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Columns

彼らが“外”に行く理由

彼らが“外”に行く理由

Sapphire Slows × 倉本諒、LAアンダー・グラウンドを語る

Sapphire Slows、倉本諒  司会・構成:橋元優歩 写真:小原泰広 Dec 27,2013 UP

 リゾートではなく、他者としての海外に向き合うようなマジメな渡航体験がどのくらいあるのかわからないけれども、国外をツアーしてまわるアーティストたちの言葉にはやっぱりリアリティとしてのそれがある。「海外ツアーに出るアーティスト」なんていうと、大きな資本によって座組みされた存在であるような印象を持つかもしれないが、今回登場してもらうふたりが活躍するのはインディ・シーンであり、彼らは自身でレーベルやプロモーターとコンタクトを取り、音を介して生まれた互いへの純粋なリスペクトと信頼のもとに、ビジネスというにはあまりに有機的なつながりをたどって海外へと出かけていく人々だ。ポスト・インターネット的な環境において、こうしたことはやろうと思えばそう難しいことではないのだが、同じ環境のもとに、あまりそうしなくてもよい状況――海外の音も国内の音も即時的に同軸でキャッチすることのできる状況――が広がってもいるわけで、彼らのような存在は全体から見ればごく少数にとどまっている。そんなことにコストをかける必要なんてあるんだろうか? と感じるのは筆者ばかりではあるまい。
 だが、「ネットがあればいいじゃない」というのが確実にひとつの真理をえぐる態度だと思いつつも、その理屈によっておのれの自己完結型の出不精に窮屈なエクスキューズを与えがちな筆者は、彼らの体験がとても気になってしまう。コストをかけて外に出ていく理由が、はたして本当に自分に関係ないことなのか?

 個人的な話にかけてすみません。そもそもこの企画は、2000年代を通じてUSアンダーグラウンドのエキサイティングな震源地でありつづけたLAについて、かの地にゆかりの深いアーティストたちから話をきいてみようというものだったのだが、両者の言葉からは、「現地の注目ライヴ・スポット」「知られざるレコード・ショップ」「レーベルと人脈図」などなどといったトピックがつまらなく感じられるようななにか、そこが何を許し、どのように人々を生かしている場所なのかという、より深部にあるリアルを垣間見るような気がした。彼らも住民ではないから、旅行者としての視線も多分に混じっていることだろうけれども、だとすればなおさらわれわれがLAに聴きとるべきことのヒントが含まれているはずだ。

 それからもうひとつ、ちょっと話が飛ぶけれど、アナログ・メディアをめぐる――というよりも「物(モノ)」をめぐる――観念・認識にも新しいひらめきとショックを感じた。それがどんなものかは、まあ以下の対談をご覧いただきたい。アナログ・リリースが有効な方法として定着しきった現在でも、カッコだけのアナログ志向には多少辟易するけれど、そんなことは大した問題ではなかった。彼らの話をきいて、それさえももしかしたらとても大切なものかもしれないと思う。「聴くことがすべて、メディアなど問題ではない」とうそぶいていた時代がわたしにもありました……。
 ともあれ、お読みいただきたい。

■Sapphire Slows(サファイア・スロウズ)
広島出身、東京在住の若き女性プロデューサー。2011年に東京の〈Big Love Records〉から7インチ「Melt」でデビュー。つづいてロサンゼルスの〈Not Not Fun Records〉から「True Breath」をリリース。海外メディアからも注目された。その後複数のシングル・リリースを経て、2013年にはファースト・フル『アレゴリア』を発表。洋・邦を問わず、インディ・シーンのホットな場所でDIYに活動するスタイルに、Jesse Ruinsらと共通する時代性や存在感がある。

Sapphire Slows / Allegoria
(BIG LOVE/Not Not Fun)

Tower HMV Amazon

■倉本諒
カセット・レーベル〈crooked tapes〉代表、イラストレーター兼スクリーン印刷屋、Dreampusherとしての音楽活動に加え、執筆活動も行うなどマルチな才能を持った放浪家。ele-kingにも多数の記事を残している。とくにLAとのつながりが深く、アーティスト/ライター両者の視点を持ったレポートとアーティスト紹介にはつねに鮮度と強度がある。2013年12月より、自身の海外放浪体験をつづる連載「スティル・ドリフティング」がスタートしている。

レコ屋からつながったLAアンダーグラウンド

■サファイア・スロウズさん(以下SS)は、〈ノット・ノット・ファン〉(以下〈NNF〉)にご自身の音源を送ったことがきっかけでリリースやツアーなどの活動に結びついていったわけですよね。そもそもどうして〈NNF〉だったんでしょう?

SS:最初は〈NNF〉か〈オールド・イングリッシュ・スペリング・ビー(Olde English Spelling Bee)〉か、迷ったんですよ。西の〈NNF〉と東の〈OESB〉みたいな感じで両方すごい実験的でかっこよかったから。でもなんとなくLAのほうがアーティストたちの顔が見える感じがしたというか。アマンダ(・ブラウン)とかね。あと、いろんな国の人の作品をポンとリリースしていたりして偏見とかがないと思ったから。よくよく調べれば、リリースしているのがみんな友だちだったりはするんだけど。

倉本:〈OESB〉の場合は、ある程度は匿名性を意識していると思うけどね。

■そうですね。でも〈NNF〉とかって、「顔が見えて偏見もなさそうだから決めちゃえ」というにはあまりに個性があるというか。相性も含めて何かそこにたどり着くまでの順序や研究があったんじゃないかと思うんですが、どうですか?

SS:わたしが自分の音源を送ったときは、もう〈100%シルク〉(以下〈シルク〉)がはじまっていたんですよ。アイタル(『Ital's Theme』SILK-001)とザ・ディープ(『Muddy Tracks』SILK-002)もリリースされていて、それも大きかったかも。アイタルのダニエルはブラック・アイズ(Black Eyes)、ミ・アミ(Mi Ami)のハードコアからセックス・ワーカー(Sex Worker)のドローンを経てアイタルに至っていて、ザ・ディープはダブ/レゲエ。両方普通のハウスなんかじゃなかったんだよね。めちゃくちゃいいなと思ったし、この感じ、このモードだって。そんなふうに思うものって、そのときは他になかった。

■なるほど。〈100%シルク〉って、2000年代のUSインディ・ロックが培ってきたノイズとかアンビエントとかダブみたいなものが、ハウスやディスコに重なっていった場所だと思うんですが、SSさんはそのダンス・ミュージック的な部分が混じるところに反応された感じでしょうか。

SS:べつにハウスとかテクノとかが好きというわけでもないし、インディ・ロックが好きなわけでもなくて、ジャンルとかに分けられない感じがぴったりきたんです。ハウスだったりって名づけるのがアホらしいような、まだ誰にも形容されていないようなもの。……〈シルク〉は結局ハウスになっちゃったけど、最初の頃はそうでもなかったから。

■たしかにはじめはもっと混沌としてましたよね。

SS:だから「ダンスっぽいところに惹かれたのか」と訊かれればそうとも言えるし、そうでもない部分もあります。

倉本:そこはこだわってるよね、前から。ジャンルレスっていうようなところ。

SS:単に自分に知識がないからっていうこともあると思うんだけどね。ルーツが何かって訊かれたときに、何かに特化して聴いてきたわけじゃないから、うまく答えられない。最近は「ルーツがあるのが当たり前」みたいな考え方自体、古い世代の価値観なんじゃないかと思う。他の子たちがどうなのかはわからないけど、わたしとかわたしより下の、新しい世代の音楽の聴き方ってたぶん違うんだよ。少なくとも自分には過去にさかのぼってのわかりやすいルーツとかヒーローみたいなのはない。いまかっこいいかどうか、それだけ。

倉本:たぶん文脈でディグっていったりしないんだよね?

SS:そうだね。レコード屋で買っていると、「最近このレーベルのよく入ってるな」って気づくじゃないですか。そこで初めてレーベル名を意識して、調べてみて、過去にリリースされている音源も聴くという感じです。

■あ、レコ屋をチェックするレディだったんですね。それならよくわかります。では〈BIG LOVE〉さんとか〈JETSET〉さんとかはわりと初めから馴染みの空間だったというか。

SS:うん。あと、いまはなき〈warszawa〉さんとか。だから、バイヤーさんの傾向にもろに影響を受けている面もあるかもしれません。

西の〈NNF〉と東の〈OESB〉みたいな感じで両方すごい実験的でかっこよかったから。でもなんとなくLAのほうがアーティストたちの顔が見える感じがしたというか。(Sapphire Slows)

■うんうん。そう考えると、レコ屋の果たす役割はまだ大きいですね。フェイス商品なんかがとても具体的に入口になりますよね。

SS:わたしの場合、ネットだけじゃたどりつかなかったかも(笑)。

■ネットショップの「おすすめ機能」に感心することもあるんですけど、あの機能が選択肢を増やす一方で、バイヤーさんとか店頭って選択肢を絞ってくれるものですよね。
 さて、レコ屋文化というところでは倉本さんともつながってきます。

倉本:オレがレコ屋で働いてたってだけでしょ!

■うん。

倉本:いや、まあ、オレも結局はかなりの部分をネットでディグるんだけど、ネットの情報だけから得るものって実のところはそれほどリアルでもなくて。たとえばヴァイナルを一枚出すとするよね。それってそれなりに大変な作業でさ。お金もかかるし、リスクもあるし、そこまで儲けがある商売じゃないし。だから、ヴァイナルでいくつか出してるってこと自体が、こいつらは本気でやってるなっていうひとつの指標になるわけじゃない? もちろんインスタントな音源をウェブで共有ファイルにするっていうのも新しいムーヴメントだしおもしろいと思うけど、モノを作るっていうのはやっぱりひとつの「本気」なんだよね。
 オレがいいと感じるレーベルにはそれがあって、だからその意味では彼女が言うように必ずしもジャンルに因る興味ではないかな。もちろんジャンルもあるんだけどね。いまはジャンルとレーベルが1:1で結びついているわけじゃないし、音楽的にはバラバラだけど、何かしら世界観を共有している……そういう点でちゃんと人格を持ったレーベルが好きですね。

SS:「人格」っていう喩えはほんとにそのとおりだと思う。なんとなく「この人好き」っていうのと「この人嫌い」っていうのとがあって、嫌いな人とはつき合えない。そういう感覚がレーベルに対してもあるし、実際に中にいるアーティストとコミュニケーションをとってもそう感じていると思います。


Profile

倉本 諒/Ryo Kuramoto倉本諒/Ryo Kuramoto
1983年生まれ東京都出身、住所不定無職。

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