Home > Columns > 彼らが“外”に行く理由- Sapphire Slows × 倉本諒、LAアンダー・グラウンドを語る
Sapphire Slows、倉本諒 司会・構成:橋元優歩 写真:小原泰広 Dec 27,2013 UP
物(モノ)をつくること・モノにやれること
■さて、ではパッケージに寄せるフェティッシュな興味というところでもうひとつ訊きたいんですが。おふたりはべつにベタな懐古趣味でヴァイナルに向き合っているわけでもないですよね。
SS:メディアってことで言えば、アナログもCDも何でも、わたしにとってはどれも同じで――だって最初から全部あったものだから、どれが古いとか新しいとかあんまり感じない――、その中から何を選ぶかっていうだけなんですよね。年配の人がノスタルジーで買うというのともぜんぜん違うし。音楽ってかたちのないものだから、作品として考えたときに、どれだけの人の手がかかっているかっていうことはすごく大きいと思う。すごくその音楽が好きだとしても、MP3なのか、凝ったディティールを持って他人の手間を経て作られたものなのかで、少しこっちの気持ちも変わってくる。そこは、どんどんこれからの時代で変化していく指数だと思う。いまはハードが小さくなって、ほとんど何も持たなくていい。わたしくらいの年代だと、その意味でモノがないのが普通だから。その反動は、もしかしたらちょっとあるかもしれないけど。
■さっき、モノを作る、とくにヴァイナルなんて作っちゃうことに「本気」を見るというお話がありましたけれども、これって、「ポスト・インターネット的な過剰な情報社会への素朴なアレルギー」みたいなロジックでアナログ志向を断罪するのとは違うレベルの話だと思うんですね。けっこうちゃんと語られていい部分だと思う。ロハス的なモチベでアナログ礼賛、っていうおめでたい話と違うよね。モノの後ろに定量化できない財があるというか――人の手間だったり、関係だったり。その視点はあんまり聞いたことがないですね。
SS:おんなじ内容でも、人の気持ちとか手間がかかっているものと、インスタントで出されたものだと、どっちを買うかっていうのは単純に迷うと思う。経済の話になってしまうけれど。
■簡単に比べられないですよね。倉本さんはまさにレーベルを運営する身でもあって、作っている側の視点もあるかと思いますが、まずなんでそういうことをやってるの?
音楽ってかたちのないものだから、作品として考えたときに、どれだけの人の手がかかっているかっていうことはすごく大きいと思う。(Sapphire Slows)
倉本:オレの場合は単純で、制作ってことが自分にとっていちばん簡単なコミュニケーションだから。ポスターでもテープでもジャケットでもなんでもいいけど、何かフィジカルがあって、それを「はいよ」って渡すのがいちばんわかりやすいでしょ? 「僕はこれこれこういうことをやっておりまして」って会って説明するのもいいんだけど、オレにとっては音とかアートワーク方が早い。もうそれは、どう受け取ってもらってもいいんだよね。嫌いだったら嫌いでもいいし。
SS:うん。ビジネス・カード渡されて、「僕こういうことやってて、あとでリンク送るんで」って言われても絶対見ないもんね。
■あははは!
倉本:オレ、それできないしね。得意ではないし、めんどくさいし。それに、オレがこうやってドリフトできるのも、そういうコミュニケーションというか、モノのおかげなんだよ。言語を超えていくコミュニケーションだと思ってる。
SS:普通のコミュニケーションが下手な人多いかも。
■なるほどなあ。お金というか、貨幣ってさ、貯めるものじゃなくて、何かと交換するためのものでもあるわけでしょ? コミュニケーションというか。そういうアクティヴなお金みたいに働いてるんだね、作品が。
SS:いっしょにツアーを回ったりしても、そのアーティストにとっていちばんわかりやすいものはやっぱり作品で、「彼女はこういう人で……」って紹介されてもね。なんやねん? ってなっちゃう。
倉本:まあ、そこで好奇心をそそられればべつにいいんだけど。僕らの世代もなかなかドライだから、言葉で言われたからってそいつのリンク先までにはなかなか行かないよね……。よっぽどのことだよ。でもフィジカルがあってトレードして、ってことになると、そこに生まれるつながりってすごく印象的なものになるし、否応ないところがあるから。
SS:音楽を聴いてもらうって簡単なことじゃないから。
■ああー。
倉本:うん、簡単じゃないよね。
SS:インターネット広告をクリックするかどうかくらいの難しさがあるかな。すごくハーロルが高いと思う。
倉本:いまはほんと、大変だよね。
SS:どこクリックしても音が鳴るからね。
■ははは。たしかに(笑)。
倉本:でも僕はちょっと事情が違っていて、いちアーティストとして自分の音を聴いてほしいっていうモチヴェーションがないからなあ。もっとすごく個人的な作業なんだよね。自分の快楽のためにやっちゃってるだけというか。そこはサファイア・スロウズとか、ちゃんとアーティストとしてやっている人とは違うかもしれない。たまたまおもしろいと言ってくれる人がいたり、気が合ったりする人がいるだけでね。
でもなあ……。なんだろう、やっぱりモノじゃないと聴かないよねー?
■ああ……、その言葉はね、深いよ(笑)。思っている以上に。
SS:わたしは、本当に、聴いてもらわないと何もはじまらないから。おもしろいもので、海外からアーティストが来たときとか、わたしが行ったときとか、初めはみんなわたしに超冷たいの。
■ええー。
SS:冷たいっていうか、よそよそしいっていうか。日本人の女の子ってやっぱりちょっと浮くし、単純にわたしの見た目から、サファイア・スロウズが鳴らすみたいな音って全然想像つかないでしょ? それはよくわかるんだけど、でもライヴをした後は超態度が変わる! 納得するんだと思うの。音楽を聴いて。だから、どんなに説明したって無駄で、音楽を聴いてもらう以外に方法がない。
倉本:救われるんだ、そこで。
SS:うん、救われる。
倉本:いいっすね、それは。
SS:みんな自分の音楽を好きかどうかはともかく、とりあえずそこで初めて認めてもらえて、対等になる。そこで急にいろいろ話しかけられはじめるの。ナイト・ジュエルたちもそうだった。ライヴが終わったあとに距離が詰まる。
オレがこうやってドリフトできるのも、そういうコミュニケーションというか、モノのおかげなんだよ。言語を超えていくコミュニケーションだと思ってる。(倉本)
倉本:まあ、あとは、懐古趣味に戻るっていうのも、オレはわかるけどね。そういうフェティシズムはすごくあるから。カセットもヴァイナルもモノとして好き。アートワークは単純にCDよりも大きいほうがいい。
■うん。それも結局は大きいというか、それなしには生まれてこないものかもね。
倉本:アナログ・シンセが好きっていうのも同じだよ。ソフトウェア・シンセもぜんぜんオッケーだし、ライヴだってそれで足りるだろうけど、単純にアナログ・シンセが好きだから。オレの場合、制作がシルクスクリーンだったり、モジュラーシンセだったりするけど、それって誰もが使えるわけではないでしょ。いちおう習得してる技術なわけで。そういうものを持っていると、なんていうか、黙っていられる。職人でいたい。
■ああー。