ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Juan Atkins 追悼:ホアン・アトキンス
  2. Mayo Thompson ——メイヨ・トンプソン、57年ぶり、2枚目のソロ・アルバムを12月にリリース
  3. Columns Brian Eno 窓のない部屋からひらかれた風景
  4. Beck - Ride Lonesome | ベック
  5. Tim Reaper ——新世代ジャングルの中心人物、ティム・リーパーがついにソロ・アルバムをリリース
  6. 三田格+野田努による日本初の"テクノ・カタログ本"、今週ついに登場! ――『TECHNO definitive 1963 - 2013』(テクノ決定版!)  | テクノ・ディフィニティヴ、テクノ、ディスクガイド
  7. Seefeel ──シーフィールの新たなEPがリリース
  8. zange ——大阪の鬼才、TUTTLE率いるザンゲ、ついに待望のアルバムをリリース
  9. The Bug ——ケヴィン・マーティンが東京のFriday Night Plansと再びタッグを組み、「Ladybug 3」を発表
  10. ele-king presents アニメ読本 創刊号 特集 『超かぐや姫!』はなぜヒットしたのか
  11. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  12. DERRICK MAY×KEN ISHII ——デリック・メイが恵比寿リキッドルームに登場
  13. lilbesh ramko - Ramko Helvetica | リルベッシュ・ラムコ
  14. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2026
  15. Bullion - Nearly | ブリオン
  16. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  17. Bajune Tobeta ──作曲家/プロデューサーのトベタ・バジュン、EPとシングルを配信リリース、テーマは映画と冬
  18. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  19. YOSHIROTTEN ──エレクトロニック・ミュージックと共に宇宙と交信しよう。ヨシロットンの展覧会『彼方との交信 — BEYOND EARTH』が今週末より開催
  20. Shintaro Sakamoto ——2026年のクリスマスイブは坂本慎太郎@LIQUIDROOM

Home >  Reviews >  Album Reviews > Gatekeeper- Young Chronos

Gatekeeper

EBMElectronicIndustrial

Gatekeeper

Young Chronos

Presto!?

SoundCloud

橋元優歩   Jan 07,2014 UP

 映画館で映画を観るときには、ぜったい5分とか遅れてしまって開始前に着席できず、アクション映画などの派手なトレーラーが流れはじめているのを背に人の前を横切ったりして気まずい思いをするので、筆者にはこうしたときの感覚が映画館の体験と分かちがたく結びついている。それで、この6曲からなるEPの冒頭“ソード・オブ・ザ・ギャザリング・クラウズ・オブ・ヘヴン”を聴いたときには気まずさと笑いが込み上げた。総制作費何百億、みたいな映画のトレーラーでよく聴く気がするあの感じ……導入になるような短いセリフにつづいて、合唱付きの交響曲みたいなのがはじまって、そこに重ねて急激にクレッシェンドする戦闘機のようなSE、そしてその頂点で鋭く炸裂する、ドンという低音と四分音符分の金属音。あれが、嫌味なくらい再現されている。
 サンプリングではないらしいので、これは巧妙なパロディであって、片割れ(アーロン・デヴィッド・ロス)がフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』にも参加していたブルックリンのデュオ、ゲートキーパーは、今度は『ブレード・ランナー』のシンセ感ではなくて、エイティーズ・ブームの一段落とともに『ロード・オブ・ザ・リング』とか『トランスフォーマーズ』とか、もっといい例があるかもしれないけれど、とにかくあのSEが施されたシンフォニックな合唱付きに住み心地のよいディストピアを見つけたということなのかもしれない。最初のEP『ギザ』(2010)や〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされた『エキゾ』(2012)のへんなインダストリアル、ダークウェイヴには垢抜けない印象を受けたが、こちらはずっとコンセプトが明確で、趣味がいいとはいえないけれど、おもしろいと思った。
 声楽的な発声の歌やコーラスを用いるプロデューサーは増えたが、筆者は声をただ「素材」だとする人にも、声に神秘的な意味を汲みすぎる人にも距離を感じてきた。対するにゲートキーパーにはクラシカルなスタイルを持つ合唱作品のヘンさ(発声時の独特の表情とか「裏声」への素朴な違和感を含む)や、逆にその魅力やダイナミックさへの正直で開かれた態度があると感じる。彼らはたぶん、本当にそうした合唱作品が好きなのだ。もしかするとそれなりにその道の造詣も深いのかもしれない。『エキゾ』終曲は、マリー・シェーファーと〈ナイト・スラッグス〉とブレイクビーツの悪趣味な合体のようにも聴こえる。とすると、ある種のサントラを模すことであの過剰な金属性と人声のせめぎあいをクリティカルに高出力する今作には、現代版の“鉄への呪い”(トルミス)といううまいオチがつくかもしれない。『ヤング・クロノス』は「Inspired by a true story.」という喚起的なセリフで幕を開け、それが「ネオ・サピエント」のストーリーであるとつづけられている。

 インダストリアルというよりはEBMがトレンドの先端かもと言うならば、もしかするとそれを先取ってもいた彼らだが、それが“ハーヴェスト”のように、ソプラノのメリスマと掛け合わされていくところなどにも笑ってしまう。本当に品がないけど、心からエキサイトしているのだろうし、“インペラトリクス”や“ザ・ソイル・ハズ・サワード”などのコーラス部分も、とても「ウワモノ」という言葉では片付かない。ゲートキーパーのハイパーなエネルギーは、声というものを通してやっと存分な広さの放出口を得たのだと思える。ビートがせり出てきても、そのオブリガートであるかのように合唱パートが執拗に追ってくる。たとえばルチアーノの“”セレスシャル”に用いられているコーラス・サンプルなど、クォンタイズされないながらも繊細にビートを立てていくような洗練とは無縁だけれど、声やその始原的なエネルギーを安易なトライバリズムに求めず、真っ直ぐに西洋音楽の中心に突っ込んでいくような彼らには意外性と爽快さがある。

橋元優歩