ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  2. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  3. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  4. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  5. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  6. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  7. Oklou - choke enough | オーケールー
  8. Moemiki - Amaharashi
  9. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  10. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  11. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  12. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  13. butaji - Thoughts of You
  14. 行松陽介
  15. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  16. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  17. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  18. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  19. Zoh Amba ──サックス奏者ゾー・アンバが〈マタドール〉と契約、ギターを手に歌う新作をリリース
  20. Geese - Getting Killed | ギース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Hello Skinny- Watermelon Sun

Hello Skinny

ExperimentalFootworkHouseJazz

Hello Skinny

Watermelon Sun

Brownswood

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Dec 08,2017 UP

 トム・スキナーというドラマーは一般的に知られる存在ではなく、どちらかと言えばミュージシャンズ・ミュージシャン、すなわちプロの間で信頼の厚いミュージシャンである。イギリス人の彼は若い頃にゲイリー・クロスビー主宰のトゥモローズ・ウォリアーズで研鑽を積み、いろいろなレコーディングやセッション、ライヴに参加してきた。共演アーティストを上げると、マシュー・ハーバートフローティング・ポインツ、ゼロ7、ジョナサン・ジェレミア、ジョニー・グリーンウッド、エルモア・ジャッド、クリーヴランド・ワトキス、ムラトゥ・アスタトゥケ、フィン・ピーターズ、バイロン・ウォーレン、シャバカ・ハッチングスなど、幅広い分野に渡っている。実際のところトムの基本はジャズで、アレキサンダー・ホーキンスのバンドでフリー・インプロヴィゼイションも磨いてきたが、ロックやファンクなど多岐の音楽にも通じており、それゆえオルタナティヴな表現を可能としているミュージシャンである。そんな彼だから自身が主体のバンドやユニットも多彩だ。オウニー・シゴマ・バンドではアフロを切り口にジャズ、テクノ、ディスコを縦断し、サンズ・オブ・ケメットではブラス・サウンドにスカやダブステップの要素を融合。メルト・ユアセルフ・ダウンではジャズ・ファンクにロックやパンク~ニュー・ウェイヴのテイストをミックスし、ワイルドフラワーは中近東からアフリカの民族音楽の色彩が強いフリー~スピリチュアル・ジャズ、ジェイド・フォックスはインディ・ロック寄りのジャズ・ファンクといった具合だ。

 ハロー・スキニーはトム・スキナーの変名で、彼の個人プロジェクトでもある。この名前はUSオルタナ・ロックの始祖的存在であるザ・レジデンツの楽曲から名付けたものだ。今までにデビュー・ミニ・アルバム『スマッシュ+グラブ』(2012年)、ファースト・アルバム『ハロー・スキニー』(2013年)、12インチEP「レヴォリューションズ」(2013年)をリリースしており、これらではドラマーとしての演奏面のみならず、総合的なサウンド・プロデューサーやコンポーザーとしての才能も見せている。『ハロー・スキニー』はシャバカ・ハッチングスやトム・ハーバートなど周囲の仲のよいミュージシャンが参加し、エクスペリメンタル・ジャズ、アヴァンギャルド・ロック、インディ・フォーク、電子音楽からダブを繋ぐオブスキュアな作品集で、前述のとおりザ・レジデンツの「ハロー・スキニー」のカヴァーも披露している。そんなトム・スキナーをジャイルス・ピーターソンも高く評価し、ハロー・スキニーはじめ彼の関わるプロジェクトの作品をコンピに取り上げてきたが、このたび彼が主宰する〈ブラウンズウッド・レコーディングス〉からハロー・スキニーの新作『ウォーターメロン・サン』がリリースされた。

 『ウォーターメロン・サン』はファースト・アルバムの実験性、音楽ジャンルにとらわれない自由さを継承しつつ、そこにダンサブルな要素を取り入れたものとなっている。その重要な鍵を握るのがトロンボーン奏者兼作曲家のピーター・ズムモである。ニューヨークを拠点に1960年代後半から活動する彼は、故アーサー・ラッセルの親友であり、コラボレーターだった。ダイナソーLやインディアン・オーシャンはじめ、アーサーのユニットや作品の数々へ参加している。ロック、ジャズ、エレクトロニック・ミュージック、パンク、ディスコ、ニュー・ウェイヴ、ワールド・ミュージックを横断した演奏スタイルや活動は、ちょうどトム・スキナーのそれをはるか以前に先駆けたものでもあり、そんなところから両者の間に共感が生まれ、今回のコラボレーションが実現したようだ。“ミスター・P.Z.”はピーターへの敬意が込められた作品。ダイナソーLの“ゴー・バン”や“キス・ミー・アゲイン”を下敷きに、そこへ現在のレフトフィールド・ハウスやディスコ・ダブなどのアレンジを加えたものとなっている。“ラシャド”はタイトルからわかるように、故DJラシャドへの追悼の意を込めたもの。ジューク/フットワークのトラックに、民族音楽からダブを縦断するようなピーターのヒプノティックなトロンボーンがフィーチャーされていく。“コーダ”は四つ打ちを取り入れたダブ・ハウス的な作品で、1990年頃のアンダーグラウンドなニューヨーク~ニュージャージー・ハウスのエッセンスが詰まっている。ディープ・ハウスをやっていた頃のボビー・コンダースとか初期のジョヴォンあたりを思い起こさせる曲だ。10分を超す表題曲“ウォーターメロン・サン”は、四つ打ちのリズムを基本とした上で、トムのドラムとピーターのトロンボーンをはじめとした楽器群がフリー・インプロヴィゼイションを展開していく。ほかにもフローティング・ポインツにも通じるようなスローモー・ハウス“アイデス”、ダビーでアンビエントな空間に包まれたロー・ビート“ブルーベルズ”、遊び心と実験精神に富むフリーフォームなエレクトロ“サインズ”といった作品が収められ、トム・スキナーのリズムに対する飽くなき探求を実践したものとなっている。

小川充