「R」と一致するもの

audiot909 feat. あっこゴリラ - ele-king

 かねてより、南アフリカでは様々なダンス・ミュージックのフォーマットが生まれてきたが、その系譜に連なる最新型がアマピアノ。それはハウスでありながら4つ打ちではない。同じ南アのクワイトやバカルディを援用しつつ、BPM110前後のスロー・テンポ、ムーディーなメロディ、なにより独特なログドラムと呼ばれるベースを構成要素とする。

 いま、アマピアノは発信地である南アフリカのみならず、ナイジェリア、UK、そして日本とその音を世界中に拡散させている。

 すでにUKでは、アマピアノがFunkyamaなるタームとして独自に進化。これはアマピアノよりもBPMが速くUK産のダンス・ミュージックとも共振した音を有する。Funkyamaについては元海賊ラジオのRinse FMもその熱気を伝えているし、UKのスクラッチャDVAは同じ南アのゴム(Gqom)を取り入れたことでよく知られるが、最近ではアマピアノへの視線も送っている。彼はすでにBBC Radio1やRA Podcastに出演し、『The Wire』の表紙も飾った。

 こと日本では、〈TYO GQOM〉クルーがアマピアノのパーティをオーガナイズ。また、2021年には南アのアマピアノ・プロデューサーであるテノ・アフリカの来日が実現している。そして、かねてよりアマピアノの普及に挑戦しているaudiot909(オーディオットナインオーナイン)が、このたびラッパーのあっこゴリラを招聘した「RAT-TAT-TAT」をリリースする。アマピアノに初めて日本語が乗った、ジャパニーズ・アマピアノの3曲入りシングルだ。ぜひチェックを。

2月28日(月)0時より各種サブスクリプションサービスより配信開始

「RAT-TAT-TAT」
Tracks:audiot909
Lyrics:あっこゴリラ
Mixing:Track1,3 - So Kobayashi &audiot909
Track2 - audiot909
Mastering:So Kobayashi
Artwork:Hiro "BINGO" Watanabe
Label:audiot909

配信URL
hhttps://linkco.re/EyU6NCfu

talking about Black Country, New Road - ele-king

 昨年話題になったブラック・ミディも、そしてブラック・カントリー、ニュー・ロード(以下、BC,NR)も、望まれて出てきたバンドというよりも、自分たちから勝手に出てきてしまったバンドだ。いったいどうして現代のUKの若い世代からこんなバンドが出てきたのかは、正直なところ、いまだによくわかっていないけれど、とにかく突然変異が起きたと。で、そのひとつ、BC,NRという7人編成のバンドのセカンド・アルバム『Ants From Up There』について語ろう。なぜなら、これをひとことで言えば、圧倒的なアンサンブルを有した感動的なアルバムで、アイザック・ウッドの歌詞は注目に値するからだ。

野田:今日はディストピアで暮らしている木津君相手だし、ビールを飲みながら話すよ。で、ブラック・カントリー、ニュー・ロード(以下、BC,NR)なんだけど、年末の紙エレキングで取材するってことで、昨年の10月に『Ants From Up There』の音は聴かせてもらっていたのね。あの号では、俺は絶対にロレイン・ジェイムズに取材したいって思っていたから、BC,NRの音をすぐ聴いたわけじゃなかったんだけど、しばらくして聴いたらびっくりしたというか、すごく好きになってしまって。ビートインクの担当者の白川さんに「自分が取材したかった」って、10月19日にメールしたくらいだよ。

木津:そうなんですか(笑)? ただ、あのタイミングで新譜が出るっていうのもまだわかっていなかったので。けっこうサプライズでしたよね。去年にアルバムが出たばかりでまだ短い期間しか経ってなかったので。しかも音楽性はけっこう変わっていたのもおおきかった。そもそも、野田さんはいまのUKからアイルランドのバンド・ブームに盛り上がってる印象なんですが、去年のBC,NRのファースト・アルバム『For The First Time』についてはどういう印象をお持ちですか?

野田:えーと、まずその「バンド・ブームに盛り上がってる」って話だけど、UKのインディ・シーンを追っているわけじゃないし、シーン自体はずっとあったわけで。それが、ここ数年で突出したバンドが出てきて、シーンが脚光を浴びていると。ただ、実際にシーンとしてどこまで盛り上がっているのか、俺にはわからない。UKの音楽業界はこの手のトレンドを作るのに長けているし。それに、サウスロンドンっていう括りとかさ、ある意味どうでもいいって言えばいい。
 ちょっと話が逸れるけど、昨年末に〈ラフトレード〉のジェフ・トラヴィスのインタヴューを載せたけど、彼はすごく重要なことを言ったよね。いまの南ロンドンには若い黒人たちがやっているジャズのシーンもあるんだって。俺なりに意訳すれば、南ロンドンは白い音楽だけがすべてじゃないぞってことだよね。その街にはジャズもあれば、ハウスもあるし、ダブステップだって、ラップだってあるだろう。UKドリルの初期型だってここから生まれてる。こう見えても俺は、90年代に雑誌をはじめたときからページをめくって白人と日本人ばかりにならないことをずっと心がけてきているんだよ。まずはそれを踏まえたうえで、今日はインディ・ロックについて話しましょう。
 で、BC,NRなんだけど、最初に言ったように、昨年末とにかく新譜を聴いて感動してさ、編集部の小林君にも「こりゃ、すげーアルバムだぞ」って言ったり、白川さんにも「こんな良いバンドだとは気がつかなかった。ちゃんと聴いていなかった自分を反省してます」ってメールしてるんだけど、あらためてファーストを聴いて、ファーストがどうこうっていうより、わずか1年かそこらでここまで進化したんだってことに驚いたかな。

木津:ふうん。

野田:バンドというものが生き物であって、わずかな時間でも進化しうるんだっていう。フィッシュマンズが『ORANGE』から『空中キャンプ』へと、あるいはプライマル・スクリームが『Screamadelica』へと変化したように。バンドって、たまにすごい速さで、リスナーが追いつけないような速さで進化することがあるよね。BC,NRは完全にそうで、ファーストからこれはちょっと想像できないよ。

木津:ファーストはまだ参照元がわかりやすく見える感じでしたよね。いわゆるポスト・ハードコアといわれるもの、マス・ロック的なものであったり。あとはユダヤの伝統音楽であるクレズマーとか。それが、アンサンブルの構成が完全に緻密かつ複雑になりましたよね。その辺りはかなり変わったところだと思います。

野田:冒頭がまずスティーヴ・ライヒだし(笑)。ライヒの“Different Train”みたいだ。勘違いしないで欲しいんだけど、ライヒを引用すれば良いってもんじゃないよ。ただ、ロックというスタイルはいろんなものをミックスできる排他性のないアートフォームなんだっていうことが重要で、こういう雑食性はすごくUKっぽいと思う。ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターというプログレッシヴ・ロックのバンドがいて、最初に聴いたときはちょっと似てると思った。ドラマチックな歌い方もピーター・ハミル(VDGGのヴォーカル)っぽい。VDGGはプログレに括られるバンドなんだけど、マーク・E・スミスやジョン・ライドからも好かれたかなり珍しいバンドで(以下、しばしVDGGの話)。BC,NRは、VDGGほど複雑な拍子記号があるわけじゃないけどね。でも、管弦楽器を効果的に使ったアンサンブルには近いものがあるし、曲のなかに物語性があって、メリハリが効いていて展開も多いじゃない? 俺が普段聴いている音楽はどこから聴いてもいいような、反復性が高いものばかりなんで、BC,NRみたいなのは新鮮だったっていうのもあるのかもね。

木津:なるほど、たしかに展開の多さはポイントですね。僕は素直に初期のアーケイド・ファイアを連想しました。

野田:本人たちも言ってるよね。

木津:そうですね。いちばんいいときのアーケイド・ファイアですよ。シアトリカルになったのはおおきいと思っている。大人数でドラマティックな音のスケールを展開していくという。恐れなくなった感じがするんですよね。ファーストのころはわりとミニマルな反復で展開するのにこだわっていたところ、メロディと展開っていうのを大きく解放したことで、かなりドラマティックになった。そこはすごくいいときのアーケイド・ファイアを思わせますよね。

野田:アーケイド・ファイアよりも複雑じゃない?

木津:そうなんですけど、いい意味でのエモーショナルさというか。楽曲の壮大さが、大人数でやることの意味と直結している。

野田:アレンジが懲りまくってるよね。ときを同じくして、アメリカのビッグ・シーフもすごくいいアルバムを出したけど、木津くんの好みからいったらBC,NRよりもビッグ・シーフじゃない?

木津:まあ、ビッグ・シーフは今回のアルバムがちょっと抜きんでているので。でも、BC,NRも今回のアルバムは前作よりも断然好きです。よりフォーキーになったというか。ファーストも面白いと思いましたけど、いま聴くとちょっとぎこちない感じがあります。今回はフォーキーになったことで、管弦楽器がより生き生きしたと思うんですよ。

野田:アコースティックなテイストが打ち出されているよね。そうした牧歌的な側面と同時に激しい側面もあって、激しさの面でいうと、やっぱアイザック・ウッドの存在だよね。なんて言うか、いまどき珍しい、自意識の葛藤?

木津:そうですね、BC,NRは彼の存在が本当にデカい。

野田:ちゃんとオリジナルの歌詞がブックレットに載っているくらいだから、言葉にも重点を置いているのはたしかだね。

木津:実際、とくに海外のメディアからは歌詞も注目されてるんですよね。だからバンドの重要な部分だったと思うんですけど、残念ながらアイザック・ウッドは脱退を表明しています。だからもう、まったく別のバンドになりますよね。

野田:アイザック・ウッドは、言うなれば、「人生の意味に飢えている」タイプだよね。

木津:メンタル・ヘルスの問題でもありますよ。BC,NRは彼の自意識や懊悩を大人数のアンサンブル――それを僕はつい「仲間」って言いたくなるんですけど――が受け止めて、見守っている感じが僕は好きなので。だから、そのバランスがどう変わっていくのかちょっと想像できない。

野田:でもやっぱ、言葉が上手い人だと思う。たとえば「ビリー・アイリッシュ風の女の子がベルリンに行く」という言葉が何回か出てくる。東京で暮らす若者ではない俺にはなかなか感情移入できないフレーズなんだけれど、でもこれって象徴的な意味にも解釈できるよね。ビリー・アイリッシュもベルリンもイングランドではないっていう。自意識だけの問題でもなく、彼を取り巻く状況への苛立ちも確実にあるよね。1曲目の“Chaos Space Marine”という、個人的にいちばん好きな曲なんだけど、そこに出てくる「間違っていたすべてのことを考える(I think of all that went wrong)」ってフレーズも、印象的な言葉だよ。俺の年齢でそれをやったら洒落にならないんだけど、これはおそらくこの曲の最初のフレーズにかかっているんだろうね。「イングランドが僕のものであっても、僕はそれをすべて捨てなければならない(And though England is mine/I must leave it all behind)」。まったく素晴らしい言葉だな。

木津:うんうん。

野田:去年評価されたドライ・クリーニングの、淡白さをもって社会を冷淡に風刺するというアプローチとは対極にあるんじゃない?

木津:ドライ・クリーニングとBC,NRってすごく対極的なバンドである一方で、どっちもいまの時代をすごく見つめようとしてるなと。ドライ・クリーニングの象徴的な言葉で、「全部やるけど、何も感じない」って出てくるじゃないですか。現代って体験やモノがあふれている。ドライ・クリーニングはそれに対して何も感じないと言うけど、BC,NRむしろ感じすぎている。現代のあらゆる事象に振り回されていて、とくにファーストはそれがすごく出ていた。固有名詞の出方が尋常じゃないですよね。

野田:ああ、そうだね。それとBC,NRには、アルチュール・ランボーとかゲーテの『若きウェルテの悩み』とか、若者の特権とも言える内面の激しさっていうか、そっちの感じもあるよね。たとえば“Good Will Hunting”って曲の歌詞では、「もしも僕らが燃える宇宙船に乗っていたら、脱出船には友だちとの幼少期のフィルム写真があって、自分はそこにいるべきではない」ってあるんだよね。聴いていて、「いや、君もその脱出船に乗ってくれよ」って思うよ。

木津:たしかに……。ただ、ファースト・アルバムですごく象徴的なのは、「自分の好きなものを選び取る重荷」って表現だと思うんですね。過去があふれすぎているストリーミング時代、ひいてはインターネット時代の話で、あらゆるものがあふれかえって、しかもそれがスーパー・フラットになってることの息苦しさ。アイザック・ウッドからはそこをかなり表現していると感じます。そんな状況へのアンビヴァレントな混乱が痛々しくもあり、生々しくもあり。だから「ここから脱出できない」感じはわかる。
 野田さんはUKの音楽に関して雑食性という言葉をよく使っていて、それが良さなんだと言ってますよね。僕もその通りだと思いますが、一方で現代において雑食性というのは難しいとも思ってます。いまはストリーミング時代になり、みんなが過去のあらゆる音楽にアクセスできるようになると文脈が剥ぎ取られてしまって、いわゆるメインストリームでもジャンル・ミックスが当たりまえなトレンドがずっと続いている。そのなかでオルタナティヴな雑食性を表現するのってすごく難しいと思うんです。野田さんは、そういう意味でブラック・ミディやBC,NRの雑食性の面白さってどの辺にあると思いますか?

野田:UKの雑食性の面白さは、いろんなものに開かれてるってことだよ。それはもう、UKの音楽のずっと優れているところだと思う。俺がエレクトロニック・ミュージックが好きなのは、そこも大きい。ベース・ミュージックがそうだけど、たとえばUKゴムみたいなのは、いまの流行かもしれないけど、この音楽にはまだ更新の余地があるってことでもあって。ロックは歴史がある分、すでにいろんなことをやってきているから難しいよね。たとえばアート・ロックっていうか、60年代末から1970年前半のプログレ期のUKのロック・バンドは旧来のロックの語法に囚われず、ジャズやクラシックや実験音楽やエレクトロニクスなど、ロック以外のいろんなものを取り込んでいってその表現を拡張していったわけだよね。雑食性っていうか……、折衷主義って言ったほうが正確かもしれないね。ただ、こうしたプログレ的な折衷主義って、ポスト・パンクのそれがダブやレゲエやジャズだったりするのとは違って、ともすれば装飾的で、西洋主義的で、ファンタジー・ロックっていうか、たとえばスリーフォード・モッズが生きている現実からはまったく乖離してしまうんだけど、BC,NRはそうじゃない。サウンドだって削ぎ落とされてもいる。BC,NRで感心するのは、バンドが7人編成と大所帯なんだけど、音数がすごく整理されているっていうか、ちゃんと抑制されているところ。ブラック・ミディなんかあれだけ情報量と戯れながら、ものすごい躍動感があるでしょ。踊れる感じがあるよね。あ、でもBC,NRにあんまそういうのは感じないかな。ダンス・ミュージックからは遠いな(笑)。

木津:いや、でも彼らには舞踏音楽のクレズマーの要素があるじゃないですか。いわゆるロックとは別の文脈でのダンスを志している感じがあって、僕がストリーミングで観たライヴは、曲によってはけっこう身体を動かしたくなる感じもありましたよ。

野田:そうだね、クラブ音楽だけがダンスじゃないからね。話を戻すと、ブラック・ミディやBC,NRなんかがやろうとしていることは、折衷主義における参照性の幅を極限まで引き伸ばそうっていうことなんじゃないのかな。それはそれでアリだと思うよ。でもさ、ストリーミング時代でいろんな音楽にアクセスできることは、音楽ライターにも言えるよね。俺らが若い頃は、たとえばクラウトロックなんかを聴くには、何年もかけて毎週毎週レコード店に通っていなければ無理だったけど、いまはなんの苦労もなく聴けて。ブラジル音楽にしてもフリー・ジャズにしても。

木津:いや、本当にそうですよ。で、僕はそのことに罪悪感もあるんですよ。過去への敬意がなくなっていくんじゃないかって。それで言うと、このまえ、BC,NRは限定でカヴァーEPを出したんです。A面がアバでB面がMGMTとアデルのカヴァーです。僕はその脈絡のなさにためらってしまいました。

野田:いや、アバはいま来てるからな。本当に好きなんじゃない? でもさ、もうしょうがないでしょ。もうそうなってしまってるんだから。こういう環境が前提で生まれていくものだし、そこからはじまる何かだってあるってことに期待しようよ。

木津:うんうん。ただ、それは彼らなりの現代への批評的な態度なんじゃないかとも思う。ジャケットはCD-Rを持ってる写真なんですけど、それってつまり音楽が「コピー」されることへの皮肉でもありますよね。つまりBC,NRに関して言えば、純粋に全部良いって言うよりも、スーパー・フラットになっている状況がいいのか? という問題意識も若干あるような気がします。とくにアイザック・ウッドはそのことを考えてたと思う。

野田:だいたいアイザック・ウッドはこのあと何をやるんだろう、それはそれで興味をそそられるし。

木津:本当にそうですよね。

野田:BC,NRに文句があるとしたら、バックの演奏があまりにもうますぎるってことだね(笑)。ポスト・パンクってアマチュアリズムだからこれをポスト・パンクと言わないでほしい!

木津:わはは。まあブラック・ミディもBC,NRも、さすがにもうポスト・パンクとは誰も呼べないでしょう。ブラック・ミディもメンバーにメンタル・ヘルスの問題があって休んだりしているので、そういう感じはいまのバンドは変わってるのかなって思います。昔のバンドは追い込まれても無理やり繕ったりしていたけど。アイザック・ウッドも休んで苦しみとはまた違う表現が出てくる可能性はあるので、それは楽しみですね。

野田:アイザック・ウッドってインタヴューではどういう人なの?

木津:基本的には真面目な若者だと思うんですけど、僕が読んだものではちょっと無軌道なところもあったかもしれない。質問の意図をちょっとずらすような答えかたをしたり、そういう感じはありましたね。いずれにせよ、ファーストとセカンドがBC,NRにとって重要なアルバムになると思います。アイザック・ウッドが抜けたら、エモーションがちょっと暴走している感じはもう出てこないのかなと。これからバンドがどう変わろうとも。

野田:ヴォーカリストいれるのかな?

木津:どうなんでしょうねえ。ツアーはキャンセルになっちゃったみたいなんで、まだ方針が固まっていないのかも。あと彼らはファーストのころから、歌詞の内容や思想などをバンド内ではそれほどシェアしないと言ってました。

野田:だからコミュニティ(共同体)っていうんじゃなく個人の集まりなんだよ。それで良いと思うし、俺はBC,NRのバンドの普段着な感じも好感が持てた。いまから20年ぐらい前にもUKではインディ・ロック・ブームがあったんだけど、あのときはまだ古典的なロックンローラーを反復している感があった。そこへいくとZ世代のバンドは古典的なロックンロール気質から100万光年離れてる。それにちょっと泥臭いところもあるよね?

木津:ファーストのときにね、野田さんがブルース・スプリングスティーンの引用があると教えてくれたんですよね。

野田:そうそう、「だから木津君は気にいるんじゃない?」って。すごく適当だな(笑)。

木津:(笑)でも、そこは面白いポイントだなと。というのも、あまりにも固有名詞がランダムに出てくるし、サウンド的にも雑食的と言いつつランダム性もあるから、ちょっとナンセンスなものなのかなとも僕は思ってたんです。でもそこでブルース・スプリングスティーンの”Born to Run”を引用するのは、ある種の泥臭さのあらわれですよね。そこを発見してから、僕はBC,NRが好きになりましよ。我ながらチョロいですけど(笑)。

野田:それから俺はね、アルバムで時折見せる牧歌的な感じも好きだよ(笑)。ビッグ・シーフだって、俺あのジャケット好きだもん。動物たちが焚き火しているイラストの、ほのぼのしているやつ。それに対してBC,NRはさ、これは日本語タイトルをつけてほしかったけど、「Ants From Up There」って。『上空からのアリたち』だよ。ちょっとニヒルじゃない?

木津:たしかに。“Concorde”という曲名なんかも象徴的な言葉ですよね。昔、めちゃくちゃな速さを求めて開発されて、でも結局ものすごい費用がかかってうまくいかずに終わってしまった飛行機ですから。それもある種、もう未来が良くならないとわかっている世代の気持ちかなとは思ったりしましたね。前の世代が残した負債をどう処理していくかっていう……。

野田:未来が良くならない可能性が高いのは日本だよ。イギリスのZ世代はもっと希望を持ってるんじゃない? 絶望したり苦痛を感じるのは希望を持っているからだと思うよ。だってBC,NRの『Ants From Up There』は、素晴らしくアップリフティングなアルバムじゃないですか。

木津:そうですね。とくにアルバムの終わりのカタルシスはすごい。ラストの“Basketball Shoes”って昔からバンドの持ち曲でどんどん内容が変わっていったものなんですよ。だから、バンドにとっても思い入れのある曲だと思うんですけど、そのエモーションの爆発で第1期のBC,NRは終わったわけで……。ある特別な瞬間を共有できたことの喜びがある。だからそういう意味でも僕にとってBC,NRはすごくロマンティックなバンドで、そこにはたしかに、暗い未来にも立ち向かっていくエネルギーを感じますよ。

Alabaster DePlume - ele-king

 ロンドンには、トータル・リフレッシュメント・センターという、多くのジャズの才能たちを育ててきたライヴハウスがある。サンズ・オブ・ケメットザ・コメット・イズ・カミングがスタジオとして用いてきた場所でもある。
 サックス奏者アラバスター・デプルームも、そこに育てられたひとりだ。味わい深いサックスの音とポエトリー・リーディングを組みあわせる独自の表現は、聴く者にさまざまな情感を呼び起こさせる。そんな彼の新作『ゴールド』では、まさにサンズ・オブ・ケメットのトム・スキナーやザ・コメット・イズ・カミング作品の参加経験者が力を貸している。チェックしておきたい1枚。

エキゾチックかつ、魔法のようにノスタルジックで個性的なサウンドに注目が集まる、ロンドンを拠点に活動するコンポーザー、サックス奏者 Alabaster DePlume(アラバスター・デプルーム)。聴く者の背中を押す、愛と創造性あふれる NEW ALBUM『GOLD』を、ボーナストラックを加えて日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!!

主な参加ミュージシャン:
Falle Nioke (西アフリカ出身のシンガー/パーカッショニスト) – voice, percussion
Sarathy Korwar (インド系ジャズ・ドラマー/パーカッショニスト) – drums, tabla
Tom Herbert (Polar Bear、Toshio Matsuura Group) – double bass
Tom Skinner (Sons of Kemet、トム・ヨークの The Smile にも参加) – drums
Danalogue (The Comet Is Coming) – voice and synths
Rozi Plain (ロンドン拠点のシンガーソングライター) – guitar
Matthew Bourne (エイヴベリー出身のジャズ・ピアニスト/作曲家) – piano

アラバスター・デプルームは、サックスを吹くパフォーマーであり詩人だ。この美しいアルバムは、人々が集い、音を出すという創造性と自発性を称揚する。UKジャズの中心地で、デプルームを育てたコミュニティでもあるトータル・リフレッシュメント・センターで2週間に渡って毎日異なるミュージシャンを招いて録音された。その穏やかなヴァイブ、“響きの良いメロディ” とトーンが聴き手を包み込む。(原 雅明 rings プロデューサー)

アルバムからの先行曲 “Don't Forget You're Precious (Official Video)” のMVが公開されました!
https://www.youtube.com/watch?v=rXE2WceZCsQ

MOJOmagazine にて、NEW ALBUM『GOLD』がピックアップされました!! 星4つのレビューを獲得!!

アーティスト:Alabaster DePlume (アラバスター・デプルーム)
タイトル:GOLD (ゴールド)
発売日:2022/4/20
価格:2,600円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC85
フォーマット:CD(MQA-CD/ボーナストラック収録)

* MQA-CDとは?
通常のCDプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

Official HP : https://www.ringstokyo.com/alabasterdeplumegold

Pan Daijing - ele-king

 今年1月、注目すべきエクスペリメンタル・ミュージックのアルバムがベルリンの〈PAN〉からリリースされた。
 中国出身で現在はベルリンを拠点とするサウンド・アーティスト、パン・ダイジンの新作『Tissues』である。このアルバムは圧倒的ですらあった。人間というものの実存を問いつめるようなエクスペリメンタル・ミュージックとでも称すべきか。これぞダイジンが希求したオペラ=総合芸術ではないか。声とノイズを用いたノイズ・オペラ。そこには人の実存への極限的な思考がある。

 パン・ダイジンはこれまで〈PAN〉からアルバムを二作リリースしてきた。2017年の『Lack』と2021年の『Jade』の二作である。二作とも鮮烈なアルバムだが、こと『Jade』は冷徹な音響によるインダストリアル・アンビエント・ノイズと声が全編にわたって混じり合うように展開し、「ノイズ・オペラ」とでも形容したいほどの強烈な作品である。むろん『Lack』もまた「精神のオペラ」と自ら称していたようにオペラを希求し実現したアルバムだ。
 私はこれら二作品をエクスペリメンタル・ミュージックから生まれた「新しいオペラ」と考える。ダイジンは正式な音楽教育を受けているわけではない。だがオペラを作りたいと渇望し、「新しいオペラ」を作り上げた。オペラとは総合芸術である。つまりパン・ダイジンは総合作品としての音響音楽を希求している。
 2019年10月にロンドンの国立近代美術館「テート・モダン」で上演された実験的な演劇『Tissues』もまたパン・ダイジンが追求しきた声とノイズによる「新しいオペラ」の結晶といえよう(https://www.youtube.com/watch?v=PF2aGaRA-40)。
 この上演では13人のダンサー、オペラ歌手、俳優らと共に、構成、演出、デザイン、脚本を手がけたダンジンも演じていたという。地下空間の混乱のようにカオスな音響空間が生まれ、この世界の「恐怖」と直面する人間の感情が、言葉、声、ノイズによって表現されていったらしい。
 ここで気になるのは、2019年にリリースされた『Jade』との関係だ。上演と発表時期が重なっているからである。『Jade』は、2017年に『Lack』をリリースして以降の3年のあいだに制作された。ということは2019年テート・モダンで上演された『Tissues』と重なっている。となれば『Jade』と『Tissues』は、ノイズと声のオペラという意味でもコインの裏表のようなアルバムではないか。
 『Jade』では個の内面に沈み込むようなノイズ・オペラを展開し、『Tissues』では上演という形式のなか複数の演者たちとコラボレーションし、肉体と世界が拮抗するようなノイズ・オペラを生成する。この二作は対照的だ。個の内面と他者との関係性の差異とでもいうべきか。

 アルバム『Tissues』は、その上演を1時間ほどに抜粋・編集した音響作品である(いや音響劇とでもいうべきか)。
 全体の構成は4つのブロックに分けられている。音響版においては、当然ながら彼らは映像/イメージを剥ぎ取られ、それぞれが気配と声だけの存在になってしまう。われわれは音のむこうにある気配と声とノイズを聴取することになる。
 アルバム『Tissues』においては「声の存在」がノイズと共に大きな意味を果たしている。複数の「声」が交錯し、ときには反発し、やがて混じり合っていく。そうして個の存在を使い捨てにするような残酷な世界のありようが浮き彫りになるのだ。
 涙を拭うために使い捨てられる「テッシュ」と、人間を残酷に使い捨てる「世界」の「残酷さ」の問題を重ね合わせること。本作の狙いはそこだ。ここからパン・ダイジンたち自身の実存と「世界」に対する抵抗の意志がより浮き彫りになる。音響だけになった演者たちは肉体を剥ぎ取られていくことで、世界の残酷さを体現するだろう。そしてそこに無慈悲な世界の象徴のようにノイズが声に、個に、神経に、聴覚に、肉体に侵食をしようとする。
 アルバム『Tissues』は、この無慈悲な世界に、個の抗いと個の存在を突きつけ、同時に深い喪失感をも結晶させていく、その過程のような音響作品だ。闘争の音響劇である。そしてダイジンがこれまで追求してきた「世界に疎外され続ける肉体の存在」と「時間と孤独」に対する思索の結晶のようなアルバムともいえる。『Lack』と『Jade』を経てついに実現したパン・ダイジンの「新しいオペラ」が完成した。ノイズ/インダストリアル・アンビエントの完成形、それが『Tissues』だ。

 最後に記しておきたいことがある。『Tissues』は、エンプティセットのジェームズ・ギンズバーグによって録音され、ラシャド・ベッカーによってマスタリングされた。いわば10年代「尖端音楽」の覇者たちがパン・ダイジンをサポートしているという事実は重要だ。それだけでも彼女の才能がどれほど重要なものかわかるのだから。

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

 幻の作品とされてきたゴッドスピード・ユー!ブラックエンペラーが1993年に録音したカセットテープ作品『all lights fucked on the hairy amp drooling』、すなわち彼らのもっとも初期の録音物が先日インターネット上に流出したことを受けて、バンドはbandcampにて正式にリリースすることにした。
 なお、この売り上げはCanadians for Justice and Peace in the Middle Eastという慈善団体を通じて、ガザ地区への医療用酸素提供のために寄付される。
 

石橋英子 - ele-king

 素晴らしい音楽や映画、あるいは書物というのは、思いも寄らなかったところに入り込み、硬直した視野を押し広げてくれるものだ。石橋英子の『The Dream My Bones Dream』には、いち個人が日本史の靄のかかった奥に潜り込んでいくという点において、村上春樹の『ねじまき島クロニクル』を彷彿させるところがあった。だからといって、彼女が濱口竜介監督の、傑出したこの映画のサウンドトラックを引き受けることになったわけではないだろう。ようやく時間が持てたので、ぼくは『ドライブ・マイ・カー』を観た。そして3時間後には、しばらく席から立てないほど打ちのめされた。エンドロールでかかる石橋英子の曲は、車がギアチェンジしたことさえわからない滑らさをもって、しかし映画の深い余韻をしっかりと引き受けている。
 
 石橋英子は、このサウンドトラックを2曲に集約させている。表題曲“Drive My Car”、映画においてもっとも印象的なチェーホフからの引用を曲名とした“We'll Live Through The Long, Long Days, And Through The Long Nights(長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう)”。アルバムには、この2曲をもとにした合計10ヴァージョンが収録されている(*)。とはいえ、10曲といっても差し支えないくらいに、個々それぞれ違っている10作品でもあるのだが、日々ひっきりなしに往復する車と同じように、それぞれの楽曲にもアルバム全体にも反復性がある。また、劇中でかかっている多くは、おそらく楽曲の断片で(まだ一度しか観ていないので、正確なところはわからない)、石橋英子のサウンドトラックは映画の音をそのまま再現しているわけではなく、それらをもとにひとつの独立したアルバム作品として再構成しているようだ。
 映画は静かにゆっくりと、一見なんの変哲もない日常のなかで、登場人物たちそれぞれが個々の悲しみを打ち明けていく。自分に何が起こっているのか理解することそのものが困難な、いつ日常がひっくり返っても不思議ではない不安定な(村上ワールドでたびたび描かれている)日々において、安定しているのは登場人物みさきの運転ぐらいなものとなっている。変わりない時間軸といっしょに、残酷なまでに変わっていく時間軸が併走し、ドライブする車がいつの間にか車線変更するように映画はそのどちらかを走っている。こうした微妙なニュアンス、さりげない場面の意味的な移り変わりを、石橋英子(そしてジム・オルークと山本達久をはじめとする演奏者たち)は、ゆったりとスウィングするリズムとさまざまな表情の小さなメロディ、効果的なサウンドコラージュと起伏に富んだストリングス、そして電子音による音数少ないテクスチュアによってじつに巧妙に表現したと思う。主人公の家福が演劇の稽古で、役者たちに台詞を(下手に感情を込めずに)棒読みにするよう徹底させるシーンがある。感情は自分が勝手に与えるものではなく、言葉のほうから与えられるものだということなのだろうけれど、この音楽も似ている。情緒を押しつけるのではなく、それは聴き手のうちなるところから生まれるべきだと、それが主張を控えたこの音楽の主張だろう。
 
 石橋英子は特定のジャンル作家ではない。いろんなスタイルでたくさんの音楽を作っている。先鋭的な実験音楽から親しみやすいポップス、ジャズからアンビエントまで。そうした彼女の多彩なところも、本作ではうまくまとまっているんじゃないだろうか。優雅で美しいピアノが旋回する“Drive My Car”の(Misaki)、サウンドコラージュとサティ風のピアノによる同曲の(Cassette)。山本達久の趣あるドラムと茫洋とした電子ドローンをフィーチャーする“We'll Live Through 〜”の(SAAB 900)ヴァージョンは、実験音楽家としての石橋英子の面目躍如で、さらにドローンに徹した(Oto)ヴァージョンの寂しげな静寂もぼくには面白いし、ミニマルな“Drive My Car”の(The Truth, No Matter What It Is, Isn't That Frightening/真実はそれがどんなものであれ、それほど恐ろしいものではない)などはクラスター&イーノによるプロト・アンビエントを彷彿させる。
 こうした抽象的な楽曲があるいっぽうで、小気味よいリズムとメロディを主体とした“Drive My Car”の(The Important Thing Is To Work/大切なのは仕事をすること)、そしてストリングスの音色を活かした“We'll Live Through 〜”のオリジナル・ヴァージョンは、ギリギリのところである種ロマンティックな雰囲気を引き起こしている。曲の後方でジム・オルークのギターがざわついている“We'll Live Through 〜”の(And When Our Last Hour Comes We'll Go Quietly/そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう)は、アルバムのクローザーに相応しい。昼も夜も休まることなく、クライマックスに向けて走り抜けていくようだ。が、しかし走っても走っても、カフカの『城』のように終着点はない。いや、ここはサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』のように、と書くべきか。
 
 本作は、2021年の夏に出たアルバムだが、ぼくが聴いたのはわりと最近で、レヴューを書くために映画を観に行こうと思い、ようやくそれが叶ったことでいまこうして書いている。映画を観た人と観ていない人では、このサウンドトラックの受け止め方が違うのは当たり前だ。これは観た人の感想文であって、観ていない人がこの音楽をどう聴くのかはわからない。ぼくはこのアルバムが気に入っているし、ここ最近は、ぼくが移動するときのサウンドトラックにもなっている。まあ、ぼくはもっぱら歩く人ですけど。
 
 
(*)つい先日発売されたCD版にはボーナストラックとして新たに2曲が追加されている。1曲は“Drive My Car”の(Hiroshima)、もう1曲は“We'll Live Through 〜”の(different ways)。前者はミニマルなピアノ演奏による曲で、後者は『ミュージック・フォー・エアポーツ』寄りの、複数の電子ドローンがそれぞれ循環する美しいアンビエント・ミュージックになっている。

Yard Act - ele-king

 デビュー・アルバムをリリースするポストパンク・バンド、もしかしたらみんなもうこの言葉を聞くのは飽き飽きしているかもしれない。しかしヤード・アクトは思い浮かぶそれらのバンドのどれよりも、はるかにポップだ。そして、それこそがきっとすべての違いなのだ。

 早口でまくし立てられるヴォーカル、せき立てられて気持ちがせいで否が応にも事態に巻き込まれていく……。ヤード・アクトのアルバムのタイトル・トラックであり1曲目 “The Overload” ほどこのデビュー・アルバムの最初の曲にふさわしいものはない、そう思わせる程にキレがある。イングランド、リーズのバンド ヤード・アクト、サウス・ロンドン・シーンを尻目にリーズで結成されたこのバンドはポップなギャング・オブ・フォーのようでもありギャング映画とフォールにかぶれたフランツ・フェルディナンドのようでもあり、スタジアムのフットボール・プレイヤーではなくTVに映るフットボール解説者にキレるスリーフォード・モッズのようでもある。ギターは尖り、ベースは太くドラムはタイト、流行している例の喋るようなヴォーカルに圧倒的に足りなかったのはこのポップさだったのではないかという言葉がこのアルバムを聞く度に頭をよぎる(そしてそれらが出そろった2022年のこのタイミングでヤード・アクトのアルバムが出たことにも意味があるようにも思える。まったく違うものではないが、組み合わせるやり方が違う。それはショートカウンターとしてソリッドに機能する)。

 僕が最初にヤード・アクトを知ったのは2020年の4月、イギリスの音楽誌 Dork がデビュー・シングル “The Trapper’s Pelts” をリリースするバンドを紹介する記事だった。Twitter のタイムラインにガレージの中にある薄汚れた車と共に写真に写る4人の男の姿が表示される。眼鏡をかけた3人の男とニット帽をかぶった2人の男(つまり一人はニット帽をかぶり眼鏡をかけている)の冴えないがしかし何やら雰囲気がある写真とビル・ライダー・ジョーンズがプロデュースしているという情報に惹かれて記事を開き、そしてその中の YouTube のリンクを踏むと「YARD ACT」の文字(つまりジャケットに描かれている例のマークだ)が回りはじめる。それで他の情報は全ていらなくなった。百聞は一見にしかず、音がなりはじめた瞬間に一発でわかるような種類の音楽というものがあって、ヤード・アクトは完全にそれだった。当然のようにあっという間に話題になり最初の7インチが出る前にはレコードを入手することが困難なバンドになっていた。もう誰もプロデューサーが誰なのか気にしなくなり、ただヤード・アクトがどんな音楽をリリースするかだけに関心が集まった(しかしちゃんと書いておく。アルバムのプロデューサーはドゥ・ナッシングやケイティ・J・ピアソンをプロデュースしたアリ・チャントだ。付け加えるなら8曲目の “Quarantine the Sticks” にはビリー・ノーメイツも参加している)。

 そしてこのデビュー・アルバムもまさにそういう種類のアルバムだ。再生ボタンを押した瞬間に始まるタイトル・トラックの “The Overload” 「イェーイェーイェー」というジェームス・スミスの声がやる気なく聞こえてきたと思えば心構えも何もなく気がつけばもうヤード・アクトが巻き起こすこの事態の中に引き込まれている。“Dead Horse” はフランツ・フェルディナンドの最初の方のアルバムに入っていてもおかしくないほどムーディーで、“Witness (Can I Get A?)” はハードコアの曲を作ろうとしたがうまくいかず、スーサイドのドラムを試したらスロウタイムラ・マサみたいな曲になったと彼らは言う(しかし1分と少しのこの曲はギターを効かしたスリーフォード・モッズのようにも聞こえる)。

 このアルバムで白眉なのが9曲目の “Tall Poppoeis” で、この曲は同時代の他のポストパンク・バンドにはちょっとみられない曲だろう。イラついていないときのマーク・E・スミスみたいな語り口で語られる物語、クラスでいちばんハンサムだった男、村でいちばんフットボールが上手かった奴、クルー・アレクサンドラのスカウトが見にきて関心があるとかなんとか言う(クルー・アレクサンドラはイングランドの3部にあたるリーグ1に所属しているクラブだ)。だが彼はフットボールの道に進まなかった。16歳の時に決断し、村で不動産の仕事について、結婚して、犬を飼って、子供が生まれ、そうして年を取り死んでいく。彼は夢を追うことをしなかった。グレート・マンチェスターにはもっとハンサムな男がいて、信じられないくらいフットボールが上手い奴がいる、だから彼は村を出ずに平凡な幸せな中に死んでいくことを選んだ。そんな男の一生が音楽に乗せた説話として描かれ、そのあとにこの話を受けて現代を生きる人間の思いが語られる。この国では16歳になるまでにどんな大人になるのか決めなければならない。そうやってみな選択した自分の人生を生きる。そのことに精一杯で、どこかの国で爆弾が落とされ子供が死んでいくことを知っていたとしても、その利益を受けて生きていくしかない。この曲ではそうした人生の選択や不条理さ、無常観が描かれている。体制にただ牙をむくのでもなく、怒りをぶつけるのでもない。誰かを諭そうともせず意見を押しつけず、ヤード・アクトは自分の見た世界の現状を提示して、どう思う? と笑顔を浮かべ皮肉じみた質問を投げかけるのだ。

「近頃のガキは自分が苦労しているって思っている / 俺みたいに鉄の肺を味わったわけでもないだろうに」 “The Overload” でそう唄われているようにヤード・アクトはいわゆるサウス・ロンドン・シーンのバンドとは違う世代に属している。ヴォーカルのジェームス・スミスは31歳で結婚していて子供がいて、その相棒、ベースのライアン・ニーダムは彼より10歳年上で、メンバーチェンジを経て加入したギタリストのサム・シップストーンやドラムのジェイ・ラッセル(この二人は地元リーズのバンド、ツリーボーイ&アークのメンバーと交代で入った二人だ)にしてもヤード・アクトの前に違うバンドで活動しており、メンバー全員がこれまでに他のバンドで音楽活動をしていた。ジョン・クーパー・クラークからその名がとられたであろうジェームス・スミスのバンド、ポスト・ウォー・グラマラス・ガールズはゴシックの香りが漂う陰鬱なギターバンドで、ライアン・ニーダムのメネス・ビーチも『Black Rainbow Sound』というアルバム・タイトル通りの暗さがある。そうした時代を経てのヤード・アクトだ。ヤード・アクトはこれまでのバンドと同じようなエッジを持ちながら、それよりもずっとポップで親しみやすく、そしておそらく大きな場所で響きやすい。

 ソー・ヤング・マガジンのサム・フォードが言うように、いまのロンドンで音楽をしようと思うのならば学生時代の3年間を有効活用するしかないのだろう(つまりジェントリフィケーションの問題だ)。サウス・ロンドンの多くのバンドはそれを利用し連帯しシーンを形作っていった。だがそれらのバンドの大半は成功し売れるということにあまり興味を示さなかった。情熱を持って活動し自分たちの音楽を気に入ってくれる誰かに届けば良い。そうしてお互いに刺激を受けて、それがまた音楽を作る原動力になる。それは素晴らしいものなのだが、もしかしたらそれが少なからず頭でっかちの音楽になってしまった原因なのかもしれない(あるいは “Tall Poppoeis” で描かれたフットボールの話はこうした状況にもかかっているのかもしれない)。しかしヤード・アクトは違う。生活のための音楽、もしくは音楽のための生活を経験している彼らは目標をしっかりと掲げはっきりと大きなステージを目指した(この点でもフランツ・フェルディナンドを彷彿とさせる)。
 その上で彼らは同時に信念を持ち続けている。人気を集めた “Fixer Upper” や “Dark Days” などアルバム以前に発表された曲を1曲も収録しなかったというのがおそらくその証拠になるだろう。ただ売れればいいというものではなく波風が立つようなエッジがなければ意味がない、この姿勢がヤード・アクトをヤード・アクトたらしめる。切れ味鋭いポップな楽曲に乗せた社会風刺、人気ゲーム「FIFA22」のサウンドトラックに収録された “The Overload” がジェントリフィケーションの問題を取り扱った曲であるように、“Dead Horse” ではBrexit時代の政治の現状が嘆かれ、“The Incident” ではキャンセル・カルチャー世界の健全さが、そして “Rich” や “Payday” では社会格差や資本主義のねじれがユーモアと皮肉を交えて描かれている。こうしたメッセージが込められた曲を大きな場所で響かせようとしているのがヤード・アクトなのだ。サウス・ロンドン・シーンのバンドとの共通点と差異、エッジを持ちつつポップでもあるということ、ヤード・アクトのこのアルバムはやはり巻き起こったシーンに対してカウンターとして機能するのだ。

 そして物事にはタイミングというものがある。おそらくこの 1st アルバムは10年前では同じように作れなかっただろうし、同様に響くこともなかっただろう。時代と場所と流れ、様々なものが噛み合って音楽は生まれ、受け入れられていく。だからこそヤード・アクトのアルバムがいまこのタイミングで出たことに意味があるとこのアルバムを聞いてそんなことを考えてしまう。

Maarja Nuut - ele-king

 2021年の嬉しい発見のひとつにマーヤ・ヌートのアルバム『hinged』があった。アナログ盤と配信のみだったこの傑作のCD盤がこの度〈PLANCHA〉からリリースされる。ボーナス・トラック1曲収録の、歌詞・対訳付きという仕様。これは嬉しい。ちょっと部屋のなかが明るくなる本当に良い音楽です。あらためて推薦します。
 

Maarja Nuut
hinged

PLANCHA
2022年3月18日発売
2,200 円+ 税

 Madegg名義で作品を発表していた小松千倫による、Kazumichi Komatsu名義のアルバム『Emboss Star』のリミックス盤が先週リリースされた。リミックス担当は、堀池ゆめぁ、Takao、荒井優作、土井樹といった若手注目の面々。アナログ盤と配信のリリースとなる。

Kazumichi Komatsu
Emboss Star Remixes
FLAU
https://smarturl.it/EmbossStarRemixes
https://flau.bandcamp.com/album/emboss-star-remixes

tracklist:
1. Umi Ga Kikoeru (feat. Dove & Le Makeup) (Extremely Raw Version)
2. Lipsynch (堀池ゆめぁ Remix)
3. Followers (feat. Cristel Bere) (Takao Remix)
4. Umi Ga Kikoeru (feat. Dove & Le Makeup) (荒井優作 Remix)
5. Emory (土井樹 Remix)

 なお、『Emboss Star』のアナログ盤も絶賛発売中。
こちらは収録曲“Followers feat. Cristel Bere“のMV(shot by Maho Nakanishi)。

以下、レーベル資料から。

Madeggとして活動を行なっていた小松千倫がKazumichi Komatsu名義で昨年リリース、Visible Cloaksがミックステープに楽曲をフィーチャー、柴田聡子が昨年のベストアルバムの1枚に選ぶなど、多方面で注目を浴びたアルバム「Emboss Star」が1年越しにLP化。本作は、過去4年の間に作業されたEP、インスタレーション作品、映像作品、ファッションショー、パーティー、レイヴ等の実験の中から、将棋の棋譜を読み返すようにして見つけ出されたものを基礎としている。全体で30分にも満たない本作は、再生とともに現象してしまう音源のファンダメンタルな側面を強調しつつ、情報やイメージのヴェイピングに対する様々な反応を、身体において再構成することが意図されている。ハウスやアンビエントが誘き寄せる半意識的な状態への契機とともに、抵抗が意図されており、インプットへのある種の免疫を作り出そうとする。コミュニケーションの戯図のなかで、フィクションはハッシュタグやジャーゴンといった冗長に圧縮されていく。それらはフォークロアの話素にもなる。ルドンダンスを組み合わせたフォークソング集。シングル「海がきこえる」にはアルバム「微熱」が注目を集めるDove & Le Makeup、「Followers」ではPure VoyageからCristel Bereをフィーチャー。マスタリングは注目のレーベルRecitalを主宰するSean McCannが担当。

Kazumichi Komatsu

小松千倫は1992年生まれ、トラックメイカー Madeggとしても知られる。これまでにFLAU、Angoisseなど様々な国のレーベルよりアルバム、 EPをリリースするが、その表現領域は音楽、映像、インスタレーションと多岐にわたる。原初的な経験的感覚やイメージを基点としながら、ジャンルによる規定性を迂回するように街や自然、メディアや記憶の内外にある微細な現象や変化を重ね合わせることで、抽象的なイメージが固有のシーケンスへと転化していくかのような作品制作を行っている。

FEBB - ele-king

 4年前に急逝した Fla$hBackS のラッパー/プロデューサー、FEBB。生前手がけていたという幻のサード・アルバム『SUPREME SEASON』がなんと陽の目を見ることになった。残されたPCから発見された全16曲を収録、アナログ2枚組とCDのフィジカル限定で、デジタルでのリリースは予定されていない。これは要チェックです。

FEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』が完全限定プレスの2枚組アナログ盤、CDのフィジカル限定でリリース。

2018年2月15日に急逝したFEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』がリリース。デジタルでリリース済みの“SKINNY”や“THE TEST”の7インチにカップリングされた"FOR YOU”など一部既出の楽曲やGRADIS NICEとの『SUPREME SEASON 1.5』でリミックス・ヴァージョンが収録されたりしているものの、これが本人が纏めていたオリジナル音源での3rdアルバム。
 FEBB自身のパソコンから発見された全16曲のオリジナルデータにマスタリングを施し、ご家族と協議の上リリースすることとなりました。客演としてMUD(KANDYTOWN)が唯一参加となっています。(本来は全17曲ですが"DROUGHT"はMANTLE as MANDRILLのアルバムに収録されたため本作には未収録)
 アートワークは名盤『THE SEASON』と同じくGUESS(CHANCE LORD)、マスタリングはNAOYA TOKUNOUが担当。
 本作はアルバムとしてのデジタル・リリースは予定しておらずフィジカル限定となり、アナログ盤は帯付き見開きジャケット/完全限定プレスで一般販売。同じく完全限定プレスのCDやTシャツ等のマーチャンダイズはP-VINE
SHOP限定での販売となり、詳細は追ってアナウンスになります。
(Photo: Shunsuke Shiga)

[商品情報]
アーティスト: FEBB
タイトル:  SUPREME SEASON
レーベル: WDsounds / P-VINE, Inc.
発売日: 2022年5月25日(水)
仕様: 2枚組LP(帯付き見開きジャケット仕様/完全限定生産)
品番: PLP-7778/9
定価: 4.950円(税抜4.500円)

[TRACKLIST]
A-1 SUPREME INTRO
A-2 DRUG CARTEL
A-3 THUNDER
A-4 FOR YOU
B-1 CITY
B-2 DANCE
B-3 RUSH OUT
B-4 $AVAGE
C-1 F TURBO
C-2 FOR REAL THO
C-3 ELOTIC
C-4 NUMB feat. MUD
D-1 REALNESS
D-2 LIFE 4 THE MOMENT ( SKIT )
D-3 MOTHAFUCK
D-4 SKINNY

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026 1027 1028 1029 1030 1031 1032 1033