルバムを聴いてそう思った。

 もっともこのアルバムは今年の春先にリリースされたもので、「天球の音楽」をコンセプトに作られている。ローラ・キャネルはイングランドはノリッジという古い街並みが残る街を拠点に活動しているヴァイオリン奏者で、じっさい彼女は荒廃した古い教会(の反響を利用して)レコーディングしている。その音楽はときに“中世的”と形容されているわけだが、シーンとは言えないまでも、イングランドの田舎の土着性を掘り起こすリチャード・ドーソンやハーブ奏者のエイン・オドワイヤー(このひとはアイルランド出身だが)のように、最近は都会とは距離を保ち、近代以前と現代とを往復するアヴァン・フォークとでも呼べそうなスタイルがUKでは目につくようになった。
 そもそも「天球の音楽」というコンセプトが中世ヨーロッパのものと言える。それは宇宙はじつは音楽を奏でていると、天体の運行と音楽とを結びつける考え方だ。ローラ・キャネルはそれを彼女のヴァイオリンで表現する。つまりこれは一種のスペース・ミュージックなのである。

 が、それは決してプラネタリウムで流れるようなロマンティックな音楽ではない。「チューニングされていない空」は、必ずしも牧歌的な欲望を満たす作品ではない。アルバムには張り詰めた緊張感と深いメランコリーがあり、エレガントで美しくあるが同時に破壊的でもあり、音は「アンチューンド=不協和」へと展開する。この温暖化、異常気象、ボリス・ジョンソンが首相になるくらいだからむべなるかなである。
 ……なんてまあそういうことではないのだが、しかし想像してみてほしい。たとえば披露宴かなんかで、ヨーロッパの綺麗な庭園にひとびとがいると。ひとりのヴァイオリン弾きがそこにいて演奏をはじめる。最初はその美しい音色にうっとりしていた人びとだが、演奏の途中で席を立つひともちらほら現れ、そして最後まで聴いていたひとの目には哀しみの涙が流れていると。
  アルバムには笛を演奏した曲もあり、多重録音もしているが、1曲のなかに複数の楽器を使わないことは徹底されている。そしてちょうどつい最近、彼女にとって初のヴォーカル・アルバム(ポリー・ライトとの共作)『Sing As The Crow Flies』がリリースされた。

New Order - ele-king

 『アンノウン・プレジャー』から40年。ジョイ・ディヴィジョン本の決定版、ジョン・サヴェージ(坂本麻里子訳)による『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』(原題:This searing light, the sun and everything else)、お盆前に校了しました。今月28日には書店/レコード店/amazon等に並ぶ予定です。
 この本は関係者による証言を編集したオーラル・ヒストリーなので、当然、もっとも多くの発言が見られるのは、バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリスの3人(そしてトニー・ウィルソン、ピーター・サヴィル、マーティン・ハネット、マーク・リーダー、デボラ・カーティスなど)です。けっこう珍しい写真も掲載されているし、音楽のこと以外に、デザインや写真の話なんかも盛り込まれていて、ある程度のことは知っているひとが読んでも楽しめる内容になっています。物語はイアン・カーティスの死とニュー・オーダー始動の直前で終わるわけですが、ニュー・オーダーのその後についてはバーニーの自伝をどうぞ
 で、先頃ライヴ・アルバムをリリースしたニュー・オーダー、来年の3月に来日することが決定しました。すでにこのニュース、話題になっているようで、さすがニュー・オーダー、衰えぬ人気ぶりです。

東京 3月3日(火) 新木場 STUDIO COAST
東京 3月4日(水) 新木場 STUDIO COAST
OPEN 18:30/ START 19:30
TICKET スタンディング¥10,000 指定席¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)
※未就学児入場不可 一般プレイガイド発売日:9/7(土) <問>クリエイティブマン 03-3499-6669

大阪 3月6日(金) Zepp Osaka Bayside
OPEN 18:30 START 19:30
TICKET 1F スタンディング¥10,000 2F 指定¥12,000(税込/別途 1 ドリンク)
※未就学児入場不可 ※未就学児入場不可 ※別途 1 ドリンクオーダー
一般プレイガイド発売日:9/7(土) <問>キョードーインフォメーション 0570-200-888

制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic
https://www.creativeman.co.jp/

Floating Points - ele-king

 7月に「LesAlpx / Coorabell」という強力なシングルをリリースし、今週末にはサマソニ《NF in MIDNIGHT SONIC》への出演を控えるフローティング・ポインツが、バルセロナで開催された《Sónar 2019》でのDJセット音源を BBC Radio にて公開している。6時間にもおよぶセットの一部で、ディスコからアフロなどじつにダンサブル、会場の熱気が伝わってくる内容だ。これは17日の《NF in MIDNIGHT SONIC》も楽しみですぞ。

https://www.bbc.co.uk/sounds/play/m0006x99

FLOATING POINTS

いよいよ今週末に来日!
サカナクションとサマーソニックのスペシャルコラボレーション
「NF in MIDNIGHT SONIC」に出演するフローティング・ポインツが
Sonar Festivalで披露したDJ SET音源がBBCにて公開中!

マンチェスターに生まれ、現在は作曲家/プロデューサー/DJとし てロンドンを拠点に活動するフローティング・ポインツ。DJとしてはジェイミーXX(The xx)、カリブーやフォー・テットなどと肩を並べるほどのステータスを築き上げ、2015年のデビュー・アルバム『Elaenia』は圧倒的な完成度の高さで、その年を代表する重要作の一枚として賞賛された。2019年、再び〈Ninja Tune〉との契約を発表し、シングル「LesAlpx / Coorabell」をリリースしたばかりの彼は、今年20周年を迎える SUMMER SONIC 2019 で、8月17日(土)の深夜に開催されるサカナクションとのスペシャルコラボレーション「NF in MIDNIGHT SONIC」への出演でも話題となった。そんな彼の、バルセロナで開催された世界最高峰のエレクトロニック・ミュージックフェスティバル、Sónar 2019 での DJ Set 音源を BBC Radio にて公開中。

Benji B - Floating Points Live at Sonar 2019 (1:05:00頃からスタート)
https://www.bbc.co.uk/sounds/play/m0006x99

公開されている音源は Sónar 2019 で行われた6時間セットの一部で、ディスコ、ハウス、アフロ、ジャズなどの要素を織り交ぜたセットで、フロアのエネルギーを爆発させているのが容易に想像できる内容となっている。今週末開催される NF in MIDNIGHT SONIC でのプレイも必見!

NF in MIDNIGHT SONIC
2019年8月17日 (土) 幕張メッセ

OPEN / START : 23:00 / CLOSE 5:00
※ OPEN / CLOSE時間は変更になる場合がございます。
※「サマーソニック東京3DAYチケット」、「サマーソニック東京8/17(土)1DAYチケット・プラチ ナチケット」、「NFチケット」で入場が可能です。
https://www.summersonic.com/2019/lineup/tokyo_day2.html#md

label: Ninja Tune
artist: Floating Points
title: LesAlpx / Coorabell
release date: 2019.07.12 FRI ON SALE

A1. LesAlpx (Extended)
B1. Coorabell

Solange - ele-king

 いつまでも姉を引き合いに出されては不本意だろうから手短かに済ますけれど、ソランジュはその活動の初期から常道とは異なるスタンスを打ち出すことでメインストリームをサヴァイヴしてきた、いわば対抗的なシンガーである。圧倒的なスターとして自らの存在感を顕示するのではなく、アプローチの多彩さやサウンドの掘り下げをとおして王道とはべつのルートを選択すること──そのオルタナティヴな態度は、とはいえまだディーヴァ的歌唱法やモータウンへの憧憬の大いに残存する2008年の2枚目からも聴きとることができる。同作に収められた“This Bird”がボーズ・オブ・カナダの“Slow This Bird Down”をサンプリングし、現在の彼女のスタイルにつうじる方法論を編み出していたことは、メインストリームとアンダーグラウンド、USとUK、ブラック・ミュージックと白人音楽といった種々の二項対立を考えるうえで見過ごすことのできないポイントだろう。他のアーティストがBOCを引用するようになるのは(実質的に)2010年代に入ってからだし、その実例も素材に必然性のないリル・Bだったりシューゲイズ的サイケデリアが目的と思しきリル・ピープだったりするので、早さの点でも使い方の点でも、ソランジュの慧眼は称賛に値する。
 とまれ、そのようなオルタナティヴの萌芽は2012年のEP「True」で一気に花開き、2016年の前作『A Seat At The Table』において盛大に咲き乱れることになる。高らかに歌い上げることをやめ、わかりやすい昂揚からは距離をおき、従来のR&Bともヒップホップとも異なるドリーミーさを獲得、丁寧に音色や音響に気を配りつつ、非ブラックの協力者も迎えながら、他方でレイシズムにしっかりと抗議を表明する彼女は、輝けるポップ・ミュージックの歴史に深くその名を刻みつけると同時に、ハーメルンの笛吹きのごとくインディ・キッズたちを元いた場所から連れ去ってしまったのだった。それから2年半のときを経て届けられたのが今回の新作『When I Get Home』である。

 とにかく音響にたいする意識がすさまじい。冒頭“Things I Imagined”で連続する「I」と「imagine」の母音同士の間合い、“Down With The Clique”や“Stay Flo”で畳みかけられる「down」や“Dreams”における「-ms」の発声などは、言葉の意味よりもまずその響きのほうへとリスナーの耳を誘導する。「ひとつのドラムの音を編集するのに18時間かけた」というエピソードも、“Way To The Show”のシンセ・ドラムや“Binz”のハットあたりを聴けばなるほどと唸らざるをえないし、随所に挿入される電子ノイズや鍵盤の音色、“Stay Flo”におけるずっしりとした低音とふわふわした上モノとの対比、“Almeda”や“Sound Of Rain”のチョップド&スクリュードなども、彼女のサウンドにたいする並々ならぬ情熱を物語っている。
 ソランジュは本作のレファランスとしてスティーヴィー・ワンダーやスティーヴ・ライヒ、アリス・コルトレーンやサン・ラーといったレジェンドたちの名を挙げているが、本作はそのどれとも似ていない。前作で確立された彼女の独自性はここで、さらなる高みに到達している。他にもインスピレイション・ソースは多岐にわたるが、たとえばトラップ由来のリズムやドラムもそれじたいが目的になっているわけではないし、豪華なゲストたちの個性も巧みに抑制されている。ときおり背後に敷かれるドローンはかなり薄めのレイヤリングで、おそらくはジョン・キャロル・カービィによるものだろうスピリチュアルな気配も、ニューエイジ的な側面が肥大しすぎないよう適切に押さえ込まれている。フライング・ロータスがそうだったように、ソランジュもまた今回の新作において「音楽監督」としてのスキルを格段に向上させている。
 言葉のほうも力強い。黒人の肌や髪の特徴を歌い上げる“Almeda”で彼女は、「ブラックの信念は、いまだ洗い流されていない」と、なんともしとやかに宣言している。この「ブラックの信念」は、アルバム全体のテーマと深く関わっている。

 タイトルどおり、本作のテーマは「ホーム」である。それは具体的には彼女の出身地たるヒューストンを指している。チョップド&スクリュードの導入もたんなる気まぐれではない。その手法を編み出した故DJスクリューは、ヒューストンを拠点に活動していたプロデューサーだった。他にも本作では俳優のデビー・アレンや歌手のフィリシア・ラシャッド、詩人でありブラック・パンサーにも関わったレズビアン活動家のパット・パーカーなど、同地出身者たちの音声がサンプリングされている。
 原点たるヒューストンへと還ること──それは空間的には郷愁と呼ばれ、時間的には懐古と呼ばれる。そのようなノスタルジーは、“Almeda”のMVが「まわること」をモティーフとしている点にもあらわれている。登場人物たちは歩きながら円を描き、ダンサーはポールを軸に回転し、ソランジュ本人もハットを指に引っかけてぐるぐるとまわしている。あるいは“Beltway”のMVでは、点滅する光が輪をかたちづくっている。現在は過去を想像し、過去は現在へと回帰する──ノスタルジーは、線的にではなく円的に発動されるのだ。注目すべきはそこに「ブラックの信念」が伴っている点だろう。

 今日はもはや「レイス・ミュージック」の時代ではない。にもかかわらず、差別構造じたいは強固に残存している。何度も繰り返される警察の暴力──そのような悲惨な現実に抗するひとつの方法は、いつか訪れるだろう素晴らしい未来を夢想することかもしれない。でも逆に、過去を志向することだって立派な抵抗たりえるのではないか? 一般的に郷愁や懐古は後ろ向きな姿勢と見なされるが、じつはそれほどネガティヴなことではないのではないか? 過去の想像それじたいがオルタナティヴな戦術たりえるような、なんらかの方法があるのではないか?
 このアルバムがおもしろいのは、主題としての過去と音響としての現在が熾烈な闘いを繰り広げているところだ。テーマがノスタルジックなのとは裏腹に、サウンドはいっさいレトロを志向していない。後者はむしろ、現行ポップ・ミュージックの最尖端を突き進んでいる。過去を呼び戻す必要のあるときも必ずひねりが加えられていて、たとえばインタールードの“Exit Scott”では、懐かしさを煽るはずのソウル・ソングがパルス音によって汚染され相対化されていく。そもそもチョップド&スクリュードだって、既存の素材を著しく変容させて再呈示するわけだから、過去を異化する手法と言える。

 本作収録曲のMVを観ていると、もうひとつ気づくことがある。“Things I Imagined / Down With The Clique”や“Way To The Show”など、現時点で公開されているほぼすべての映像に、カウボーイが登場しているのだ。いくつかの宣材写真ではソランジュ本人がその姿に扮してもいる。重要なのは、それらがみなブラックであるという点だろう。
 彼女のホームたるヒューストンは、カウボーイの街として知られている。通常それは白人の男性を想起させるが、「わたしが最初に見たカウボーイはみんなブラックだった」と、彼女はファッション誌『VOGUE』のインタヴューで語っている。最後の曲のタイトルも“I'm A Witness”だ。自らの幼いころの記憶と、おそらくは映画産業によって流布され固定されたであろうイメージ、そのギャップを浮かび上がらせるために彼女は、色とジェンダーを反転させる。

 カウボーイのモティーフから僕が最初に思い浮かべたのは、“Dayvan Cowboy”というギター・ノイズとドラムの乱舞が美しい、2005年の曲だった。「dayvan」というのは、窓際に設置する背もたれのないソファや長椅子を指す、「divan」なる単語が変化したものらしい。つまり「ダイヴァン・カウボーイ」とは、長椅子に腰かけたり寝そべったりしているカウボーイのことで、ようは「安楽椅子探偵」みたいなものだろう。外へは一歩も出ずにたいがいの物事をこなしてしまう人間の喩えだ。
 この曲のMVは、成層圏まで上昇した気球から人が飛び降りる場面ではじまる。彼はどんどん落下し、やがて大海原に突入する。巨大な波が押し寄せるなか、まるで何事もなかったかのように彼は海パンに着替え、サーフィンを試みる。軍人のジョゼフ・キッティンジャーとサーファーのレイアード・ハミルトンの映像をつなぎ合わせたものだ。成層圏ダイヴからの大波サーフィンという、じっさいにはまず不可能であろうアクションも、部屋でソファにひっくり返りながらであればたやすく想像することができると、そういう話である。
 この“Dayvan Cowboy”は、突飛で非現実的な想像をどこまでも擁護する──と同時に、当時の世界情勢を踏まえるなら、イラク戦争中にホワイトハウスのデスクに腰かけたまま再選を果たした、ジョージ・ブッシュを諷刺するものでもあったにちがいない。興味深いことに、かの大統領が中学時代を過ごし、州兵時代に配属された土地もまたヒューストンだった。それから15年近くが経過し、黒人で初めて大統領になったオバマはとうに政権を去り、現在は新たな白人のカウボーイが合衆国を牛耳っている。
 2005年のこの曲がいま、ソランジュの思考に回帰してきている。“Dayvan Cowboy”が収録されていたのは、かつて彼女がサンプリングした“Slow This Bird Down”とおなじアルバムだった。まさにボーズ・オブ・カナダこそ、ノスタルジーを鍛錬し、戦略的に打ち出した嚆矢だった。ソランジュはいまふたたび彼らのアイディアを応用し、ブラックの文脈へと移殖することで、あらためて世界に問いを投げかけている。

 メインストリームを主戦場とする歌手がアンダーグラウンドを参照し、現代的な音響を追求しながらノスタルジーを導入することで開始した、あまりに静かな叛逆──「わたしは想像する」という言葉で幕を開けるこのアルバムは、「夢」を経由し、「わたしは止まらない」という言葉で幕を下ろす。なかったことにされている過去を現在へと浮上させ、世界に変革をもたらそうとするその姿はまるで、これから起こる悲劇を回避するために何度も過去へと遡る、ループものの主人公のようではないか。
 これは、闘いである。ただし、あくまで穏やかで、上品で、どこまでも夢見心地な。

Jeff Mills - ele-king

 近年はオーケストラのための作品映画『光』のサウンドトラックトニー・アレン御大とのコラボスパイラル・デラックスなどなど、多方面で活動を続けているジェフ・ミルズだけれど、その次なる一手はどうやらコンピレイションのようだ。といってもたんなるベスト盤ではない。これまで発表されてきた膨大な作品のなかから、「視覚(Sight)」「聴覚(Sound)」「空間(Space)」という3つのテーマに合致する曲をセレクトし、50ページもの解説と考察を加えたものになっているという。きっとジェフの思想ががっつり込められた、特別な作品に仕上がっているにちがいない。9月25日、日本先行発売。

Jeff Mills(ジェフ・ミルズ)の心と頭を覗く。「視覚」「聴覚」「空間」がテーマの新『感覚』コンピレーションをリリース決定。

エレクトロニック・ミュージック、テクノ・シーンのパイオニアとして知られるDJ/プロデューサー、ジェフ・ミルズ。

近年ではオーケストラの為に作品を書き下ろした作品『Planets』を発表、また自身のルーツであるジャズ・フュージョンのプロジェクトとして、大野由美子(Buffalo Daughter)、日野賢二、ジェラルド・ミッチェル(UR、Los Hermanos)らとのグループ“SPIRAL DELUXE”としてライブやリリースを行うなど、その活動は多岐にわたります。

また音楽活動だけにとどまらず、近代アートとのコラボレーションも積極的に行っており、2017年にはその功績が認められ、フランス政府より日本の文化勲章にあたる芸術文化勲章、Officier de la Légion d'honneur Ordre des Arts et des Lettres を授与されました。

今年、長いキャリアの中で発表してきた数々の名作を、日々、進化を続ける音楽とリスナーに対して、ジェフ・ミルズ本人が向き合い、再編集をしてアナログ・レコードでリリースしていく、「ディレクターズ・カット・シリーズ」をスタートしていますが、このシリーズのCDコンピレーション版としてジェフ・ミルズ自らが編纂する作品『SIGHT SOUND AND SPACE』をリリースすることが決定しました。海外ではジェフ・ミルズ主宰の音楽レーベル〈Axis Records〉より10月4日に、日本では〈U/M/A/A〉より9月25日に先行リリースします。

『SIGHT SOUND AND SPACE』では、これまでリリースされた膨大な作品の中から、人間が持つ感覚、Sight『視覚』、Sound『聴覚』、Space『空間』という3つのテーマごとに楽曲をセレクション。さらに、ジェフ・ミルズによるこの3つのテーマについての解説と考察。そして、どの様な契機、思考、制作プロセスを経て作品となったのか、すべての収録曲について語った貴重なテキストが収録される約50Pのブックレットが、特別なハードカバーブックケースに収録。

ジェフ・ミルズが何にどのようなに影響され、どのような意図を持って作曲活動をしているのかをジェフの解説によって知ることが出来る。まるでジェフの心と頭の中を覗き見るかような作品となっています。

エレクトロニック・ミュージック・シーンのリヴィング・レジェンドとして尊敬を集め、音楽作品だけでなくその発言にも注目の集まるジェフ・ミルズが、人間の感覚をテーマに編纂するコンピレーション・アルバム。ジェフ・ミルズの新作『SIGHT SOUND AND SPACE』は、〈U/M/A/A〉より9月25日にリリースされます。

【商品情報】

Jeff Mills『SIGHT SOUND AND SPACE』
2019年9月25日リリース

仕様:CD3枚組、解説ブックレット(和訳入り)+ハードカバーブックケース
品番:UMA-1127~1129
定価:¥4,300+税
発売元:U/M/A/A Inc.

[CD 1] Sight

1.Perfecture – taken from “Metropolis” CD
2.Deckard – taken from “Blade Runner” EP
3.Le Mer Et C’est Un Caractere - taken from “Sequence” CD
4.Homing Device – taken from “2087” CD album
5.The Never Ending Study – taken from “Etudes Sur Paris” album
6.The Drive Home - taken from “Woman In The Moon”
7.Parallelism In Fate - taken from “And Then There Was Light” film soundtrack
8.Devices taken from “At First Sight “ CD
9.Transformation B (Rotwang’s Revenge) – taken from “Metropolis” CD album
10.Sleepy Time – taken from “Trip To The Moon” CD album
11.Multi-Dimensional – taken from “Man From Tomorrow” film soundtrack
12.Descending Eiffel Stairs – taken from “The Crazy Ray” film soundtrack

[CD 2] Sound

1.The Hunter - taken from “Free Fall Galaxy” Album.
2.The Bells
3.4Art
4.The 25th Hour - unreleased
5.Growth
6.Spiral Galaxy
7.Microbe - taken from “The Power” CD
8.Jade - taken from “Every Dog Has Its Day Vol. 2”
9.Where The Shadows Have Motives – taken from the Rembrandt Experience soundtrack.
10.Flying Machines - taken from “Sequence” CD compilation
11.Compression-Release – taken from “Emerging Crystal Universe”
12.Into The Body – taken from “Fantastic Voyage” Soundtrack
13.The Resolution - taken from “Actual” 12” EP (2)
14.Spiral Therapy – taken from “The Power” CD

[Booket] And

ジェフ・ミルズ本人による書き下ろし各曲解説。CD収録曲にまつわる解説やストーリーを収録。

[CD 3] Space

1.Introduction – Phase 1-3 taken from “Fantastic Voyage” soundtrack
2.Mercury (Residue Mix) - Unreleased – taken from “Planets” CD
3.Unreleased002
4.The Believers
5.The Industry Of Dreams – taken from “The Messenger” CD
6.Stabilizing The Spin – taken from “Moon: The Area Of Influence” CD
7.G-Star
8.Planet X – taken from “Lost In Space” 12” EP
9.The Worker’s Party – taken from Gamma Player Compilation “Niteroi’ collaboration project
10.Daphnis (Keeler’s Gap) – taken from “X-102 Re-discovers The Rings Of Saturn”
11.Outer Space – Unreleased
12.Unreleased005
13.Self-Portrait taken from “One Man Spaceship” CD
14.Aitken Basin – taken from “The Messenger” CD
15.Deadly Rays (Of A Hot White Sun) – taken from “Where Light Ends” CD
16.Medians – taken from “Free Fall Galaxy” album

R.I.P. Ras G - ele-king

 LAのビート・シーンを代表するアーティストのひとり、Ras G こと Gregory Shorter Jr. が7月29日に亡くなった。直接の死因は発表されていないが、昨年12月、呼吸に異常を感じて救急搬送され、肺炎、高血圧、糖尿病、甲状腺機能低下、心不全と診断されたことを自らの Instagram で公表している。体の不安を抱えながらも、今年に入ってからは2月にハウス・アルバム『Dance Of The Cosmos』をリリースし、続いてビート集『Down 2 Earth, Vol.3』、『Down 2 Earth, Vol.4』を相次いでリリース。またLAローカルのイベントにもいままで通りに出演し続け、さらに今年6月に長野・こだまの森で開催されたフェス『FFKT』への出演も開催の約1ヶ月前に発表されていたが、しかし、健康上の理由で来日はキャンセルとなっていた。
 突然の訃報に際し、Ras G の盟友である Flying Lotus を筆頭に、LAビート・シーンの関係者はもちろんのこと、世界中から様々なアーティストが SNS にて追悼のメッセージを発表。そして、Ras G の遺族が彼の作品を未来へと遺すために基金を設立すると、それに呼応して、亡くなった6日後にはLAにてドネーション(寄付)を目的とした追悼イベント《Ohhh Rasss!》が開催され、入場が制限されるほどの大盛況になったという。また、《Low End Theory Japan》への出演や単独ツアーも含めて、幾度も日本を訪れていた Ras G であるが、この原稿を書いている翌日の8月10日には中目黒 solfa にて追悼イベント《In Loving Memory of Ras_G . . . Fund Raising TYO JPN》が開催される予定で、一晩で40組ほどのDJの出演が予定されている。音楽性はもちろんこと、彼の暖かい人間性なども含めて、Ras G がこの日本でもどれだけ愛されていたかが伝わってくる。

 Flying Lotus と共に〈Brainfeeder〉の設立にも携わったという Ras G だが、彼のアーティストとしてのキャリアはまさにLAのヒップホップの歴史と密接に繋がってきた。アフリカ系アメリカ人が多く住むサウスセントラルの中でも、特にアフリカン・カルチャーの濃いエリアとして知られるレイマート・パークが彼の出身地であるのだが、そのレイマート・パークからほど近いところにあった Good Life Café でのオープンマイク・イベントや、さらにそこから派生した『Project Blowed』の現場に彼は十代の頃から足を運んでいたという。つまり Freestyle Fellowship や Jurassic 5 らを輩出した、90年代から2000年前半にかけてのLAアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンが彼のルーツとなっているわけだが、ラップよりもその後ろで鳴り響くビートに強い魅力を感じて、彼はビートメーカー/プロデューサーとしての道を選ぶことになる。
 2004年には、彼自身が店員として働いていたパサデナのレコード・ショップ、〈Poo-Bah Records〉にて自ら設立にも関わったレーベルより、同じくビートメーカーの Black Monk とのスプリットEP「Day & Night」をリリースし、これが彼のデビュー作となる。まだビートを作り始めたばかりの、荒削りな状態であった彼の才能に素早く気付いた Carlos Niño は、Dwight Trible & The Life Force Trio のアルバム『Love Is The Answer』にてプロデューサーのひとりとして起用。この作品をきっかけに Ras G はビートメーカー/プロデューサーとして本格的な活動を開始することになる。そして、現在はUKを拠点としているDJの Kutmah がオーガナイズしていた伝説的なイベント《Sketchbook》に Flying Lotus、Dibiase、DaedelusGeorgia Anne Muldrow らと共にレギュラー・メンバーとして出演し、彼らが中心となってLAビート・シーンの基盤が形成される。さらに Daddy Kev、D-Styles らが立ち上げた《Low End Theory》や〈Brainfeeder〉の成功によってシーンは一気に爆発することになる。
 そんなLAビート・シーンの創生期に、Ras G はEPのリリースやコンピへの参加を経て、〈Poo-Bah Records〉から Ras G & The Afrikan Space Program 名義で2008年にファースト・アルバム『Ghetto Sci-Fi』をリリースする。ヒップホップ、ダブステップ、スピリチャル・ジャズ、レゲエなど様々な音楽的要素がミックスされ、さらに彼のメンターである Sun Ra からも多大な影響を受けた、アフリカン・カルチャーと宇宙が融合したアフロフューチャリズムも大きなバックボーンとなったこの作品によって、彼はLAビート・シーンの最重要アーティストのひとりとしてLAローカル以外からも認識されるようになり、アルバム・タイトルである “Ghetto Sci-Fi” は彼のサウンドの代名詞にもなっていく。以降は〈Poo-Bah Records〉だけでなく、〈Brainfeeder〉や〈Leaving Records〉などからシングル、EP、アルバム、ビート・テープ、ミックスCDなど次々と作品をリリース。さらにラッパーの The Koreatown Oddity とのプロジェクトである 5 Chukles を含む、様々なアーティストのプロデュースやリミックスなども多数手がけ、自らのスタイルと地位を確立することになる。

 そんな文字通りのLAビート・シーンを代表する Ras G であるが、良い意味でアーティストらしからぬキャラクターも、彼の大きな魅力であった。筆者もLAに住んでいた頃に、様々な現場で彼と遭遇したが、自ら出演するイベントであっても、常にメローな雰囲気は崩さず、しかし、一旦、ステージ上で彼の愛機である SP-404 を叩き始めれば、スピーカーから爆音で流れてくるファットなビートとのギャップにいつも驚かされた。ちなみに最も彼と遭遇した場所は、おそらく《Low End Theory》だと思うが、出演しない週であっても、かなりの頻度で遊びに来ていて、あの場は彼にとっての本当の意味でのホームであった。そういえば、あるとき、レコードを掘りに〈Poo-Bah Records〉へ行った際にたまたま彼がお店にいて、その日がちょうど《Low End Theory》が開催されている水曜日だったので、車を持っていない彼を自分の車に乗せて、一緒に《Low End Theory》まで行ったことがある。いつもは挨拶程度の関係であった彼と一緒にLAの街をドライブしてるのが少し不思議で、そして嬉しくもあった。
 最後に Ras G と会ったのが、一昨年(2017年)の3月に来日したときで、会場となった Club Asia の楽屋で喋った彼は、LAで会っていたときと何ひとつ変わらないメローな雰囲気を纏っていたのを記憶している。結果的には最後の来日となった同年8月のイベントには行けなかったが、しかし、LAの《Low End Theory》に行けば、いつでも彼の姿があったように、またいつかすぐに会えるだろうと漠然と思っていた。だからこそ、彼の訃報を聞いてからずっと、心の中にぽっかりと穴が空いたような感覚がずっと続いている。その感覚の意味を確かめるためにも、明日は中目黒 solfa のイベント《In Loving Memory of Ras_G . . . Fund Raising TYO JPN》へ行こうと思う。

In Loving Memory of Ras_G . . . Fund Raising TYO JPN

 90年代後半は、アメリカのカレッジタウンによくショーを見に行っていた。とくにジョージア州のアセンスでは、エレファント6のバンド仲間と仲良くなり、みんなで音楽を紹介しあったりしていた。その中で、日本の音楽に詳しい人がいて、アフターディナーや梶芽衣子、マライアなどを教えてもらった。
 2年前の2017年、Oya festivalにために、初めてオスロに行った。日本の居酒屋があるというので入ってみると、懐かしい日本の音楽がかかっていた。友だちに聞くと「いま流行ってるんだよ、シティ・ポップ」。聴いたことのある曲もあったが、私はほとんど知らない、でもたしかに日本の80年代の音だった。日本の音楽がオスロで流行ってるのかと枝豆や芋餅、しいたけバターポン酢を食べながら思った。ビールは定番サッポロ、アサヒ、キリン他、常陸、よなよな、青鬼IPA、水曜日の猫などがあった。

 ブルックリンに帰ると、日本のレコード店のフェイス・レコードが、ウィリアムスバーグにオープンしていた。日本の懐かしいポップスが壁全面に並んでいて、昭和の日本に来たようだった。マック・デマルコが細野晴臣の“honeymoon”をカヴァーしたら、〈light in the attic〉が細野晴臣の作品を再発して、アメリカでショーをした


 とにかく、アメリカ、ヨーロッパで、シティ・ポップ流行りなこの頃だが、最近、日本の音楽がますます大衆化していると思ったのは、レッドウィング・ヘリテージで金延幸子の定番『み空』のリスニング・パーティがあったからだ。

 レッドウィング・ヘリテージは、NYのトライベッカにある洋服と靴を扱うアメリカの良き伝統を引き継ぐお店で。アメリカっぽいカウボーイハットを被った店員がソファーに座ってアコースティックギターを弾いていたり、犬と戯れていたりする、良質なアメリカ産のパンツと靴がたくさん並んでいるブティック。そんなお店が〈Light in the Attic〉と手を組んで、金延幸子のリスニング・パーティを開いた。どこがどう転がってこうなったのか──。

 簡単な経緯はこうだ。レッドウィングのマネージャーが音楽好きで、個人的によく〈Light in the Attic〉のレコードを買っている。レーベルにお店でもよくプレイすることを伝えると、じゃあプレイしてと、レコードが送られて来るようになった。こうして関係性が築かれていったようだが、聞くところによると、彼もフェイス・レコードに通って日本盤をよく物色しているらしい。フェイス・レコードはアメリカの音楽シーンにかなり貢献している。
 見たこと聴いたことのないリスナーにとって、そういった古い音楽は新ししい音楽になる。新しいものばかりを追っていた時代は過ぎて、時代を越えて良いものが再評価されている、これが2019年スタイルなのだろう。古い音楽にも簡単にアクセスできるし、再発レーベルも増えている。すでに良い音楽があるなら、それを発見して楽しもうという姿勢だ。こうしていろんなジャンルの音楽、時代をミックスした音楽が生まれる。
 金延幸子を知っていた人はまだあまりいなかったが、このパーティや再発で知って、またディグしたり、友だちに教えたりする人が出てくるはず。新しいものにオープンだからこそ古い音楽も新しい音楽として受け止める。わざわざその音楽を聴くために足を運ぶ。音楽はこういうスモール・パーティで受け継がれていく。レッドウィングでの笑顔を見ながらそう思った。

Battles - ele-king

 00年代半ばに登場し、いわゆるマスロックの文脈に大きな衝撃を与え、10年代以降も革新的な試みを続けてきたNYの実験的ロック・バンド=バトルスが、通算4枚目となるオリジナル・アルバム『Juice B Crypts』をリリースする。前作『La Di Da Di』が2015年だから、4年ぶりのスタジオ盤だ。いつの間にかデイヴ・コノプカが脱退し、イアン・ウィリアムスとジョン・ステニアーのデュオになってしまった彼らだけれど、ゆえにもしかしたら方法論も変化しているかもしれない。イエスのヴォーカリストや台湾の落差草原 WWWW、シャバズ・パレセズにチューン・ヤーズから鼓童のメンバーまで、相変わらず独特のゲストたちが参加している模様。アナウンスとともに新曲“Titanium 2 Step”が公開されている。いまバトルスが打ち鳴らそうとする音楽とは、はたしてどのようなものなのか? リリースは10月11日(日本先行発売)。うーん、秋まで待ちきれないぞ。

[9月27日追記]
 2週間後に待望の新作『Juice B Crypts』の発売を控えるバトルスが、同アルバムより新たに“A Loop So Nice…”とセニア・ルビーノスをフィーチャーした“They Played it Twice”の2曲を公開。相変わらずかっこいいわー。11月の来日情報はこちらから。

[10月31日追記]
 まもなく来日公演を迎えるバトルズが、最新作『Juice B Crypts』より新たに“Fort Greene Park”のMVを公開した。ディレクターを務めたのは、スケートボード・ヴィデオの制作で知られる映像作家のコリン・リード。なお29日には彼らのボイラー・ルームでのパフォーマンス映像も公開されており、“Ice Cream”や“Atlas”などトリオ~クァルテット期の代表曲も演奏されている。いやー、ライヴが楽しみです。

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