ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  2. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  3. Columns 夢で逢えたら:デイヴィッド・リンチへの思い  | David Lynch
  4. guide to DUB ──河村祐介(監修)『DUB入門』、京都遠征
  5. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  6. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  7. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  8. Panda Bear ──パンダ・ベア、5年ぶりのニュー・アルバムが登場
  9. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  10. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  11. Teebs ──ティーブスの12年ぶり来日公演はオーディオ・ヴィジュアル・ライヴにフォーカスした内容に
  12. Shun Ikegai ──yahyelのヴォーカリスト、池貝峻がソロ・アルバムをリリース、記念ライヴも
  13. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  14. Lambrini Girls - Who Let the Dogs Out | ランブリーニ・ガールズ
  15. Brian Eno & Peter Chilvers ──アプリ「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』として生まれ変わる | ブライアン・イーノ、ピーター・チルヴァース
  16. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  17. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  18. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  19. Lifted - Trellis | リフテッド
  20. goat ──日野浩志郎率いるエクスペリメンタル・バンド、結成10周年を記念し初の国内ツアー

Home >  Columns > 彼らが“外”に行く理由- Sapphire Slows × 倉本諒、LAアンダー・グラウンドを語る

Columns

彼らが“外”に行く理由

彼らが“外”に行く理由

Sapphire Slows × 倉本諒、LAアンダー・グラウンドを語る

Sapphire Slows、倉本諒  司会・構成:橋元優歩 写真:小原泰広 Dec 27,2013 UP

LA放浪記・エピソード0

倉本さんはなんでそもそも〈NNF〉だったんです? すごく人脈があるし、もはや半分LAの住人みたいな感じでもありますけど、音楽から考えるとそれほど共通項が見えない。

SS:うん、わたしもそれ知りたい。謎だった。

倉本:いや、オレ言ってなかったかなあ?

SS:訊いたかもしれないけど、たぶんその答えに「なるほどー」ってならなかったんだと思う。

はははは!

倉本:倉本:ああ、そっか。ほんと「そもそも」からの話になるんだけど、ロサンゼルスに〈ハイドラ・ヘッド・レコーズ〉っていうハードコアとかメタルから派生したオルタナティヴ・ミュージックをリリースしているインディ・レーベルがあるんだよね。もともとはボストンからはじまったんだけど、事務所をロスに構えてからはずっとそこで運営してるの。社長がアイシスのフロントマンなんかやってたアーロン・ターナーって人なんだけど。

うん。アイシスね。そんなところからはじまるんだ!

倉本:そう。で、アーロンがイラストレーター/グラフィック・デザイナーということもあって、自分たちで全部アートワークとパッケージもやってるんだよね。……それが、毎回すごいゴージャスで。デザインも印刷もヴァイナルのカラーとかも、全部凝りに凝ってる。00年くらいからヴァイナルの需要がグンと来たのって、そういうフェティッシュなマーケットができたからだと思うんだよね。だって、音はデータでゲットできるからさ。

SS:ただでさえ儲からないものにカネをかけるわけじゃないですか。だからそれ自体がPRというか、欲しくなるものかどうかっていうのが重要だと思う。

そうですよね。「フェティッシュなマーケット」って、音楽の話をする上で切り捨てがちな、けどじつは本質的なトピックだよね。それで、そこから〈ハイドラ・ヘッド〉に倉本さんが絡んでくるの?

倉本:そう。話を戻すと、オレはそこにバイトさせてくれって行ったの。アーロンはアイシスで日本にはちょこちょこ来日してて、オレは彼の仕事の大ファンだったから作品とかをトレードしたりして交流をはじめたのだけど、ああいう日本ではあり得ないクリエイティヴなレーベルの仕事現場を見てみたかった。だから「ちょっとLAに住んでみたいから、雑用で雇ってよ」って言ってみたら「いいよ、いいよ」って言うもんだからさ。

へえ。

倉本:だからオレほんとに行ったんだよ。

SS:それがおかしいよ。

ははっ、持ち前のドリフター癖が出たと。もしかして、それが初めての漂流なの?

倉本:そうそう。いや、ほんと軽いノリで「いいよ」って言うからさ。じゃあってことでマジで行ったんだよ。そしたら「誰だお前」ってなって(笑)。

(一同笑)

ベタ(笑)。

SS:そうなるわ(笑)。

「ちょっとLAに住んでみたいから、雑用で雇ってよ」って言ってみたら「いいよ、いいよ」って言うもんだからさ。マジで行ったら「誰だお前」ってなって(笑)。(倉本)

倉本:いやいや、ちゃんとアーロンには前もって連絡して他のスタッフのコンタクトをもらってたの。彼はすでにシアトルに引っ越してて事務所にはいなかったから。で、一応そのスタッフにメールはしてたんだけど、オレが行く一週間前にクビになってて(笑)。だから誰もそのことを知らなかった。んで焦って「これこれこういうわけで、オレは雇ってもらうことになってるんです」って事務所で事情を説明したの。そしたら「ちょっとアーロンに電話で確認してくる」って言われて、待たされて。アーロン的にも、いいとは言ったけど本当に来るとは思わなかったみたいなんだよね。電話ごしに「マジで来たのかよ!」って(笑)。……でも、本当にいい連中でさ。ちゃんと雇ってくれたんだよね。だからオレは週3くらいで働きに行った。

SS:それがすごいところだよね。日本だったらそんなの拒否されると思う。

倉本:そうかもね。まあ、そんなわけでロスでレーベルの雑用みたいなことをやりつつの貧乏暮らしがスタートしたんだよね。

すごいな、隣の県とかじゃないんだからさ……。でもまだまだ〈NNF〉まで距離があるね?

倉本:そうでもないと思うよ。オレと〈NNF〉のブリットなんか、蓄積してきた音楽的背景はすごい共有してる。ちょうどその頃からオレも〈NNF〉や〈ウッジスト(Woodsist)〉、〈ナイト・ピープル(Night People)〉なんかを通してUSの新たなサイケデリック・ムーヴメントにのめり込みはじめていたし。ドローン/パワー・アンビエントとかオブスキュア・ブラックメタル、ドゥームやスラッジなんかのシリアスな音楽にも魅力を感じているけれども、自分はもうちょっとフットワークが軽いつもりだったから。だから実験音楽的だけどクラシカルじゃないもの、エクスペリメンタルだけどもっとバカバカしいもの、それでいて、バックグラウンドにパンクとかハードコアとかがあって、粗くてロウで、っていうもの。もちろん基本はサイケで……そういうものにハマりはじめてたかな。だから僕のなかで〈NNF〉は全然延長線上だった。

なるほど。ドゥームとかドローンっていうのはわかるんですけどね。ハードコア(・パンク)からの〈NNF〉っていうのがちょっと意外でもあって。でもサイケが媒介だとすればとても腑に落ちる。

倉本:それに、パッケージ的にも当時の彼らってすごくおもしろかったよ。超D.I.Y.だし、まさにパンクだよ。普通のレーベルではあり得ない作り方をしてたから。本当に、あの夫婦(レーベル主宰のアマンダ・ブラウンとブリット・ブラウン夫妻)が好きなものを出していたよね。わけのわからない、ゴミみたいなものを(笑)。

SS:カセットばっかりだったよね、最初のころは。

倉本:そうそう、ヴァイナルもあったんだけどね。なんか、ラインストーンとかがわざわざ付いていたよね。クオリティもけっして高くはないんだけど、やっぱりすごく愛嬌があるし、センスがいいから、おもしろいなと思ってた。バンドもそう。サン・アローにしても、当時まだブレイクするかどうかっていうところで。

SS:いまはすっかり有名だもんね。

倉本:うん。それで、ロスに暮らしはじめて、〈NNF〉の連中も近くのギャラリーでライヴをやっていたから、夜な夜な、カネがないながらも遊んでたんだよね。そんななかでつながりが生まれたかな。彼らが僕を受け入れてくれた理由のひとつは、〈ハイドラ・ヘッド〉で働いているということもあったと思う。やっぱり当時有名だったし、みんな聴いてたからね。「ああ、〈ハイドラ・ヘッド〉で働いてるんだー?」みたいな。


Profile

倉本 諒/Ryo Kuramoto倉本諒/Ryo Kuramoto
1983年生まれ東京都出身、住所不定無職。

COLUMNS