「IR」と一致するもの

Hidenori Sasaki (zoo tapes) - ele-king

2011年からスタートした佐々木秀典によるAmbient、Drone、Noise、Industrialカセット・レーベル〈zoo tapes〉、Drone Chart。
80年代から10年代まで拡散、発展するimprovised/drone/noise recommend、東京のシーンを中心に2012年入手可能な盤をご紹介。
取り扱いshopはArt into Life、Meditations、S.O.L sound、Futarri CD shop、P.S.F. Records Modern Music、NEdS等。
〈zoo tapes〉は2013年よりDOMMUNEにて20代30代の音楽家を紹介するプログラム「Plateaux of NOISE」現代ノイズ進化論を主宰、現在vol.3まで開催。

https://www.facebook.com/zootapes
https://zootapes.tumblr.com/

13年は良い作品が多くリリースされた。
下記作品を制作したアーティストの事を想うと、作り手の緊張感が爆発し結実を始めた一年だったと言っては大袈裟でしょうか?

2014年はElectronicaとの接続を思案。

00年代以降ノイズの細分化=10年代地下Ambient,Drone,Industrial,Experimental=Plateaux of noise現代ノイズ進化論。


1
Steel Music - Untitled - zoo tapes
 自身が昨年から思案し続けてきた、新しい名義、音楽的には80年代new waveのダークなno vocal music+現在の北欧Industrialシーンに対する私的な返答、Industrial,drone。
販売店のlinkはこちらまで https://zootapes.tumblr.com/shop

2
V.A - 朝に唄えば Music from Le Matin - Neurec
 NeraeのメンバーだったReizen(guitar)その後の活動には常に注目しているのですが、そんな彼が参加したオムニバス作品。なんとIncapacitants美川さんと共に名前が挙がっている、これには驚いた、ReizenとはAndrew Chalkの影響やドローン、実験系のアーティストの話をした印象ばかりが強く残っていた。
美川さんと同列に一枚の作品の中にReizenが存在する、ここから何か始まる、、という予感、楽しみが湧いた一枚。
参加アーティスト、内田静男、康勝栄、Reizen、T.Mikawa、Neurecレーベル主宰はT坂口さん、なんというメンバーなのだろう。
世代を超えた激シブなオムニバスアルバム。

3
Reizen - Untitled - Fylkingen Records
 Reizenの新作が出てしまいました、さてこちらの新作上記オムニバスの参加等、更にそのオリジナリティを突き進めた彼の音世界、激シブです。
色々なところで書かれているので詳細などは割愛しますが、とにかく激シブです。
こちらもLPでのリリースお楽しみ下さい!そして四谷茶会記でのReizen&hakobuneライブシリーズ「音ほぐし」13年は新たにキュレーションとして笹島裕樹さんを迎え、東京では定着した企画になっている。

4
K2 / Hakobune - Disambient - Underground Pollution Rec
 Reizenに美川さんが並んだ事に驚くと同時にK2,hakobuneとのスプリットがリリースされたのも個人的には事件だった内容もK2コラージュnoise、hakobuneドローンとお互いの個性がいかんなく発揮されている、ノイズは日本で、東京でその形を、10年代以降更に進化、細分化している。そんな事を目の当たりにできる盤、しかもレコードで聴ける贅沢。

5
Downcasts - Necklace - Phage Tapes
 日本のノイズシーンの流れに対して、直系の担い手と言っても大袈裟ではないKubota Kazumaの存在を記しておきたい、
自身は00年代中期以降ドローンの状況に身を置いていましたが、彼の存在、名前は東京でのライブ活動、音源制作において、耳に入り続けていた、その活動からはノイズに対する思いがストレートに伝わってくる、今回作品はhakobuneとの共作名義でアメリカはPhage Tapesからリリース、カセットプレイヤーで聴くたのしみを彼らもまた提示してくれている。
他作品では12年にイタリアのレーベル、A Dear Girl Called Wendyからもリリースがある。
Phage Tapes,A Dear Girl Called Wendy知らない方も多いと思うが是非検索してみてほしい、彼らの動き、新しいアプローチでシーンがより重層的になっていく。

6
HARUHISA TANAKA - 88 - PURRE GOOHN
 00年、10年代以降のエレクトロニカを含め細分化されていくノイズ、その進化にまた別の側面を提示、挑戦し、実は12,13年最も分かり易く、実験的なサウンドへのアプローチを見せた田中晴久さん、自身周辺のアンビエント、ドローンのコミュニティにも積極的に参加、関係を築き、その結果生み出されようとしている1stソロ作品。この作品には様々な可能性が秘められている、田中晴久さんは並行してMERMORT sounds film(Bass,Laptop)での活動も行っているが、その経歴の中にNY地下との関係を築いている。
このソロ作品をきっかけに10年代中期に向けて東京のドローン、ノイズがNYに飛び火したとしたら??、未知の領域に挑む活動、今後も楽しみでならない。アルバムは14年2月を発売予定。
田中晴久さんは大久保にある展示、音楽liveも可能な空間、Art Space BAR BUENA のオーナーでもあり多くの企画に携わっている。https://bar-buena.com/

7
.es - Void - P.S.F. Records
 モダーンミュージックのレーベルPSFから新譜としてvoidの音が飛びこんで来たのも今年の印象的な出来事だった、.esはalto saxの橋本孝之さんpianoのsaraさんから成るユニットである。
即興Freeシーンからまさか新鋭が、更に活動基盤を大阪に置くユニットが東京のレーベルでのリリース、.esの音楽は即興であり、構築された音世界、彼らの吹かせた風はどこに着地するのだろうか?また東京にあったFree improvisedの流れとの今後は??興味が尽きない。興味が尽きないのは音を聴けば明白であり、彼らの音楽で即興や生楽器でのimproの魅力を再発見する方が出てくる、又は復活してくる事を願いたい。
他今年リリースの作品は橋本孝之さんのソロ「colourful」、美川さんとのセッションを収録した作品T. Mikawa & .es/September 2012とリリース。個人的には13年出会った中での最重要ユニット!
覆すかもしれないが.esの音はrock=bluesなのではないかと考えを巡らす。

8
Chihei Hatakeyama - Minima Moralia - Kranky
 正直目標というか指針というか99年、2000年代初期、中期に実験的音楽シーン、メディアに登場したアーティストの皆様にはあこがれの気持ちがこの10年代に入っても消えないのだか、いや、おそらく生涯尊敬し続けるだろうアーティストの一人畠山地平さんの06年リリースの1st、アメリカは重要なレーベルKrankyからdroneとカテゴライズされた作品。
DOMMUNEの一回目を5月に終え落ち着く間もなく、murmur records代官山にて畠山地平さんと遭遇、これが実質初対面だったのですが、DOMMUNEの2回目は地平さんとやるしかないと確信した出会いであり、先輩との共同作業はそれは長年の希望だった。DOMMUNEでも紹介したMinima Moralia他、地平さんのレーベル White Paddy Mountainの諸作品fraqsea,Shellingが一時soldになった事が印象的だった。同レーベルではOpitope,neohachi,555,Asunaとリリースがある。

9
Moskitoo - Mitosis - 12k
 畠山地平さんとほぼ同時期、その名は07年からメディアに登場していたmoskitooさん、
新譜が前作と同じく12kから登場したのだ、今の高校生、大学生にはこのような音を聴いてほしい、現在とともに、00年代の空気感にひたれるノスタルジーかつ新しい音に触れる事ができる作品。
ここ数年、街を歩いてて感じる事がある、90年代末00年代初期にあった東京の街の力の衰退というか変化、何が言いたいかって重要なカルチャーの一つCD屋が経営できなくなっている状況、多くのCDショップが閉店してしまった。
経済や音楽を取り巻く状況、メディア、都市の風景は変わり果ててしまったように思う、しかし自力を持った作り手は今も新しい音を届けてくれる。音響派、エレクトロニカという呼称が言われ始めて10年以上経過した、その空気感を伝え続けてくれる作り手の世界に身を投じてみよう、時間は経過している、新しいと思われていたジャンルが型となっている、この項では紹介しきれない関連性のある作品も多い。
シーンを形成したミュージシャンはもっと評価(または再評価)されて良いと思う。discoverって言葉東京じゃ通用しないのでしょうか?そんなはずはない、東京を再発見する事が無意味であるはずがない。

10
hatis noit - Universal Beauty - Self-released
 13年DOMMUNEでの現代ノイズ進化論はvol.3まで開催したのですが、hatis noitさんはそのvol.3に出演。
上記紹介の田中晴久さんのnoiseにvoiceを重ねたパフォーマンスには多くの反響がありtwitterはハチスノイトという名で溢れていた。
vol.3開催の前に、田中晴久さんオーナー、Art Space BAR BUENA大久保にてその彼女のパフォーマンスは初めて展開された。自身のvoiceをエフェクトにてループさせ、リアルタイムで更にvoiceを重ねる、他に使用する楽器は無くvoiceのみ、そのliveは空間を一気に変えてしまうほどの力を持ったパフォーマンスだった。hypnotherapistでもあるhatisさんの表現力には脱帽するしかない、ECMのMeredith Monkの作品に近いような、ブルガリアンヴォイスのようだ、という意見もあった、個人的にはGittin' To Know Y'AllのB面にも近いと思った、ここでは書ききれない可能性がそこにはある。
彼女は夢中夢、Magdalaのvocalとして知られているが、popな側面とnoiseが断絶ではなく有機的に衝突した瞬間だった。
この作品ではhatis noitさんのvoice+loop voiceのみ収録、販売店はmore records,parabolica-bis,Art Space BAR BUENA。

上記に紹介出来なかった北欧の作品を一点
V.A - The Copper Roof Houses - Jartecknet
https://www.discogs.com/Various-The-Copper-Roof-Houses/release/3701156
なぜ海外の先鋭的な音、状況が東京の少数にしか伝わらないのか?その影響が都市に音として反映されないのか?
東京の様々なメディア、販売店、書籍、等々の動きは10年代中期どうなるのか?
引き続きその思いを巡らせながら30代を過ごす事にする。

 アナログ世代かCD世代かという議論があれば、僕は勝手に「12インチ・シングル・ジェネレイション」というタームを思い浮かべてしまう。ジャズ・ファンならLPだろうし、着うたフルで育った世代は「MP3のスカスカが懐かしい」というように、高校時代から普及しはじめた12インチ・シングルに馴らされてしまっただけともいえるけれど、身体性というのはそう簡単に変容できるものでもなく、CDが簡単に買えるようになっても(最初はヒドいものだった)、データ配信がこれだけ身近になっても、それに合わせて自分の体をカスタマイズできなかったと思うしかないような気がする。同じ曲を聴いていても、12インチならすんなり入ってくるものがCDではまったく身につかなかったり、データだと違う曲に聴こえていたりといったこともないとは言い切れない。どうか……している。

 12インチ・シングルは、なぜか日本では定着せず、そこで輸入盤文化とJポップやアイドルなどの日本文化も離ればなれになってしまった印象がある。「NME」がいつだったか、プリンスの特集を組んだときに「知られざる100の秘密」というような記事も載せていて、そのなかに「日本ではプリンスの12インチ・シングルが1枚もリリースされていない!」という項目があった。プリンスだけではなく、誰もリリースされてないんだけどなとは思ったものの、それぐらい欧米では12インチというフォーマットが当たり前になっているということをその記事は教えてくれたといえる。片面に1曲しか刻まれていない12インチ・シングルは、縮み志向の日本人には合わなかったのか、しかし、余白と感じられるだけのスペースがあるからこそ、そこにはやがてリミックスという手法が呼び込まれ、それが複雑化し、さらにはDJカルチャーを促すものがあったといえる。レイヴ・カルチャーの有無がどれだけ音楽文化に違いを与えてしまったかは、「オマル・スレイマンがビヨークをリミックス!」とか、そういったことがまったくといっていいほど日本では起きないことからもよくわかるだろう。12インチ・シングルはPCが普及するまで音楽文化における大きなプラットフォームだったのである……と、思いたい。

 20年ぶりに引っ越して、少し広い部屋に移ったために、なるべく買わないようにしていた12インチ・シングルを……また買い出してしまった。あー(嘆)。ドローンにも少し飽きてきて、ダンス・カルチャーに再び深入りしようかなという思いもあったからか、気がつけばヒドゥン・ハワイは揃える、リル・シルヴァは買い漁る、ウイリー・バンーズやなんだかよくわからない白盤がまたしても足元に溜まり出してしまった。幸い、断捨離教には入っていなかったので、いまのとことろは楽しいだけである。あー(嘆)。まー、せっかくなので、2013年のハイライトを12インチ・シングルで振り返ってみましょうか。


1月 Andrey Zots / Not So Secret Diary (Not So Secret Dairy)

 年頭はまずロシアからアンドレ・ゾッツがぶっちぎり。ロウリン・フロシュトがハンガリーで立ち上げたレーベル名をそのままタイトルにした6作目で、ファニーな響きもさることながら、全体にここまで実験的なミニマルも珍しい。前作まではヴィラロボスの影響下にあったことは免れていなかったにもかかわらず、ジュークを取り入れたイントロダクションから動物園を丸ごとループさせたような展開など、ミニマルの裾野が無限大に広がっていく。
1月はまた、リル・シルヴァ「ザ・スプリット」も相変わらず絶好調で、〈ラフ・ドッグ〉が発掘してきたグローイング・パームスのソロ・デビュー作「RK#7」もご愛嬌。

2月 Lord Of The Isles / SHEVC007 (Shevchenko)

 アンドレ・ゾッツでなければ、1月はジョージア州から彗星のように現れたHVLのデビュー作にしたかったところだけれど、同じようにミスター・フィンガーズを思わせるアトモスフェリックなディープ・ハウスなら2月はロード・オブ・ジ・アイルの8作目が圧倒的だった。キックもスネアもなしで10分を越えるロング・トリップを可能にした1枚で(ハットは少々入る)、延々と上昇しつづける音のスパイラルは『E2-E4』に似た世界を垣間見せつつ、デリック・メイにも近い部分を感じさせる。ほかには前の年に出た「ゴールド・ランゲージEP」ほどではないものの、レオン・ヴァインホール「ロザリンド」もまだかなりイケる感じで、〈モダン・ラヴ〉からデビューしたライナー・ヴェイルも今後が期待できる感じ。

3月 Amit / Acid Trip / Don't Forget Your Roots (Tempa)


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 3月はペヴ「アズテク・チャント」やウィリー・バーンズ=ブラック・ディアー……といいたいところだけど、「セカンド・カット」や「ヴィレッジ・フォーク」などのヒットで知られるドラムン・ベース・ヴェテランが前年からダブステップに手を染めはじめ、これにアシッド・ハウスを組み合わせた14thシングル「アシッド・トリップ」がダントツでした。まったくもってアイディアは単純。ヴィデオも最後で大笑い。フランスのアルビノにも似たようなことがいえる。

4月 Om Unit & Sam Binga / Small Victories EP (Exit Records)


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 これに関しては紙エレキングのブリストル特集(P.112)で長々と書いたので、そちらを参照ください。4月はほかにダブ・メックスのセカンド・シングル「ブロークンUFO」、イオマックの5thシングル「スプーク」、バーズメイキングマシーンのサード・シングル「2」、フローリアン・カップファーのデビュー・シングル「ライフトラックス」、Lヴィス1990「バラッズ」なども良かった。

5月 Various / Dark Acid (Clan Destine Records)

 〈クラン・デスティン〉が現在までに3集までリリースしているアシッドハウスのコンピレイション・シングルで、1枚めはなんといってもトーンホーク「ブラック・レイン」がハイライト。このPVを観て、音楽だけを聴いて……といっても無理だと思うけれど(最初に一回、映像を観ないで音だけ聴くことをオススメします)、いつにもましてトーン・ホークがソリッドにキメている(最近、ちょっと方向転換しちゃったみたいだけど……)。ほかにナッティマリの変名であるロン・ハードリータフ・シャーム(ドロ・ケアリー)をこの時点でまとめたところも慧眼といえる。ワイルド・ナッシングのEP「エンプティ・エステイト」にもちょっといいチル・アウトがありました。

6月 Serifu / Stucco Swim (Diskotopia)


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 5月はイナー・サイエンスによる音の乱舞が実に美しかった「サイレント・アウェイキングEP」も捨てがたいものがあったけれど、同じ日本人で6月はセリフのデビュー・シングル「スタッコ・スイム」がなかなかやってくれたという感じ。レーベルはディスコトピア。エスニックなイントロダクションからグッと惹きつけるものがあり、ドライヴの効いた2曲めに引き継がれ……と、ベース・ミュージックの新境地が次々と押し寄せる。いやー、これはカッコいい。どこかに和太鼓のリズムを感じさせる感触があり、それが全体にエスニックの裏打ちになっているのだろう。ディプロが見つけるのも時間の問題というか。同じようにスチール・パンで「ヴードゥー・レイ」をカヴァーしたジェレミー・デラー「イングリッシュ・マジック」もかなり斬新なアレンジで、マッドチェスターにトチ狂った覚えがある人は是非、聴いてほしい感じ(オプティモによるリミックス盤はもうひとつでした)。この人はターナー賞を受賞したことがある美術家なんだそうで、なるほどメイキング・ヴィデオもそれらしくアートっぽい?

7月 DJ Rashad / I Don't Give A Fuck (Hyperdub)


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 2013年の顔役のひとりで、野田努は「ローリン」を押しまくるけれど、僕はこっちが良かったピーッ。いかにもインプロ風に被せられたピーッという音のフリーキーさがたまりませんよね。アーリー・レイヴを思わせる不穏なシンセサイザーのループもいいムードを醸し出しているし、ピー……じゃなかった、Bサイドに収録されたフレッシュムーンとの共作「エヴリバディ」がまたM.I.A.を遅くしたような展開とデリック・メイを早回しにしたものが、どこかで接点を見出したというような曲で、実にけっこうでした。

8月 dBridge & Skeptical / Move Way (R & S Records)


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 エイミットやサム・ビンガ、あるいはダブ・フィジックスの陰にこの男ありというわけで、ここ数年、ドラムン・ベースの変容に立ち会ってきた〈イグジット〉主宰、ブリッジがジュークの影響をダンスホールで返したような直球勝負。ガッツ、ガッツでドタン、ドタンって、あまりな音数の少なさはS-X「ウー・リディム」にも匹敵するものが。つーか、ダンス・カルチャーというのはコレですよね。ヴェイパーウェイヴとかやめてほしいです。とにかく徹頭徹尾ビートだけで、快楽的なんだかストイックなんだかよくわからない~。追って10月にリリースされたテッセラの5thシングル「ナンシーズ・パンティ」もこれに影響されたんだろうか。

9月 FKA Twigs / EP2 (Young Turks)


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 前に書いたサウンド・パトロール(https://www.ele-king.net/review/sound_patrol/003359/)を参照ください。

10月 DJ Nigga Fox / O Meu Estilo (Principe)


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 アンゴラが起源とされるクドゥロのコンピレイション『バザーク』から2年、もっとも興味深かったリスボン・ベースのDJニガ・フォックスがついにデビュー! しかも、作風はかなりハウスに寄せていて、オソロしい才能を感じます。「ミウ・イシーロ」=「マイ・スタイル」を標榜するだけあって、本当に独特のものがあるし、ポリリズムすぎて詳しくはなんだかわかりませんが、クドゥロだけでなくルワンダから流れてくるリズム(?)やタラシンハ(?)、あるいはバティーダもミックスしてるとか(?)。とにかくウルドゥー語ヴァージョンなどを出していた頃のファン・ボーイ・スリーやトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』の先を思わせるところもあったりと、ダンス・ミュージックの長い道のりを感じさせることしばしば。コレはマジやばいは。続いてリリースされた彼のお仲間(?)であるナイアガラは、しかし、かなりナゾ。10月はほかにヴァンパイア・ウィークエンドからバイオが少し垢抜けた「ミラEP」にルーマニン・ハウスではプリークとして知られるアドリアン・ニクラエ「アコースティックEP」もそれぞれ出色の出来。

11月 Shit And Shine / Blowhannon (Diagonal)


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 これは意表をついた。いままでもひと筋ではいかなかったハードコアというのか、サイケデリックというのか、それともマス・ロッックだったり、インダストリアル・ロックでもあったシット&シャインがハウス・シングルをリリース。そして、オルタナティヴ・ロックのエッセンスは見事にハウス・ミュージックに溶かし込まれ、異様なダンス・ミュージックに仕上がっている(ちょっとバットホール・サーファーズのサイド・プロジェクト、ジャックオフィサーズを思い出した)。いわゆるひとつの鉄槌感もあるし、なんだろう、インダストリアル・ハウスとでも呼べばいいのだろうか。しかも、B2にはセオ・パリッシュ「シンセティック・フレム」のエディット・ヴァージョンまで収録されて……(プロモ盤では「ディキシー・ピーチ」と題されていたものが、クレームでも入ったか正規盤ではセオ・パリッシュの曲名に変更されている?)。いや、しかし、もしかして、このままUSアンダーグラウンドのプライマル・スクリームになっちゃったりして…。

12月 Joe / Punters Step Out (Hemlock Recordings)


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 リリース・ペースはけして早くないジョーが続けさまにリリースした2枚のうち、後から出た方で、ちょうど1年前にスウィンドルがダブステップにマンボを取り入れたことに挑発されたか、オルガンをフィーチャーしたモンド・ステップで世界を少しばかりグニャリと歪ませてくれる。構成がとにかく大胆で、時間軸まで歪んだように聴こえるというか、「ダブステップは終わった」と言われてからが面白いと言わんばかり。カップリングはまるで上に挙げたシット&シャイン風で……あー、しかし、シャッフル感がぜんぜん違うかな、この人は。それこそ時間をかけるだけのことはある。12月はほかにマッドテオの8thシングル「インサイダー」、トム・ディシッコの6th「ノー・シンパシー」、グア・カモーレ「マシュタハ」もやってくれました。

 ……こうしてみると、まったくといっていいほどヒップ・ホップを聴かなくなったなー。ミックステープも落とすだけで長いからあんまり聴かないしなー。まー……それはおいといて、要するに12インチというのは短いから頭に入ってくるんですね。1日に詰め込める量なんて、実は限られているんだろう。昔は、「NME」のシングル・オブ・ジ・ウィークを毎週、チェックして、週に1枚、気に入ったシングルがあれば、それでかなりシアワセだったからなー。それでも年間にしてみれば50曲以上はフェイヴァリットになっているわけで、けして少なくはないわけだし。それこそ昔、よくやっていたのはデビュー作から3~4枚のシングルを好きな曲順で再構成したテープをつくってファースト・アルバムとして聴いていたこと。実際にファースト・アルバムが出ると、ほとんどの場合はがっかりで、どういうわけかそれ以上のものにはなってくれないという……。

Gatekeeper - ele-king

 映画館で映画を観るときには、ぜったい5分とか遅れてしまって開始前に着席できず、アクション映画などの派手なトレーラーが流れはじめているのを背に人の前を横切ったりして気まずい思いをするので、筆者にはこうしたときの感覚が映画館の体験と分かちがたく結びついている。それで、この6曲からなるEPの冒頭“ソード・オブ・ザ・ギャザリング・クラウズ・オブ・ヘヴン”を聴いたときには気まずさと笑いが込み上げた。総制作費何百億、みたいな映画のトレーラーでよく聴く気がするあの感じ……導入になるような短いセリフにつづいて、合唱付きの交響曲みたいなのがはじまって、そこに重ねて急激にクレッシェンドする戦闘機のようなSE、そしてその頂点で鋭く炸裂する、ドンという低音と四分音符分の金属音。あれが、嫌味なくらい再現されている。
 サンプリングではないらしいので、これは巧妙なパロディであって、片割れ(アーロン・デヴィッド・ロス)がフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』にも参加していたブルックリンのデュオ、ゲートキーパーは、今度は『ブレード・ランナー』のシンセ感ではなくて、エイティーズ・ブームの一段落とともに『ロード・オブ・ザ・リング』とか『トランスフォーマーズ』とか、もっといい例があるかもしれないけれど、とにかくあのSEが施されたシンフォニックな合唱付きに住み心地のよいディストピアを見つけたということなのかもしれない。最初のEP『ギザ』(2010)や〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされた『エキゾ』(2012)のへんなインダストリアル、ダークウェイヴには垢抜けない印象を受けたが、こちらはずっとコンセプトが明確で、趣味がいいとはいえないけれど、おもしろいと思った。
 声楽的な発声の歌やコーラスを用いるプロデューサーは増えたが、筆者は声をただ「素材」だとする人にも、声に神秘的な意味を汲みすぎる人にも距離を感じてきた。対するにゲートキーパーにはクラシカルなスタイルを持つ合唱作品のヘンさ(発声時の独特の表情とか「裏声」への素朴な違和感を含む)や、逆にその魅力やダイナミックさへの正直で開かれた態度があると感じる。彼らはたぶん、本当にそうした合唱作品が好きなのだ。もしかするとそれなりにその道の造詣も深いのかもしれない。『エキゾ』終曲は、マリー・シェーファーと〈ナイト・スラッグス〉とブレイクビーツの悪趣味な合体のようにも聴こえる。とすると、ある種のサントラを模すことであの過剰な金属性と人声のせめぎあいをクリティカルに高出力する今作には、現代版の“鉄への呪い”(トルミス)といううまいオチがつくかもしれない。『ヤング・クロノス』は「Inspired by a true story.」という喚起的なセリフで幕を開け、それが「ネオ・サピエント」のストーリーであるとつづけられている。

 インダストリアルというよりはEBMがトレンドの先端かもと言うならば、もしかするとそれを先取ってもいた彼らだが、それが“ハーヴェスト”のように、ソプラノのメリスマと掛け合わされていくところなどにも笑ってしまう。本当に品がないけど、心からエキサイトしているのだろうし、“インペラトリクス”や“ザ・ソイル・ハズ・サワード”などのコーラス部分も、とても「ウワモノ」という言葉では片付かない。ゲートキーパーのハイパーなエネルギーは、声というものを通してやっと存分な広さの放出口を得たのだと思える。ビートがせり出てきても、そのオブリガートであるかのように合唱パートが執拗に追ってくる。たとえばルチアーノの“”セレスシャル”に用いられているコーラス・サンプルなど、クォンタイズされないながらも繊細にビートを立てていくような洗練とは無縁だけれど、声やその始原的なエネルギーを安易なトライバリズムに求めず、真っ直ぐに西洋音楽の中心に突っ込んでいくような彼らには意外性と爽快さがある。

Cabaret Voltaire - ele-king

 ノイズ/インダストリアルにおける歴史的プロジェクト、キャバーレ・ヴォルテールの3枚のリイシュー盤が世界的に盛り上がっているようです
(⇒https://www.ele-king.net/interviews/003431/)。
『ザ・クラックダウン』、『マイクロフォニーズ』、『カヴァナント、ソード・アンド・アーム・オヴ・ザ・ロード』の3枚は中期の名盤であり、ノイズ/インダストリアルが未来を向いて、よりダイナミックな音響とビートをモノにして、ダンスへと歩を進めた時期の代表作であり、当時のヒット・シングル「ジェイムズ・ブラウン」が象徴するように、彼らのブラック・ファンクからの影響を反映させた作品でもあります。
 さて、キャバーレ・ヴォルテールの魅力といえば、ノイズ/インダストリアルというジャンルを拡張した音楽性のみに限られたものではありません。彼らのアートワークは、スタイル雑誌の草分け『THE FACE』のアートディレクター、80年代のUKでもっとも影響力のあったデザイナー、さまざまなフォントの開発者、巨匠ネヴィル・ブロディが手がけています。つまり、当時のキャバレー・ヴォルテールとは、もっともエッジの効いた音楽をスタイル・カルチャーを切り開いた有名デザイナーがデザインしたものだったのです。

そして、その影響は日本にも及んでいます。キャバレー・ヴォルテールが再発されると聞いて、すぐさま「ネヴィル・ブロディ」の名を挙げたのが、グラフィック・デザイナーのSk8ightTing(スケートシング)です。

しかも、時代の風を敏感に読むことで知られるこの天才デザイナーの近年の作品が、インダストリアル調のものなのです。つまり、キャバレー・ヴォルテールとのコラボレーションは、ある意味必然だったと言えます。
 Sk8ightTingがデザインしたTシャツを、新たな再発盤、先述の3枚と同時期に発売された『ドリンキング・ガソリン』(映像DVD付き)とのセットにて数量限定生産により販売します。こちらのTシャツのホワイトカラーは、来年1月22日よりANYWHERE STORE(現在は取扱いしていません)のみの販売です。
ジャスト・ファッシネイション(まさに魅惑)──『ザ・クラックダウン』に収録された彼らのヒット曲の曲名の通りです。

『キャバレー・ヴォルーテル──通称キャブスは、ノイズ/インダストリアルの草分け的存在であり(スロッビング・グリッスルと並んで、二大巨匠のひとつ)、ポストパンク時代において、もっとも重要なバンドのひとつに挙げられる。 (~中略~) パンクでテクノでノイズのキャブスの時代が、またやって来たのである。』 

--- 野田努 (ele-king)




木津毅、2013年のベスト10選! - ele-king

 昨年のスプリングスティーンの呪いが解けなかった僕は今年、スピルバーグの『リンカーン』にいたく感銘を受けて「市井の人びとの理想主義」を探していたが、それはブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマに、ジャネール・モネイに、あるいはザ・ナショナルに見つけることができた。たしかにそれらは僕が期待するほどこの国で話題になっているとは思えなかったけれど、それでもそういう音楽が、そういう人びとが世のなかにいることに勇気づけられた。だが振り返れば、何よりもジョン・グラントが歌うソウルと孤独に胸をかきむしられた年だったようにも思える。普段あんまりしないけれど、思わず自分の10年後のことを考えたりした。彼の視線に捕まったのは何やら運命的な出来事だった……と書くと、スピってると言われてしまうのだろうか。ああ、そう言えば、来年はスプリングスティーンの新作が出るらしい。



木津毅、2013年の10枚!


1
John Grant / Pale Green Ghosts (Bella Union)

2
Blind Boys of Alabama / I'll Find A Way (Sony Masterworks)

3
Oneohtrix Point Never / R Plus Seven (Warp)

4
Janelle Monáe / The Electric Lady (Bad Boy Entertainment)

5
Tim Hecker / Virgins (Kranky)

6
The Flaming Lips / The Terror (Lovely Sorts of Death Records)

7
Volcano Choir / Repave (Jagjaguwar)

8
The National / Trouble Will Find Me (4AD)

9
The Haxan Cloak / Excavation (Tri Angle)

10
James Blake / Overgrown (Republic)

聴き忘れはありませんか - ele-king


 初ライヴを終えた禁断の多数決、ほうのきかずなり氏から今年2013のベスト・アルバム10選が届いたぞ! 12月12日、デコレーション・ユニットOleO(R type L)とVJが怪しく飾り上げた渋谷〈WWW〉は一分の隙なき満員御礼状態、メンバーのおどろおどろしいメイクはもとより、異様な速さでアンプが回転しだしたり(折しも“くるくるスピン大会”がはじまったときで笑ってしまった)、着ぐるみウサギがどこか背徳的なたたずまいで歩き回っていたり、不可解にシンメトリーを成して歌う女性たち(尾苗愛氏とローラーガール氏)、だらりと垂れる毛皮、クモの巣、悪夢のように切れ間なくつづくセット・リスト……等々、彼らが愛するデヴィッド・リンチ感が炸裂しており、それは“バンクーバー”で極まっていた。禁断の多数決のやりたいことが何なのか、あの日あの場所に詰めかけた人には言葉にならないながらも明瞭だっただろう。


 そして、あのとき生まれた禁断の生命は、この後ゆっくりと急速に、時間の中を奇妙に伸び縮みしながら大きくなっていくはずである……。2014年、今後の展開がさらに期待される。






禁断の多数決(ほうのきかずなり)


  1. 1. Blood Orange / Cupid Deluxe / Domino

  2. 2. Sky Ferreira / Night Time, My Time / Capitol

  3. 3. Alex Chilton / Electricity By Candlelight: NYC 2/13/97 / Bar/None Records

  4. 4. Ian Drennan / Prelude To Bleu Bird Cabaret / PIKdisc

  5. 5. Oneohtrix Point Never / R Plus Seven / Warp/ビート

  6. 6. Mazzy Star / Seasons of Your Day / Republic of Music

  7. 7. Fuck Buttons / Slow Focus / ATP

  8. 8. Grouper / Man Who Died in His Boat / Kranky/p*dis

  9. 9. Solar Year / Waverly / Selfrelease

  10. 10. Prefab Sprout / Crimson / Red / Icebreaker / ソニーミュージック


ブラッドさんのジョン・ヒューズ映画のようなアルバムに胸躍らせて、スカイさんに恋をして、アレックスさんで泣いて、イアンさんとOPNのミステリアスな世界に迷い込んで、マジー・スターとグルーパーの哀愁で鬱になって、ファックさんとソーラーさんの狂気にやられて、プリファブさんのグレート・ロマンチシズムに酔いしれました。

ほうのきかずなり




■禁断の多数決
アラビアの禁断の多数決

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彼らが“外”に行く理由 - ele-king

 リゾートではなく、他者としての海外に向き合うようなマジメな渡航体験がどのくらいあるのかわからないけれども、国外をツアーしてまわるアーティストたちの言葉にはやっぱりリアリティとしてのそれがある。「海外ツアーに出るアーティスト」なんていうと、大きな資本によって座組みされた存在であるような印象を持つかもしれないが、今回登場してもらうふたりが活躍するのはインディ・シーンであり、彼らは自身でレーベルやプロモーターとコンタクトを取り、音を介して生まれた互いへの純粋なリスペクトと信頼のもとに、ビジネスというにはあまりに有機的なつながりをたどって海外へと出かけていく人々だ。ポスト・インターネット的な環境において、こうしたことはやろうと思えばそう難しいことではないのだが、同じ環境のもとに、あまりそうしなくてもよい状況――海外の音も国内の音も即時的に同軸でキャッチすることのできる状況――が広がってもいるわけで、彼らのような存在は全体から見ればごく少数にとどまっている。そんなことにコストをかける必要なんてあるんだろうか? と感じるのは筆者ばかりではあるまい。
 だが、「ネットがあればいいじゃない」というのが確実にひとつの真理をえぐる態度だと思いつつも、その理屈によっておのれの自己完結型の出不精に窮屈なエクスキューズを与えがちな筆者は、彼らの体験がとても気になってしまう。コストをかけて外に出ていく理由が、はたして本当に自分に関係ないことなのか?

 個人的な話にかけてすみません。そもそもこの企画は、2000年代を通じてUSアンダーグラウンドのエキサイティングな震源地でありつづけたLAについて、かの地にゆかりの深いアーティストたちから話をきいてみようというものだったのだが、両者の言葉からは、「現地の注目ライヴ・スポット」「知られざるレコード・ショップ」「レーベルと人脈図」などなどといったトピックがつまらなく感じられるようななにか、そこが何を許し、どのように人々を生かしている場所なのかという、より深部にあるリアルを垣間見るような気がした。彼らも住民ではないから、旅行者としての視線も多分に混じっていることだろうけれども、だとすればなおさらわれわれがLAに聴きとるべきことのヒントが含まれているはずだ。

 それからもうひとつ、ちょっと話が飛ぶけれど、アナログ・メディアをめぐる――というよりも「物(モノ)」をめぐる――観念・認識にも新しいひらめきとショックを感じた。それがどんなものかは、まあ以下の対談をご覧いただきたい。アナログ・リリースが有効な方法として定着しきった現在でも、カッコだけのアナログ志向には多少辟易するけれど、そんなことは大した問題ではなかった。彼らの話をきいて、それさえももしかしたらとても大切なものかもしれないと思う。「聴くことがすべて、メディアなど問題ではない」とうそぶいていた時代がわたしにもありました……。
 ともあれ、お読みいただきたい。

■Sapphire Slows(サファイア・スロウズ)
広島出身、東京在住の若き女性プロデューサー。2011年に東京の〈Big Love Records〉から7インチ「Melt」でデビュー。つづいてロサンゼルスの〈Not Not Fun Records〉から「True Breath」をリリース。海外メディアからも注目された。その後複数のシングル・リリースを経て、2013年にはファースト・フル『アレゴリア』を発表。洋・邦を問わず、インディ・シーンのホットな場所でDIYに活動するスタイルに、Jesse Ruinsらと共通する時代性や存在感がある。

Sapphire Slows / Allegoria
(BIG LOVE/Not Not Fun)

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■倉本諒
カセット・レーベル〈crooked tapes〉代表、イラストレーター兼スクリーン印刷屋、Dreampusherとしての音楽活動に加え、執筆活動も行うなどマルチな才能を持った放浪家。ele-kingにも多数の記事を残している。とくにLAとのつながりが深く、アーティスト/ライター両者の視点を持ったレポートとアーティスト紹介にはつねに鮮度と強度がある。2013年12月より、自身の海外放浪体験をつづる連載「スティル・ドリフティング」がスタートしている。

レコ屋からつながったLAアンダーグラウンド

サファイア・スロウズさん(以下SS)は、〈ノット・ノット・ファン〉(以下〈NNF〉)にご自身の音源を送ったことがきっかけでリリースやツアーなどの活動に結びついていったわけですよね。そもそもどうして〈NNF〉だったんでしょう?

SS:最初は〈NNF〉か〈オールド・イングリッシュ・スペリング・ビー(Olde English Spelling Bee)〉か、迷ったんですよ。西の〈NNF〉と東の〈OESB〉みたいな感じで両方すごい実験的でかっこよかったから。でもなんとなくLAのほうがアーティストたちの顔が見える感じがしたというか。アマンダ(・ブラウン)とかね。あと、いろんな国の人の作品をポンとリリースしていたりして偏見とかがないと思ったから。よくよく調べれば、リリースしているのがみんな友だちだったりはするんだけど。

倉本:〈OESB〉の場合は、ある程度は匿名性を意識していると思うけどね。

そうですね。でも〈NNF〉とかって、「顔が見えて偏見もなさそうだから決めちゃえ」というにはあまりに個性があるというか。相性も含めて何かそこにたどり着くまでの順序や研究があったんじゃないかと思うんですが、どうですか?

SS:わたしが自分の音源を送ったときは、もう〈100%シルク〉(以下〈シルク〉)がはじまっていたんですよ。アイタル(『Ital's Theme』SILK-001)とザ・ディープ(『Muddy Tracks』SILK-002)もリリースされていて、それも大きかったかも。アイタルのダニエルはブラック・アイズ(Black Eyes)、ミ・アミ(Mi Ami)のハードコアからセックス・ワーカー(Sex Worker)のドローンを経てアイタルに至っていて、ザ・ディープはダブ/レゲエ。両方普通のハウスなんかじゃなかったんだよね。めちゃくちゃいいなと思ったし、この感じ、このモードだって。そんなふうに思うものって、そのときは他になかった。

なるほど。〈100%シルク〉って、2000年代のUSインディ・ロックが培ってきたノイズとかアンビエントとかダブみたいなものが、ハウスやディスコに重なっていった場所だと思うんですが、SSさんはそのダンス・ミュージック的な部分が混じるところに反応された感じでしょうか。

SS:べつにハウスとかテクノとかが好きというわけでもないし、インディ・ロックが好きなわけでもなくて、ジャンルとかに分けられない感じがぴったりきたんです。ハウスだったりって名づけるのがアホらしいような、まだ誰にも形容されていないようなもの。……〈シルク〉は結局ハウスになっちゃったけど、最初の頃はそうでもなかったから。

たしかにはじめはもっと混沌としてましたよね。

SS:だから「ダンスっぽいところに惹かれたのか」と訊かれればそうとも言えるし、そうでもない部分もあります。

倉本:そこはこだわってるよね、前から。ジャンルレスっていうようなところ。

SS:単に自分に知識がないからっていうこともあると思うんだけどね。ルーツが何かって訊かれたときに、何かに特化して聴いてきたわけじゃないから、うまく答えられない。最近は「ルーツがあるのが当たり前」みたいな考え方自体、古い世代の価値観なんじゃないかと思う。他の子たちがどうなのかはわからないけど、わたしとかわたしより下の、新しい世代の音楽の聴き方ってたぶん違うんだよ。少なくとも自分には過去にさかのぼってのわかりやすいルーツとかヒーローみたいなのはない。いまかっこいいかどうか、それだけ。

倉本:たぶん文脈でディグっていったりしないんだよね?

SS:そうだね。レコード屋で買っていると、「最近このレーベルのよく入ってるな」って気づくじゃないですか。そこで初めてレーベル名を意識して、調べてみて、過去にリリースされている音源も聴くという感じです。

あ、レコ屋をチェックするレディだったんですね。それならよくわかります。では〈BIG LOVE〉さんとか〈JETSET〉さんとかはわりと初めから馴染みの空間だったというか。

SS:うん。あと、いまはなき〈warszawa〉さんとか。だから、バイヤーさんの傾向にもろに影響を受けている面もあるかもしれません。

西の〈NNF〉と東の〈OESB〉みたいな感じで両方すごい実験的でかっこよかったから。でもなんとなくLAのほうがアーティストたちの顔が見える感じがしたというか。(Sapphire Slows)

うんうん。そう考えると、レコ屋の果たす役割はまだ大きいですね。フェイス商品なんかがとても具体的に入口になりますよね。

SS:わたしの場合、ネットだけじゃたどりつかなかったかも(笑)。

ネットショップの「おすすめ機能」に感心することもあるんですけど、あの機能が選択肢を増やす一方で、バイヤーさんとか店頭って選択肢を絞ってくれるものですよね。
 さて、レコ屋文化というところでは倉本さんともつながってきます。

倉本:オレがレコ屋で働いてたってだけでしょ!

うん。

倉本:いや、まあ、オレも結局はかなりの部分をネットでディグるんだけど、ネットの情報だけから得るものって実のところはそれほどリアルでもなくて。たとえばヴァイナルを一枚出すとするよね。それってそれなりに大変な作業でさ。お金もかかるし、リスクもあるし、そこまで儲けがある商売じゃないし。だから、ヴァイナルでいくつか出してるってこと自体が、こいつらは本気でやってるなっていうひとつの指標になるわけじゃない? もちろんインスタントな音源をウェブで共有ファイルにするっていうのも新しいムーヴメントだしおもしろいと思うけど、モノを作るっていうのはやっぱりひとつの「本気」なんだよね。
 オレがいいと感じるレーベルにはそれがあって、だからその意味では彼女が言うように必ずしもジャンルに因る興味ではないかな。もちろんジャンルもあるんだけどね。いまはジャンルとレーベルが1:1で結びついているわけじゃないし、音楽的にはバラバラだけど、何かしら世界観を共有している……そういう点でちゃんと人格を持ったレーベルが好きですね。

SS:「人格」っていう喩えはほんとにそのとおりだと思う。なんとなく「この人好き」っていうのと「この人嫌い」っていうのとがあって、嫌いな人とはつき合えない。そういう感覚がレーベルに対してもあるし、実際に中にいるアーティストとコミュニケーションをとってもそう感じていると思います。


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LA放浪記・エピソード0

倉本さんはなんでそもそも〈NNF〉だったんです? すごく人脈があるし、もはや半分LAの住人みたいな感じでもありますけど、音楽から考えるとそれほど共通項が見えない。

SS:うん、わたしもそれ知りたい。謎だった。

倉本:いや、オレ言ってなかったかなあ?

SS:訊いたかもしれないけど、たぶんその答えに「なるほどー」ってならなかったんだと思う。

はははは!

倉本:倉本:ああ、そっか。ほんと「そもそも」からの話になるんだけど、ロサンゼルスに〈ハイドラ・ヘッド・レコーズ〉っていうハードコアとかメタルから派生したオルタナティヴ・ミュージックをリリースしているインディ・レーベルがあるんだよね。もともとはボストンからはじまったんだけど、事務所をロスに構えてからはずっとそこで運営してるの。社長がアイシスのフロントマンなんかやってたアーロン・ターナーって人なんだけど。

うん。アイシスね。そんなところからはじまるんだ!

倉本:そう。で、アーロンがイラストレーター/グラフィック・デザイナーということもあって、自分たちで全部アートワークとパッケージもやってるんだよね。……それが、毎回すごいゴージャスで。デザインも印刷もヴァイナルのカラーとかも、全部凝りに凝ってる。00年くらいからヴァイナルの需要がグンと来たのって、そういうフェティッシュなマーケットができたからだと思うんだよね。だって、音はデータでゲットできるからさ。

SS:ただでさえ儲からないものにカネをかけるわけじゃないですか。だからそれ自体がPRというか、欲しくなるものかどうかっていうのが重要だと思う。

そうですよね。「フェティッシュなマーケット」って、音楽の話をする上で切り捨てがちな、けどじつは本質的なトピックだよね。それで、そこから〈ハイドラ・ヘッド〉に倉本さんが絡んでくるの?

倉本:そう。話を戻すと、オレはそこにバイトさせてくれって行ったの。アーロンはアイシスで日本にはちょこちょこ来日してて、オレは彼の仕事の大ファンだったから作品とかをトレードしたりして交流をはじめたのだけど、ああいう日本ではあり得ないクリエイティヴなレーベルの仕事現場を見てみたかった。だから「ちょっとLAに住んでみたいから、雑用で雇ってよ」って言ってみたら「いいよ、いいよ」って言うもんだからさ。

へえ。

倉本:だからオレほんとに行ったんだよ。

SS:それがおかしいよ。

ははっ、持ち前のドリフター癖が出たと。もしかして、それが初めての漂流なの?

倉本:そうそう。いや、ほんと軽いノリで「いいよ」って言うからさ。じゃあってことでマジで行ったんだよ。そしたら「誰だお前」ってなって(笑)。

(一同笑)

ベタ(笑)。

SS:そうなるわ(笑)。

「ちょっとLAに住んでみたいから、雑用で雇ってよ」って言ってみたら「いいよ、いいよ」って言うもんだからさ。マジで行ったら「誰だお前」ってなって(笑)。(倉本)

倉本:いやいや、ちゃんとアーロンには前もって連絡して他のスタッフのコンタクトをもらってたの。彼はすでにシアトルに引っ越してて事務所にはいなかったから。で、一応そのスタッフにメールはしてたんだけど、オレが行く一週間前にクビになってて(笑)。だから誰もそのことを知らなかった。んで焦って「これこれこういうわけで、オレは雇ってもらうことになってるんです」って事務所で事情を説明したの。そしたら「ちょっとアーロンに電話で確認してくる」って言われて、待たされて。アーロン的にも、いいとは言ったけど本当に来るとは思わなかったみたいなんだよね。電話ごしに「マジで来たのかよ!」って(笑)。……でも、本当にいい連中でさ。ちゃんと雇ってくれたんだよね。だからオレは週3くらいで働きに行った。

SS:それがすごいところだよね。日本だったらそんなの拒否されると思う。

倉本:そうかもね。まあ、そんなわけでロスでレーベルの雑用みたいなことをやりつつの貧乏暮らしがスタートしたんだよね。

すごいな、隣の県とかじゃないんだからさ……。でもまだまだ〈NNF〉まで距離があるね?

倉本:そうでもないと思うよ。オレと〈NNF〉のブリットなんか、蓄積してきた音楽的背景はすごい共有してる。ちょうどその頃からオレも〈NNF〉や〈ウッジスト(Woodsist)〉、〈ナイト・ピープル(Night People)〉なんかを通してUSの新たなサイケデリック・ムーヴメントにのめり込みはじめていたし。ドローン/パワー・アンビエントとかオブスキュア・ブラックメタル、ドゥームやスラッジなんかのシリアスな音楽にも魅力を感じているけれども、自分はもうちょっとフットワークが軽いつもりだったから。だから実験音楽的だけどクラシカルじゃないもの、エクスペリメンタルだけどもっとバカバカしいもの、それでいて、バックグラウンドにパンクとかハードコアとかがあって、粗くてロウで、っていうもの。もちろん基本はサイケで……そういうものにハマりはじめてたかな。だから僕のなかで〈NNF〉は全然延長線上だった。

なるほど。ドゥームとかドローンっていうのはわかるんですけどね。ハードコア(・パンク)からの〈NNF〉っていうのがちょっと意外でもあって。でもサイケが媒介だとすればとても腑に落ちる。

倉本:それに、パッケージ的にも当時の彼らってすごくおもしろかったよ。超D.I.Y.だし、まさにパンクだよ。普通のレーベルではあり得ない作り方をしてたから。本当に、あの夫婦(レーベル主宰のアマンダ・ブラウンとブリット・ブラウン夫妻)が好きなものを出していたよね。わけのわからない、ゴミみたいなものを(笑)。

SS:カセットばっかりだったよね、最初のころは。

倉本:そうそう、ヴァイナルもあったんだけどね。なんか、ラインストーンとかがわざわざ付いていたよね。クオリティもけっして高くはないんだけど、やっぱりすごく愛嬌があるし、センスがいいから、おもしろいなと思ってた。バンドもそう。サン・アローにしても、当時まだブレイクするかどうかっていうところで。

SS:いまはすっかり有名だもんね。

倉本:うん。それで、ロスに暮らしはじめて、〈NNF〉の連中も近くのギャラリーでライヴをやっていたから、夜な夜な、カネがないながらも遊んでたんだよね。そんななかでつながりが生まれたかな。彼らが僕を受け入れてくれた理由のひとつは、〈ハイドラ・ヘッド〉で働いているということもあったと思う。やっぱり当時有名だったし、みんな聴いてたからね。「ああ、〈ハイドラ・ヘッド〉で働いてるんだー?」みたいな。


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そこが受け入れてくれるもの

なるほどね。なんか、リアルにわかりました。アイシスと〈NNF〉なんて完全に別軸で捉えてるからさ。いっしょとは言わないけど、すぐ近くにあるものなんだっていう生々しい地図が描けた。
しかし、おふたりでは入口がぜんぜん違いますね。

倉本:共通するとすれば、彼らはすごくオープンなんだってことだよね。

SS:入口は違うけど、最終的にはいっしょだから。ぜんぜん違うところから入ってきて、同じファミリーとして受け入れられている感じ。うちらは日本にいるけれど、なんとなくファミリーっぽいよね?

倉本:まあ、とにかくオープン。

SS:でも、誰でもオッケーってわけじゃないと思う。見た目は違っても、どこかで合うところがあったんだと思うな。

倉本:いまでこそすごくたくさんデモが送られてくるだろうから、取捨選択ももうちょっとシビアかもしれないけど……。好奇心が生まれればどこから来た連中であれ受け入れてくれるよね。それはべつに彼らに限らず、ロスのローカルではわりと普通のことかもしれないけどね。頭おかしいよね、〈ハイドラ・ヘッド〉にしても。粋だなって。〈NNF〉や〈ハイドラ・ヘッド〉に出会わなかったらいまの環境もないわけだし、彼らにはいつも感謝してるよ。

SS:あははは。そういえば、その最初の出会いは聞いたことがあった。けど、やっぱり「そんなことあるわけない」って思ったんだと思うの。だから忘れてた(笑)。

倉本:いやいやいや、本当なんですよ。

SS:それで、ブリットには自分のテープを渡したんだよね? それはすごい強いよね。自分で作ったカセットをポンと渡されると、何より説得力があると思うんだ。

倉本:そうそう、それで、こっちのテープとかシルクで刷ったジンとかポスター渡して、「じゃあレコードちょうだいよ」って言ってトレードするの。

トレードって素晴らしいですよね。〈NNF〉って、レーベル自体はもう10年近くにも及ぶ活動をつづけているわけですが、時代の最前線に躍り出るのはここ数年のことですよね。倉本さんはその前のタイミングでファミリーに迎え入れられたの?

倉本:そうだね。でもまあ、ファミリーって感覚はないけど。いってもそこは人間同士だから、仲違いもあればいろいろだよ。

SS:倉本さんはそういうところ詳しいよね。

ははは! ゴシップ屋なんだ。

倉本:オレはね、そういうの好きなの。

おばちゃんだなあ。サファイアさんは、わりとそのへんはボーっとしてる?

SS:そうですねー。まったくわかんない。

倉本:でもね、いっしょに住んでるとそういうあたりはいろいろ気を遣うからさ。

SS:ああ、そうかー。それは敏感になるよね。

倉本:超めんどくさいなっていうこともあるよ。

なるほどね。そう考えると、生活ぐるみというか、レーベルにしてはけっこう密な関係ですね。サークルっぽい?

SS:いっしょに住みたいとは思わないな。住むとこなかったらそんなこと言ってられないけど。

倉本:オレは日本であんまりコミュニティに属してたっていうことがないんだよね。だから生活ぐるみな環境に憧れていたのもあるよ。いろいろやっててもなんか違うというか。受け入れられている感じがなかった。まあ大半は自分が悪いからなんだけど。パンクなりハードコア・バンドなりをやっていても、なんか違うというか。受け入れられている感じがなかった。もちろん、個人としての関係からのフィードバックは感じてたよ? でもどんな環境でも俯瞰で見ちゃう冷ややかな自分がいる。それでも、ロスへ行ったときほど受け入れられていると感じたことはなかったからなあ。生活とクリエイティヴが分離してないから。

あー。そこは、すごく訊きたかった。日本の外でやる理由。それから〈NNF〉型の音楽コミュニティについて。

それでも、ロスへ行ったときほど受け入れられていると感じたことはなかったからなあ。生活とクリエイティヴが分離してないから。(倉本)

サファイアさんは以前に弊誌でLAレポートを書いてくださいましたよね(https://www.ele-king.net/columns/002198/)。すごくいい記録を残してくださったんですが、あの紀行文のなかでもっともエモーショナルなシーンが、帰国を前に「帰りたくない」ってなるところです――

SS:あれは、あれが初めてだったから。あの時期はすごくいろいろなものが変わっていって、すごくテンパってたときでもあったから、とてもハイになっていて。行く前もすごく混乱していたし。

うんうん、そういう感じがとってもよく伝わってくる、みずみずしくて素敵なレポートでした。

SS:それに、あのときはまだ英語が話せなくて。

ええっ? そうなんですか。けっこう会話のシーンもありましたし、ツアーってしゃべれなきゃ無理かと思ってました。

SS:いや、多分しゃべれてはなくて、かろうじて聞き取れたところをしっかり覚えてたって感じかな。そのくらい印象的なことが多かったから。それでも理解できたのって実際話されてたことの3分の1以下とかだと思う……もったいないよね。まあ、ツアー中はとにかく夢中で頭が真っ白だったから、帰国したら以外とコミュニケーションとれてたのかな? っていうくらい。

へえー。

SS:でも、ぜんぜんしゃべれないから、「君はしゃべらない子なんだね」って言われた。すごくおとなしい静かな子だと思われたの。メールとかだと英語ばっちりだったから、当然できるものだと思われてたみたい。

そうなんですね……。でもあの文章のなかで書かれていたのは、音楽のコミュニティがあって、仲間がいて、それがそのままレーベルになっているっていう一種の純粋さへの感動だと思ったんですね。

倉本:オレはひねくれてるからさ。そういうふうにあんまり「仲間」とは言いたくないんだけどね。

ははは、ツンデレごちそうさまです。いや、でも、その意味もよくわかるんですよ。

倉本:うん。でしょ? だけど、彼女みたいなやり方をしていたり、オレみたいなやり方をしているやつが、べつに特別じゃないって思えたんだよね。

SS:そう! そうだね。

倉本:普通じゃん? みたいなね。

SS:特別扱いしないし。

倉本:彼女のやっていることもオレがやっていることも、普通。生活として見ているっていうかね。

ああー、生活。

SS:同じ高さで受け入れてくれて。それがナチュラルだと思うんだけど、日本でそうじゃなかったのはなぜなのかなって考えた。

それは、自分のまわりになかっただけで、日本でも探せばありそうってことですか? それともあの場所だからこそのもの?

SS:それ、いろんな人に言うの。日本にそんな場所はないよって。でもひとつ行き着いた結論は、日本が単純に狭いっていうこと。

ああー、面積としてね。アメリカはやはり一にも二にもあの広大な国土や人口、人種の多さっていう点で、日本とはあまりに条件が違いますよね。

SS:こんなに似た人がいっぱいいる! って思うけど、分母が違うし。〈NNF〉みたいにアンダーグラウンドな人たちとかじゃない、もっと普通の人が多数であることは間違いないと思うから、そういう部分が見えなかっただけなのかもしれないです。
 わたしカリフォルニアしか知らないけど、もっと保守的なところは保守的なんだろうなって。日本はずっとちっちゃいなかにシーンがあってすごいと思う。

彼女みたいなやり方をしていたり、オレみたいなやり方をしているやつが、べつに特別じゃないって思えたんだよね。(倉本)

同じ高さで受け入れてくれて。それがナチュラルだと思うんだけど、日本でそうじゃなかったのはなぜなのかなって考えた。(Sapphire Slows)

倉本:ロスに限って言えば、何かしらから逃げてる人が多いかな。

SS:そういう言い方はネガティヴだよ。

倉本:いや、でもネガティヴってだけでもなくて、それも含めてやっぱりロスは夢を求めてやってくる街なんじゃないかな。

なるほど。逃げるっていうのが、必ずしも「ルーザー」としてじゃなくて。

倉本:うん、そうじゃなくてね。ただ、そういう文化を育む場所として、アメリカがどうで日本がどうでっていう比較は、オレはちょっとできないなって思う。日本には日本のカルチャーの歴史があって、それはリスペクトしてるからさ。そこで自分がやっていけるかというと別問題だけど、その重さは感じているし、ロスと比較していいとか悪いってことを判断できないな。

そうだね。なるほどね。

倉本:僕も彼女もどうなるかわからないけど、ずっと続けられたらこっちのカルチャーともまた違うものになっていくのかもしれないし。

SS:ずーっと続けてたら、この時期のものをこういうカルチャーだったんだっていうふうに見直すことができるかもしれないけど、まだわからない。

倉本:これから何年もして、サファイア・スロウズに影響を受けて、音楽を作ったりDJをしたりするっていう女の子が出てきたりしたら、また環境は変わるかもしれないよね。

SS:わたしは、いい時代だと思う。

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インディ・カルチャーって、そういうこと。

ところで先ほどのお話のように、アメリカはいろんな点で非常に大きいわけで、シーンといっても多層的ですし、マーケットも一様ではないですよね。「ピッチフォーク」とか「タイニー・ミックス・テープス」のようなメディアに接しているかぎりでは、そうしたLAアンダーグラウンドってすごく大きな話題を提供しているように見えるんですが、実際のところどんなものなんでしょう?

倉本:いや、大したことないよね。

SS:たしかにね。

倉本:ただ、爆発的に売れたバンドはいくつかはいるんだよね。ピーキング・ライツとかはすごい売れたんじゃない? わりと若い子がみんな聴いてる、みたいなさ。

ピーキング・ライツみたいなものが――いや、わたしはもちろん好きなんだけど――爆発的に売れるっていうのは、すごいよね。いいことじゃない?

SS:どうかなあ……、そんなに売れたの?

倉本:いや、ピーキング・ライツはね、売れたよ。

SS:〈NNF〉史上もっとも(売れた)ってことじゃなくて?

倉本:それもそうだし、やってるハコなんかを見てもすごいんだよ。

SS:それは、いいことだよね。

じゃあさ、〈ヒッポス・イン・タンクス〉でもいいし〈メキシカン・サマー〉でも〈ソフトウェア〉でも〈キャプチャード・トラックス〉でも〈アンダーウォーターピープル〉でも何でもいいんだけど、「TMT」なり「ピッチフォーク」なりが喧伝する新興の小規模なインディって、ちゃんと局地的な評価だけじゃなくて、文化全般にインパクトを与えてるんだ?

倉本:うーん、難しいな。でも一部が盛り上がってますって話ではないよ、確実に。どっちかといえばメディアの構造の問題かな。日本と比較すると。いま言ったメディアは確実な影響力は持っているけれども、リアリティがあるわけじゃないから。

ああ、なるほどね。

SS:なんか、むしろ世界的には評価されてるけど、ロサンゼルスのなかでは変なレーベルだと思われてるって、アマンダがインタヴューで答えてた気がする。それはすごいわかるな。情報と、実際の地元での感じ方って違うと思う。

倉本:そうだね。なんだろう、アメリカのインディ・ミュージックって超オーヴァーグラウンドと超アンダーグラウンドっていう二極だけじゃなくて、その間のグレーな部分がすごく広いんだよね。そこに細かいマーケットもいっぱいある。レコ屋同士のネットワークとか、ディストリビューター同士のネットワークとかももちろん、さっきのインターネットの音楽メディアとか。そこに多様な市場が成立してるってことが、たぶん唯一断言できる日本とアメリカのシーンの違いだね。

うん、うん。日本とUKなんかは、そのへんの構造は似てるのかも。

倉本:だから、いま挙がったレーベルなんかは、みんなそのグレーな領域にいるんだよね。かつその上でギリギリに食えてる。だから音楽メディアにしてもそのあたりの新しい動きはつねに求めてる、っていう。

SS:アメリカは、アンダーグラウンドはアンダーグラウンドでちゃんと支えるシステムができあがってる。ジャーナリストもパブリッシャーもそう。みんなそれで食べていかなくちゃいけないから、一生懸命アンダーグラウンドのものをプロモートするよね。だからすごくアングラな音楽とかでも、著作権料やら何やらが食えるだけ入ってきたりするの。それって、日本とかじゃありえないかも。そういうところはいいなって思うかな。

アメリカのインディ・ミュージックって超オーヴァーグラウンドと超アンダーグラウンドっていう二極だけじゃなくて、その間のグレーな部分がすごく広いんだよね。そこに細かいマーケットもいっぱいある。(倉本)

単純に真似のできない部分ですね。

SS:それぞれのアーティストも、ひとつだけじゃなくてたくさんのレーベルから出していたりするじゃないですか。各レーベルには各レーベルの性格とかファミリーがあるけど、アーティストはさらにそこにたくさんまたがっているから、それだけでものすごくストーリーがある。だから音楽が難しくっても、そういう人脈図とかストーリーがあることですごく理解しやすくなるのかもしれない。

ああ、たしかに外にいる人間のほうが、原理主義的に音で判断しようとして難しくとらえてしまうかもしれませんね。そう、わたし、倉本さんがいったい何で生活してるのかっていうのもいまひとつ謎なんだけどさ。倉本さんが言うような「LA的時間」――彼らにお願いしたら最後、ありえないほど時間かけてミックスしてくるとかね、そういう時間感覚がどうやったら生めるのかなって……

倉本:いや、それはただやつらがガンジャの吸いすぎっていうことだけどさ。

はは。まあまあ、そうかもしれないけどね、じゃあそんな彼らがどうしてそうやってゆったり生きていられるのかっていうところを知りたいんだよね。何で生活できてるの?

SS:それ、わたしも知りたい。

倉本:そんなのは人それぞれ。言えない事情も言える事情もあるだろうけれども。

SS:まあ、そうか。

そうなの? それは本当にただそれぞれに個別具体的な事情があるだけっていう、一般化できない種類のことなの? なんかさ、US的なシーンの構造を移植することが無理でも、シンセいじってタラタラっと生きていけるヒントみたいなものがあるんだったら参考にしたいじゃない。日本だと、どんなに余裕かましてるふうでも、どっかで必死にバイトしなきゃ生活できないでしょ。まあ、経済の仕組みの話になっちゃうかもしれないけど。

倉本:なんだろう、いろいろ思うんだけど、さっき彼女が言った小さいマーケットで経済が回るって話は、音楽に限らずサブカルチャー全般に対して言えることなんだよね。やっぱり教科書的な意味で歴史の浅い国だから、文化の長い蓄積がない。だから音楽でもアートでも何でも、そういう文化を穴埋めしようと人々が貪欲な気がする。もちろんクリスチャニティーとかもあるけど。ギャラリーにゴミみたいなもの並べといても、近所のおじいちゃんが入ってきたりするし、21時以降にゼロで爆音でライヴやったりもするし。まあ、近所の人が怒って怒鳴り込みにくる可能性はあるとしてもね。でもぜんぜん関係ない人が外から覗きにきたりとか、よくも悪くも緊張感がない。

なるほどね、やっぱ宅急便の到着がちょっと遅くてキレてるようじゃ、簡単にはいかないか。さて、そんな場所にね、おふたりともいままた向かおうとしているわけですが。晩秋に向けて、USツアー&大西洋放浪がはじまりますね。

倉本:話、とんだね! いいけどさ(笑)。

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旅の行程、2013秋

倉本:サファイア・スロウズのツアーはどんな感じなの? 誰と回るのかな。

SS:その都市によって違うんだけど、やっぱり〈NNF〉な感じ、〈シルク〉な感じだよ。あとはジャーナリズム系。まずトロントではザ・ディープ周辺が住んでるから、それ系の人たち。大きめのイヴェント会社がプロモートしてくれてる。モントリオールはEzlv。あとマリー・デヴィッドソンっていう女の子もいる。ダーティ・ビーチズの知り合い。ニューヨークはたまたま〈CMJ〉があるから、そこにかぶせて行くの。ニューヨークは最後までなかなか決まらなかったけど、友達のアーティストに訊きまくって、プロモーターとかにもメールしまくって、最終的にはけっこういっぱい入ったかな。〈デス・バイ・オーディオ〉でトーン・ホークとかとやるの。わたしルーク・ワイアット(トーン・ホーク)大好き。あとホワイト・ポピーもいる。〈ゴリラVSベア〉とか〈ユアーズ・トゥルーリー〉プレゼンツのイヴェントがあったりもする。そのあとボルチモア、フィラデルフィア。このへんはコ・ラと行くの。そのあとはコネチカットの大学。そこの生徒さんが呼んでくれて。

倉本:大学でやんの?

SS:うん。すごいリベラルな感じだよ? その後がメキシコ。メキシコはサファイア・スロウズをはじめたばっかりのときにミックスを作ってくれっていうレーベルがあって、その縁。ダメ元でメールを送ってみたら返事がきて。しっかり組んでくれたんだ。そこ、ちょっと前にディーン・ブラントとかモノポリー・チャイルド・スター・サーチャーズとかも喚んでて、わたしと音楽の趣味が似てそう。そういうアングラなアーティストをガンガン招いててさ、すごいよね。

飛び込みだったりするものなんですか?

SS:結局はレーベルのプロモート会社とか仲間のつながりかな。あとはアーティスト同士のリスペクトっていうか、「お前の音楽好きだから」みたいな関係。

あ、それは理想的というか、演る方もうれしいですよね。

SS:うん。楽しい。ビジネスにはならないけど、結局そういうのがいちばん気合入ってたりするから。ポスター作ってくれたり、デコレーションを気合い入れてやってくれたり。頼んでないのにいろいろやってくれる。仲良くなれるしね。

へえー。それは素敵ですね。ニューヨークだ、〈CMJ〉だ、ってなると、観ている側も腕組みしてそう。ショーケースとして値踏みされるというか。

SS:観てる人は批評家だったり。でも初めてだからそれも楽しみ。ぜんぜん違う雰囲気のところを回るから、わくわくしてますよ。それに、最後にロスなんですね。

ああ、最後にホームへと。

SS:そう。最後にホームだからリラックスできる。ちょうどその頃倉本さんもLAに戻ってくるしね。

倉本:いや、戻ってこれればいいんだけど。

ん?

SS:戻ってくればいいじゃん。

倉本:いや、片道しか買ってないんだよ、チケット。

ははっ、すごいね。転がる石のように。かっけー(笑)。

倉本:いや、じゃあオレの予定を説明すると、そういうのはないよ。毎回ないよ。目的とか。

そりゃ、片道切符じゃね(笑)。

倉本:そう。人の家転がって。それだけだよ。

会いたい人たちがいるし、その人たちと遊びやすい環境なんじゃないかな。何か特別にすることがなくても、集まっていたら楽しい。(Sapphire Slows)

でも、今回ヨーロッパが予定にあるのはなぜですか?

倉本:あんまり行ってなかったから。ヨーロッパにも好きなアーティストはいっぱいいるし、いままでコラボレーションとかアートワークとか、モノ作りの過程でコンタクトを取って仲良くなった連中もいっぱいいるからね。そういうやつらが実際何をどうやっているのかっていう現場も見たいし。

そこはさ、いざ行ってみたら「マジで来たの!?」みたいなことにはならないの?

倉本:まあでも、こんな変なことやってるやつらはたいていオープンだよ、そこは。東京でもそうだし、ヨーロッパでもどこでも。貧乏なクリエイター同士はそういうもんじゃないかなあ。

なるほどね、そういうなかではやっぱり、LAというのはひとつのホームではあるのかな。そこを最終的な目的地として行くわけだよね?

倉本:いや……。まあ、そこはメディカル・ウィードとかもあるけど(笑)。オレは西海岸が過ごしやすいってだけだから。

本当にツンだな。何しに行くの? 本当に、「今回はこれやって帰ってこよう」っていうような目的はないの?

倉本:いや、ピート・スワンソンをシバいてこようってのはあるよ。

SS:ははは!

ああ(笑)、来日させようと奔走してたもんね。

倉本:うん。まあ、それくらいだよ。他にシバきたいやつはとくにいないね(笑)。なんかある?

SS:わたしは一回しか行ったことがないからホームっていうのはないけど、前回行って出会った人たちに、もう一度会いにいきたい。でも、音楽的にはホームかもしれないね。

倉本:なんか、場所じゃないよね。オレも彼女もたまたまLAだったってだけだよ。仲良くなって気が合った連中がそこにいるっていうだけ。

SS:LAのビーチに行きたいとか、そういうのもない。

倉本:もちろんサイケデリックとか、スケートボードとか。あの周辺のカウンター・カルチャーの歴史には魅了されつづけているけど、いちばん大きいのは人だね。

SS:会いたい人たちがいるし、その人たちと遊びやすい環境なんじゃないかな。何か特別にすることがなくても、集まっていたら楽しい。スタジオも持ってたりするし、夜はクラブに出かけたりとか。

人っていうのは、今回キーになるお話ですね。

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物(モノ)をつくること・モノにやれること

さて、ではパッケージに寄せるフェティッシュな興味というところでもうひとつ訊きたいんですが。おふたりはべつにベタな懐古趣味でヴァイナルに向き合っているわけでもないですよね。

SS:メディアってことで言えば、アナログもCDも何でも、わたしにとってはどれも同じで――だって最初から全部あったものだから、どれが古いとか新しいとかあんまり感じない――、その中から何を選ぶかっていうだけなんですよね。年配の人がノスタルジーで買うというのともぜんぜん違うし。音楽ってかたちのないものだから、作品として考えたときに、どれだけの人の手がかかっているかっていうことはすごく大きいと思う。すごくその音楽が好きだとしても、MP3なのか、凝ったディティールを持って他人の手間を経て作られたものなのかで、少しこっちの気持ちも変わってくる。そこは、どんどんこれからの時代で変化していく指数だと思う。いまはハードが小さくなって、ほとんど何も持たなくていい。わたしくらいの年代だと、その意味でモノがないのが普通だから。その反動は、もしかしたらちょっとあるかもしれないけど。

さっき、モノを作る、とくにヴァイナルなんて作っちゃうことに「本気」を見るというお話がありましたけれども、これって、「ポスト・インターネット的な過剰な情報社会への素朴なアレルギー」みたいなロジックでアナログ志向を断罪するのとは違うレベルの話だと思うんですね。けっこうちゃんと語られていい部分だと思う。ロハス的なモチベでアナログ礼賛、っていうおめでたい話と違うよね。モノの後ろに定量化できない財があるというか――人の手間だったり、関係だったり。その視点はあんまり聞いたことがないですね。

SS:おんなじ内容でも、人の気持ちとか手間がかかっているものと、インスタントで出されたものだと、どっちを買うかっていうのは単純に迷うと思う。経済の話になってしまうけれど。

簡単に比べられないですよね。倉本さんはまさにレーベルを運営する身でもあって、作っている側の視点もあるかと思いますが、まずなんでそういうことをやってるの?

音楽ってかたちのないものだから、作品として考えたときに、どれだけの人の手がかかっているかっていうことはすごく大きいと思う。(Sapphire Slows)

倉本:オレの場合は単純で、制作ってことが自分にとっていちばん簡単なコミュニケーションだから。ポスターでもテープでもジャケットでもなんでもいいけど、何かフィジカルがあって、それを「はいよ」って渡すのがいちばんわかりやすいでしょ? 「僕はこれこれこういうことをやっておりまして」って会って説明するのもいいんだけど、オレにとっては音とかアートワーク方が早い。もうそれは、どう受け取ってもらってもいいんだよね。嫌いだったら嫌いでもいいし。

SS:うん。ビジネス・カード渡されて、「僕こういうことやってて、あとでリンク送るんで」って言われても絶対見ないもんね。

あははは!

倉本:オレ、それできないしね。得意ではないし、めんどくさいし。それに、オレがこうやってドリフトできるのも、そういうコミュニケーションというか、モノのおかげなんだよ。言語を超えていくコミュニケーションだと思ってる。

SS:普通のコミュニケーションが下手な人多いかも。

なるほどなあ。お金というか、貨幣ってさ、貯めるものじゃなくて、何かと交換するためのものでもあるわけでしょ? コミュニケーションというか。そういうアクティヴなお金みたいに働いてるんだね、作品が。

SS:いっしょにツアーを回ったりしても、そのアーティストにとっていちばんわかりやすいものはやっぱり作品で、「彼女はこういう人で……」って紹介されてもね。なんやねん? ってなっちゃう。

倉本:まあ、そこで好奇心をそそられればべつにいいんだけど。僕らの世代もなかなかドライだから、言葉で言われたからってそいつのリンク先までにはなかなか行かないよね……。よっぽどのことだよ。でもフィジカルがあってトレードして、ってことになると、そこに生まれるつながりってすごく印象的なものになるし、否応ないところがあるから。

SS:音楽を聴いてもらうって簡単なことじゃないから。

ああー。

倉本:うん、簡単じゃないよね。

SS:インターネット広告をクリックするかどうかくらいの難しさがあるかな。すごくハーロルが高いと思う。

倉本:いまはほんと、大変だよね。

SS:どこクリックしても音が鳴るからね。

ははは。たしかに(笑)。

倉本:でも僕はちょっと事情が違っていて、いちアーティストとして自分の音を聴いてほしいっていうモチヴェーションがないからなあ。もっとすごく個人的な作業なんだよね。自分の快楽のためにやっちゃってるだけというか。そこはサファイア・スロウズとか、ちゃんとアーティストとしてやっている人とは違うかもしれない。たまたまおもしろいと言ってくれる人がいたり、気が合ったりする人がいるだけでね。
 でもなあ……。なんだろう、やっぱりモノじゃないと聴かないよねー?

ああ……、その言葉はね、深いよ(笑)。思っている以上に。

SS:わたしは、本当に、聴いてもらわないと何もはじまらないから。おもしろいもので、海外からアーティストが来たときとか、わたしが行ったときとか、初めはみんなわたしに超冷たいの。

ええー。

SS:冷たいっていうか、よそよそしいっていうか。日本人の女の子ってやっぱりちょっと浮くし、単純にわたしの見た目から、サファイア・スロウズが鳴らすみたいな音って全然想像つかないでしょ? それはよくわかるんだけど、でもライヴをした後は超態度が変わる! 納得するんだと思うの。音楽を聴いて。だから、どんなに説明したって無駄で、音楽を聴いてもらう以外に方法がない。

倉本:救われるんだ、そこで。

SS:うん、救われる。

倉本:いいっすね、それは。

SS:みんな自分の音楽を好きかどうかはともかく、とりあえずそこで初めて認めてもらえて、対等になる。そこで急にいろいろ話しかけられはじめるの。ナイト・ジュエルたちもそうだった。ライヴが終わったあとに距離が詰まる。


オレがこうやってドリフトできるのも、そういうコミュニケーションというか、モノのおかげなんだよ。言語を超えていくコミュニケーションだと思ってる。(倉本)

倉本:まあ、あとは、懐古趣味に戻るっていうのも、オレはわかるけどね。そういうフェティシズムはすごくあるから。カセットもヴァイナルもモノとして好き。アートワークは単純にCDよりも大きいほうがいい。

うん。それも結局は大きいというか、それなしには生まれてこないものかもね。

倉本:アナログ・シンセが好きっていうのも同じだよ。ソフトウェア・シンセもぜんぜんオッケーだし、ライヴだってそれで足りるだろうけど、単純にアナログ・シンセが好きだから。オレの場合、制作がシルクスクリーンだったり、モジュラーシンセだったりするけど、それって誰もが使えるわけではないでしょ。いちおう習得してる技術なわけで。そういうものを持っていると、なんていうか、黙っていられる。職人でいたい。

ああー。

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それが国内だとはかぎらない

倉本:うん。それに、わざわざテープ作るとかバカバカしいことをやっている時点で、人とコミュニケーションを取れる可能性が生まれてもいる。誰でもできるけど、たまたまバカバカし過ぎて人がやっていないということをね。やっぱりそういうのがいちばん好き。

SS:うん。わたしたちのやっていることなんて何の価値もないかも。

倉本:そうね。

活きた手段として、あるいはそのまま実存として、アナログ・メディアがあるんだね。

SS:どっちかというと、倉本さんはアートワークじゃん。わたしは中身をやってる。その違いは少しあるかも。

倉本:でも、サファイア・スロウズが〈NNF〉とか〈BIG LOVE〉から出してるのは、すごく彼女のヴィジョンに合っていることだと思うから、その点――自分のヴィジョンに合ったところにちゃんと収まってるっていうところでは、オレも同じだと思う。

SS:自分とピタッとあった場所を探し当てるというのは、みんななかなかできないことかもしれないけど――

倉本:いや、ないのかもしれないよ。ピタッと合う場所なんて。

SS:ああ、そうなのかなあ。

ひとつ言えるのは、自分が想像しているよりもいい環境っていうのは、じつはあるっていうこと。(倉本)

そっか、自分たちは幸運だということ?

倉本:うーん。ただ、ひとつ言えるのは、自分が想像しているよりもいい環境っていうのは、じつはあるっていうこと。

ああー。

SS:うん。生きていけるところってあるよ。

倉本:「あー、なんか新しいことやりたいと思ってるんだけど、やりづれえな」って思ってるような人がいても、わりとどっかにあるんだよ。べつに、国内でも。

SS:うん、本当にそう。そこにたどり着く手段って絶対あるよ。

倉本:それはネットを見ててもなかなか見つからないから、動くしかないんだけどさ。オレがサファイア・スロウズでいちばんすげぇなって思ってるのは、すごくオープンなところなんだよね、何に対しても。

そうなんだねえー。

SS:そうなのかな……。

倉本:うん。オレはもう、超排他的なアナログ野郎だけどさ。「あのバンドどうっすか?」「クソっすよ」みたいなね。

はは。まあ、「すべてがクソ」ってことにおいて逆にすべてにオープンだという感じもあるけどね。

SS:ははは。ぜんぜんわかんない!

倉本:それは……ないけどね。

(笑)

倉本:まあ、とにかく、彼女は日本人離れしてるくらいに物事に対して偏見がないと思うし、人に対して閉じてないよ。

なるほどなあ。

倉本:それが、音楽とか活動にも通じていってるのかもしれないし。

SS:閉じたくなる人もいっぱいいるけどね。でも、いますごくうまくいっていると思う。

ポジティヴな状況なんですね。あ、でも偏見なく物事に接すると、そうネガティヴってこともなくなるのかな。「ガラパゴス」という表現に顕著なように、ここしばらくは閉じることに一種の開き直りを見せる考え方にも影響力があったので、おふたりのお話は新鮮な感じがしました。ツアー、気をつけて行ってきてくださいね!


松浦俊夫 - ele-king

今年11年ぶりに新しいプロジェクト"HEX"でアルバムをブルーノートからリリースした松浦俊夫と申します。今年特に印象的だったダンス・ミュージックを10曲選びました。他にもKalabrese,Todd Terje,Tommy Rawson,Omar Souleyman,Moritz von Oswald & Nils Petter Molvaerなど素晴らしい作品が沢山発表されました。来年もたくさんの素晴らしい音楽に出会えますように。来年は夏のヨーロッパ・ツアーを筆頭にHEXの活動を本格化させていきますのでどうぞよろしくお願いします。

https://www.toshiomatsuura.com/
https://www.hex-music.com/
https://www.universal-music.co.jp/hex/

BEST DANCE TRACKS 2013(順不同)


Fat Freddy's Drop / Mother Mother(P-Vine)

Jimpster / These Times -Dixon Retouch (Freerange)

Koreless / Sun (Young Turks)

Diego Barber & Hugo Cipres / Poncho (Origin)

DJ Rashad & DJ Manny / Drums Please(Hyperdub)

Satanicpornocultshop / Maiden Voyage (neji/nunulaxnulan)

Bonobo / Cirrus (Ninja Tune/Beat)

Soy Mustafa / Bug In The Bassbin (Cinematic Recordings)

Haim / Falling-Duke Dumont Remix (Polydor)

Disclosure / January (Universal)

P-RUFF (radloop) - ele-king

次作がMIX TAPEということで、近年リリースのカセット作品10本をセレクトしました。
radloopからの第二弾7inch、Ackky / painting in novemberが好評販売中。
radloop.com
2014年もリリース予定していますのでよろしくお願いします!

CASSETTE TAPE 10選


1
Les Halles -  Magnetophonique - Split II [Carpi Records]
https://carpi-records.bandcamp.com/album/cr-08-split-ii

2
Niityt - Niityt [Ikuisuus]
https://www.ikuisuus.net/products.php?id=7431&kategoriaLevy=12

3
Bataille Solaire - Documentaires [Constellation Tatsu]
https://www.ctatsu.com/portfolio/bataille-solaire/

4
Filthy Huns - Watch of the Bear [NOT NOT FUN]
https://www.notnotfun.com/posts/filthy-huns-st-cs/

5
The Smoke Clears - Listen [Further Records]
https://furtherrecords.org/album/listen

6
Stag Hare - Angel Tech [Space Slave]
https://spaceslave.bandcamp.com/album/angel-tech-2

7
Julia Holter - Live Recordings [NNA Tapes]
https://nnatapes.com/available-releases/julia-holter-live-recordings-c54/

8
Meadowlands - Cross-Sectional Studies [Exo Tapes]
https://exotapes.tumblr.com/post/23054489058/

9
Celer And Hakobune - Vain Shapes And Intricate Parapets [Chemical Tapes]
https://celer.bandcamp.com/album/vain-shapes-and-intricate-parapets

10
Woodpecker Wooliams And Golden Cup Meet Love Cult - In Russia [Full of Nothing]
https://fullofnothing.net/fon38/

Ambient Patrol - ele-king

 『テクノ・ディフィニティヴ』に続いて『アンビエント・ディフィニティヴ』を出さないかと言われた時は本当に戸惑った。スタジオボイス誌に特集を持ちかけた行きがかりもあって、それをベースにしたカタログ本をつくるところまでは勢いで進められたものの、もともと専門家の意識があったわけではないし、単行本化の過程でいかに手に入らない音源が多いか思い知らされたからである。どちらかというと違った考えを持った人が別なタイプのカタログ本を出してくれた方が気が楽になれると思っていたぐらいで、しかし、そういったことは起こらないどころか、僕の知る限り、体系の方法論だったり、構成の仕方に対する批評も批判も何も出てこなかった。もっといえば書評ひとつ出ないのになぜかやたらと売れてしまったし(渋谷のタワーブックスでは年間2位ですよ)。

 これで『テクノ・ディフィニティヴ』までつくったら、ダメ押しになってしまうではないかと思ったものの、前につくった2冊の編集部が閉鎖されることになり、自動的に絶版が決定し、それまで入手できないと思っていたレア盤のいくつかを聴く機会にも恵まれたので(PDUの3大名作が全部、再発されるとは!)、なんとか乗りかかった船をもう一度、押そうかという気になった。ジャン・ジャック・ペリーのソロ作やグラヴィティ・アジャスターズといった過去のそればかりでなく、OPNやメデリン・マーキーといった新人たちの作品が素晴らしかったことも大きい。ルラクルーザ、トモヨシ・ダテ、マシュー・セイジ……。新世代のどの作品も素晴らしく、モーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルやミラー・トゥ・ミラーをその年の代表作(=大枠)にできなかったのは自分でも驚くぐらいである。

 アンビエント・ミュージックは06年を3回目のピークとしてリリース量はこのところ毎年のように減っている。しかし、これまでにもっともリリース量が多かった94~95年はいわば粗製乱造で、量が多かったからといって必ずしも全体の質もよかったわけではない。金になると思って寄ってきた人が多かったということなのかなんなのか、素晴らしい作品とそうでない作品にはあまりに差があり、いいものは量のなかに埋もれがちだった。ブッダスティック・トランスペアレンツなんて、当時はデザインだけ見て、なんだ、トランスか…と思っていたぐらいだし。セバスチャン・エスコフェの果敢な試みに気がつくのも僕は遅かった。

 最近は、しかし、むしろ、いいものが多すぎて拾いきれないというのが正直なところである。適当に買ってもあまり外さないし、そこそこ満足しがちである。もっといいものがあるかもしれないという強迫観念は90年代よりもいまの方が強くなっている。あると思い込むのも危険だし、だからといっ てないとはやはり言い切れない。これは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。いずれにしろ『アンビエント・ディフィニティヴ』に間に合わなかった2013年後半のリリースから10点ほどを以下で紹介いたしましょう。すでに本をお持ちの方はプリント・アウトして最後のページに挟みこみましょう~。

1. Patryk Zakrocki / Martian Landscape (Bolt)

 いきなり詳細不明。ポーランドから40歳ぐらいのパーカッション奏者? アニメイター? 基本はジャズ畑なのか、ポーリッシュ・インプロヴァイザー・オーケストラなど様々なグループに属しつつ10枚近くのアルバムと、06年にはポスト・クラシカル的なソロ作もあるみたいで、ここではマリンバによるミニマル・ミュージックを展開。『火星の風景』と題され、子どもの頃にSF映画で観た火星に思いを馳せながら、繊細で優しい音色がどこまでも広がる。ミニマルといっても展開のないそれではなく、山あり谷ありのストーリーありきで、現代音楽にもかかわらずトリップ度100%を超えている。涼しい音の乱舞は夏の定番になること請け合いです。イエー。

2. Various / I Am The Center (Light In The Attic)


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 これは素晴らしいというか、実にアメリカらしい企画で、1950年から1990年までの40年間(つまり、アンビエント・ミュージックが商業的に成功する直前まで)にアメリカでプライヴェート・リリースされたニュー・エイジ・ミュージックをシアトルの再発系サイケ・レーベルが20曲ほどコンパイル。ヤソスやララージといったビッグ・ネームから『アンビエント・ディフィニティヴ』でも取り上げた多くの作家たちが、かなり良いセンスでまとめられている(こうやって聴くとスティーヴン・ハルパーンもあまりいかがわしく聴こえない)。OPNが『リターナル』をリリースした頃からアメリカでは「アンビエント」ではなく「ニュー・エイジ」という単語がよく使われるようになっていて、アメリカの宗教観がぐらぐらに揺れているのがよくわかる。元がいわゆる私家版だけに詳細を極めるブックレット付き。

3. Donato Dozzy / Plays Bee Mask (Spectrum Spool)


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 イタリアン・ダブ・テクノの急先鋒とUSアンダーグラウンドのルーキーが2012年に苗場のラビリンスで意気投合し、ルーム40からリリースされた後者による『ヴェイパーウェアー』を前者がヴェイパー・リミックスするはずが……いつしかフル・アルバムへと発展。DJノブが『ドリーム・イントゥー・ドリーム』でも使っていた曲から驚くほど多様なポテンシャルが引き出されている。ゼロ年代後半からノイズ・ドローンなどを多種多様な実験音楽を展開していたビー・マスクからアンビエント的な側面を取り出したのはエメラルズのジョン・エリオットで、リリースも彼がA&Rを務める〈スペクトラム・シュプール〉から。

(全曲試聴) https://www.youtube.com/playlist?list=PLE9phMAwHQN5V6oNfDk-dVc6eRL5CiNgE

4. Karen Gwyer / Needs Continuum (No Pain In Pop)


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 〈ワープ〉に移籍したパッテンのカレイドスコープから13本限定のカセットでデビューしたカレン・ワイアーの2作目で、ミシガン州時代には旧友であるローレル・ヘイローのデトロイト解体プロジェクト、キング・フィーリックスとも関係していたらしい(現在はロンドンに移住)。この夏にはトーン・ホークとのコラボレイション「カウボーイ(フォー・カレン)」でも名が知られるようになり、どことなく方向性がナゾめいてきたものの、ここではクラスターから強迫性を差し引き、なんとも淡々としたフェミニンな変奏がメインをなしている。あるいはジュリアナ・バーウィックとOPNの中間とでもいうか。〈ワープ〉の配信サイト、ブリープが年間ベストのトップ10に選んでいるので、来年はパッテンに続いて〈ワープ〉への移籍も充分にありそう。

5. Gaston Arevalo / Rollin Ballads (Oktaf)


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 波に乗っているマーゼン・ジュールがセルフ・レーベル、〈オクターフ〉からアルバム・デビューさせたウルグアイの新人。さざなみのようにオーガニックなドローンを基本としつつ、大した変化もないのにまったく飽きさせない。ペターッとしているのに非常に透明感が高く、何がではなく、ただ「流れ」という概念だけがパッケージされているというか。カレン・ワイアー同様、あまりに淡々としていて人間が演奏していることも忘れてしまいがち。マスタリングはテイラー・デュプリー。

6. Madegg / Cute Dream (Daen)


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 〈デイトリッパー〉からの『キコ』に続いて5曲入りカセット。コロコロと転がる硬い音がアメリカの50年代にあったような電子音楽を想起させるパターンとフィールド・レコーディングを駆使した側面はなんとも日本的(どうしてそう感じるんだろう?)。安らぎと遊びが同居できる感じは初期のワールズ・エンド・ガールフレンドに通じるものがあり、とくにオープニングはトーマス・フェルマンまで掛け合わせたような抜群のセンス。エンディングもいい。フル・アルバムもお願いします。

7. Alio Die & Zeit / A Circular Quest(Hic Sunt Leones)


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 ライヴ・アルバムを挟んで4回目のスタジオ・コラボレイト。庭園に降り注ぐ優しい日差しのなかで果てしなくトロケてしまいそうだった3作目とはがらっと違って全体にモノトーンで統一され、悠久の時を感じさせるような仕上がりに。デザインもイスラムの建築物を内外から写したフォトグラフがふんだんに使用され、「カタチあるもの」に残された人間の痕跡になんとなく思いが飛んでしまう。イッツ・オンリー・メディテイション!

8. Aus / Alpha Heaven (Denovali)


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 モントリオールから2007年にアンビエント・タッチの『ホワイト・ホース』とノイズじみた『ブラック・ホース』を2枚同時にリリースしてデビューした2人組による10作目で、これはロマンティックなムードに満ちた甘ったれ盤。ロック的な感性というと御幣があるかもしれないけれど、コクトー・ツインズが現役だったら、こんなことをやっていただろうと思わせる感じは、現在の〈トライ・アングル〉とも直結する感性だろう。インダストリアル・ムーヴメントに取り残されたウィチネスが「そっちじゃない、そっちじゃない」と手招きしているような……

9. Tim Hecker / Virgins (Kranky)


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 同じモントリオールから、もはやベテランのティム・ヘッカーは……エレキングの年末ベスト号を参照下さい。キズだらけの毅が素敵な文字の羅列を試みているはずです(まさかの本邦初となる国内盤ではライナーノーツを書かせていただきました)。

 そして……

10. Deep Magic / Reflections Of Most Forgotten Love (Preservation)


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 まさに校了日の次の日。1週間早く手にとっていたら2013年の大枠は間違いなくコレだった。当然のことながら、編集作業を終えてからすぐにレヴューを書いたんだけど、鬼のような橋元優歩がいじわるをしてアップしてくれなかったので、以下にそのまま貼るですよ(時事ネタだったので、わかりづらいかもしれませんが)。

……

 “アレックス・グレイはある日気づいたら、アンビエントだったのが変わって、ノイズ・ドローンに変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。” (あそうそたろう)

 サン・アロウでサポート・ギタリストを努めるアレックス・グレイが様々な変名を使い分け、とりわけ、アンビエント志向のディープ・マジックとノイズ・ドローンを展開するD/P/I/(DJパープル・イメージ)が実は同じ人だったのかーという原稿は前にも書いた通りだけど、さらに『リフレクションズ・オブ・モースト・ファガットン・ラヴ』では彼の作風がミュージック・コンクレートに変わっていた。貧して鈍した日本政府が平和憲法という理想を掲げることに疲れ始めてきたのとは対照的に、アレックス・グレイの向学心は音楽の中身をどんどん発展させていく。倉本諒が指摘していたように、これは彼のルーム・メイトであるショーン・マッカンとマシュー・サリヴァンが先に始めたことで、2011年には連名で『ヴァニティ・フェアー』(『アンビエント・ディフィニティヴ』P246)という傑作もすでに世に問われている。それに感化されたとはいえ、それを自分のものにしてしまうスピード感もさることながら、その完成度の高さには舌を巻くしかない。

 アレックス・グレイがこれまでディープ・マジックの名義でリリースしてきた作品のことはすべて忘れていい。彼がアンビエント・ミュージックとしてやってきたことは、ある種の感覚を磨いていただけで、まだコンポジションという概念に辿り着く前段階でしかなかったとさえ言いたくなる。『リフレクションズ・オブ・モースト・ファガットン・ラヴ』にはもちろん、これまでと同じモチーフは散見できる。オープニングがまさにそうだし、桃源郷へと誘い出す留保のなさは最初から際立っている。彼はリスナーをいつも幸福感で満たしてくれるし、そこから外れてしまったわけではない。過剰なランダム・ノイズもピアノの不協和音も、それ以上にパワフルな光の洪水に包まれ、ミュージック・コンクレートを取り入れたからといって手法的ないやらしさはまったくない。あくまでも彼の世界観を強化するために応用されているだけであって、むしろ、ミュージック・コンクレートにはこんなこともできたのかという発見の方が多い。


 前半ではピアノがかつてなく多用されている。『ミュージック・フォー・エアポーツ』のような鎮静作用を伴ったそれではなく、高揚感を煽るダイナミックな展開である。炸裂しているとさえ言える。あるいはそのようなテンションを持続させず、適度に緩急が持ち込まれる辺りはナチスではなく……DJカルチャーに学んだ部分なのだろう。身体性が強く反映され、具体音に主導権が移っていかない辺りはミュージック・コンクレートとは決定的に異なっている。ということはつまり、ザ・KLFが『チル・アウト』(1990年)で試みたことと同じことをやっているに過ぎないともいえる。もしかすると、そうなのかもしれない。しかし、そうだとしてもここにあるのは圧倒的な手法的成熟と、さらにはイギリス的な抒情とはまったく異なるアメリカのオプティミズム、そして、タイトル通り「ほとんど忘れていた愛の回想」があるのだろう(どうやらこの回想は失敗に終わるという筋立てのようだけど)。

 アメリカという国は理想を捨てない。あまりにスピっていたテレンス・マリック監督『ツリー・オブ・ライフ』の内省はアン・リー監督『ライフ・オブ・パイ』でニュー・エイジの肯定、あるいはニュー・エイジが必要とされる理由へと進み、ウォシャウスキー姉弟監督『クラウド・アトラス』で見事なまでに肯定へと向きを変えてしまった。有無を言わせぬ力技である。かなわない。彼らの書いた企画書にお金を出すのは、いまやインド人や中国人かも知れないけれど、つくっているのはやはりアメリカ人である。お金を出す人たちもアメリカに金を出すということである。この手口に学んだらどうかね。

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