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Hello Skinny

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小川充   Dec 08,2017 UP

 トム・スキナーというドラマーは一般的に知られる存在ではなく、どちらかと言えばミュージシャンズ・ミュージシャン、すなわちプロの間で信頼の厚いミュージシャンである。イギリス人の彼は若い頃にゲイリー・クロスビー主宰のトゥモローズ・ウォリアーズで研鑽を積み、いろいろなレコーディングやセッション、ライヴに参加してきた。共演アーティストを上げると、マシュー・ハーバートフローティング・ポインツ、ゼロ7、ジョナサン・ジェレミア、ジョニー・グリーンウッド、エルモア・ジャッド、クリーヴランド・ワトキス、ムラトゥ・アスタトゥケ、フィン・ピーターズ、バイロン・ウォーレン、シャバカ・ハッチングスなど、幅広い分野に渡っている。実際のところトムの基本はジャズで、アレキサンダー・ホーキンスのバンドでフリー・インプロヴィゼイションも磨いてきたが、ロックやファンクなど多岐の音楽にも通じており、それゆえオルタナティヴな表現を可能としているミュージシャンである。そんな彼だから自身が主体のバンドやユニットも多彩だ。オウニー・シゴマ・バンドではアフロを切り口にジャズ、テクノ、ディスコを縦断し、サンズ・オブ・ケメットではブラス・サウンドにスカやダブステップの要素を融合。メルト・ユアセルフ・ダウンではジャズ・ファンクにロックやパンク~ニュー・ウェイヴのテイストをミックスし、ワイルドフラワーは中近東からアフリカの民族音楽の色彩が強いフリー~スピリチュアル・ジャズ、ジェイド・フォックスはインディ・ロック寄りのジャズ・ファンクといった具合だ。

 ハロー・スキニーはトム・スキナーの変名で、彼の個人プロジェクトでもある。この名前はUSオルタナ・ロックの始祖的存在であるザ・レジデンツの楽曲から名付けたものだ。今までにデビュー・ミニ・アルバム『スマッシュ+グラブ』(2012年)、ファースト・アルバム『ハロー・スキニー』(2013年)、12インチEP「レヴォリューションズ」(2013年)をリリースしており、これらではドラマーとしての演奏面のみならず、総合的なサウンド・プロデューサーやコンポーザーとしての才能も見せている。『ハロー・スキニー』はシャバカ・ハッチングスやトム・ハーバートなど周囲の仲のよいミュージシャンが参加し、エクスペリメンタル・ジャズ、アヴァンギャルド・ロック、インディ・フォーク、電子音楽からダブを繋ぐオブスキュアな作品集で、前述のとおりザ・レジデンツの「ハロー・スキニー」のカヴァーも披露している。そんなトム・スキナーをジャイルス・ピーターソンも高く評価し、ハロー・スキニーはじめ彼の関わるプロジェクトの作品をコンピに取り上げてきたが、このたび彼が主宰する〈ブラウンズウッド・レコーディングス〉からハロー・スキニーの新作『ウォーターメロン・サン』がリリースされた。

 『ウォーターメロン・サン』はファースト・アルバムの実験性、音楽ジャンルにとらわれない自由さを継承しつつ、そこにダンサブルな要素を取り入れたものとなっている。その重要な鍵を握るのがトロンボーン奏者兼作曲家のピーター・ズムモである。ニューヨークを拠点に1960年代後半から活動する彼は、故アーサー・ラッセルの親友であり、コラボレーターだった。ダイナソーLやインディアン・オーシャンはじめ、アーサーのユニットや作品の数々へ参加している。ロック、ジャズ、エレクトロニック・ミュージック、パンク、ディスコ、ニュー・ウェイヴ、ワールド・ミュージックを横断した演奏スタイルや活動は、ちょうどトム・スキナーのそれをはるか以前に先駆けたものでもあり、そんなところから両者の間に共感が生まれ、今回のコラボレーションが実現したようだ。“ミスター・P.Z.”はピーターへの敬意が込められた作品。ダイナソーLの“ゴー・バン”や“キス・ミー・アゲイン”を下敷きに、そこへ現在のレフトフィールド・ハウスやディスコ・ダブなどのアレンジを加えたものとなっている。“ラシャド”はタイトルからわかるように、故DJラシャドへの追悼の意を込めたもの。ジューク/フットワークのトラックに、民族音楽からダブを縦断するようなピーターのヒプノティックなトロンボーンがフィーチャーされていく。“コーダ”は四つ打ちを取り入れたダブ・ハウス的な作品で、1990年頃のアンダーグラウンドなニューヨーク~ニュージャージー・ハウスのエッセンスが詰まっている。ディープ・ハウスをやっていた頃のボビー・コンダースとか初期のジョヴォンあたりを思い起こさせる曲だ。10分を超す表題曲“ウォーターメロン・サン”は、四つ打ちのリズムを基本とした上で、トムのドラムとピーターのトロンボーンをはじめとした楽器群がフリー・インプロヴィゼイションを展開していく。ほかにもフローティング・ポインツにも通じるようなスローモー・ハウス“アイデス”、ダビーでアンビエントな空間に包まれたロー・ビート“ブルーベルズ”、遊び心と実験精神に富むフリーフォームなエレクトロ“サインズ”といった作品が収められ、トム・スキナーのリズムに対する飽くなき探求を実践したものとなっている。

小川充