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7月のジャズ - ele-king

 この5月、6月はヒタ・リー、アストラッド・ジルベルトと唯一無比の個性を持つ女性アーティストの訃報が続いたが、先日7月16日にはジェーン・バーキンが亡くなった。エルメスのバッグの名前にもなったジェーンだが、私にとってはセルジュ・ゲンズブールのパートナーで、彼の作品にいろいろと顔を出したことで忘れられないシンガーである。“ジュ・テーム” はもちろんのこと、少年のような裸体のポートレートをジャケットに配した『メロディー・ネルソンの物語』(撮影当時のジェーンは娘のシャルロットを妊娠していた)は、ブリジット・フォンテーヌのプロデュースでも知られる鬼才ジャン・クロード・ヴァニエが音楽監督やアレンジを務め、後世にも多大な影響を与えた。


Nicola Conte
Umoja

Far Out Recordings / ディスク・ユニオン

 さて、今月の一枚目はイタリアのニコラ・コンテによる久しぶりのアルバム。タイトルの『ウモジャ』とはスワヒリ語で統一や連帯を意味する言葉で、1970年代のアメリカの黒人ジャズ・ミュージシャンの間ではキーワードのひとつにもなっていたのだが、これが示すようにここ10数年来の方向性であるアフロ・ブラック・ジャズ、スピリチュアル・ジャズ的なアルバムとなっている。これまでも南アフリカはじめいろいろな国のミュージシャンたちと共演するなどしてきたニコラだが、今回の録音メンバーもイタリア、イギリス、フランス、フィンランド、スウェーデン、セルビア、アメリカ人、ガーナなどアフリカをルーツとするミュージシャンと、アドリア海に面した港町出身のニコラらしく国際色豊かな顔ぶれである。

 長年の付き合いであるザラ・マクファーレンが歌う “アライズ” (彼女の同名アルバムとは別曲)が代表するように、ジャズを基調にソウルやファンクが融合し、アフリカ音楽やブラジル音楽などのエッセンスを交えたアルバム作りは相変わらずだが、今回は1970年代中頃のロニー・リストン・スミス&コズミック・エコーズ、ギル・スコット・ヘロンブライアン・ジャクソン、ロイ・エアーズ・ユビキティなどを想起させるような作品が多く、使用楽器や録音機材も含めて当時の音楽が持っていた匂いや質感をリアルに再現しようとしている。アフロ・ジャズとサンバ・フュージョンを掛け合わせた “ライフ・フォーセズ” におけるティモ・ラッシーのサックスは極めてファラオ・サンダース的(現在であればカマシ・ワシントン的)で、そうした引き出しの多さはやはりニコラ・コンテのDJ的な嗅覚のなせるところである。


Ashley Henry
My Voice

Royal Raw Music

 サウス・ロンドンのピアニスト、アシュリー・ヘンリーも2019年のファースト・アルバム『ビューティフル・ヴァイナル・ハンター』以来久しぶりの新作となる。ビートメイカー的な側面も持つアルファ・ミストに対し、アシュリー・ヘンリーはクラシックもマスターしてきた正統派のピアニストであり、同じジャマイカをルーツに持つウィントン・ケリーからアーマッド・ジャマルらの影響も口にする。リリカルで端正なジャズ・ピアノと、カリビアン・ルーツのラテン的なタッチというのが彼のピアニストとしての評価となるだろう。ただ、彼もクラブ・ミュージックからの影響を受け、リ・アンサンブルというプロジェクトではナズをカヴァーするなど、ヒップホップやブロークンビーツ的な作品も展開し、自らヴォーカルもとっていた。新作EPである「マイ・ヴォイス」は、自身で設立したレーベルの〈ロイヤル・ロウ・ミュージック〉からとなり、来年にリリース予定のニュー・アルバムに先駆けた作品となる。

 今回のEPは「マイ・ヴォイス」とするだけあって、自身のヴォーカルやワードレスのヴォイス、スキャットなどを含めたトータルでの声楽とピアノ演奏のコンビネーションを披露する部分が多い。表題曲がその代表で、透明感に富むピアノとワードレス・ヴォイスが非常にイマジネーション豊かな音像を描く。“ラヴ・イズ・アライヴ” におけるスウィートな歌声も、シンガーとしてさらに覚醒したアシュリーの姿を見せてくれる。ヴォコーダーのようにも聴こえるメロウな歌曲の “メラニン” など、歌とピアノのバランスはハービー・ハンコックが手掛けた歌モノの域に近づいている。“デイ・ドリーム” での歌声は、オマーやクリーヴランド・ワトキスなどの先達を彷彿とさせるもので、みなジャマイカ系イギリス人という共通項から生み出される歌声なのかもしれない。そして、小刻みなブロークンビーツ調のリズムを刻む “ブリーズ” をはじめ、今回もクラブ・ミュージック経由の斬新なドラム・パターンが随所に配置され、新しいジャズの息吹を感じさせる作品集だ。


Terrace Martin
Fine Tune

Sounds Of Crenshaw

 ロサンゼルスのミュージシャン/ラッパー/プロデューサーであるテラス・マーティンは、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコットらの作品に関わり、ジャズとヒップホップを結びつけたキーパーソンである。自身のアルバム『3コードフォールド』(2013年)はそれらラッパーからシンガー、さらにロバート・グラスパーも交え、そのグラスパーの『ブラック・レディオ』に対するヒップホップ/R&Bサイドからの回答とでもいう作品だった。『ヴェルヴェット・ポートレイツ』(2016年)ではサンダーキャット、カマシ・ワシントン、キーヨン・ハロルドらも交え、全体にジャズへ接近したところが見られた。特にディアンジェロのツアー・メンバーで、グレゴリー・ポーターやアシュリー・ヘンリーの作品にも参加し、マイルス・デイヴィスの伝記映画『マイルス・アヘッド』でトランペットを演奏したキーヨン・ハロルドが鍵で、彼の参加でディアンジェロ的な70年代ソウル~ファンク・リヴァイヴァルの流れを汲んだアルバムとなった。

 その後、ミュージシャンやプロデューサーらのコラボレーション・グループであるポリシーズのアルバムやライヴ盤を経て、ケンドリック・ラマーやレオン・ブリッジスら久々にラッパー/シンガー陣とコラボした『ドローンズ』を2021年に発表。それから2年ぶりの新作が『ファイン・チューン』である。今回のラインナップを見ると、キーヨン・ハロルド、カマシ・ワシントン、ロバート・グラスパー、デリック・ホッジ、ブランディ・ヤンガー、ロバート・シーライト、エレナ・ピンダーヒューズとジャズ界の実力者が多く揃うので、『ヴェルヴェット・ポートレイツ』の路線かと思いきや、アフロビートの “デグナン・ドリームズ” などがあり、非常に幅広い内容となっている。カマシ・ワシントンとロバート・シーライトをフィーチャーした濃密なアフロ・ジャズ・ファンクの “ファイナル・ソウト”、ブランディ・ヤンガーのハープが夢想の世界に誘うメロウ・グルーヴの “ダメージ”、ジェームズ・フォントルロイのスウィートな歌声が魅力の “トゥー・レイト” など力作揃いのアルバムとなった。なお、同世代のミュージシャンだけでなく、ラリー・ゴールディングスのようなジャズ界の大物から、かつて〈ブラック・ジャズ〉に伝説的な2枚のアルバムを残したギタリストのカルヴィン・キーズまで参加するなど、通も唸らせる人選となっている。そのキーズのボサノヴァ調のギターが光る “ザ・アイランド” は、これまでになかったテラス・マーティンの新しい面を見せるものだ。


Kris Tidjan
Small Axes

BBE Music

 仏領マルティニーク出身でパリ育ちのシンガー・ソングライターのクリス・ティジャンは、ヒップホップ、ソウル、レゲエなどから音楽に傾倒していき、その後自身の楽曲制作をはじめて2015年に「フローティング・セラピー」というEPでデビュー。アフロビート、ブロークンビーツ、ディープ・ハウスなどをミックスした作品を作っていたが、そこから長い期間を経て(現在はベルリンを拠点とするようだ)、ようやくデビュー・アルバムの『スモール・アクシズ』を完成させた。“ダズリング・リボン” に見られるように、ディアンジェロの『ヴードゥー』を連想させるネオ・ソウルとジャズが結びついたクールな世界が彼の魅力だ。ランプの “デイライト” のフレーズが飛び出す “インカーネイテッド” はじめ、彼の歌声はドゥウェレを思い起こさせる非常に魅力的なもの。そんな歌声とアフロビートとブロークンビーツが混じったようなリズムが結びついた “リトル・ジャイアント” は、クリスの兄弟であるアラン・ロジーヌとセルビア出身のジャズ・ピアニストのゾラン・テルジッチが参加。中間で披露されるピアノと土着的なコーラスとリズムの交わりは、彼のルーツであるマルティニークから生まれたものだろう。

 1990年にはじまるジョージ・ブッシュの声明に反応して2005年に書かれたという反戦歌の “ローズ・オブ・ウォー” は、クリスのヴォーカルに対してサックスとフルートが極めて有機的に絡み、そこから即興的なインタールードの “インターローズ” を挟み、“エディ” は切々と綴るネオ・ソウル調のナンバー。これらのナンバーではディアンジェロやドゥウェレはもとより、クリスの敬愛するボブ・マーリーからの影響も見ることができる。アルバム・タイトルの『スモール・アクシズ』もボブ・マーリーへのオマージュとして名付けられたそうだ。そして、“カティオパ” は2005年にいとこのジェレミー・オーネムとコラボして作った曲で、マルティニーク系やフランスのミュージシャンと共演している。カリビアンとアフロビートとソウルが結びついたクリス・ティジャンの原点と言える楽曲だ。

Hi Tech - ele-king

 いまさら言うことでもないが、90年代とはじつに狂った時代で、ぼくはダンスの現場で何度も何度も衝撃を受けている。たとえば1992年のロンドンのジャングル、1993年のブリクストンでのジェフ・ミルズ、こうしたパーティではDJ/音楽もさることながら、集まっている人間たちの身体から吹き出る大量の汗と、なかば常軌を逸したパワーというかほとばしるエネルギーというか、その場全体の何もかもがぶっ飛び過ぎていた。で、えー、それから、フライヤーなしのイリーガルなレイヴ・パーティ(倉庫でも、あるいは野外でも)とか、ここでは書きたくない驚倒した経験がいくつもある。自分で言うのもなんだけど、そんな経験豊富なぼくにとって、とくに仰天したほどの経験が何だったかと言えば、1997年9月にマイク・バンクスの案内で侵入した、デトロイト市内のゲットーテックのパーティだった。
 いや、あれを「経験」とは言えないな。どんなに狂っていようと、ぼくとしてはその一部になりえた/そのつもりになれたものだった。だが、ゲットーテックに関して言えば、ぼくは外側からただ「見学」していたに過ぎなかった。いっしょに踊って、彼ら・彼女らの一部にはなれなかったのである。 
 何度か書いてきたことだが、ぼくが行ったゲットーテックのパーティ会場は公民館/体育館のようなところだった。天井には普通に蛍光灯がついているから明るい。飾りと言えば、束になった風船があるだけだった。つまり子供の誕生会よりも質素で、場内の後方や隅にはもともと置いてあった長机や椅子が詰んである。前方には舞台があって、中央にはDJブースが設けられている。DJの隣には盛り上げ役のMC、そのまわりでは男女のダンサー数人があり得ないほど激しく、エロティックに腰を振る。1000人ほど集まった100%黒人たち——中年のカップルから威勢のいい若者まで、洗練されていない大勢の老若男女が腰を振って楽しんでいる。マイケル・ジャクソンの“ビリー・ジーン” がBPM140以上の高速でエレクトロのレコードにミックスされると、会場が揺れ動くほどの興奮の坩堝となる。この創造性、この大衆性、このブラックネス、この超絶なダンサーたち。ドラッギーでもないし、おそらくはアルコールさえもなかったというのに(なにせ公民館なのでバーも売店もなかった。デトロイトなので自販機もなかった)。
 これが超ローカルな(労働者階級の)シーンとして確立され、いろんな世代に人気があること、品は良くないかもしれないが、その活気に関しては、デトロイトの音楽シーン全体においても突出していることにもぼくはひどく感銘を受けた。だが、何よりも衝撃だったのはあの「ノリ方」だ。平安時代の祝宴でも古代の神事でも、歌ひとつ歌うのにも酒の力を借りていたほどシャイというか陰キャラな日本人からしたら、音楽だけでここまで自己を解放し、上がれる人たちがいるってことが信じがたくもあり、嬉しくもあった(ぼくもそのときは完璧にシラフだった。飲んでいたら、あの猛烈なるダンスのうねりのなかに入っていったのだろうか……。はっきり言う、絶対に無理だった)。
 昨年、デビュー・アルバムをオマー・Sのレーベルから出したハイ・テック(このシンプル極まりないネーミングもファンキー)が早くもセカンド・アルバムをリリースした……ということは、いまもあのシーンは存続し、しかも作品を聴けばこのジャンルが密かに進化していることを全世界に向かって告げているのだ。素晴らしい。
 
 ゲットーテック(ゲットーエレクトロ、デトロイト・エレクトロとも呼ばれている)とは、デトロイト内部で発展した、エレクトロ、マイアミ・ベース、ゲットー・ハウス、ラップなどが混ざった雑食音楽。速くて、ファンキーで、ブーツィーで、ナスティーで、現場では下半身の触れ合いが活発なエレクトロニック・ダンス・ミュージックである。昨年いちやく注目を集めたデトロイトの3人組(King Milo、Milf Melly、47Chops)は、大衆的かつアンダーグラウンドな黒人ダンスの現場から生まれた音楽を、この期に及んで進化させんと企んでいる。
 『Détwat』が旧来のエレクトロ・スタイルにこだわってもいないことは、1曲目の“Nu Munni”でわかる。リスナーの先入観をからかうように、これは4/4ビートの、ちょっとしたギミックありの、そして踊りやすいBPMの白眉なテクノ・トラックだ。が、ハイ・テックはその余韻などは残さず、ギアをトップスピードに上げてゲットーテックを発射、素早く2曲目の“Money Phone”がぶっ込まれる。そこから最後までスピードが落ちることなく、新世代の808主義者たちは暴走するのである。ときに実験と遊びとは表裏一体の関係にあるが、ハイ・テックの3人は、ゲットーテックという外の世界にはあまり知られていないデトロイト特有のパーティ音楽を、さらに面白く、音楽的に楽しめるものに拡張している。“Money Phone”におけるピアノとラップの掛け合いも興味深く、“Clap That A$$”もふざけた曲だが斬新で、“Shrimp & Grits”にいったては故障したクラフトワークのごとしだ。 彼らが笑いを取ろうとしていることは見え見えで、しかしそれでも “Zooted”やオートチューンを活かした“Glitch N Ass” のなかにサイボトロンやオックス88やドレクシアの記憶が確認できる。ハイ・テックはデトロイト・テクノの子孫なのである。
 全12曲中ほぼすべての曲が1分から2分台という短さ、これもゲットーテックの流儀では重要となる。曲間はなく、次から次へと曲が「これでも食らえ!」とばかりに続く。でなければダンスは萎えてしまうし、この生々しさ、このストリート感覚もまたゲットーテックが鑑賞用の音楽ではないことの証左なのだ。ええい、こんだけ暑いんだから、無駄に涼むよりは汗をかいて冷やしましょうや。

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