「K Á R Y Y N」と一致するもの

ZSといっしょに! 新ガジェットも! - ele-king

 いっぷう変わったイヴェントをご紹介しよう。といっても、イヴェントの概要をまだ完全に咀嚼できたわけではない。さすがZS。どうやら単純に彼らのライヴというわけでもなさそうだ。ちょっと、いっしょに理解していきませんか。

 ※ZSは、2000年代半ばにおいてブルックリンが象徴していた実験的な気風やその勢いを支えたバンドのひとつ。ギャング・ギャング・ダンスやダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴらと時期を同じくしつつも、フリージャズ的な即興ノイズ・バンドとして随一にして異色の存在感を放ちつづけている。

 まず、ライヴではなく「コラボ・ライヴ・インスタレーション」と銘打たれている。期間中の3日間、公募で選ばれた40人ほどのリミキサーたちが     、彼らのボックスセット・アルバム『ZS』のトラックを即興リミックス。会場では定期的にZSによるライヴ演奏も繰り返され、その他ミュージシャンによってエフェクトをかけられたり音を加えられたりする。そして、そうしたおびただしい音が映像と混じりながら会場に流れる。期間中それはずっととどまることなく、われわれが足を踏み入れる空間には幾多のコラボレーション音源や映像がうつりかわってゆく......「芸術的な音の融合が活発に流動するネットワーク・ルーム」というコンセプトは、どうやらそういうことであるらしい。ちなみに、音のコラボにはToBe(トゥビー)という即興でのリミックスを実現するプラットフォームが利用され、映像の展開にはVid-Voxソフトウェアを使用してライブ・リミックス音源とシンクするビデオ・プロジェクションが用いられるとのこと。

 さらに、PlayButton(プレイボタン)というピンバッジ・プレーヤーの存在も見逃せない。音源を収録できるピンバッジ型のプレーヤーで、どういうものかは一見にしかずであるが(https://playbutton.com/)、これに当日のコラボ音源が収録され、参加者は持って帰って家でも聴くことができると。なんと新手のガジェットまで楽しむことができるようだ。別途料金がかかるようだが興味深い。即興の概念や幅を汎時間的に広げる、ZSらしい実験だと言えるだろう。

サイトには非常に詳しく説明がなされている。
https://transculturepartysystem.com/PARTY/Zs/zs_remixers.html

ガチにも聴けるし、デートくらいのノリで参加しても楽しそうだ。


※以下、VACANT担当氏より補足情報をいただきました! Q&A方式でどうぞ! (追記1/7)

Q:ライヴというよりはライヴ形式のインスタレーションという感じですか?

A:今回のイベントは2部構成になっていて、前半はリミックス・インスタレーション、後半はセッション即興ライブになります。

Q:東京のアーティストだととくに注目の方はいらっしゃいますか?

A:全員です!今回はこういった形で東京のミュージシャンの方々との共演を楽しみにしております。

Q:ZSは日本以外でもこうした演奏をしているのですか?

A:今回の『SCORE』は日本で初披露となります。2月にNYのEcstatic Music FestivalにDJ Ruptureと出演するのですが、その際に1日限定のポップアップでNYでも開催する予定です。

Q:同様のライヴCDが他にも販売されていますか?

A:今回のVACANTでのセッションはその場限り(当日分)のドキュメント音源をPlaybuttonで持ち帰ることができるので、ぜひチェックしてみて下さい。

会期:2013年1月11日(金)~13日(日)
会場:VACANT 2F

open time:
12:00-17:00 (インスタレーション) /
開場17:30 開演18:00 (ライブ)
entrance fee:
¥200(インスタレーション) /
チケット制料金未定 (ライブ)
act(live):
1/11(fri) Shinji from DMBQ
1/12(sat) Dustin Wong
1/13(sun) TBC
act(remixer):
MARUOSA / Katsuya Yanagawa(CAUCUS) / DJ SOCCERBOY / Maekawa Kazuto (ELECTRIC EEL SHOCK) / GAGAKIRISE / DJ MEMAI / Akihiko Ando (KURUUCREW) / PYP / Shirai Takeshi (PRIMITCHIBU) / Tetsuya Hayakawa+Takashi Masubuchi (BUDDY GIRL & MECHANIC) / Sayaka Botanic + Tommi Tokyo (group A) / Tetsunori Towaraya (UP2) / ORINOTAWASHI / Haruhito Shimura / Miyoshi Daisuke / Dustin Wong / and more TBC
venue:VACANT 2F
address:東京都渋谷区神宮前3-20-13
tel:03-6459-2962
planning:Zs / VACANT / Parte / Trans-Culture Party System
support:PlayButton
url:www.n0idea.com

<Zs Japan Tour 2012>
・1/8(tue) 大阪CONPASS w/Vampillia
・1/9(wed) 大阪CONPASS w/Vampillia
・1/10(thu) 東京UNIT w/EP-4 unit with千住宗臣
・1/12(sat) 名古屋 K.D ハポン w/HIGGINGS, Diamond Terrifier, Greg Fox
・1/16(wed) 名古屋 CLUB MAGO w/HIGGINGS, Diamond Terrifier, Greg Fox



<プロフィール>
Zs (ジーズ)
ブルックリンを拠点に活動するアヴァン・ノイズ・バンド。現存する唯一のオリジナルメンバー、サックス奏者・作曲家のSam Hilmer (サム・ヒルマー) によって2002年に結成され、ノー・ウェーブ、フリージャズ、ノイズ、ポスト・ミニマル、電子音楽、即興演奏に至るあらゆるジャンルを横断した、まったく新しい実験音楽の在り方を確立。今年9月「SCORE: The Complete Sextet Works 2002-2007」リリースを期に、ドラマー:Greg Fox (グレッグ・フォックス - 元Liturgy / Dan Deacon / 現Guardian Alien) と、ギタリスト:Patrick Higgins (パトリック・ヒギンズ - 元Animal) がSam Hilmer以外の旧メンバーと入れ替わり加入。ダブのグルーブと独創的なエレクトロニクスをバンドの新機軸とした、より直感的かつ肉体的なライブ・パフォーマンスをして“ニューヨークで最も鮮烈なアヴァン・バンド”と評される。主な過去のリリースに:SCORE: The Complete Sextet Works 2002-2007 (2012, Northern Spy), New Slaves Part II:Essence Implosion! (2011,Social Registry), New Slaves (2010,Social Registry/Power Shovel Audio), Music of Modern White (2009,Social Registry), Arms (2007, Planaria),

tofubeats - ele-king

 『書を捨てよ、町へ出よう』のKindle版をamazonで買ってみたのは、そのときに書いていた原稿で、とある1行を引用しようと本棚を探したのだが見当たらず、そうか、先日、BOOK OFFが引き取っていった大量の本のなかに紛れ込んでしまっていたのかもしれないと思い当たったためだった。それにしても、書を買うのにも、書を捨てるのにも、家を出なくていい時代に、街へ出る理由などあるのだろうか。というか、そこには、わざわざ出ていくに値する魅力などあるのだろうか。そういえば、何をするでもなく街をぶらつくということがめっきりなくなってしまった。最近は、もっぱら、家から目的地へ、それこそ、ハイパー・リンクのように移動するだけだ。または、歩いていても、街並よりスマート・フォンの画面を眺めている時間のほうが長いかもしれない。そんなことを考えながら、ふと、iTunesを立ち上げ、約40年前の楽曲と2012年の楽曲を続けて再生してみた。たとえば、そこで歌われている街と人の関係にも変化があるのではないか。

 「七色の黄昏降りて来て/風はなんだか涼しげ/土曜日の夜はにぎやか」。アイズレー・ブラザーズの"イフ・ユー・ワー・ゼアー"を下敷きにした軽やかなファンクの上、22歳の山下達郎がみずみずしい声で歌っている。「街角は いつでも 人いきれ/それでも陽気なこの街/いつでもおめかししてるよ/暗い気持ちさえ/すぐに晴れて/みんなうきうき/DOWN TOWNへ くりだそう」。先日、『CDジャーナル』誌で、ライターの松永良平と対談した際、このシュガー・ベイブの楽曲"DOWN TOWN"(75年)についての話になった。それは、「あたらしいシティ・ ポップ」と題した特集記事のひとつで、テーマは、2012年、山下達郎や松任谷由実のベスト・アルバムが売れる一方、インディ・ポップにおいても、"シティ・ポップ"が裏のモードと言っていいような様相を呈していた理由を探ることにあった。

 たとえば、かせきさいだぁはその名も『ミスターシティポップ』というアルバムをリリースしている。彼はすでに長いキャリアを持っているが、シティ・ポップをキャッチ・コピーに掲げ、山下達郎そっくりの歌声を聴かせる83年生まれのジャンク・フジヤマも話題になったし、一十三十一の5年振りのオリジナル・フルレンス『CITY DIVE』のブックレットでは、プロデューサーのクニモンド瀧口が、制作の発端を、彼女の「ルーツでもあるシティ・ポップなアルバムを制作しようという話にな」ったことだと語っている。また、そこで話し相手を務めている、「シティ・ポップスをリアルタイムで聴いて来た」マンガ家の江口寿史は、「これはシティ・ポップスの金字塔アルバムですよ!」と太鼓判を押す。しかし、ふたりは、山下達郎や荒井由美、大貫妙子、吉田美奈子、佐藤博といった名前を挙げながら、同ジャンルについて語る内に、むしろ、その定義の曖昧さを明らかにしていく。「今、いろんな人が選曲したシティ・ポップスのコンピレーション出てるじゃないですか? 僕からすると"これ、ちょっとシティ・ポップスじゃないんじゃないか?"ってのもあって。その人にとってはシティ・ポップっていうか。それぞれ幅広いよね(笑)。"これ!"と言えない何かがあって」(江口)。......はたして、"シティ・ポップ"という言葉は何を指しているのだろう?

 たとえば、木村ユタカ編著『JAPANESE CITY POP』(02年)には、70年代から現在にかけて発表された、計514枚のアルバムが載っているものの、その音楽性は、ロック、フォーク、フュージョン、ディスコ、ブラック・コンテンポラリーと、じつに様々で、決してひと括りにできない。また、"洋楽"をいかに翻訳するかは、明治以降、日本のポピュラー音楽が取り組み続けてきた課題であって、この期間だけの特徴でもない。ただし、同書のディスクガイドがはっぴいえんどのファースト=通称『ゆでめん』(70年)ではじまり、小西康陽、曽我部恵一、スピッツ、ジム・オルークfeat.オリジナル・ラヴ、くるり等が参加したトリビュート・アルバム『Happy End Parade』(02年)で終わるように、そこには、"はっぴいえんど史観"とでも言うべき、明確な基準がある。じつは、同時代的には、"シティ・ボーイ"に比べて、"シティ・ポップ"という言葉は、あまり一般的でなかった。DJ/選曲家の二見裕志が細野晴臣、鈴木茂、大貫妙子等のリリースで知られる〈パナム・レーベル〉のディスコグラフィーからセレクトしたコンピレーション『キャラメル・パパ~PANAMU SOUL IN TOKYO』(96年)の、二見自身によるライナーになると、はっきりと、その音楽性が"シティ・ポップ"と名指されているが、それは、90年代半ば以降、レア・グルーヴの延長ではっぴいえんどからシュガー・ベイブへと続く系譜が掘り返され、歴史化されるなかで(再)浮上したタームだと言えるのではないか。

 一方、シティ・ポップと同時代の音楽を指す言葉に、"ニュー・ミュージック"があって、そちらは広く使われていた。音楽評論家・富沢一誠の著作『ニューミュージックの衝撃』(79年)は、アメリカのコンテンポラリー・フォークをスノッブな若者たちがカヴァーし、そこから、〈フォー・ライフ・レコード〉(井上陽水、吉田拓郎、泉谷しげる、小室等)に代表される、オーヴァーグラウンドなムーヴメントが生まれるまでを追ったルポルタージュだ。あるいは、それは、大瀧詠一が"分母分子論"で批判した、日本のポップ・ミュージックがガラパゴス化する過程だった。実際、同著には、荒井由美が登場するものの、彼女のバックを務め、当時の歌謡曲における洋楽的なセンスを担っていたティン・パン・アレー――言うまでもなく、はっぴいえんどから分派したバンドー――は重視されていない。そんなニュー・ミュージックから現在のJ-POPまでがひと続きと考えると、対するオルタナティヴを、ニュー・ウェーヴとはまた違う文脈で提示する際に、"シティ・ポップ"という歴史がつくられたという側面もあるのかもしれない。

 とは言え、『JAPANESE CITY POP』の続編である『クロニクル・シリーズ~JAPANESE CITY POP』(06年)には、『ヤング・ギター』誌77年2月号の「シティ・ミュージックって何?」という記事が再録されている。「"シティ・ミュージックってどんな音楽なんですか?"と訊かれても困ってしまう」とはじまる同文は、「何なら試しにシティ・ミュージックを定義してみようか?――都会的フィーリングを持ったニュー・ミュージックかな」と、シティ・ミュージックなるものとニュー・ミュージックを区別した後、76年に発表された代表的作品として、南桂孝『忘れられた夏』、山下達郎『サーカス・タウン』、大貫妙子『グレイ・スカイズ』、荒井由美『14番目の月』、吉田美奈子『フラッパー』、矢野顕子『ジャパニーズ・ガール』を挙げているのだから、当時、"シティ・ポップ"という言葉が一般的でなかったとしても、同様の価値観はあったのがわかる。

 ちなみに、前述のクニモンド瀧口は、「僕は敢えて、シティ・ポップと言いたくない派なんです」「本当はシティ・ミュージックって言いたいんですけど」と発言(『CITY DIVE』ライナーより)し、松任谷由実『流線形80'』(78年)からバンド・ネームを引用した自身のユニット"流線形"のファースト・EPにも『シティ・ミュージック』(03年)と名付けている筋金入りだ。『CITY DIVE』のジャケットにしても、松任谷由実『VOYAGER』(83年)へのオマージュなのではないか? グランド・マスター・フラッシュは"ザ・メッセージ"(82年)で都市をジャングルに見立て、サヴァイヴするべき場所として歌ったが、同年代に発表された『VOYAGER』では、都市はリゾートのプールに見立てられ、彼女はそこを優雅に泳いでいる。そして、それこそは、80年代におけるシティ・ポップの核となっていく思想であった。

 はっぴいえんどがシティ・ポップの起源とされるのは、結成当初のコンセプトが、バッファロー・スプリングフィールドのサウンドに日本語の音韻を乗せることだったように、グローバルでソフィスティケイテッドな音楽性を志していただけでなく、何よりも彼等の歌が、シティ=都市に対する批評性を持っていたためだろう。ただし、『ゆでめん』で描かれる都市は、いわゆる"シティ・ポップ"という言葉からイメージされるようなきらびやかなものではない。アルバムは、故郷を捨て、都会で孤独感に苛まれる若者が、なんとか自分を奮い立たせる"春よ来い"ではじまる。作詞を手掛ける松本隆の、「あやか市 おそろ市や わび市では/ないのです ぼくらのげんじゅうしょは/ひとご都 なのです」("あやか市の動物園")や、「古惚け黄蝕んだ心は 汚れた雪のうえに/落ちて 道の橋の塵と混じる」「都市に降る雪なんか 汚れて当り前/という そんな馬鹿な 誰が汚した」("しんしんしん")といった言葉から読み取れるのは、むしろ、近代都市批判である。

 続くセカンド・アルバム『風街ろまん』(71年)における松本の歌詞は、前作に比べて淡々とした情景描写が多く、一見、レイドバックしたフォーク・ロックに向かったサウンドに合わせて、丸くなったように思える。しかし、"風をあつめて"で、何の変哲もない街並の上を路面電車が飛んで行くシーンが象徴するのは、リアリズムではなく、サイケデリックだ。彼は、『ゆでめん』の延長で、現実の都市と対峙するのではなく、架空の都市を夢想することを選んだのだ。

 松本は1949年、東京都港区の青山地域に生まれている。彼のリリシズムの奥深くで疼いているのは、少年時代に始まった東京オリンピックに伴う都市開発で馴染の風景を奪われたことによる喪失感であり、創作行為こそがそれを癒したのだという。

 「ぼくは幼少時代を証明する一切の手がかりを喪失してしまったわけだ。そこには一本の木も、ひとかけらの石も残っていない。薄汚れたセンター・ラインが横たわっていただけだった。」

 「その時、ぼくは見知らぬ街をその都市に見出した。ぼくの知っている街はアスファルトとコンクリートの下に塗りこめられてしまっていた。ぼくはそのことを無為に悲しんだわけではない。だが、ロマンもドラマも特にない戦後世代の永遠に退屈な日常のなかで、そのような幼児体験の記憶まで都市に蝕まれるのが嫌だったわけだ。」

 「ぼくは視る行為に全てを費やした。何も見逃さないこと、街の作るどんな表情も擬っと視つめることによって、ぼくは自分のパノラマ、街によって消去されたぼくの記憶と寸分狂いない〈街〉を何かの上に投影すること、それが行為の指標になったのだ。スクリーンは何でもよかった。眼球の網膜でも、レコード盤の暗い闇の上でも、原稿用紙の無愛想なますめでも。ぼくはそれらのどれにでも、〈もうひとつの街〉である〈風街〉を描こうとした。」

松本隆『微熱少年』(75年)収録、「なぜ(風街)なのか」より

 言わば、シティ・ポップとは、現実の都市に居ながら、架空の都市を夢見る音楽である。はっぴいえんどの場合、それは、前述した通り、近代都市批判を目的としており、『風街ろまん』に収められた"はいからはくち"にしても、シティ・ボーイを揶揄したものだが、しかし、『書を捨てよ、町へ出よう』(67年)で書かれているように、そこは、彼等を家父長制の抑圧から解放してくれる場所でもあったはずだ。そして、同ジャンルも、シュガーベイブの"DOWN TOWN"を転機に、現実の都市をより発展させたものとしての、架空の都市を歌っていく。社会学者の北田暁大は、著作『広告都市・東京』(02年)で、73年、西武グループが〈PARCO〉のオープンとともに、区役所通りを"公園通り"と改名、渋谷を"消費のテーマパーク"化していった戦略について分析しているが、シティ・ポップはそのBGMとなったのだ。

 あるいは、はっぴいえんどは、「亜米利加から遠く離れた 空の下で/何が起こるのか 閉ざされた陸のような/こころに 何が起こるのか」(『ゆでめん』収録、"飛べない空"より)という問題提起からはじまり、「さよならアメリカ/さよならニッポン/バイバイ バイバイ/バイバイ バイバイ」(73年のサード『HAPPY END』収録、"さよならアメリカさよならニッポン"より)という別離の言葉で終わる、第2次世界大戦後の日本の対米従属体制に対するアンビヴァレントな思いを歌い続けたバンドでもあった。その点に関しても、シティ・ポップは、荒井由美が在日米軍調布基地を眺める中央自動車道を"中央フリーウェイ"(76年のアルバム『14番目の月』収録)と呼び換えたように、しだいにアメリカへの素朴な憧れを表出していく。文藝評論家の加藤典洋は著作『アメリカの影』(85年)で、田中康夫のベスト・セラー『なんとなく、クリスタル』(81年)の淡白な文章と過剰な情報の裏に、日米関係に対する批評的な視点を読み取った。数多のレコードが登場する同小説において、主人公の恋人はフュージョン・バンドのメンバー兼スタジオ・ミュージシャンとして活動しているものの、シティ・ポップはどこか馬鹿にされている節がある。それは、ソロ・デビュー直後の山下達郎の内省が、フォロワーである角松敏生(81年デビュー)に至ると、すっかりなくなってしまうことを思えば、仕方のないことなのかもしれない。

 昨今のシティ・ポップ・リヴァイヴァルにしても、単なるキッチュやノスタルジアに留まっている作品も多いが、2012年に発表されたもののなかには、同ジャンルを批判的に検証し、音楽的に発展させようという意思を持つ作品がいくつか見受けられた。たとえば、ceroのセカンド『My Lost City』は、ラスト・トラック"わたしのすがた"の歌詞、「シティポップが鳴らすその空虚、/フィクションの在り方を変えてもいいだろ?」が印象的だ。ファースト『WORLD RECORD』(11年)は、ジャケットが、ヴァイナルA面を"City Boy Side"と銘打っている鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』へのオマージュということもあって、"2010年代版シティ・ポップ"と評された。そして、その発表から数ヶ月後に起こった3.11に、東京という都市が隠蔽し続けてきた問題の露呈を見た彼らは、アルバムに、F・スコット・フィッツジェラルドがニューヨークの虚像を暴いたエッセイ「マイ・ロスト・シティー」(32年)の名を掲げ、都市から生まれた音楽を変えることで、都市そのものを変えようと考えたのだ。

 他にも、前述の一十三十一『CITY DIVE』では、"Rollin' Rollin'"のアレンジを手掛けたDORIAN、PAN PACIFIC PLAYAのカシーフを起用、シティ・ポップとテック・ハウスの融合に成功している。また、ディスコ・ダブ以降のセンスで日本のポップ・ミュージックをディグ/ミックスした『Made in Japan Classics』シリーズ(04年~)で知られるTRAKS BOYSのCRYSTALが、相棒のK404、イルリメこと鴨田潤と組んだ(((さらうんど)))のアルバムでも同様の試みが行われているが、その完成に際して、CRYSTALのブログにアップされたエントリーは、秀逸な現代シティ・ポップ論である。

「『シティポップ』という言葉を聞いてまず思い浮かべるのは、80年代のある種の日本のポップス。欧米のポップ・ミュージックを消化した洗練された音楽性を志向し、歌詞やビジュアルは、豊かな都会生活とそれを前提としたリゾートへの憧れをテーマとすることが多い。」

「でも当たり前だけど、それはあくまで80年代の日本という場所・時代でこそ成り立った表現の傾向だと思う。」

「インターネットにより情報の格差が少なくなって、都会にいなければ得られない情報やモノはなくなったと言ってもいい。経済状況にしても、高度経済成長末期の繁栄を謳歌した当時とは全く違う。」

「そんな今2012年に『シティポップ』と呼ばれるものがあるとしたら、それはどんなものなのか考える。」

「『シティ=街』は、もはや『都会』を意味しない。それは文字通りの意味で、僕たちが息をして暮らす『街』そのものだ。」

「それは僕にとっては自分が住む長野市だし、勿論東京に住んでいる人だったら、それは東京になるだろう。」

「自分が生活する『街』で、どんな風に遊ぶのか。そこでどうやって人と交わって、どんな『文化』をつくっていくのか。」

「何かに憧れるのではなく、地に足つけて自分の周りを面白くしていって、例え稚拙でも、他でもない自分自身の手で『街』をカラフルに塗り替えていくこと。」

「今『シティポップ』と呼ばれるものがあるとしたら、そんな風に『街』を遊んでいる人たちのためのポップスだと思う。」

CRYSTAL"City & Pop 2012"より


 そして、公園通りが生まれて40年が経った。道沿いの〈PARCO PART2〉は、もう随分と長い間、廃墟のまま放置されている。いまの都市が夢の残骸なのだとしたら、そこに、プロジェクションマッピングさながら、架空の都市を投射する音楽。そんな、2012年を代表するシティ・ポップ・ソング――新しい"DOWN TOWN"が、"水星"だ。正確には、トラックメーカーでヴォーカリストのtofubeatsがラッパーのオノマトペ大臣をフィーチャーしてつくった、同曲のデモ・ヴァージョンがsoundcloudにアップされたのは2010年6月のことだった。翌年9月に、まずはヴァイナルでリリース。続いて、2012年6月にiTunesで配信されるやいなや、総合アルバム・チャートで1位を獲得したという事実は、話題が長続きしないと言われるネット時代にあって、この楽曲の普遍性をまずは数字の面から実証してくれる。

 ただし、"水星"は、これまで挙げてきたアーティストとは違って、シティ・ポップというジャンルを意識しているわけではない。トラックにしても、下敷きになっているのは、テイ・トウワが手掛けたKOJI1200の"ブロウ ヤ マインド"(96年)で、ヒップホップ・ソウル・リヴァイヴァルと評したくなるつくりだ。それでも、なぜ、同曲が同ジャンルを引き継ぎ、更新するものだと考えたのかと言えば、まずは、イラストレーターのMEMOが手掛けた、80年代半ばの少年マンガを思わせるジャケットや、リズムステップループスによる、山下達郎がプロデュースした竹内まりや"Plastic Love"(84年)とのマッシュアップ"I'm at ホテルオークラ MIX"のインパクトが強かったというのはある。しかし、それだけではない。

 あるいは、バックグラウンドにしても、tofubeatsは、シティ=都市ではなく、郊外文化の影響が強い。90年、神戸市近郊のニュー・タウンに生まれた彼は、現在は都心寄りに越したようだが、あくまで地方を拠点に活動を続けている。ちょうど、『水星EP』がリリースされた頃だったろうか、過剰規制問題についての書籍『踊ってはいけない国、日本』を編集するにあたって、摘発が相次いでいた関西のクラブ関係者にヒアリングを進めるなかで、tofubeatsにも面会した。その際、印象的だったのは、出身地のニュータウンについて、酒鬼薔薇聖斗も同地に育っており、あのような、一見、清潔な――その実、異物を徹底的に排除する環境では何らかの歪みが起こるのは当然だと語ってくれたことだ。『書を捨てよ、町へ出よう』の時代とは違って、地方でも家父長制は崩壊しているに等しいものの、そこでは、拙編著で社会学者の宮台真司が言ったところの、新住民による同調圧力が力を増している。ましてや、外に逃げようにも、都市は受け皿として機能しなくなっている。

 そんな閉塞的な状況にいた彼にとって、外の世界に通じる窓となったのは、やはり、ネットだった。「音楽やる友達居なかったけど/そんなに困らずに始まった/掲示板に上げてた.mp3 128kbps まだ中2」。konyagatanakaという、ウェブで活動し、実際に顔を見たひとがいないことで有名なプロデューサーのトラックに、盟友のokadadaとラップを乗せたdancinthruthenights名義の"Local Distance Remix"を聴けば、tofubeatsのネットに対する考えがわかる。ただし、「インターネットが縮めた距離を/インターネットが開いてく 今日も/チャットで話してる 時折顔とか忘れてる/なんか踏み切れないし煮え切らない 気持ち都会の人にはわからない/神戸の端から声だしてるけどちょっとログオフしてたら忘れられちゃうでしょ」というラインの悲哀から読み取れるように、彼は、ネット"が"現場なのではなく、ネット"も"現場なのだと言っているのであって、関係の深い〈Maltine Records〉の活動にしても、ネットとリアルの相互作用こそが重視されていることは、パーティのプロダクトや、周辺に立ち上がりつつある、シェア・ハウス等と結びついた新しいライフ・スタイルによく表れている。

 そして、tofubeatsは、ヒップホップのレプリゼントだけでなく、ディギングという価値観を極めて現代的に、日本的に捉え直す。ブレイクビーツは、もともと、ブロンクスの若者たちが、親のヴァイナルを、親とはまた違った聴き方をすることで生まれたが、彼が掘り下げるのは、例えば、ネットに転がるグレーな音源であり、リサイクル・ショップで投げ売られているユーズドのCDである。神聖かまってちゃんがTSUTAYAでザ・ビートルズやザ・セックス・ピストルズに出会ったように、tofubeatsはBOOK OFFで購入した100円のJ-POPを切り刻み、その名も"dj newtown"名義で発表した。"水星"のメロディと歌詞も、カラオケで"ブロウ ヤ マインド"を流しながら書いたという。後者が収められたKOJI1200のアルバム・タイトル『アメリカ大好き!』に意味を見出すのは深読みが過ぎるとして、彼はアメリカの魅力がなくなり、都市が廃れた時代に、ネットやリサイクル・ショップ、カラオケを通して、郊外で、新しい都市=水星を夢想する。やはり、これは新しいシティ・ポップなのだ。

i-pod i-phoneから流れ出た

データの束いつもかかえてれば

ほんの少しは最先端

街のざわめきさえもとりこんだ
  
"水星"より、オノマトペ大臣のヴァース

「最近"ラップトップは俺らのデッキや"って主張してるんですけど」
 
〈&RWD〉のインタヴューより、tofubeatsの発言

 かつて筆者は、スケートボーダーやグラフティ・ライターの、街をパークやキャンバスに読み替える想像力に希望を見出していた。もちろん、それは、いまでも有効だが、"PCを持って街に出よう"という無線LANについての記事の掲載より10年、ネットが新しい都市をつくり出し、そこから、新しい音楽を生み出しつつあることについて、さらに考えなければいけないだろう。オノマトペ大臣のソロEPは『街の踊り』といい、そこには、"CITY SONG"という楽曲が収められている。他にも、彼とthamesbeatとのユニット=PR0P0SEのデビュー作や、Avec AvecとSeihoのユニット=Sugar's Campaign「ネトカノ」など、同時多発的に鳴り出しているネット時代の新しいシティ・ポップたち。それらをiPhoneに詰めて歩き出せば、彼方に未来のダウン・タウンが見えてくる。

Ambient Music for a New Year selected by Compuma - ele-king

わりと最近の新しめの作品を中心に選ばせていただきました。音と音楽と音像、そして漂いとりまく空間をお楽しみいただけましたら幸いです。ぬくぬく&ヒリーッとどうぞ。

(順不同)

MICHAEL CHAPMAN / Pachydrm

サーストン・ムーアも敬愛するブリティッシュ・フォークSSW孤高の才人MICHAEL CHAPMANのBLAST FIRST PETITEからの静かなる新作。オリジナル&電子音楽リミックス。本人のみによる24:05の爪弾きの円熟と熟練の間合いによるギター・ミニマル・アンビエント・メディテーション「Pachyderm」と同曲のRobert Antonyによるエレクトロニクスでサイケデリック・ドローンな瞑想のギター電子音楽リミックスが24:14にもわたって展開されている。知覚の扉。何もおこらない美しさ。素晴らしい。

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TENTOMUSIK / Am/Rec

すべて午前中に録音したからタイトルも「am/rec」という、ロボ宙さんとのセッションでもおなじみDAUのメンバーふたりによるAMトラベル・アンビエント・ミュージックの黄昏とゆらぎ、カモメのジョナサン。プレイボタンを押したその瞬間から摩訶不思議な佇まいの地平が広がる。時間が進むにつれ、なんだか不思議と気持ちが安らいでくる。これはやはり午前中の陽の光パワーなのか!?私事ではありますが、2012年初頭にサウンドクラウドでフリーでリリースさせていただいたミックス「SOMETHING IN THE AIR PT.2」(現在は無し)のオープニングで、勝手ながらこのアルバムの「船窓から」を使用させていただきました。あのミックスの物語はこの曲がはじまりでした。ありがとうございます。

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ELIANE RADIGUE / Vice Versa Etc...

チベット密教に傾倒した秀逸なるディープな瞑想ドローンの信頼の電子音楽家で知られるフランスの女流音楽家ELIANE RADIGUEの1970年の2台のテープレコーダーのフィードバックによって生み出されたふたつの宇宙。彼女の初期テープによる持続音ドローン傑作。音の処方箋。

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THOMAS KONER / Novaya Zemlya

静謐なる極北のエレクトロニクス・ドローン音響彫刻の圧倒的美学を体験せよ。
Porter Ricksでもおなじみ、サウンドアート大御所THOMAS KONERの深く、深く、吐息、そしてゆっくりとした呼吸と循環。ヒリーっと張り詰めた空気の中で、ため息がでるほどの美しいまどろみを体験してください。

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CHRIS WATSON / Outside The Circle Of Fire

元キャバレー・ヴォルテール、元ハフラー・トリオ、BBC音響技師にしてフィールドレコーディング作家ベテランであるクリス・ワトソン爺の1998年のセカンド・アルバムにしてジンバブエ、カメルーン、南太平洋、そしてコスタリカと世界を旅して動物、鳥、昆虫たちの生活を収音した探検フィールドレコーディング屈指の名盤。驚異の音。研究を重ねたゼンハイザーのサラウンドな高感度マイクに、アナログでのオープンリールにテープレコーダー、DATレコーダー、ミニディスク・レコーダーを通しての臨場感あふれる現地録音の真骨頂22ポイントのダイナミックで繊細&立体的な驚異の音をサウンドスケープを存分にお楽しみください。この圧倒的な音から伝わる世界、そして息吹を感じるしかありません。ナショナル・ジオグラフィックやアニマル・チャンネル的自然科学名盤。

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ROBERT TURMAN / Flux

穏やかなインドネシアのガムランを彷彿させる冬でもポカポカの桃源郷電子音楽アンビエント。知られざるROBERT TURMANによる1981年の作品。ブライアン・イーノのAMBIENTシリーズなどとも同時代に誕生していた珠玉のミニマル・アンビエント傑作。
この心地よさは至福。落ち着きます。カリンバやピアノ、そしてエレクトロニクスやテープを駆使した穏やかな東洋思想的なエキゾチズムの瞑想アンビエント世界。

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USTAD ABDUL KARIM KHAN / 1934-1935

伝説のインド古典音楽の絹の声、USTAD ABDUL KARIM KHANの1934年から1935年までの貴重で香しいSP音源。凛とした佇まいも見事にリイシュー。たおやかに。風がふきます。桃源郷。メディテーション。タンプーラ宇宙。

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DOMINIK EULBERG / Heimische Gefilde

ドイツTRAUMを代表するロマンティスト&アイデアマンDOMINIK EULBERG教授の2007年の珠玉のアルバム。メランコリックでドラマティック&エレクトロニカな美テックハウスと様々な鳥の鳴き声が共存した、DOMINIK EULBERGの鳥好きが興じて制作された、ナレーションと鳥のフィールドレコーディングに導かれ、自身の作品と鳥の紹介と鳴き声が交互に登場するという、未だかつてなかった、自然が奏でる音や音楽とエレクトロニクス音楽を並列で一緒に楽しもう。という試みのユニークなフィールドレコーディング&テクノ珍作にしてハートフルな名作。ラストは、鳥の鳴き声と自然音のみで制作した9:30にも及ぶキュートな楽曲も登場。

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OREN AMBARCHI / Audience Of One

オーストラリアのサウンド・アーチスト重要人物OREN AMBARCHIがギター、ハモンドオルガン、メロトロン、リズムボックスなんかを駆使し、サポートメンバーのヴァイオリン、ピアノ、チェロ、フレンチホーン、ヴィオラ等との生演奏で、至上&詩情のメランコリックで気品あるアンビエント・ドローン・エレクトロニクスを作り上げた。瞑想の中の日だまり的な美麗4部構成の秀作。黄昏の暖かさと心地よさそして壮大で荘厳なドローンに包まれる。

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LOSCIL / Sketches from New Brighton

静寂の中、深く暖かい美学が貫かれたエレクトロニクス・テクノ・ダブのドローン・アンビエントの名品。カナダ・バンクーバーから届けられた、LOSCILことScott Morganによるエレクトロニクスとローズ・ピアノ、ギターとのベーシック・チャンネルばりのミニマルで静かなる深い、テクノでダブなドローン・アンビエント・メディテーションの室内楽的調べ。環境との対話のスケッチ。クールながらもエレガントでクラシカルな雰囲気さえ漂う美しい深海のアンビエント美学が貫かれている。納得の音の仕上がりのマスタリングは12Kの才人Taylor Deupreeが担当。

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■コンピューマの最新ミックスCD『Magnetic』も絶賛発売中!
COMPUMA / Magnetic

『Something In The Air』が脅威のロングセラーとなったコンピューマ先生の最新ミックスCDが出ました! 今回は、彼の出自であるオールドスクール・エレクトロから最新の電子音楽へと展開するファンキーな音楽旅行です! 売れきれる前に聴け!

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Hidenori Sasaki(zoo tapes) - ele-king

 2011年からスタートした佐々木秀典によるAmbient、Drone、Noise、Industrialカセット・レーベル〈zoo tapes〉、Drone Chart。
 80年代から10年代まで拡散、発展するimprovised/drone/noise recommend、東京のシーンを中心に2012年入手可能な盤をご紹介。
 取り扱いshopはArt into Life、Meditations、S.O.L sound、Futarri CD shop、P.S.F. Records Modern Music、NEdS等。
 〈zoo tapes〉は2012年Festival Fukushima at Ikebukuro atelier bemstar を開催。(https://www.pj-fukushima.jp/festival/201208post-58.php
 同年より90年代のテクノの盤を紹介するトーク・ライヴを企画。
https://www.youtube.com/watch?v=iVpBRFAEmxQ

https://www.discogs.com/artist/Hidenori+Sasaki
https://www.youtube.com/user/hidenorisasaki1980
https://twitter.com/ssk_hidenori
https://www.facebook.com/zootapes
https://zootapes.tumblr.com/

Drone Chart


1
Various - Captured Ambient Cassette - Zoo Tapes
  droneの状況の紹介の前に、現在も続く東京音響noise、improvisedシーンを忘れてはならない。自身の活動もここの影響下からスタート、2007年都内でlive活動を行っていた頃、盆の窪というacoust free improvised trioと出会う。
 自分が参加していたセッションMetaphoricは当時まったくお客さんの反応を得られなかった。盆の窪もまた同じ。お客さんの大半は無反応、物事のはじまりは大抵このような状況なのだろう。
 2012年時点でそのことを記録に留めておきたく自身のソロ名義でSFDD、盆の窪から現在DUOになったセッションをカセットに収めた作品。
 B面収録はsonny+starcuts、Kyosuke Takayasu(bemstar record)、drone、free improvised、00年前後の音響noise、post classicalな要素を持った自身〈zoo tapes〉のオムニバス・カセット。free improvised シーンは現在、水道橋Futarri CD shop,l-e,等で体感できる。

2
Metaphoric - Confirmed Lucky Air CD - Kawagoe New Sound
  improvisedの影響下からスタートした活動のなかでMetaphoricというguitar duoのセッションに録音も含めて参加、2008年頃から録音作業中心。そのなかでUKのdroneシーンの存在を知る。Mirror、Andrew Chalk、Darren Tate、Colin Potter等、彼らの作った実験的なドローン・サウンドを多く聴いていた。自身のサウンド・イメージはfree improvisedからUK drone soundへ、Metaphoricの録音素材を編集して作り上げたambient/drone作品、1st editionのリリースは2009年。
 このアルバム1曲目の"Torimo"はremixが存在する。remixはCeler、Stephan Mathieu、Todd Carter(Tv Pow)、remixの対応にバックアップしてくれたNature Blissの重要度もここに記しておきたい。

3
Reizen - 2nd CD - Self-released
  自身の活動中に同じような思考を持ったアーティストは? とArt into Life サイトで知ったNerae,そのメンバーだったReizen(guitar)を紹介したい。2009~10年頃、当時都心の知人でAnderw Chalkと言って通じるもしくは注目しているのはNerae彼らだけだった。00年代日本人の作ったdrone作品で極めて重要なアーティストと言っても大袈裟ではないと思う。
 その後ソロになったReizenの2nd(self release)。静寂のなかの彼の素晴らしい演奏の説明は各ショップのコメントにお任せする。2012年現在は2nd editionとして入手可能、他ソロ名義では1st、3rdとリリース。
 東京は四谷、喫茶茶会記、江古田Flying tea potでのVeltz(VLZ produkt)との共同企画を中心にライブ等多くの活動を行っている。

4
Diesel Guitar - Stream Of Lights CD - F.M.N Sound Factory
  Reizenとのdrone推薦盤の話のなかで「日本が誇る知られざるギター・ドローニスト、Diesel Guitarを評価することだけは忘れないでほしい」彼の言葉である。Diesel Guitar、Reizenは自身の企画で招聘してライブを行っていた。P.S.F. Records Modern Musicにて2タイトル購入可能。

5
Hakobune - Recalling My Insubstantial Thoughts LP - Tobira Records
  京都のMeditationsで働いていた経歴を持つHakobune。2011年に彼が東京に出てきたことはとても重要、彼の作り出す音、存在は今後多くの若者への影響、指針となるだろう。更にはReizen+Hakobuneの二人が都内でライブ「音ほぐし」を主宰していることはとても重要(四谷、喫茶茶会記にて)。
 droneいやこの作品からは+ambientなサウンドが聴こえてくる。彼がvinylフォーマットで表現しようとしたもの、そのサウンドに身をゆだねよう。多作である彼の作品からvinylフォーマットでのサウンドを是非じっくり聴いていただきたい。Hakobuneの運営するlabel、〈Tobira Records〉からのリリース。

6
Various - Tokyo Flashback 8 CD - P.S.F. Records
  P.S.F. Recordsの重要性、このTokyo Flashback 8、そこにはReizen、Metaphoric他多くのサイケデリック感覚を持ったアーティストが参加している。
 しかし、ここで重要なのは多くのPSFに関連するアーティストの中Soldier Garageを1曲目に紹介したことのように思う。
 彼のギターはまるで「あのアーティスト」の音のようだ......と言われているがここでは伏せておきたい。
 Soldier Garageはその後〈P.S.F. Records〉からリリース。彼はジャケットのイラスト・デザインも手掛ける。

7
suzukiiiiiiiiii×youpy - sxy CD - Headz
  上記00年代improシーンを異端の立場で牽引していた鈴木康文+安永哲郎によるlap top duo VOIMAという存在も紹介しておきたい。なぜ異端と書いたか? それは2008年4月に六本木Super Delux行われたFtarri Festival出演の際、多くのimproviserがelectro acoustのスタイルのなか、彼らはlap top2台でのパフォーマンスだったからだ。当時いやいまでも同じだと思うのだがlap topのライブはパフォーマンスとして面白みに欠けるという指摘があるが、99年来日時に観たJim O'Rourkeのlap top、00年に観たCasey Riceのlap topはいまでも脳裏に焼き付いている。
 その鈴木氏が更にsuzukiiiii+youpy名義として2012年にリリースしたこの盤、全40曲!? からなる音響エレクトロノイズ。
 00年代free impro以降のサウンドを注意深く負わなくては現実を見失う。〈P-Vine〉から。
鈴木氏は六本木Super DeluxでSound Roomを主宰。安永哲郎氏も都内で多くの企画を行っている、安永哲郎事務室を主宰。

8
Takayuki Niwano - Surroundly CD - Kawagoe New Sound
  Metaphoricでguitarを担当、オリジナル・メンバーの庭野氏の最新作、Tower Recordの発行するfree magazine baunceでも取り上げられたが、ここでの庭野氏はギターにフォーカスを当てず、PC上での音作りに没頭したサウンドになっている。90年代から音作りを行っていたアーティストでなければ出せない音、こちらもノイズを出しているが不思議とテクノ、テクノ・ノイズ? テクノという感触が全編に渡って展開された作品。
 改めて彼の多岐にわたる活動、ギターの音色、フレーズすべて重要である。

9
Various - Utmarken 3xCassette - Utmarken
  ドローン後、北欧ノイズに遭遇し更にインダストリアルというキーワードに気がつく。日本で耳にするノイズとは別の側面を持つことに気がつく。個人的に今年発見した海外の盤を1点紹介したかった。やはりカセット・フォーマットは面白い。3本セットのケースなど現在東京では見たことがない。

10
Various - Tribute To MSBR LP - Urashima
  このトリビュート・アルバムを買うになった自分の立場に自覚的でなくてはならない。Japanoiseはまだまだ進化する。
 〈Urashima〉もまた北欧なのだ。2001年に青山CAYで観た「ノイズのはらわた」この企画で初めてノイズに触れたがそのショックをいまも引きずっている。

禁断のクリスマスBOX - ele-king

 禁断の多数決から素敵なプレゼントが届いた。以前よりアナウンスのあったクリスマス・アルバム『禁断のクリスマスBOX』である。ハンドメイド感あふれる箱を開けると、雪を模した綿やらオーナメントやらアートカードの奥から、ディスクが2枚あらわれる。20曲入りのCDと本作用の映像を収めたDVDだ。とても楽しい作りである。しかしこの作品にはもうひとつ重要な要素がある。

 前号(ele-king vol.7)で行った〈マルチネ・レコーズ〉主宰トマド氏へのインタヴューでも非常におもしろい話をきくことができたが、本作は話題の「投げ銭システム」、クラウドファンディングを利用し、まさにファンのための仕様を実現している。「メンバー全員、クリスマスが大好きです! 応援してくれた皆さんと完全ハンドメイドのクリスマス作品で一緒にメリークリスマス♪を楽しみたいです」というコンセプトのもと、こうしたシステムを利用し、クリスマス・アルバムというものを「売り物」ではなく「プレゼント」へと、スマートに(またハートフルに)転換してみせた。もちろん定価のついたれっきとした商品だが、制作費をファンがもつというあり方はなんとも直接的で理想的ではないか。投げた金が、プレゼントになって帰ってくるのだ。それはたとえもとからのファンであったとしても、「買わされる」システムとはまったく違うものだ。クラウドファンディングは、うまく利用するならばその過程や手順をスムーズにし、わかりやすく見せてくれる。

 曲のほうも、パンダ・ベアをほうふつさせるサイケデリックなトロピカル・ポップや、デイデラス風のラウンジーなカットアップ・スタイルに幕を開け、ベタベタなクリスマス感を避けながらも豊かなフレイヴァーによってこの時期特有のそわそわとした空気を彩る。
 購入はバンドの公式サイトから可能だが、明日はメンバーによる手売りが行われるようだ。クリスマス直前でもあることだから、ぜひ行ってみよう。

 詳細→ https://kindan.tumblr.com/post/37976471859/12-22-dum-dum-office-box
 公式サイト→ https://kindan.tumblr.com/

12/22(土)に高円寺DUM-DUM OFFICEにてメンバーによる『禁断のクリスマスBOX』店頭販売

12/22(土)に高円寺DUM-DUM OFFICEにてメンバーによる『禁断のクリスマスBOX』の店頭販売を行います。12時~17時まで店内におります。先着で、禁断の赤ワイン or チューダー or サイダーを一杯振る舞います。 尚、当HPのショップページからも『禁断のクリスマスBOX』をご購入出来ます。何卒よろしくおねがいいたします。

DUM-DUM OFFICEの地図
https://magazine.dum-dum.tv/archives/901

『禁断のクリスマスBOX』 ショップページ
https://kindan.tumblr.com/shop/

チューダーとは?
https://umanga.blog8.fc2.com/blog-entry-165.html

[music video] - ele-king

 今年はフォーマルな服装をキャップで崩すスタイリングが推されていた。タイラー・ザ・クリエイターの影響はあったのだろうか、さらにそこにスケボーのブームも合流してか、〈Supreme〉のキャップが東京の街中で散見された。
 もうひとつ、いやというほど見たのはからし色の洋服だ。先日、『ele-king vol.8』の年末対談のために上京していた木津毅氏、竹内正太郎氏とともに、裏原宿あたりでデートをしていたのだが、そこらじゅうの服屋でマスタード色がウィンドウ・ディスプレイに晒されていた。道行く人まで......、ほらあの人も、ね、あそこの人も、ほらほら、また、うわー......。


How to Dress Well  - & It Was U(Official Music Video)

 ほら、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルも! なるほど。おめかしするにはマスタードだったのね。


Alexis Taylor - Nayim From The Halfway Line

 しかし、キャップとマスタードのスタイリングを2年以上前から実践していた人がいる(https://www.youtube.com/watch?v=wif8DAyXkVc)。ギーク界のファッション・リーダーことホット・チップのアレクシス・テイラーだ。
 そのアレクシスが12月3日、〈ドミノ〉からソロEP『ナイム・フローム・ザ・ハーフウェイ・ライン』を突如としてリリースした(デジタル配信は17日開始)。公式な事前予告なしだったが、クリスマスに向けたささやかなサプライズということなのだろうか。2008年にジョン・コクソンが主宰する〈トレッダー〉よりリリースした宅録アルバム『ラブド・アウト』以来のソロ作品となる。
 ジャケットのアートワークは、オリヴァー・ペインとのタッグで有名な現代アート作家ニック・レルフによるものだ。
 残念ながら18日現在筆者の手にはまだ届いていないので、入手しだいレヴューしたいと思う。前作は宅録の名盤『マッカートニーⅡ』を思わせるような弾き語り&シンセのチルな作品であったが、今回はミニマムでグルーヴィーなリフレインが意表をついてくる。映像とタイトルのとおり、フットボールのネタからもいくらかねじれた感性がのぞくのがさすが。


Hot Chip - Don't Deny Your Heart (Official)

 ホット・チップのアルバム『イン・アワー・ヘッズ』は、今年とても評判であったように思う。ファンも増えただろう。もっとも筆者からするとマッチョなまでに3分ポップス化しているのがいまだに好きになれないのだが、それにしても本当によくできた曲ばかり揃ったアルバムだった。そのなかでも特にきらびやかだったシングル曲“ドント・ディナイ・ユオ・ハート”の公式ヴィデオが発表された。
 初めはまったく笑えなかった。いまでも笑えない。「ファニーなヴィデオ」で話題を呼ぼうとセルアウトしているんだと感じた。もうファンでいることがいたたまれなくなった。まあしかし、すこし再考してみよう。
 ホット・チップのメンバーはゲイである――という噂がかつてあった。噂を盛り上げたのは“レディー・フォー・ザ・フロア”(2008)の印象的な一節=「きみは僕のナンバーワンの男(You're my number one guy)」だ。2年以上前、なにを思ったか初対面にも関わらず筆者は噂についてアレクシスに訊いてしまったが、彼は笑顔でこう答えてくれた。
 「『バットマン』の映画でジョーカーが手下にそのセリフをいう場面(https://www.youtube.com/watch?v=hLBmZW-d2A8)があって、そのグラマー(文法)が好きだったから使ったんだ。ゲイのニュアンスは意図していなかったよ。現に僕も女性と結婚して子供もいるしね。インターネットで僕らがゲイだというひとがいようと関係ない話さ。」
 それ以前にも彼らはゲイ雑誌からのインタヴュー英『ガーディアン』誌のインタヴューなどにおいても、ゲイから人気があることは認めつつも噂を否定している。
 とすれば、今回のPVは改めてゲイを自分たちと切り離し対象化しているとも思える......けども、いまさら?
 もうすこし考えてみる。
 2人の選手が喧嘩寸前のところ、唐突にダンスでバトルをするシーンがある(『スペースチャンネル5』というダンス・ゲームを想起させる意味不明な空間だ)。その後、2人は熱くキスを交わし、不穏だった会場は愛のあふれる平和な空間となる。これは、とくに本楽曲がディスコ音楽からの影響が顕著なように、ホット・チップ自身が愛するディスコ文化(音楽)がゲイのコミュニティによって発展してきたことを示唆しているのではないだろうか(https://www.qetic.jp/feature/battles/78938)。
 ......なんて考えてはみたものの、映像監督のピーター・セラフィノウィッツ(Peter Serafinowicz)はコメディアンだし、ホット・チップとの仕事では、おっさんの口からビーム吐かせたり(https://www.youtube.com/watch?v=MaCZN2N6Q_I)、UFOがぶっ壊れるだけだったり(https://www.youtube.com/watch?v=-OsD3g461fM)するわけで、いやほんと、くだらないだけでしょう!
 しかし、このくだらないだけってのがポイントなのかもしれない。「これほど同性愛ってものが政治的なトピックになった年もない」とは木津毅氏の言葉だが(紙『ele-king vol.8』p84参照)、そんな年にあえてこのくだらなさを打ち出したと。そういうことでいいですかね。だって「我々は何年間もこの瞬間を待ち望んでいました! これこそがフットボールです!」ってナレーション、フットボール好きにだってわけわからないでしょう。

Leonard Cohen - ele-king

クリスマス・シーズンに英国で流れる曲は、毎年決まっている。
 ザ・ポーグス&カースティ・マッコールの"Fairytale of New York"、スレイドの"Merry Christmas Everybody"、ボブ・ゲルドフ&仲間たちの"Do They Know It's Christmas"などである。が、数年前から上記曲群の仲間入りをしているのが"Hallelujah"だ。といっても、街中でかかっているのはレナード・コーエンのオリジナルではなく、数年前にオーディション番組で優勝してクリスマス・チャート1位になった女性歌手のカヴァー・ヴァージョンや、『シュレック』で使われたジョン・ケイルのヴァージョンもある。ジェフ・バックリーのカヴァーもかかるし、ルーファス・ウェインライトのヴァージョンも耳にする。
 「秘密のコードがあると聞いた。ダビデが弾いて、神がそれに喜んだという」
 という歌詞で始まるこの歌は、アーティストならつい歌いたくなるアンセムだろう。
 既成の曲を切り貼りしてコラージュすることが創造作業になる時代の遥か前、詩人や音楽家はこうしたアンセムを創出したのである。

 この曲を書いたレナード・コーエンの新譜が今年の初めにリリースされた。御年77歳。あと3年で80代だ。
 ロックを聴いているのは中高年。という現象は万国共通で、『UNCUT』や『Q』は、本国では「おっさん雑誌」としてカテゴライズされている。しかし、70代というのは、もはや「おっさん」ですらない。ミック・ジャガーとキース・リチャーズも来年は70歳になる。ポール・マッカートニーやルー・リードも70歳だし、ボブ・ディランも71歳だ。もはや、時代は「おっさんロック」から「爺さんロック」へとシフトしている。
 ロックと老い。それは一見すると相容れないもののようであるが、レナード・コーエンの新譜を聴いたときに、実はかなり相容れるものではないかと思った。もともと、わたしは「怒れる爺さん」というのが結構好きなのだが、他者に向けてのアンガーは結局すべて自分に跳ね返ってくるということを知り尽くし、本当はそれに対して一番怒っている老年の怒りは、どこか孤高だ。深遠に、そして静かに怒れる爺さんの、死への恐れや希望や後悔や欲望が渦巻く『Old Ideas』を聴いていると、ロックと相容れないのは、老いではなく、アンチ・エイジングという名のリアリティーの否定なのだとつくづく思う。

 個人的には一番好きな"Hallelujah"のカヴァーを歌ったジョン・ケイルも70歳だ。
 ケイルは、新譜について「宝石のコレクション」と『ガーディアン』紙のインタヴューで語っている。「宝石を見るとき、この心惹かれるものは、いったい何なんだろうと人は理解しようとする。新譜のすべての曲に何か魅惑的なものがある。僕にとっては、それはリズムだし、他の人びとにとってはテクスチャーかもしれない」と言うが、現在の彼の音楽が、例えばAlt-Jのような多様なテクスチャーを見せてくれることはない。「古臭い。80年代から90年代前半みたいな曲ばかりで『いま』を感じない」と書いた評論家もいる。

 ケイルの新譜を買う気になったのは、BBC2の「Later...With Jools Holland」のせいだった。この番組では、Joolsを円の中心として、ブレイク寸前バンドからレジェンドまで、の広範なアーティスト&バンドが円の弧を描くように配置されており、出演者たちは常に所定の位置に立っている。よって、他人が演奏している時のアーティストたちの様子がカメラの隅に映ることがあり、これが演奏そのものよりも面白かったりする(最近では、ビーチ・ボーイズで陽気に腰を振っているジョン・ライドンが良かった)。
 ケイルが出演した回には、ジェシー・ウェアとザ・ヴァクシーンズが出ていたのだが、ケイルはこの両者の曲でさかんに頭を振っていた。その振り方というか上半身の動きが激烈にクールだったので、わたしはついアルバムまで買ってしまったのだ。ケイルは、参考のため研究しているとかではなく、本当に若い人びとの音楽が好きなんだろうと思う。

 「いま」という観点でいえば、80年代から90年代前半というのはトレンドである。
 ケイルの新譜も、5曲目まではまさにあの時代を髣髴とさせる。さすがにこなれているので、オーセンティックになり過ぎるのだが、新し物好きの彼は、もしかすると若い人々に触発されて、リヴァイヴァルをやってみたのだろうか。
 となると、「彼はもはやカッティング・エッジではない」とか言っているメディアのほうが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドや前衛音楽のケイルを忘れることができない老人なのである。
 ジョン・ケイルはそんなことには目もくれず、ウェールズの谷間を吹く風のように飄々と、「いま」を楽しんでいる。

メリー・クリスマス・フロム・Why Sheep? - ele-king

 Why Sheep?を名乗る前の若き羊は、ジェームズ・ジョイスの「若き芸術家の肖像」に出てくるスティーブン・デーィーダラスよろしく感傷的なくせに観念的で、傷つきやすいくせにタフを気取っていた。つまるところ、どこにでもいるちょっと感傷的で自己耽溺型の若者ってことだ。
 そして、巷にある歌の99%は恋愛に関するものであることにも、「あなたはもうここにはいない」とか「着る人のいない手編みのセーター」だとか、そのほとんどが安っぽくて深みもないことにもうんざりしていた。振り返ってみると、それがWhy Sheep?がインスト音楽にむかっていったことの理由のひとつでもあると思う。

 と、ラヴ・ソングについて長きにわたってそんな風に斜に構えて生きてきたのだけど、そろそろ中年になろうかという歳にさしかかったある日、突然、啓示のような出来事が起こった。

 たしかちょうど年の瀬の今頃の時期だったと思う。都心のビルの高層階で、別れる間際の恋人と食事をしていた。口には出さないけど、ふたりとも別れを予感していたんだと思う。とはいっても話は簡単ではなかった。少なくとも僕はそうだった。良いことも悪いことも、自分たちだけの問題も、他人を巻き込んだ問題も、いろんなものを引きずっていた。綺麗な夜景も、洒落た店の雰囲気も、美味いはずの食事も酒もかえってふたりの気持ちを滅入らせてしかくれなかった。
 そして、当たり障りのない話題さえも尽きたころ店内のスピーカーからポリスの「見つめていたい」が流れてきた。不意打ちだった。

 Every move you make
 Every vow you break
 Every smile you fake
 Every claim you stake
 I'll be watchin' you

 君が動くたび
 君が約束を破るたび
 君が作り笑いをするたび
 君が言い張るたび
 僕は君を見つめてるんだろう
   (原詩:スティング 訳:Why Sheep?)

 そのとき自分の心の内側で起こったことを説明するのはとてもむずかしいのだけど、あえて言うならその歌と自分の心が共振したといえばいいのか。それはその場の雰囲気に合ってるとか、歌詞の一言一言がふたりの関係にピッタリはまるとか、そんなレヴェルではない。まるで、ぴったりチューニングの合った弦が共振しているような、まるで思考も感情もどこかに置き去ったような物理的な体験だったのだ。
 そして、目の前にいる彼女をよそに、ショックから返ると思い至った。   
「ああ、すべてのラヴ・ソングは僕にというわけではなくても、どこかの恋愛の現場には必要なんだ。だからこんなに世の中ラヴ・ソングで溢れているんだ」と。
 言い回しが巧みとか韻を踏んでるとかそんなことは二の次の問題なのだ。ラヴ・ソングはいつかその歌と共振する誰かのためにあるのだと。そして、そのラヴ・ソングは、もう二度と同じような強度を持って現れることはないにしても、それからのその人の人生にとってかけがえのないものになるだろう。

 これは余談だけど、この「見つめていたい」という曲はポリスのなかでも最大のヒット曲で1984年のグラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞したぐらいなのだけど、作曲者本人としては、詞の内容は不本意だったらしく、ポリス解散後のソロ・アルバムでは自身へのアンサーソング「セット・ゼム・フリー」を書いた。つまり「見つめていたい」は束縛する愛で、本来の愛とは「セット・ゼム・フリー」というタイトルそのまま、解放してあげることなのだという。ポリスはデビューしたての頃は、パンク/ニューウェイヴ・ムーヴメントに乗っかって出てきたならず者のお兄ちゃんバンドを装ってたけど、実はヴォーカルのスティングは前職は教師でディケンズの初版本を買いあさったりするほどの文学オタクである。

 歳を重ねたスティング本人がいまどう思ってるかはわからないが、当時の本人が勘違いしてると思うのは、歌は一度世に放たれてしまえば、ましてやそれがヒットしてしまえば、もうアーティスト当人のものではないということだ。その歌は街角で流れるたびに自律性を持ちはじめ、それはどこかしかるべきところで昇華するのだ。ちょうど僕の場合は、それが年の瀬の高層階の彼女との別れの場面だったように。

 他人の曲のことばかり語ったが、10年間も口を沈黙を守ってきた羊が、Why Sheep?と名乗る最後のアルバムを来年の春にリリースする。
 前作『myth & i』をリリースしてから10年間眠りこけていたわけじゃあない。そのあいだ、世界ではいろいろなことがあったし、さっきの話みたいにプライヴェートだって取り込んでたから、それこそ曲を作る材料はいろいろあった。少しずつ曲を作りためていたわけなのだが、ひとつのアルバムとなると、自分としては、そのアルバムのレーゾンデートルのようなものがどうしても必要だった。

 前作『myth & i』は自分のなかでは、2001年の9.11の絶望から生まれたアルバムで、その後も世界は変わり続けたけど、なかなかその絶望の淵から這い上がることができなかった。

 そして2011年3月11日が訪れた。それは僕を、僕たちを深く傷つけた。茫然自失の時間が過ぎたあと、アーティストとしてするべきことがあることだけはわかっていた。しかし、そんなことを悠長に考えているうちに、おそらく誰よりも早く、表現をした連中がいた。アーティスト集団のChim↑Pomである。
 
 渋谷駅に飾られている岡本太郎作の「明日の神話」のジャックがニュースで報道されてから時をおかずに発表された「Real Times展」を訪れて、美術と音楽の違いとはいえ、強い衝撃を受けた。そしていてもたってもいられなくなり自分としては異例の早さで、彼らの「気合い100連発」を許可も得ずにリミックスし彼らに手渡した。
 Chim↑Pomはその作品のインパクトの強さゆえに、支持する者と批判するものを真っ二つに分かつアーティストである。彼らを批判する者をどれだけ説得しようと思っても不毛なだけの気がするが、そのインパクトゆえに世に本質的な問いを発することじたいがアーティストの生業であり、彼らが見事なまでに職責をはたしていることだけは伝えておきたい。ピカソがゲルニカを発表したときだって、あんなふざけた絵は死者への冒涜と批判する人たちがいたことだろう。
 先日、3.11後、最初となる衆院選が行われた。結果についてはあえて言うまい。しかし投票率の低さについて知ったときは本当に愕然とした。この期に及んでも無関心なのだろうか、あるいは心底絶望してるのだろうか。

 もしChim↑Pomとの出会いがなかったら、もしかして僕はまだWhy Sheep?の最終章としてのアルバムのレーゾンデートルを見つけることはできなかったかもしれない。やっと完成したアルバムは来年の早春にお目見えすることになった。

 そのアルバムのなかにキーとなる曲がある。「empathy」という曲だ。これは『myth & i』で、世界の在り方を神話になぞらえた後、その核となるべきものを探し続けた結果である。これは僕が初めて世に出すラヴ・ソングだ。どこまでもラヴ・ソング。できれば歌詞をよく聞いてほしい。歌はUAに歌ってもらった。歌を依頼する前から彼女の歌声しか念頭になかった。彼女が僕の期待以上の力を歌に与えてくれたと思う。
 そしてこの曲はWhy Sheep?によるWhy Sheep?(なぜ羊か?)という問いへの初めての、そしておそらく最後の回答でもある。
 その答えは、若き日の僕がラヴ・ソングに違和感を覚えたように、誰かを失望させてしまうだろうか。
 それでもかまわない、と思う。
 この歌が、いつか誰かの恋愛と共振してくれるのであれば。

 クリスマス, 2012

mixCD"swim in"発売中
https://tmblr.co/ZnHH9xWlBSX7

2012/12/28(FRI) Swim in @GRASSROOTS
Haruka , Jyotaro , Tsukasa , Tomoharu

2012.12 CHART


1
SIGHA - SCENE COUPLE / BROOD - Hotflush

2
Anthony Parasole & Phil Moffa - Atlantic Ave - The Corner

3
XAMIGA - Kermit's Day Out - Rush Hour

4
Julius Steinhoff - So Glad - Smallville

5
Mikkel Metal - Fron - Semantica

6
SIGHA - Living With Ghosts - Hotflush

7
The Fantasy - Secret Mixes Fixes Vol. 14 - Secret Mixes Fixes

8
Black Dynamite - City To City EP - Tenderpark

9
Arttu - Tune In - Royal Oak

10
Dance - Still / Ha - Blank Mind

Kendrick Lamar - ele-king

 数ヶ月前、ある人から「あんたがやっていることはアンダーグラウンドで、マイナーで、負け組だ」と言われたが、12月16日の夜、自分は本当に「アンダーグラウンドで、マイナーで、負け組だ」と痛感した。自民党の勝利が予想されていたとはいえあそこまでの圧勝とは......。

 これは、なんだかんだテレビの影響が大きいんじゃないかと思っている。僕はほとんどテレビを見ない人間だが、スポーツとニュース番組はたまに見ている。3.11のときもそうだったが、今回の選挙報道に関しても、日本の報道番組の軽さには見ていて憤りを覚える。民主党3年間への批判、あるいは失われた20年というキャッチコピー、そして中国の台頭による日本経済の相対的な低下への不安(ないしは領土問題)などなどが今回の結果をうながしたのだろう。
 が、相対的に見たときに、南ヨーロッパの失業問題、アメリカの激しい格差社会などと比べれば、日本にはまだマシなところがそれなりにある。そもそも経済的な衰退に関しては日本だけの問題ではない。それでも、自分たちはまだまだイけるんだという幻想が、昭和時代への回帰という妄想と結びついて、ちょっとあり得ない選挙結果になったんじゃないだろうか。
 そんな暗黒時代を迎え、僕は水越真紀とともに、年明け刊行予定の、二木信という金玉ライターの単行本の編集を手伝っていた。『しくじるなよ、ルーディ』というタイトルで、二木信がこの10年、主に日本のヒップホップについて書いた原稿やラッパーへのインタヴュー記事をまとめたものである。
 僕は、300ページもある金玉ライターの原稿を2回以上も繰り返し読みながら、本のなかで紹介されているラッパー/トラックメイカーたち──キラー・ボング、シーダ、SHINGO★西成、環ロイ、MSC、田我流、スラック、マイク・ジャック・プロダクション、ビッグ・ジョー、ザ・ブルー・ハーブ、シミラボ、ハイイロ・デ・ロッシ、PSG、鎮座ドープネス、志人などなどの気持ちの持ち方、表情の豊かさにずいぶんと気持ち良くさせられた。彼らの、野性的な知性、自らの身体感覚を頼りに生きているさまがとても魅力的に思えた。

 25歳のロサンジェルスのラッパー、ケンドリック・ラマーの『グッド・キッド・マッド・シティ』は、ある意味興味深い接合点を作っている。昔ながらの、つまりドクター・ドレ(ギャングスタ)が好きなヒップホップのリスナー、その対極にあるとも言えるチルウェイヴ(気休め)とリンクするクラウド・ラップ系のリスナー、その両側を惹きつけていると下北沢のレコード店で説明されて、「それじゃあ」と買った。1ヶ月以上前の話である。
 なるほど、たしかに『グッド・キッド・マッド・シティ』にはドクター・ドレが参加しながら、ツイン・シャドウやビーチ・ハウスがサンプルのネタに使われている。ドレイクも参加しているが、ウィーピーではない。Gファンク、そしてここ数年のUSインディ・ロックのメランコリーが混在しているようだ。
 『グッド・キッド・マッド・シティ』は、まず1曲目が最高だ。不気味なシンセと変調された声で構成されるイントロは、ジェームス・ブレイクめいている。スクリューの効いた"スウィミング・プール"や"ポエティック・ジャスティス"も格好いい。ドレの代表作『クロニック』に捧げた"コンプトン"という曲もある。ボーナス・トラックの、とくに"ザ・レシピ"も良かった。
 アルバムは、『ピッチフォーク』がべた褒めするほどの歴史的傑作とは思えないけれど、魅惑的なラップとモダンなテイストが入ったクールな作品であることは間違いない。ミックステープ『セクション80』収録の"ハイパワー"のPVが示唆するように、ナズの『イルマティック』の孤独な叙情詩(ブルース感覚)も感じることができる(そして、ラッパー特有の、肌で感じ取って生きている人間の動きを見ることができる)。

 先日のエレグラのフライング・ロータスのライヴ&DJのセットにおいて、彼がケンドリック・ラマーをプレイしたとき、二木信と一緒に盛り上がってしまった。フライローが出演する前から我々はケンドリック・ラマーについて互いの意見をぶつけ合っていた。僕は、フライロー周辺にはない感覚がケンドリック・ラマーにはあると主張した。逆に言えば、デイダラスからフライローへと展開するロサンジェルスには、ラマーのような痛みが前面に出ることはない。そして......、しかしそれを大観衆の前でプレイするフライローはやっぱり素晴らしいですよ。「アンダーグラウンドで、マイナーで、負け組」の気持ちをわかっている。


 経済にしろ原発にしろ年金にしろ、ろくな改善も出来なかった「あの」自民党が単独過半数とはクラクラする。(中略)勇ましい政権の勇ましさに、せめて熱狂しないことがこれから数年の「我々」の忍耐になる。
   水越真紀「勇ましさに惑わされるな」(『ele-king vol.8』より)

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