Home > Columns > 彼らが“外”に行く理由- Sapphire Slows × 倉本諒、LAアンダー・グラウンドを語る
Sapphire Slows、倉本諒 司会・構成:橋元優歩 写真:小原泰広 Dec 27,2013 UP
そこが受け入れてくれるもの
■なるほどね。なんか、リアルにわかりました。アイシスと〈NNF〉なんて完全に別軸で捉えてるからさ。いっしょとは言わないけど、すぐ近くにあるものなんだっていう生々しい地図が描けた。
しかし、おふたりでは入口がぜんぜん違いますね。
倉本:共通するとすれば、彼らはすごくオープンなんだってことだよね。
SS:入口は違うけど、最終的にはいっしょだから。ぜんぜん違うところから入ってきて、同じファミリーとして受け入れられている感じ。うちらは日本にいるけれど、なんとなくファミリーっぽいよね?
倉本:まあ、とにかくオープン。
SS:でも、誰でもオッケーってわけじゃないと思う。見た目は違っても、どこかで合うところがあったんだと思うな。
倉本:いまでこそすごくたくさんデモが送られてくるだろうから、取捨選択ももうちょっとシビアかもしれないけど……。好奇心が生まれればどこから来た連中であれ受け入れてくれるよね。それはべつに彼らに限らず、ロスのローカルではわりと普通のことかもしれないけどね。頭おかしいよね、〈ハイドラ・ヘッド〉にしても。粋だなって。〈NNF〉や〈ハイドラ・ヘッド〉に出会わなかったらいまの環境もないわけだし、彼らにはいつも感謝してるよ。
SS:あははは。そういえば、その最初の出会いは聞いたことがあった。けど、やっぱり「そんなことあるわけない」って思ったんだと思うの。だから忘れてた(笑)。
倉本:いやいやいや、本当なんですよ。
SS:それで、ブリットには自分のテープを渡したんだよね? それはすごい強いよね。自分で作ったカセットをポンと渡されると、何より説得力があると思うんだ。
倉本:そうそう、それで、こっちのテープとかシルクで刷ったジンとかポスター渡して、「じゃあレコードちょうだいよ」って言ってトレードするの。
■トレードって素晴らしいですよね。〈NNF〉って、レーベル自体はもう10年近くにも及ぶ活動をつづけているわけですが、時代の最前線に躍り出るのはここ数年のことですよね。倉本さんはその前のタイミングでファミリーに迎え入れられたの?
倉本:そうだね。でもまあ、ファミリーって感覚はないけど。いってもそこは人間同士だから、仲違いもあればいろいろだよ。
SS:倉本さんはそういうところ詳しいよね。
■ははは! ゴシップ屋なんだ。
倉本:オレはね、そういうの好きなの。
■おばちゃんだなあ。サファイアさんは、わりとそのへんはボーっとしてる?
SS:そうですねー。まったくわかんない。
倉本:でもね、いっしょに住んでるとそういうあたりはいろいろ気を遣うからさ。
SS:ああ、そうかー。それは敏感になるよね。
倉本:超めんどくさいなっていうこともあるよ。
■なるほどね。そう考えると、生活ぐるみというか、レーベルにしてはけっこう密な関係ですね。サークルっぽい?
SS:いっしょに住みたいとは思わないな。住むとこなかったらそんなこと言ってられないけど。
倉本:オレは日本であんまりコミュニティに属してたっていうことがないんだよね。だから生活ぐるみな環境に憧れていたのもあるよ。いろいろやっててもなんか違うというか。受け入れられている感じがなかった。まあ大半は自分が悪いからなんだけど。パンクなりハードコア・バンドなりをやっていても、なんか違うというか。受け入れられている感じがなかった。もちろん、個人としての関係からのフィードバックは感じてたよ? でもどんな環境でも俯瞰で見ちゃう冷ややかな自分がいる。それでも、ロスへ行ったときほど受け入れられていると感じたことはなかったからなあ。生活とクリエイティヴが分離してないから。
■あー。そこは、すごく訊きたかった。日本の外でやる理由。それから〈NNF〉型の音楽コミュニティについて。
それでも、ロスへ行ったときほど受け入れられていると感じたことはなかったからなあ。生活とクリエイティヴが分離してないから。(倉本)
■サファイアさんは以前に弊誌でLAレポートを書いてくださいましたよね(http://www.ele-king.net/columns/002198/)。すごくいい記録を残してくださったんですが、あの紀行文のなかでもっともエモーショナルなシーンが、帰国を前に「帰りたくない」ってなるところです――
SS:あれは、あれが初めてだったから。あの時期はすごくいろいろなものが変わっていって、すごくテンパってたときでもあったから、とてもハイになっていて。行く前もすごく混乱していたし。
■うんうん、そういう感じがとってもよく伝わってくる、みずみずしくて素敵なレポートでした。
SS:それに、あのときはまだ英語が話せなくて。
■ええっ? そうなんですか。けっこう会話のシーンもありましたし、ツアーってしゃべれなきゃ無理かと思ってました。
SS:いや、多分しゃべれてはなくて、かろうじて聞き取れたところをしっかり覚えてたって感じかな。そのくらい印象的なことが多かったから。それでも理解できたのって実際話されてたことの3分の1以下とかだと思う……もったいないよね。まあ、ツアー中はとにかく夢中で頭が真っ白だったから、帰国したら以外とコミュニケーションとれてたのかな? っていうくらい。
■へえー。
SS:でも、ぜんぜんしゃべれないから、「君はしゃべらない子なんだね」って言われた。すごくおとなしい静かな子だと思われたの。メールとかだと英語ばっちりだったから、当然できるものだと思われてたみたい。
■そうなんですね……。でもあの文章のなかで書かれていたのは、音楽のコミュニティがあって、仲間がいて、それがそのままレーベルになっているっていう一種の純粋さへの感動だと思ったんですね。
倉本:オレはひねくれてるからさ。そういうふうにあんまり「仲間」とは言いたくないんだけどね。
■ははは、ツンデレごちそうさまです。いや、でも、その意味もよくわかるんですよ。
倉本:うん。でしょ? だけど、彼女みたいなやり方をしていたり、オレみたいなやり方をしているやつが、べつに特別じゃないって思えたんだよね。
SS:そう! そうだね。
倉本:普通じゃん? みたいなね。
SS:特別扱いしないし。
倉本:彼女のやっていることもオレがやっていることも、普通。生活として見ているっていうかね。
■ああー、生活。
SS:同じ高さで受け入れてくれて。それがナチュラルだと思うんだけど、日本でそうじゃなかったのはなぜなのかなって考えた。
■それは、自分のまわりになかっただけで、日本でも探せばありそうってことですか? それともあの場所だからこそのもの?
SS:それ、いろんな人に言うの。日本にそんな場所はないよって。でもひとつ行き着いた結論は、日本が単純に狭いっていうこと。
■ああー、面積としてね。アメリカはやはり一にも二にもあの広大な国土や人口、人種の多さっていう点で、日本とはあまりに条件が違いますよね。
SS:こんなに似た人がいっぱいいる! って思うけど、分母が違うし。〈NNF〉みたいにアンダーグラウンドな人たちとかじゃない、もっと普通の人が多数であることは間違いないと思うから、そういう部分が見えなかっただけなのかもしれないです。
わたしカリフォルニアしか知らないけど、もっと保守的なところは保守的なんだろうなって。日本はずっとちっちゃいなかにシーンがあってすごいと思う。
彼女みたいなやり方をしていたり、オレみたいなやり方をしているやつが、べつに特別じゃないって思えたんだよね。(倉本)
同じ高さで受け入れてくれて。それがナチュラルだと思うんだけど、日本でそうじゃなかったのはなぜなのかなって考えた。(Sapphire Slows)
倉本:ロスに限って言えば、何かしらから逃げてる人が多いかな。
SS:そういう言い方はネガティヴだよ。
倉本:いや、でもネガティヴってだけでもなくて、それも含めてやっぱりロスは夢を求めてやってくる街なんじゃないかな。
■なるほど。逃げるっていうのが、必ずしも「ルーザー」としてじゃなくて。
倉本:うん、そうじゃなくてね。ただ、そういう文化を育む場所として、アメリカがどうで日本がどうでっていう比較は、オレはちょっとできないなって思う。日本には日本のカルチャーの歴史があって、それはリスペクトしてるからさ。そこで自分がやっていけるかというと別問題だけど、その重さは感じているし、ロスと比較していいとか悪いってことを判断できないな。
■そうだね。なるほどね。
倉本:僕も彼女もどうなるかわからないけど、ずっと続けられたらこっちのカルチャーともまた違うものになっていくのかもしれないし。
SS:ずーっと続けてたら、この時期のものをこういうカルチャーだったんだっていうふうに見直すことができるかもしれないけど、まだわからない。
倉本:これから何年もして、サファイア・スロウズに影響を受けて、音楽を作ったりDJをしたりするっていう女の子が出てきたりしたら、また環境は変わるかもしれないよね。
SS:わたしは、いい時代だと思う。