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Ashley Henry & The RE: Ensemble

Jazz

Ashley Henry & The RE: Ensemble

Easter EP

Silvertone / Sony Music

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小川充   Feb 27,2018 UP

 先日の『We Out Here』のレヴューで触れたとおり、現在の南ロンドンのジャズ・シーンは活況を帯びている。若くて才能のあるミュージシャンが豊富で、そうした人たちが互いのバンドやセッションで接触し、そこからどんどんとアイデアが生まれているといった状態だ。南ロンドンのジャズはディープ・ハウスやブロークンビーツから、グライムやフットワークに至るクラブ~ストリート・サウンドとも繋がりを持つが、ジャズに限らずこの一帯からはキング・クルール、トム・ミッシュ、コズモ・パイク、ジャークカーブ、プーマ・ブルーなど次々と新しい才能が生まれている。ロックやパンクも盛んで、街そのものに活気があるのだろう。ジャズ・ミュージシャンでは『We Out Here』の音楽監督を務めたシャバカ・ハッチングス、最新作でジャズとジャマイカ音楽を結んだザラ・マクファーレン、アフロからエレクトリック・サウンドなど柔軟に乗りこなす天才ドラマーのモーゼス・ボイド、エズラ・コレクティヴに参加するジョー・アーモン=ジョーンズなどがキー・パーソンだが、ほかにも女性版カマシ・ワシントンとも形容できそうなヌビア・ガルシア、そのヌビアらと女性だけのグループのネリアを結成するギタリストのシャーリー・テテ、ギル・スコット=ヘロンとモス・デフが出会ったようなシンガー・ソングライター&ギタリストのオスカー・ジェローム、南ロンドン・ジャズ・シーンの数多くのセッションに参加する重鎮的ベーシストのダニエル・カシミール、ハイエイタス・カイヨーテばりのフューチャー・ソウル・ユニットのトロープといった具合に、多くのタレントがひしめきあっている。ジャズをやっている大半は黒人で、ジャマイカやドミニカなどのカリビアン系と、アフリカからの移民が交差するクロス・カルチュラルな点が南ロンドンの特徴でもある。UKジャズの歴史を遡れば、1980年代にコートニー・パインやクリーヴランド・ワトキスらジャマイカ系ミュージシャンによってジャズ・ウォリアーズが結成され、その中からゲイリー・クロスビーによるミュージシャン育成機関のトゥモローズ・ウォリアーズが誕生し、シャバカ、ザラ、モーゼスらが輩出されている。このように南ロンドンのジャズ・シーンが活況を呈するのは今に始まったことではなく、歴史の積み重ねの中で前の世代から次の世代へと音楽や技術の橋渡しが行われ、そうしたジャズの強固な土壌があったからということが理解できるだろう。

 こうした南ロンドンのジャズ・シーンにあって、もっとも注目すべきピアニスト及び作曲家がアシュレイ・ヘンリーである。1991年生まれの彼は生粋の南ロンドン子で、2016年にロイヤル・アカデミーを卒業したばかりの音楽エリートだが、ティーンの頃はロックからギャングスタ・ラップ、ヒップホップを聴いてきて、そのあたりは今の若いジャズ・ミュージシャンらしい。ロバート・グラスパーあたりからこういったタイプのジャズ・ミュージシャンが増えてきたのだが、アシュレイもグラスパーとは国際ピアノ・トリオ・フェスティヴァルで共演し、彼から多大な影響を受けている。ほかにピアニストとしてアーマッド・ジャマル、ハービー・ハンコック、バド・パウエルからの影響を述べる一方、現在の好きなミュージシャンにはグラスパーと並んでクリスチャン・スコットの名を挙げ、2017年のベスト・アルバムとしてサンダーキャットの『ドランク』を選んでいる。さまざまなジャズ・フェスティヴァルに出演する一方、ジャズ・カフェの音楽監督としてジャズの偉大な先人たちに捧げた「マイルストーン」というイベントを開催し、エズラ・コレクティヴやクリーヴランド・ワトキスらがステージを踏んでいる。録音作品としては2016年に〈ジャズ・リフレッシュド〉から『アシュレイ・ヘンリーズ・ファイヴ』というEPをリリース。サム・ガードナー、サム・ヴィッカリーと組んだピアノ・トリオで、セロニアス・モンクの“モンクズ・ドリーム”をカヴァーし、“デジャ・ヴ”という素晴らしいモーダル・ジャズを演奏していた。そのほかブルー・ラブ・ビーツというユニットの『Xオーヴァー』というアルバムにも参加しているが、こちらはヒップホップやR&Bからフットワーク調の曲をやるなどクラブ・サウンド色の濃いもので、モーゼス・ボイド、ヌビア・ガルシア、ダニエル・カシミールら南ロンドン・ジャズ勢が大挙参加。クラブ寄りのサウンドをすんなり演奏できるところを見せていた。

 そんなアシュレイの新作は、新ユニットとなるリ・アンサンブルを率いての演奏となる(録音自体は2017年の1月から3月)。このアンサンブルは曲やセッションによって編成が変わるようで、本EPでは“イースター”がクインテット+パーカッションで、残りはピアノ・トリオ。このトリオはダニエル・カシミールとルビー・ラシュトンのドラマーであるエディ・ヒックの組み合わせで、クインテットの方はドラムがシネマティック・オーケストラのルーク・フラワーズに代わり、アシュレイも共演経験があるアメリカのベテラン、ジーン・トゥーサンがテナー・サックスを演奏している。そのほかトロープの女性ヴォーカリストのチェリース・アダムス・バーネット、シャバカ・ハッチングスなどとも共演するトリニダート出身のポエトリー・シンガーのアンソニー・ジョセフが参加。“イースター”でのアシュレイは、瑞々しく気品溢れるピアノと共にワードレスのヴォーカルも披露している。ナズの“ザ・ワールド・イズ・ユアーズ”のカヴァーはヒップホップで育った彼らしい選曲で、元ネタとなったアーマッド・ジャマルに対するリスペクトも示し、演奏はグラスパーからの影響が如実に表れている。“プレッシャー”は人力ブロークンビーツ風のナンバーで、チェリースのヴォーカルがソウルフルなムードを伝える。“バニー”はモーダルな変拍子の作品で、ジャズ・ピアニストとしてのアシュレイの叙情的な側面を伝える。“ムーヴィング・フォワード”はアフロ+ブロークンビーツ的なリズムを持ち、アシュレイのリリカルで美しいタッチのピアノがそれと好対照を見せながらも、うまくマッチするという曲。叙情性の中にシャープさを併せ持ち、美しさと力強さを共存させることができる彼のピアノは、エンリコ・ピエラヌンツィあたりの持ち味にも通じるものだ。『アシュレイ・ヘンリーズ・ファイヴ』収録の“セント・アンズ”は、ラッパーのマティックをフィーチャーしたセルフ・リミックス(再演)で、ロバート・グラスパー・エクスペリメントをイメージさせるものとなった。グラスパーからはちょうどひと回りほど下となるが、彼から影響を受けた新しいジャズの世代が出てきたことを知らせるピアニストだ。

小川充