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Hi Tech

GhettotechTechno

Hi Tech

Détwat

FXHE Records

野田努 Jul 21,2023 UP

 いまさら言うことでもないが、90年代とはじつに狂った時代で、ぼくはダンスの現場で何度も何度も衝撃を受けている。たとえば1992年のロンドンのジャングル、1993年のブリクストンでのジェフ・ミルズ、こうしたパーティではDJ/音楽もさることながら、集まっている人間たちの身体から吹き出る大量の汗と、なかば常軌を逸したパワーというかほとばしるエネルギーというか、その場全体の何もかもがぶっ飛び過ぎていた。で、えー、それから、フライヤーなしのイリーガルなレイヴ・パーティ(倉庫でも、あるいは野外でも)とか、ここでは書きたくない驚倒した経験がいくつもある。自分で言うのもなんだけど、そんな経験豊富なぼくにとって、とくに仰天したほどの経験が何だったかと言えば、1997年9月にマイク・バンクスの案内で侵入した、デトロイト市内のゲットーテックのパーティだった。
 いや、あれを「経験」とは言えないな。どんなに狂っていようと、ぼくとしてはその一部になりえた/そのつもりになれたものだった。だが、ゲットーテックに関して言えば、ぼくは外側からただ「見学」していたに過ぎなかった。いっしょに踊って、彼ら・彼女らの一部にはなれなかったのである。 
 何度か書いてきたことだが、ぼくが行ったゲットーテックのパーティ会場は公民館/体育館のようなところだった。天井には普通に蛍光灯がついているから明るい。飾りと言えば、束になった風船があるだけだった。つまり子供の誕生会よりも質素で、場内の後方や隅にはもともと置いてあった長机や椅子が詰んである。前方には舞台があって、中央にはDJブースが設けられている。DJの隣には盛り上げ役のMC、そのまわりでは男女のダンサー数人があり得ないほど激しく、エロティックに腰を振る。1000人ほど集まった100%黒人たち——中年のカップルから威勢のいい若者まで、洗練されていない大勢の老若男女が腰を振って楽しんでいる。マイケル・ジャクソンの“ビリー・ジーン” がBPM140以上の高速でエレクトロのレコードにミックスされると、会場が揺れ動くほどの興奮の坩堝となる。この創造性、この大衆性、このブラックネス、この超絶なダンサーたち。ドラッギーでもないし、おそらくはアルコールさえもなかったというのに(なにせ公民館なのでバーも売店もなかった。デトロイトなので自販機もなかった)。
 これが超ローカルな(労働者階級の)シーンとして確立され、いろんな世代に人気があること、品は良くないかもしれないが、その活気に関しては、デトロイトの音楽シーン全体においても突出していることにもぼくはひどく感銘を受けた。だが、何よりも衝撃だったのはあの「ノリ方」だ。平安時代の祝宴でも古代の神事でも、歌ひとつ歌うのにも酒の力を借りていたほどシャイというか陰キャラな日本人からしたら、音楽だけでここまで自己を解放し、上がれる人たちがいるってことが信じがたくもあり、嬉しくもあった(ぼくもそのときは完璧にシラフだった。飲んでいたら、あの猛烈なるダンスのうねりのなかに入っていったのだろうか……。はっきり言う、絶対に無理だった)。
 昨年、デビュー・アルバムをオマー・Sのレーベルから出したハイ・テック(このシンプル極まりないネーミングもファンキー)が早くもセカンド・アルバムをリリースした……ということは、いまもあのシーンは存続し、しかも作品を聴けばこのジャンルが密かに進化していることを全世界に向かって告げているのだ。素晴らしい。
 
 ゲットーテック(ゲットーエレクトロ、デトロイト・エレクトロとも呼ばれている)とは、デトロイト内部で発展した、エレクトロ、マイアミ・ベース、ゲットー・ハウス、ラップなどが混ざった雑食音楽。速くて、ファンキーで、ブーツィーで、ナスティーで、現場では下半身の触れ合いが活発なエレクトロニック・ダンス・ミュージックである。昨年いちやく注目を集めたデトロイトの3人組(King Milo、Milf Melly、47Chops)は、大衆的かつアンダーグラウンドな黒人ダンスの現場から生まれた音楽を、この期に及んで進化させんと企んでいる。
 『Détwat』が旧来のエレクトロ・スタイルにこだわってもいないことは、1曲目の“Nu Munni”でわかる。リスナーの先入観をからかうように、これは4/4ビートの、ちょっとしたギミックありの、そして踊りやすいBPMの白眉なテクノ・トラックだ。が、ハイ・テックはその余韻などは残さず、ギアをトップスピードに上げてゲットーテックを発射、素早く2曲目の“Money Phone”がぶっ込まれる。そこから最後までスピードが落ちることなく、新世代の808主義者たちは暴走するのである。ときに実験と遊びとは表裏一体の関係にあるが、ハイ・テックの3人は、ゲットーテックという外の世界にはあまり知られていないデトロイト特有のパーティ音楽を、さらに面白く、音楽的に楽しめるものに拡張している。“Money Phone”におけるピアノとラップの掛け合いも興味深く、“Clap That A$$”もふざけた曲だが斬新で、“Shrimp & Grits”にいったては故障したクラフトワークのごとしだ。 彼らが笑いを取ろうとしていることは見え見えで、しかしそれでも “Zooted”やオートチューンを活かした“Glitch N Ass” のなかにサイボトロンやオックス88やドレクシアの記憶が確認できる。ハイ・テックはデトロイト・テクノの子孫なのである。
 全12曲中ほぼすべての曲が1分から2分台という短さ、これもゲットーテックの流儀では重要となる。曲間はなく、次から次へと曲が「これでも食らえ!」とばかりに続く。でなければダンスは萎えてしまうし、この生々しさ、このストリート感覚もまたゲットーテックが鑑賞用の音楽ではないことの証左なのだ。ええい、こんだけ暑いんだから、無駄に涼むよりは汗をかいて冷やしましょうや。

野田努