ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. TESTSET - ALL HAZE
  2. Columns Oneohtrix Point Never 『Tranquilizer』 3回レヴュー 第一回目
  3. 別冊ele-king Pファンクの大宇宙──ディスクガイドとその歴史
  4. Columns なぜレディオヘッドはこんなにも音楽偏執狂を惹きつけるのか Radiohead, Hail to the Thief Live Recordings 2003-2009
  5. Tocago - 2025年10月17日 @恵比寿KATA2025年11月6日 @代田橋FEVER
  6. Kieran Hebden + William Tyler - 41 Longfield Street Late ‘80s | キーラン・ヘブデン、ウィリアム・タイラー
  7. Jeff Mills ——ジェフ・ミルズ「Live at Liquid Room」30周年記念ツアー開催決定!
  8. 音楽学のホットな異論 [特別編:2] 政治的分断をつなぐ──ゾーハラン・マムダニ、ニューヨーク市長選に勝利して
  9. Zohran Mamdani ──ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に当選
  10. Xexa - Kissom | シェシャ
  11. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  12. R.I.P. D’Angelo 追悼:ディアンジェロ
  13. downt & Texas 3000 ──ふたつのスリーピース・バンドが共同企画による東北ツアーを開催
  14. 別冊ele-king アメリカ──すでに革命は起こっていたのか 新反動主義の時代におけるカルチャーの可能性
  15. Minna-no-kimochi ──24時間にわたるニューイヤー・パーティを渋谷・WWW全館にて開催
  16. Lankum ──ダブリンのランクムがザ・スペシャルズ “Ghost Town” の驚異的なカヴァーを公開
  17. Tortoise ──トータス、9年ぶりのアルバムがリリース
  18. J.Rocc ──〈Stones Throw〉のJ・ロックが2年ぶりに来日、ジャパン・ツアーを開催
  19. Geese - Getting Killed | ギース
  20. NIIA - V | ニイア

Home >  Reviews >  Album Reviews > Gatekeeper- Young Chronos

Gatekeeper

EBMElectronicIndustrial

Gatekeeper

Young Chronos

Presto!?

SoundCloud

橋元優歩   Jan 07,2014 UP

 映画館で映画を観るときには、ぜったい5分とか遅れてしまって開始前に着席できず、アクション映画などの派手なトレーラーが流れはじめているのを背に人の前を横切ったりして気まずい思いをするので、筆者にはこうしたときの感覚が映画館の体験と分かちがたく結びついている。それで、この6曲からなるEPの冒頭“ソード・オブ・ザ・ギャザリング・クラウズ・オブ・ヘヴン”を聴いたときには気まずさと笑いが込み上げた。総制作費何百億、みたいな映画のトレーラーでよく聴く気がするあの感じ……導入になるような短いセリフにつづいて、合唱付きの交響曲みたいなのがはじまって、そこに重ねて急激にクレッシェンドする戦闘機のようなSE、そしてその頂点で鋭く炸裂する、ドンという低音と四分音符分の金属音。あれが、嫌味なくらい再現されている。
 サンプリングではないらしいので、これは巧妙なパロディであって、片割れ(アーロン・デヴィッド・ロス)がフォード・アンド・ロパーティンの『チャンネル・プレッシャー』にも参加していたブルックリンのデュオ、ゲートキーパーは、今度は『ブレード・ランナー』のシンセ感ではなくて、エイティーズ・ブームの一段落とともに『ロード・オブ・ザ・リング』とか『トランスフォーマーズ』とか、もっといい例があるかもしれないけれど、とにかくあのSEが施されたシンフォニックな合唱付きに住み心地のよいディストピアを見つけたということなのかもしれない。最初のEP『ギザ』(2010)や〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされた『エキゾ』(2012)のへんなインダストリアル、ダークウェイヴには垢抜けない印象を受けたが、こちらはずっとコンセプトが明確で、趣味がいいとはいえないけれど、おもしろいと思った。
 声楽的な発声の歌やコーラスを用いるプロデューサーは増えたが、筆者は声をただ「素材」だとする人にも、声に神秘的な意味を汲みすぎる人にも距離を感じてきた。対するにゲートキーパーにはクラシカルなスタイルを持つ合唱作品のヘンさ(発声時の独特の表情とか「裏声」への素朴な違和感を含む)や、逆にその魅力やダイナミックさへの正直で開かれた態度があると感じる。彼らはたぶん、本当にそうした合唱作品が好きなのだ。もしかするとそれなりにその道の造詣も深いのかもしれない。『エキゾ』終曲は、マリー・シェーファーと〈ナイト・スラッグス〉とブレイクビーツの悪趣味な合体のようにも聴こえる。とすると、ある種のサントラを模すことであの過剰な金属性と人声のせめぎあいをクリティカルに高出力する今作には、現代版の“鉄への呪い”(トルミス)といううまいオチがつくかもしれない。『ヤング・クロノス』は「Inspired by a true story.」という喚起的なセリフで幕を開け、それが「ネオ・サピエント」のストーリーであるとつづけられている。

 インダストリアルというよりはEBMがトレンドの先端かもと言うならば、もしかするとそれを先取ってもいた彼らだが、それが“ハーヴェスト”のように、ソプラノのメリスマと掛け合わされていくところなどにも笑ってしまう。本当に品がないけど、心からエキサイトしているのだろうし、“インペラトリクス”や“ザ・ソイル・ハズ・サワード”などのコーラス部分も、とても「ウワモノ」という言葉では片付かない。ゲートキーパーのハイパーなエネルギーは、声というものを通してやっと存分な広さの放出口を得たのだと思える。ビートがせり出てきても、そのオブリガートであるかのように合唱パートが執拗に追ってくる。たとえばルチアーノの“”セレスシャル”に用いられているコーラス・サンプルなど、クォンタイズされないながらも繊細にビートを立てていくような洗練とは無縁だけれど、声やその始原的なエネルギーを安易なトライバリズムに求めず、真っ直ぐに西洋音楽の中心に突っ込んでいくような彼らには意外性と爽快さがある。

橋元優歩