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Spiral Deluxe

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Voodoo Magic

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小川充   Oct 31,2018 UP

 デトロイト・テクノとジャズの結びつきは古くからあり、カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラやマッド・マイクのギャラクシー・トゥー・ギャラクシーなどが成功例として知られる。こうした背景には、そもそもデトロイトがジャズやソウルの町として発展してきた経緯があり、テクノ・アーティストたちの中にもDNAとしてそうした音楽が刻み込まれている部分がある。そして、ギャラクシー・トゥー・ギャラクシーの“ハイテック・ジャズ”に顕著だが、アフリカ系たちのアフロフューチャリズムとゲットー感覚が、ブラック・ミュージックのシンボルとしてのジャズと、未来的なコズミック志向のテクノを結び付けているのである。テクノ・アーティストの中でもジャズを志向する者は、カール・クレイグにしろマッド・マイクにしろ、テクノの枠にとらわれない多様な音楽性を持つことが特徴だ。ジェフ・ミルズもそうしたひとりで、マッド・マイク、ロバート・フッドとアンダーグラウンド・レジスタンスを結成する以前、もともとヒップホップDJとしてキャリアをスタートしており、映画音楽からアンビエント、ポスト・クラシカルにも通じる幅広い音楽性を有している。ジェフ・ミルズとジャズの結びつきはデビュー前にさかのぼり、高校時代にジャズ・バンドのドラマーをやっていたそうである。2000年ごろにやっていたミルザートというプロジェクトは、ギャラクシー・トゥー・ギャラクシー同様にジャズやアフロとテクノやアンビエントなどエレクトロニック・ミュージックを結び付けたものと言える。近年はパリに移住してトニー・アレンと共演をし、改めてジャズに対するアプローチを見せている。そのコラボ作品『トゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェスト』が話題となった同時期、スパイラル・デラックスというバンド・プロジェクトのミニ・アルバム『ヴードゥー・マジック』もリリースされた。

 スパイラル・デラックスはジェフ・ミルズ(ドラム・マシン、パーカッション、ドラムス)のほか、アンダーグラウンド・レジスタンスやギャラクシー・トゥー・ギャラクシーのメンバーでもあるジェラルド・ミッチェル(キーボード)、エスクペリメンタル・ロック・バンドのバッファロー・ドーターのメンバーとして知られる大野由美子(ムーグ・シンセ)、ジャズ・トランペッターの日野皓正の息子で自身はジノ・ジャムというバンドを率いる日野賢二(ベース)からなるカルテット。ミルズは2014年にパリのルーヴル美術館オーディトリアムでレジデンシーを任され、そのときに一夜限りのバンドを結成。それをきっかけに、いろいろな分野で素晴らしいスキルを持つミュージシャンを集めたスーパー・グループを作りたいという構想が生まれ、2015年9月に東京と神戸で開催されたアート・フェス「TodaysArt JP」に現メンバーが集まり、パフォーマンスを披露したことが活動の発端となっている。そのライヴの模様はEP「神戸セッション」にも収められ、その後2016年にワールド・ツアーを行い、10月のヨーロッパ公演の録音はEP「タタータ(サンスクリット語で真理の意味)」としてリリースされている。この2枚のライヴ録音を経て、今回はスタジオ録音盤としてリリースするのが『ヴードゥー・マジック』で、改めてジャズ・カルテットとして打ち出したデビュー・アルバムとなる。録音はパリのフェルベール・スタジオで2日間に渡って行われ、“レット・イット・ゴー”にはニューヨークで活動するシンガーのタニヤ・ミシェルをフィーチャーし、またデトロイトの重鎮DJであるテレンス・パーカーがリミックスを手掛けている。

 初のスタジオ録音盤ではあるが、アルバムのほとんどはワンテイクで録音され、メンバーそれぞれのインプロヴィゼイションに委ねるという方向を打ち出している。ジェフは基本的にドラム・マシンを扱っているので、ビート面ではどうしてもプログラミングによる四つ打ちパートが多く、純粋なジャズと比較するとリズムの面白さや即興性に欠けるところがあるかもしれない。“E=MC²”は1990年ごろに流行ったジャズ・ハウス風で、ある意味でレトロな味わいがする。インプロヴィゼイションのスリルを求めるにはやや肩透かしを食らうが、基本的に演奏の主軸となるのはジェラルド・ミッチェルのピアノと日野賢二のフェンダー・ベースで、大野由美子のムーグ・シンセがアクセントを加えていくという構成。BPM 120くらいの四つ打ちから途中で4ビートのモダン・ジャズへと移行したり、ピアノが次第にスイング風のメロディを奏でたりという面もあり、そのあたりはライヴ感覚を生かしたものとなっている。表題曲の“ヴードゥー・マジック”はジャコ・パストリアスばりのベース・ソロに始まり、それにドラム・マシンが呼応しながらビートを刻むという形となっている。ドラム・マシンの「楽器」としてのインタープレイを楽しむなら、この曲が一番かもしれない。ジェフがパーカッションを演奏する“ザ・パリス・ルーレット”はファンクとフュージョンの中間的な演奏で、ディーゴやカイディ・テイタムなどのブロークンビーツあたりに通じるナンバーとなっている。“レット・イット・ゴー”のオリジナル・ミックスは、曲調としてはソウルフルなムードのディープ・ハウスで、アルバム中で唯一ジェフがドラムを演奏している。もともとドラム・マシンだった部分をドラムで録音し直したもので、彼のドラム演奏音源のリリースは今回が初めてだそうだ。全体を通してスパイラル・デラックスのポイントは、マシン・ビートを土台とした上で、ピアノとベースがどれだけ自由度の高い演奏をできるかだろう。革新性や新鮮さについては正直なところ薄いが、基本的にはギャラクシー・トゥー・ギャラクシーなどと同じように、エレクトロニック・ミュージックとジャズのエッセンスの融合を目指したユニットと言える。

小川充