MOST READ

  1. Cornelius - Mellow Waves (review)
  2. special talk : ISSUGI × CRAM 特別対談:ISSUGI × CRAM (interviews)
  3. Moonchild - Voyager (review)
  4. Second Woman - S/W (review)
  5. Japan Blues - Sells His Record Collection (review)
  6. RAMZA × TAKCOM ──「郊外」という場所が浮かび上がるのは時間の問題だったのかもしれない (news)
  7. リヴァイヴァルじゃないのだ。 - ──行かないと何かを逃すかもしれない、DYGL(デイグロー)・ジャパン・ツアーは明日から! (news)
  8. Cornelius ──別冊ele-king『コーネリアスのすべて』刊行のお知らせ (news)
  9. interview with Cornelius - 星の彼方へ (interviews)
  10. Laurel Halo ──ローレル・ヘイローがニュー・アルバムをリリース (news)
  11. Nick Hakim - Green Twins (review)
  12. interview with shotahirama きれいなひとりぼっち (interviews)
  13. Columns R.I.P. 佐藤将 (columns)
  14. Columns 即興音楽の新しい波 ──触れてみるための、あるいは考えはじめるためのディスク・ガイド (columns)
  15. R.I.P.生悦住英夫 (news)
  16. special talk : BES × senninshou特別対談:BES×仙人掌 (interviews)
  17. You me FORESTLIMITで聴いて良いと思った曲 (chart)
  18. interview with Formation 壁にパンチする代わりに (interviews)
  19. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  20. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jeff Mills- A Trip To The Moon

Album Reviews

Jeff Mills

AmbientTechno

Jeff Mills

A Trip To The Moon

Axis

Underground Gallery

野田努   Jan 23,2017 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 レイヴ真っ盛りの時代に刊行された、ジョン・ラインドンの最初の自伝の最後のほうには、レイヴ・カルチャーは現実逃避でそれじゃ何も現状を変えないというお叱りの言葉が出てくる。この言葉を、ぼくはそのまま「どう思うか?」と、まだフッキー在籍時のニュー・オーダーの4人に対面取材で訊いたことがある。その答えは、まさにその通りだよね。でもね、現実逃避できるから素晴らしいんじゃないのかな、と、そのときの彼らは言った。
 昨年、ブラック・ミュージックを専門に論評している音楽ライターの河地依子さんからいろいろ教えていただいたなかで、ぼくがもっとも深く納得したことのひとつに、P-FUNKの──今年河地さんよって詳述された書が刊行される予定なので、ここでは手短に暗喩的な説明にとどめておこう──そう、パーラメントの『マザーシップ・コネクション』の裏ジャケット。デトロイトのゲットーに浮かぶ宇宙船。あの宇宙船はゲットーにやって来た宇宙船なのか、いや違う、Íいままさにゲットーから飛翔する宇宙船ということである。このことは、ぼくに次のような場面を思い出させる。
 ジェフ・ミルズは、ぼくが初めて彼のDJをブリクストンで聴いた1993年の夏の時点で、たとえば他の優秀なDJがフロアから30cm浮かすことができるのなら、ミルズはオーディエンスを余裕で屋根をも越えさせた。実際、そのクラブには天上にぶら下がっているクラバーが何人もいた。後にも先にもあんな光景は見たことがない。いや、スティーヴ・ビッククネルが当時出たばかりの“スター・ダンサー“でミルズに繋いだ瞬間、すでにフロアは地球圏外にワープしていたのかもしれない。
 ジェフ・ミルズはあるインタヴューで、デトロイトにおいてクラフトワークの“ナンバーズ”がかかったときのことをこう回想している。「私たちには、ただ明日をどう生きるかしか興味がなかった。黒人にとってどれだけ長くファンキーでいられるか……」そこにクラフトワークがやって来たのだ。
 何度も繰り返しになるが、デリック・メイがいみじくも言った天才的な表現──「デトロイト・テクノとはジョージ・クリントンとクラフトワークが同じエレヴェーターに居合わせてしまった音楽」とは、まさにこのことである。どんな音楽よりも高く飛翔すること、そしてもうひとつ、「ただ明日をどう生きるか」。ファンク、SF、テクノロジー、これらが絡み合ったときに、その音楽は(この辛い毎日を生きるための)かけがえのない逃避であることから、社会変革への渇望を反映するものへと劇的な変化を遂げる。それがURであり、あるいはジェフ・ミルズである。

 ジェフ・ミルズの新作が2枚リリースされる。先に発売されるのは、ここ数年続いているSFシリーズの最新版で、ジョルジュ・メリエスの映画『月世界旅行』(1902年)を主題とした『A Trip To The Moon』。タルホイストのぼくに言わせれば、この映画は10代後半から20代にかけて、──ミニシアター/自主上映の時代だったので──、いかなる労苦も惜しまずに上映先を見つけ、そのファンタジーに酔いしれたものだった。『ユゴーの不思議な発明』より30年以上前に、ぼくはこの映画を溺愛し、フィルムの所有者に交渉して自主上映すら考えていたほどなので、映画について話すと長くなる。ひとつ映画のポイントを言えば、これが特撮のルーツであり、そしてまだ特撮をわかっていない観客に、現実にミサイルがお月様の顔にぶち込まれたものだと信じ込ませた作品だったということだ。このヨーロッパSF映画のアンティークを未来的なエレクトロニック・ファンクに更新するという大胆な発想が『A Trip To The Moon』では具現化されている。
 とはいえ、ジェフ・ミルズの音楽は90年代末にはすでに完成されているので、それ以降の作品において大きな変化があるわけではない。が、2年前にベース世代のあいだでX-102がリヴァイヴァルしたりと、いまもなおシーンに影響を与え続けているという意味では、ミルズは、クラフトワークやイーノのような先駆者として存在している。現在のクラフトワークが“ナンバーズ”と同等の衝撃を与えられるとは思えないように、先駆者と呼べるアーティストたちは、すでにある程度の実践は終えているのだ。10代のときに天才DJとしてシーンに衝撃を与えた彼は、ダンス・ミュージックにおいてさまざまな試みをしてきている。『A Trip To The Moon』は、乱暴な表現として、白い骨董品を黒い未来が塗り替えるという説明もできるかもしれないが、もうひとつの紹介の仕方としては、アンビエント・テイストが盛り込まれた作品というのもあるだろう。ん? アンビエント? 「どれだけ長くファンキーでいられるか」じゃないのかい? と思われる方もいるだろうから、はっきり言おう、これはファンキーなテクノ・ミニマル・アンビエントだと。アートワークをよく見ればそのことは察していただけるはずÍ。

 さて、2月22日発売とずいぶんと先のリリースになるが、ジェフ・ミルズのもう1枚の新作、『Planets』をここで紹介するつもりだったが、力尽きた。じつは年末、サッカーで右手人差し指の第二関節を骨折、全治3か月という、いまも痛み止めを塗りながらキーを叩いている。もう止めた。

野田努