「Nothing」と一致するもの

interview with Unknown Mortal Orchestra - ele-king

 いったいいつからそこに洗いざらされていたのかわからない......何十年も風雨を凌いだようにも、またつい昨日そこに置かれたばかりのようにも感じられるUMOのサウンドは、タイムレスという表現ではなく、ロスト・タイムと形容するのがふさわしいかもしれない。
 オープンリール式のテープ・レコーダーやディクタフォンなどを用いながら、丹念に音を作っていくというルーバン・ニールセンは、アリエル・ピンクからえぐみをとったような、ヴィンテージだがトレンドを突いたローファイ感をトレード・マークに、サイケデリックなファンク・ロックを展開し10年代シーンに頭角を現した。今月リリースされたセカンド・アルバムでは、グラム・ロック風の楽曲などUKロック的なアプローチをさらに強め、ポップ・アルバムとしての幅を広げた印象だ。
 しかしUMOの音は、懐古趣味というにはあまりにいびつで、ニュー・スタイルだというにはあまりに時代掛かっている。どこに置いても少しずつ違和感を生んでしまうような、いつの時代からもロストされ、どの思い出にも安住できないような、微量の孤独を感じさせるところに筆者は無限の共感を抱くのだが、その心は実のところは如何ばかりか。

 今回、ホステス・クラブ・ウィークエンダーへの出演のため来日していたメンバーに話をきくことができた。中心人物であるルーバン・ニールセンと、ベースのジェイコブ・ポートレイト。ルーバンはよく知られるように、以前はニュージーランドの老舗インディ・レーベル〈フライング・ナン〉の重要バンド、ザ・ミント・チックスを率いて活躍していた人物でもある。場所をアメリカに移し、ひっそりとこのサイケ・プロジェクトをはじめていたわけだが、ルーバンのソングライティングの底にあるものは、自身が述べているように、どこにも属することなく渡り歩くブルースマンのそれに似通ったところがあるのかもしれない。古今東西の音が審級もなく膨大に蓄積されつづけるネットワークのなかを、静かな光を放ちながら漂泊するUMOの音楽に、そのイメージはいくばくか重なっている。われわれが惹きつけられ、共感を抱くのは、ルーバンのそのようなあり方に対してでもあるだろう。

古い機材にこだわっているわけでもないんだけど、いまの時代、きれいな音を出すほうが簡単だったりするからね。そうじゃないことをやろうとすると、やっぱり時間がかかるよ。でもそもそもそのままでおいしい肉がそこにあるのに、わざわざマヨネーズをつけたりいろいろな手を加えたりしてるだけかもしれないよね。

“ファニー・フレンズ”(ファースト・アルバム『アンノウン・モータル・オーケストラ』収録)が聴けて感激しましたよ。あの作品が出た頃はレコード屋で働いていたんですが、それはもう毎日店頭でかけて......

ルーバン:それは素敵だね!

はい(笑)。あの頃は〈ウッジスト〉とか〈メキシカン・サマー〉とかがまさに旬で、そのあたりと部分的に共振しながら、チルウェイヴというトレンドも爛熟期にありました。

ルーバン:そうだよね。

グレッグ:たしかに。

で、UMOのちょっとガレージーな感じ、ローファイな感じ、こもった感じ、リヴァービーな感じっていうのは、そうした当時のシーンの雰囲気ととてもシンクロしていた部分があると思うのですが、あなたがたのファンクネスは、ちょっとめずらしくて、際立っていました。UMOには、ミント・チックスの体験を引いている部分もあるかとは思うのですが、パンクからファンクへというリズムの変化があるのは、ミント・チックスやパンクに対するひとつの批評なのでしょうか?

ルーバン:基本的には、前のバンドのドラマーがあんまりファンクできる人じゃなかったんだよね(笑)。どっちかというとパワー・プレイが持ち味で。僕自身は、いまやっているような音に昔から興味があったし、父親がジャズ・ミュージシャンだったこともあって、馴染みもあったんだ。でもはじめたのはたまたまパンク・バンドだった。パンクのなかに徐々にファンキーな要素とかを入れていきたかったんだけど、なかなかああいうグルーヴは腕のある人じゃないと出せないんだよね。当時はまあ、無理だったんだ。だからバンドを離れてひとりで音楽を作ることになったときに、どうしてもちょっと古風なグルーヴを持ったものへと変わっちゃったんだよね。

なるほど、古風なグルーヴという認識なんですね。今作はちょっとグラムっぽいいうか、UKロック的な音楽性が特徴になってるかなと思います。〈ファット・ポッサム〉にはヤックとかロンドンのバンドもいますけど、アメリカでいまUKロックというのはどんなふうに聴かれているんですか?

ルーバン:ヤックとかはたしかに人気があるよね。バンドによると思うけど、「ブレイクした」って規模の話になると、アークティック・モンキーズくらいかな。

ジェイク:でも、イギリスのバンドがいまアメリカで人気を高めているかっていうと、それは疑問だね。いま「きてる」のは、やっぱりサンフランシスコのガレージ・ロック・シーンだと思うよ。ガールズとかタイ・セガールとか......。

ルーバン:アメリカでイギリスのバンドが成功するのは難しいよね。ビッグにはじけるのは、アデルとかエイミー・ワインハウスとかポップなものでさ。

そうですよね。ガールズやタイ・セガールなんかは、ちょっとヴィンテージな音づくりをしますね。UMOにも共通するところはあると思うんですが、そんなふうにレトロな音楽性に向かうのは、一種のノスタルジーからなんですか? それともいまの時代に疎外感のようなものがあったりするんでしょうか?

ルーバン:ノスタルジーっていうのはぜんぜんちがうかな。その昔を知っていないと感じられないものだからね。僕らがいま好きで聴いているサイケなものっていうのは、実際は僕らが知らない昔のものだ。ここ8年くらい、そういうものが気になってよく聴いてるんだ。僕にとってリアルにノスタルジックなのは、TLC、ブランディ(笑)、あのへんのR&Bだったら若い頃の思い出とともに懐かしむことができるよね。
 サイケデリックな音楽を聴き込めば聴き込むほど思うのは、たとえばピンク・フロイドの『夜明けの口笛吹き』とかが典型だけど、あれですべてが変わったなと思えるぐらいの衝撃度――新たなクオリティ、新たなスタンダードを設定したようなね――を伴っているところがすごいんだ。あの当時の作品のすばらしさはそこにあると思う。バンドとしての僕らのありかたは、機材だって新しいしモダンだと思うんだけど、好みのサウンドはたまたま60年代のものとかが多くなってしまうんだ。

なるほど。モダンだっていうのはすごくよくわかります。曲についてなんですが、前作も今作も、あなた(ルーバン)がとても優れたソングライターなのだなということがよくわかるのですが、プロダクションについてはどうなんでしょう? ローファイっぽさを大切にしながら、とてもこだわり抜かれた音作りがされていると思うんですね。実際のところどのくらいの時間をかけて、どんなふうにサウンド・メイキングを行っていらっしゃるんですか?

ルーバン:ドモ、アリガトウゴザイマス(笑)。すごく時間はかかるんだ。いっさい妥協しないから。古い機材にこだわっているわけでもないんだけど、いまの時代、きれいな音を出すほうが簡単だったりするからね。そうじゃないことをやろうとすると、やっぱり時間がかかるよ。そもそもそのままでおいしい肉がそこにあるのに、僕はわざわざマヨネーズをつけたりいろいろな手を加えたりしてるだけかもしれないよね。さらにはその料理の方法がすごくアナログだっていう。ローファイじゃなきゃいけないと思っているわけではないんだ。

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ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』はとっても好きなアルバムだけど、あれだとちょっとロックさが足りない。キャプテン・ビーフハートも好きだけど、そうするとちょっとプリティさが足りない。そのちょっとの足りなさを自分で補いながらアルバムを作っていくんだよ。

うーん、なるほどなあ。では曲についてなんですが、 “フェイデッド・イン・ザ・モーニング”などのブルージーなサイケ・ナンバーがある一方で、“ドーン”のようなシンセ・アンビエントが収録されていることは、この作品の持つサイケデリアが単純なものではないことを証明するようにも思います。“ドーン”はどのようにでき、どのような意図で収録されているのでしょうか?

ルーバン:いじりかけの曲を、すごくたくさんPCのフォルダにまとめてるんだけど“ドーン”はそのなかのひとつだったんだ。すごくいい感じにできてるから、もったいないし何かに使いたいって思ってた。今回はアルバムをぶっ通しで聴いてもらうんじゃなくて、何か箸休めというか、ブレイクがあるといいかなと考えてもいたんだよね。そんなときだよ、“フェイデッド・イン・ザ・モーニング”の詞のなかに「徹夜明けで日差しがまぶしい」って部分があるんだけど、あの時間で日がまぶしいってことは、その前に夜明けが来てなきゃおかしいよなって思って、いじりかけの曲に“ドーン”って名前をつけて、そこに入れることにしたんだ。ちょうどね(笑)。
 とにかく好きなレコードがたくさんあるから、それに触発されて作りたいと思った音を、自分のレコードのなかに落とし込んでいく、そういうやり方なんだ。ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』はとっても好きなアルバムだけど、あれだとちょっとロックさが足りない。キャプテン・ビーフハートも好きだけど、そうするとちょっとプリティさが足りない。そのちょっとの足りなさを自分で補いながらアルバムを作っていくんだよ。

ああー。プリティさは大事ですね。UMOにはありますよ。“ソー・グッド・アット・ビーイング・イン・トラブル”“ノー・ニード・フォー・ア・リーダー”などは、ダックテイルズやジェイムス・フェラーロなどともどこか共鳴するような、どろっとして白昼夢的な音作りがされていると思います。〈ウッジスト〉や〈ノット・ノット・ファン〉〈ヒッポス・イン・タンクス〉といったようなレーベルに共感する部分があったりしますか?

ルーバン:いやー、ほんとにいまは才能ある人々に囲まれている時代だなという気がして、いま言ってくれたようなレーベルとか、この時代の人たちといっしょに名前を語られるのはうれしいよ。ただ、新しく出るレコードをチェックしきれてない部分はあるから、ほんとに新しいものは追いきれてなかったりはするんだよ。で、ふと気がつくと友だちのレコードだったり。

友だちのレコード、教えてくださいよ。

ルーバン:ええとね、フォキシジェン(Foxygen)、彼らはレーベル・メイトでもあるけどね。あと、ワンパイア。ジェイクがプロデュースしたんだ。

ああ!

ジェイク:仲良しなんだよね。ポートランドのバンドなんだ。

うわあ、やっぱりポートランドはいいですね。

ルーバン:なんか力になれればなって思って、ツアーに連れて行ったりしてる。

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ある意味、自分のアイデンティティを目立たないように消していくのが、いまの僕のあり方なのかもしれないな......。でもアメリカに住むこともアメリカの音楽も大好きだから、問題はないよ。

ちょうどポートランドの話題が出ましたけど、ニュージーランドからポートランドに移住したというのは、日本人からすればまあけっこう大きな決断にも見えるんですが、実際のところなぜアメリカだったのか、そしてなぜポートランドだっだのか教えてもらえますか?

ルーバン:前のバンドのツアーで来たのがきっかけかな。たまたま叔父がポートランドに住んでたというのもあったんだけど、当時は例の『ポートランディア』っていうテレビ番組がはじまる前だったから、べつに有名でもなかったし、とくに何か特別な期待は抱いていなかったんだ。でも街を歩いてみるとみんな着ているものはオシャレだし、かっこいいし、バーに行けば好きなアルバムがかかっているし、ちょっとここに住んでみようかなって気持ちになったんだよね。ニュージーランドの友人たちからは「なんで?」って言われたよ、たしかに。ほんとにポートランドはいまみたいに有名じゃなかったんだもん。でも、いまはわかるんじゃないかな。

みんな住んでないけどよく知ってますよ。ニュージーランドのローカルな音楽シーンって、ポートランドのローカルなシーンと似てたりしますか?

ルーバン:まず、生活のペースは似てるかな。それから、ニュージーランド時代からインディ・シーンに興味があったから、ザ・クリーンとかザ・チルズとかはチェックしてたんだけど、彼らの雰囲気とこちらのインディ・シーンの感じも似ているといえば似ていると思う。〈K〉と〈フライング・ナン〉のノリとかね。ただ、ニュージーランドのほうが、バンド同士が競い合うムードが強かったと思う。ポートランドのほうが仲間意識やコミュニティ感覚が強いかな。

今作のように〈ジャグジャグウォー〉からリリースということになると、UMOも世界的にはUSインディの重要バンドとして認識されていくことになると思います。ご自身のアイデンティティの問題として、こうした点に何か思いはありますか? 

ルーバン:ある意味、自分のアイデンティティを目立たないように消していくのが、いまの僕のあり方なのかもしれないな......。でもアメリカに住むこともアメリカの音楽も大好きだから、問題はないよ。それがパーフェクトなあり方だとは思わないんだけどね。でも、アメリカはミュージシャンとしては活動しやすい国だし、そもそもニュージーランドは小さな国で、音楽をやっている人に限らず、いつかはそこを出ていくというのがカルチャーの一部としてあるんだよね。外に出ていろんなものを発見して、はじめて自国の良さにも気づくっていう(笑)。そういう、外側から国を見つめてその価値を再認識するという昔ながらのニュージーランドのやり方を、いま僕もやっているのかもしれないね。

なるほど、日本とは違いますね。UMOの曲って基本的にはすごくポップなんですけど、どことなく孤独とか諦念のようなものが漂うように感じます。暗いわけじゃないけど、けっしてハッピーというわけでもない。あなたには実際に「Swim and sleep like a shark does」(“スウィム・アンド・スリープ(ライク・ア・シャーク・ダズ)”)していた時期があるのでしょうか?

ルーバン:いまでもそういう気分になることがあるよ。でもそういう気持ちを曲に書くことでどうしたいかというと、みんなに「こういう思いをしている人が他にもいるんだよ」ってふうに共感してほしいってことなんだ。孤独や疎外感みたいなものを助長しようと思っているわけではなくてね。この気分にはまり込んでもらいたくはない。
昔からブルースのアーティストなんかが悩みを歌にしたりしているのは、悲しい音楽の役割として、悪い状況からの救いになる部分があるからだと思うんだ。同じような思いをしている人が他にいるってわかることで救われるというのが、悲しい音楽の役割のひとつだと僕は思っていて。基本的に、僕が曲を書く根本には音楽を通じてみんなとつながりたい、コミュニケートしたいという思いがあるんだ。ただ、自分の気持ちに正直であればあるほど、ダークなものが表に出てくる。けどそこで終わらずにどこか明るいところを見せたい、見てほしいって思ってるよ。

ああ、いいお話が聞けました。ありがとうございます。最後にひとつだけ、前作のジャケットの写真ってユーゴスラビアの建物なんですか?

ルーバン:あれはクロアチアだね。もともとああいうふうな写真をベルギーの写真家が撮っていて、いいなと思ってたんだ。だけどその写真を買わせてくれって言ったらあまりにも高い値段を提示されて(笑)。だから観光客の撮った写真をいくつか探して、それをフォトショップで作り直したんだ。もともとのものと似た感じのアングルにして、モニュメントの前に立ってる人間は、僕のまわりの人を撮って組み合わせたりしてね。

ムーンライズ・キングダム - ele-king

 ウェス・アンダーソンの新作『ムーンライズ・キングダム』の舞台の島を襲うハリケーンにはメイベリーンと名前がつけられていて、それはチャック・ベリーの"メイベリーン"であろうと、そのことに日本でもっとも反応していたのは僕の知る限り樋口泰人氏だが、とにかく、ウェスのほうのアンダーソン監督はつねにポップ・クラシックスへの憧憬を隠そうとしない。ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、それにキャット・スティーヴンスやザ・フェイシズ、ザ・フー......がスクリーンを満たすとき、物語もエモーションもそれらの曲と不可分となってしまう。『ダージリン急行』などはスローモーションでカメラがパンするなかザ・キンクスを流すためだけの映画だと言ってよく、彼らの"ディス・タイム・トゥモロウ"を語る旅が3兄弟の未熟なインド旅行そのものであった。「明日のこの時間、僕らはどこにいるんだろう」......そんな少年性を、ウェスは彼が愛する黄金期のポップ・ミュージックに託してきた。
 ロアルド・ダールへの幼少期からの愛と再会した前作『ファンタスティックMr.FOX』が結局のところ、隅から隅までウェス・アンダーソン映画でしかなかったことからも証明されているように、彼は同じ主題を反復させながら子ども還りしているように見える。「厄介な息子」と「出来損ないの父親」の和解。それはアメリカ映画のクラシックからの反復でもあるだろう。

 『ムーンライズ・キングダム』では初めて年齢的な意味での「子ども」を主役に置きながら、しかし実際のところ少年サムの初恋と冒険はこれまでのウェスの映画で主人公たちが繰り広げてきたそれとまったく同質のものであろう。けれども、時代を65年と明示して政治の季節直前の「思春期」としているように、これまででもっとも子どもであることを真っ直ぐに謳歌している作品ではある。なんてことのない、かつてのポップ・ミュージックに登場する少年少女のラヴ・ソングのように、甘くてノスタルジックな逃避行。ウェス映画の様式がここでは完成を遂げている。少年少女が森を分け入るときにはハンク・ウィリアムスが歌い、ふたりがビーチでダンスするときにはフランソワーズ・アルディが彼らをキスへと誘う。そのスウィートな感覚を、身体的に味わうための映画である。
 僕が本作で惹かれたのは父親の描き方であった。『ファンタスティックMr.FOX』のダメな父親ギツネをジョージ・クルーニーが演じたときの「おや」という感覚を、この映画のブルース・ウィリスにも感じたのだ。これまでジーン・ハックマンやビル・マーレイが演じてきた父親から、少し世代が降りたこととも関係しているかもしれない。ここでのブルース・ウィリスは最近『ダイハード』などでタフガイとして復活を遂げている彼ではなくて、ただの「悲しい(sad)」中年男である。しかしながら映画はウィリスのアクション・スターとしてのキャリアも踏まえながら、彼をヒーローへと変貌させ、そしてたとえ出来損ないであろうとも、たしかに少年のたったひとりの父親へとしていく。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『ライフ・アクアティック』のように、身勝手な父親をいくらかの諦念でもって赦すというものでもなく、『ダージリン急行』のように父親を喪うわけでもない。『ファンタスティック~』の父親ギツネがか弱いコミュニティをそれでもどうにか統べたように、頼りないヒーローであることをささやかながらも祝福するような。

 ウェス・アンダーソンにとって父親でありヒーローであるのは、チャック・ベリーでありハンク・ウィリアムスでありザ・キンクスでありザ・ビートルズでありザ・フーでありビーチ・ボーイズであり、彼らのポップ・ソング・コレクションそのものなのだろう。本作で言えば、フランソワーズ・アルディのナンバーだってそうだ。ウェスは自らの「子ども」の部分へとさらに立ち返っていくことで、自分を育てた父親たちへの愛を包み隠さなくなっているように思える。だから、フィルモグラフィを「チャーミング」「キュート」「スウィート」という形容で彩ってきたウェス・アンダーソンの作品群のなかでも『ムーンライズ・キングダム』がその度合いをもっとも高めているのだとすれば、それはわたしたちが音楽を聴いて心躍るあの感覚を「ポップ」としか名づけようのない不思議に、少年ウェスがまた近づいているということだ。

予告編


Circuit Des Yeux - ele-king

 揚げ足を取るようで後ろめたいが、許せ。編集部にはつねに火花が必要なのだ。橋元優歩の「月刊ウォンブ!」のライヴ評におけるfailureは、現場レポートなるドキュメントで、「城戸さん」というフィクションを挟み込んだことではない。仮に松村正人がオオルタイチのライブ評で宇宙人ポールとの対話を用いたとしても、それは文章表現のひとつのレトリックである。ひとつ、あの文章にfailureがあるとしたら、せっかく彼女はひとりで行ったのに、ひとりで行ったという事実を濁したことだ。
 僕の女友だちのベテラン・クラバーによれば、最近は、ヒップホップのクラブにはひとりで遊び来る女の子が増えているそうである。これは、なかなかの変化だ。10年前は、ヒップホップのクラブに来る女といえば、いかつい(いかのも腕力の強そうな)男と一緒にいる、やけに綺麗な女と相場は決まっていた。が、いまでも毎週のようにナイトアウトしている僕の友だちの報告によれば、若い女の子ほどひとりで行く率は高く、しかも、行く手を阻むかのように待っているナンパ攻撃をかわすように、ひとりで来ている女の子同士が仲良くなってしまうらしい。むしろ、いまでは群れていないと行動できないのは男に多いそうで、たしかに僕も、「月刊ウォンプ!」には小原君、ワラ君という、いかつい男ふたりと一緒に行っている。いつの間にか遊び方のジェンダーは逆転しているのだ。

 ヘイリー・フォールは、ひとりで行き先を選び、ひとりで行動を決めて、ひとりでことを成し遂げる、現代っ子的な女性である。
 なにせ彼女はまだ23歳なのだ。しかも借金は5万ドル。彼女が18歳のとき、ハイプ・ウィリアムスの初期のリリースで知られる〈De Stijl〉からサーキット・デス・ヤックス名義で3枚のアルバムを出している。借金取りから逃げるように彼女は音楽家になった。インスピレーションは「恐怖」と「絶望」だ、とヘイリーは話している。


 大学を出て間もない。ベーグル屋で週に50時間バイトしている。ヘイリーの回想によれば、インディアナ州にある実家は彼女の進学に経済的な援助をしなかった。知識を得る機関(大学)の価格の格差に彼女は腹を立てている。彼女は、アメリカの平等と自由が欺瞞であることを知っている。卒業後の人生は「ストラッグル(戦い)」だ、と彼女は言う。つまりヘイリーにはスプリングスティーン的な資質もある。
 だから彼女は、エリザヴェス・フレイザーやグルーパーのように囁き声を使わない。ニコのような低めの声で、時折『ムーン・ピックス』の頃のキャット・パワーのような(つまり思春期的な)メランコリーと、時折USガールズのようなノイズを注いでいる。

 『CDY3』は、サーキット・デス・ヤックス名義の最新10インチで、3曲入り。彼女も参加しているコズミック・サイケデリック・ロック・バンド、スリー・オープン・セックスのアルバムとも共鳴しているようだ。つまり、松村正人が、いや、倉本諒が宇宙人ポールと一緒にアモン・デュールIIのライヴに行ったとしよう。「どうだい、ポール、これは?」「うん、まあまあだね」「こないだのよりも良いだろう?」「まあ、悪くはないね」「おいおい贅沢言うなよ」......これはまだコンサート会場に到着する前段階である。
 「女性である前に人間であればよかった」と、ヘイリー・フォールは話している。ひとりでクラブに行く女の子も、「女性である前に人間」として、「女性である前にひとりの音楽ファン」として、そこに出かけているわけだが、どうやらジェンダーに振り回されているのは男のほうなのかもしれない。
 そして、インドの修道院で暮らすことなくコズミックでいられることは、音楽のひとつの可能性である。B面の"Helen You Bitch"は、彼女のわめき散らすようなフィードバック・ノイズがひたすら続くサイケデリック・ロックだ。フォーク・ロックの心地よさから逃げるように、彼女はひとりで飛んでいく。レコード針からはものすごいエネルギーがカートリッジを伝わり、トーンアームへと、そしてケーブルを伝わってアンプへと、さらにまたスピーカー・ケーブルへと伝わって、コーンから、飛び出てくる。猫は髪を逆立て、犬が吠える。また新しい女、いや、人間の音楽家が出てきた。


Thee Oh Sees - ele-king

 ジ・オー・シーズは、USのライヴハウス・シーンではもっぱら愛され続けているバンドで、どのくらい愛されているかというのは、沢井陽子さんのレポートを読んでください
 ポジティヴな意味で、アメリカらしい足を使って、汗を流しているバンドである。東京公演には、ゲラーズ、そしてザ・ノーヴェンバーズも出るし、来週の月曜は渋谷〈O-nest〉、火曜日は名古屋〈KD JAPON 〉、そして、水曜日は大阪〈Conpass 〉で騒ごう。



[いいにおいのするThee Oh Sees JAPAN TOUR2013]

サンフランシスコ発世界中で大ブレイク中のアヴァンギャルドでpopなガレージ・サイケ・バンド、 Thee Oh Sees 、遂に日本に降臨!
なんと、大阪公演には、西宮の狂犬・KING BROTHERS(キングブラザーズ)が、東京公演には、トクマルシューゴ含むGellers、いまをときめくTHE NOVEMBERSが出演!

東京編 2/18@O-nest
Open/18:00 Start/19:00
adv/3.000 door/3,500
■Pコード:【191-065】,
■Lコード:【76462】,
e+
【出演】
Thee Oh Sees
Gellers
THE NOVEMBERS
Vampillia

名古屋編 2/19@KD JAPON
Open/18:00 Start/19:00
adv/2.500 door/3.000(+1drink )
■Pコード:【191-065】 ,
■Lコード:【46947】,
e+
【出演】
Thee Oh Sees
MILK
Nicfit
Vampillia

大阪編 2/20@Conpass
Open/18:00 Start/19:00
adv/3.000 door/3.500(+1drink )
■Pコード:191-314 ,
■Lコード:54081 ,
■e+
【出演】
Thee Oh Sees
KING BROTHERS
Vampillia


■Thee Oh Sees
Thee Oh Sees は、John Dwyer (Coachwhips, Pink and Brown, Landed, Yikes, Burmese, The Hospitals, Zeigenbock Kopf) の、インスト・エクスペリンタルな宅録作品をリリースするためのプロジェクトとして開始された。
その後、いくつかの作品を経て、フルバンドへと進化を遂げたのである。彼らのサイケデリックな作風は、一見するとレトロなものとして、とらえられるかもしれない。
だが、彼らは、数々の最先端のアレンジを細部に施すことで、サイケデリックでありながらもしつこさを感じさせない、スタイリッシュでキレの良い全く新しい音楽として、リスナーに強く印象づけているのである。
その作品群はPithforkをはじめとする数々のレビューサイト、音楽雑誌で軒並み高評価を獲得している。
だが、数々のメンバーたちと共に録音されたこれら作品群だけでなく、常軌を逸したエネルギッシュなライブパフォーマンスこそが、ライトニングボルトと同じベクトルにある彼らの本質ともいえる。

ツアー詳細:https://iinioi.com/news.html



The Buddha Machine - ele-king

 前作がスケルトンだったが、今回は蛍光色。黄色、赤、オレンジ、緑の4色。だいたい蛍光色というのは、なぜか人を虜にする。しかもブッダ・マシーンのオモチャ感がまた所有欲を掻き立てるのだ。手の中にすっぽりおさまるほど小さいのに、これは、北京在住の電子音楽アーティスト、「FM3」ことクリスチャーン・ヴィラントとザン・ジアンによるアンビエント作品でもある。
 ブッダ・マシーンに単三電池2個を入れて、スイッチを入れる。音量を上げると電子音の反復が聴こえる。9つのループを楽しめる。しかも、ピッチも変えられるし、ヘッドフォン(イヤフォン)の端子もあるので、外でも聴ける。イーノが大量に買って、デヴィッド・バーンも音楽の未来の兆しとして絶賛だとか。たしかに、これは、色違いを集めたくなるような、そしてコンセプチュアルな、そしてかわいい音楽作品。2台揃えてミキシングするのがマニアの聴き方だが、複数台を部屋のいろんな場所においてなりっぱなしにしておくのも気持ちいいそうだ。
 重要なことを言い忘れた。新しい9つのループも良いです。

Grouper - ele-king

 2008年の『死せる鹿を引きずりながら(Dragging A Dead Deer)』と同時に録音された未発表曲集が本作『帆船のなかで死んだ男(The Man Who Died In His Boat)』なので、厳密に言えば新作ではない。が、アルバムは、当時リリースされなかったことが理解できないほど圧倒的な魅力を携えている。アルバムのスリーヴにはリズ・ハリスではない女性の写真がスリーヴには使われているので、勘違いしないように。さらにもうひとつ、同様に、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。もちろん、歌詞を分析しなくても、彼女の音楽は伝わるのだけれど。
 とはいえ、『帆船のなかで死んだ男』は、『A I A』の2枚ほど抽象性が高いわけではない。この音楽をドローン・フォークとジャンル呼びした場合の「フォーク」の部分がわりとしっかり残されている。彼女のトレードマークである、あのくぐもった音響──フィールド・レコーディング、テープ・コラージュ、エフェクト、ある種沈痛なるダブ・サウンド──はこのときすでに深く鳴っているが、『A I A』以上に歌の要素がはっきりと残っているが大雑把な特徴である。

 作品は、彼女が10代のときのある経験にインスパイアされている、というようなことがレーベルのプレス・リリースに書かれている。

 彼女は波打ち際に打ち上げられた帆船を見つけた。数日間、それは、そのまま取り残されていた。あるとき、彼女は父親と一緒に帆船に近づき、なかを見た。地図やコーヒーカップや衣類が散らばっていた。彼女は自分が目撃者として侵入することに後ろめたさを感じた。新聞を見ても、ことの真相を知る手がかりはなかった。とにかく、帆船は転覆することなく陸にたどり着いた。男はどうにかして、そこを抜け出した。結局のところ帆船も、乗り手のない馬のごとく、家に帰った......

 僕が聴いたときに思い浮かべたのは、たとえばこうだ。海が広がっている。空は暗い雲で覆われている。一艘の帆船が揺れている。それから、ずっと、雨のなか、穏やかな風のなか、揺れている。舵を握りながら、男は死んでいるが、帆船は生き物のように揺れている。海流に動かされ、風に押されながら、決して、岸に着けない。太陽が出たところで、帆船はただ揺れている、たとえ夜空が満天の星空であろうと......

 帆船のなかの男がどうして死んだのか、理由を探索することは、もはや重要ではないだろう。それがいかなる理由であれ、帆船のなかで男は死んでいるのだ。彼女に取材したとき、彼女は『A I A』の2枚のコンセプトについて話してくれたが、繰り返そう、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。しかし、もちろん、歌詞を分析しなくても、我々には痛みを感じる自由がある。音楽が、慰めのためにだけにあるものではないことを、グルーパーはまたしても教えてくれる。

 ところで、ザ・バグ(UKのベース系のプロデューサー)が、グルーパーをフィーチャーして新作を出すという話はその後、どうなったんでしょう? (後述:2014年の『Angels & Devils』にインガ・コープランドとともにフィーチャーされた)

Supermaar (aka DJ MAAR) - ele-king

DEXPISTOLSのDJ MAARのソロプロジェクト。
あらゆる音楽を通過し、たどり着いた先、戻った先。
Deep HouseとTechnoを軸にしつつも、持ち前のヤンチャ心で、日々生まれるフレッシュな音源をグルーヴと低音をキープしながらMixしていく。もう一人のオレ。3番目のオレ。
Dope me, me from Madness.

Recently Play List


1
Barnt / Geffen
完全なるクラブサウンド。家で聴いても、その良さが1ミリも分からない最高な1曲。

2
Shlomi Aber / Foolish Games Feat Moggli
ズブズブしながらも歌い上げてる感じが、最高。Deep HouseとTechnoの程良い中間地点。

3
COS/MES / D.F.G. feat. Dr. Nishimura
こんなのが、あったとは、、、。日本が誇る最狂タッグ。西村さん、超リスペクト。

4
&ME / Everless 
所謂Houseマナーを完全に継承している、旬なHouse。ハマれるし、踊れる。

5
Raz Ohara / El Zahir (Acid Paul's Acid Dub)
理由は、無いけどグッとくる1枚。後半のAcidな展開が、アイディア賞もの。

6
Nu Zau / Pason
カッコイイ。クセは全くないけど、それこそが、今風の最大なクセなのかも。

7
Dark Sky / Hequon 
黒くて、太くて、危険なヤツ。レーベル50 Weaponsにハズレなし。

8
Heiko Laux & Alexander Lukat / Bleak
ド不良な音。激ワル、極悪。大好物だけど、上手く使いこなせるか心配。。。

9
Sis / Foxy (Butch's Raw Cut)
絶妙なバランス感が良い。あった様で無かった感じ。色んなジャンルを横断しそうな1曲。

10
Supernova / Last Night In NY
音は今っぽくないのに、ナゼか今っぽく聴こえる曲。ロケ地がニューヨークってのも不思議。
次点 wAFF / Ibiza
何だかんだで、こういう感じ嫌いじゃない。タイトル通り考える前に、踊れ!騒げ!!的なアンセム。


教会内部に設置されたサーカス・テント

 2/2(土)、NYのミッドタウンの教会で、ミュージック・テープスの「トラヴェリング・イマジナリー〜空想の旅」ツアーが行われた。ジョン・ケール、バトルズ、ロウ、ライアーズ、ダーティ・プロジェクターズなどのショーを企画する〈ワードレスミュージック〉のオーガナイズ。雪の降るなか、普段は来慣れない教会に入ると、目の前にデーンと、サーカス・テントがあり、周りにも催し物のサインが出ている。
 日本の初詣(屋台やゲームなどがある)のガヤガヤ、ワクワク感に少し似ている。7:30pm、9:30pmからの2部形式で、著者は9:30pmの部に来た。「1部を見た」という男の子と話をするが「内容は言わないで」と口止めをする。「トラヴェリング・イマジナリー」はミュージック・テープスが、10数年間あたためてきた、夢のツアーなのである。簡単に種明かしはされたくない。


バンダナで目隠しをするオーディエンス

 9:30pmきっかりにドアが開き、紺色のバンダナがお客さんに渡される。教会なので、ドリンクは売っていない。最後の人が入り終わると、左方から、ピアノの音が近づいてくる。バンジョーを弾くジュリアンが、グランド・ピアノの上に座って、クルクル回されながら、教会中を練り歩いている。ピアノを歩きながら弾くのがアンディで、ピアノを押して、回して引っ張っているのがイアン。どちらも、前回のクリスマス・キャロリングにもいた。
 何か面白いことがはじまる予感。

 テントの左側で「ザ・ペニー・アンド・ザ・ベル」というゲームがはじまる。目隠しをして(ドアでもらったバンダナの登場)、カップに入ったペニーをベルめがけて投げ、ペニーがベルに当たった人の勝ち。これが難しい。
 真ん中の方でも別のゲームがはじまっている。こちらは、お手玉見たいな布玉を、穴にいれるゲーム。


なかなか難しい「パリ・イン・ベルス」

「ペニー・アンド・ザ・ベル」の後は、ベルつながりで、「パリ・イン・ベルス」というゲームがはじまった。目隠しした人が円になり、ベルを持つ。当たりのベルを決め、鳴らしながら左側の人にベルを渡していく。ジュリアンが「ミラノ」、「東京」、「上海」などいろんな都市の名前を言っていくのだが「パリ」と言ったときに、当たりベルを持っていた人と、真ん中の人が音だけで当たりベルを当てたら勝ち。これもなかなか高度なのだが、勝者はふたり出た。ジュリアンは幼稚園の先生のようにみんなにゲーム参加を呼びかけ、率先してゲームを行い、賞品を用意し、司会をしてと大忙し。


テントのなかはとても楽しい!

 ゲームでウォーム・アップした後は、サーカス・テントが開いてショーのはじまり。みんながどんどん前から座っていくので、いちばん前には行けなかったが、セットや流れの全体が見渡せた。ステージに白いスクリーンが張られ、フィリックス・ザ・キャット風の白黒アニメが始まる。ヴィンテージのアナログ・フィルム上映である。
 アニメ鑑賞の後は、スクリーンが落ち、ミュージック・テープスのショーのはじまり。ジュリアン、ロビー、アンディ、アンディG(マシュマロウ・コースト)の4人で、イアンが大道具周りを担当。もちろん、7フィート・メトロノームやオルガン・タワー、スタティックTVなどの手作り楽器仲間も健在。今回は、ジュリアンのトーク部分が多く「祖父が子どもの頃にサーカスに行ったが、人気者の牛がまったく動かなかった」、という話や、「雪の日に子どもたちがみんな突然いなくなった」、など、子供を寝かすときのベッドタイム・ストーリーのようだった。


ステージに出現した巨大雪だるま

 ショーの間にも、はしごが出てきて、その上で歌ったり(足長人として)、巨大雪だるまが出現し、その雪を投げて、客席に設置した月を割るゲーム、テントの上にぶら下げられたプレゼント(中身はミニチュアのサーカス・テント!)を開けるゲームなど、オーディエンス参加型の、ディズニーランドのようなワクワク感が持続した。

 童心やピュアネスをごちゃ混ぜにした、夢いっぱいのショーには、ジュリアンの頭のなかの地図がそのまま表されている。ここしばらく、これほど心から純粋に楽しめることなんてあっただろうか......いや、楽しめずにいたのではなく、単にこの感情を忘れていただけだったのではないか? ジュリアンは終始笑顔で、何よりもいちばん楽しんでいるように見えた。入り口で、バンダナを回収しながら、ひとりひとりのお客さんと話しているジュリアンを見ながら、自然に笑顔が溢れていた。

Melody's Echo Chamber - ele-king

 メロディ・プロシェのようなお嬢さんを見ると、わたしのようなZ級ゴシップ・ライターが連想するのは、昨年ジョニデと離別したヴァネッサ・パラディとか、ラース・フォン・トリアー監督のミューズになって「衝撃の性描写!」(見出しにおける感嘆符の多用は、日本語ゴシップ・ライティングの基本だ。英文ゴシップでは一切使われないが)な話題の多いシャルロット・ゲンズブールとかだ。彼女らも、若い時分には、いまをときめく男たち(父親を含む)に愛され、バックアップされて君臨したポップ・プリンセスだった。
 『Lonerism』が2012年の『NME』のベスト・アルバムに選ばれたテーム・インパラのケヴィン・パーカーも、いまをときめく男には違いなく、彼の全面的バックアップのもとに昨年リリース!! された本作は、まるでLUSHかと思った。で、いやあ、でもこれなら当時のUKのほうが良かった。などという年寄りらしい偏狭な心持になり、卑屈な目つきでRIDEの『Nowhere』を聴きはじめたりしていたのだが、ちょっと待てよ。と思った。冷静に考えると、なぜに豪州人と仏国人が歩み寄ってブリテンで出会っているのだろう。

 フランス語は温かい響きを持つ言語だ。が、フレンチ訛りの英語というのは、その温かみが災いし、どことなく間抜けな響きになる。かわいい仏人娘に舌っ足らずの英語で歌わせて喜ぶのは英語圏の男にありがちな性癖だが、メロディ・プロシェは"Bisou Magique"や"Quand Vas Tu Rentrer?..."などのフランス語で歌っている曲のほうがずっと良い。
 そういえば、オーストラリア英語にも妙な温かみがあり、近年は、語尾がゆるーく伸びて必ず半音上がる、泥くさいような、すっとぼけているような、オーストラリア人独特の温かみのある喋り方がなぜか英国の若者のあいだで流行しているが、テーム・インパラの音楽も、語尾が上がる豪州英語のようだ。言語の特徴が人間の性質に影響を及ぼすとすれば、豪州と仏国の人間の体温は、明らかに英国人よりも高そうである。

 そんな豪州人サイケ・キングと仏人ポップ・プリンセスがコラボして出来た音楽は、80年代末から90年代初頭の寒い英国のインディ・バンドみたいでした。というのは、なんか釈然としない。いっそ、このぼやけたシューゲイズによるドリーミー感を取り除いたらどうだろう。LUSH&フランス・ギャルじゃなくて、レッド・ツェッペリン&エディット・ピアフみたいな、怒涛のサイケデリック・シャンソンをやってみたらどうだろう。と考えてしまうのは、このアルバムがその可能性の片鱗を見せているからだと思う。
 しかし、ふわふわドリーミーなのは恋愛初期の特色でもあろうから、怒涛のコラボなんてやりだしたら、彼らは突然炎のごとく電撃破局!!! しているかもしれないが。

    ***************

 とはいえ、今年に入って掲載された豪州メディア『TONEDEAF』の記事を読むと、メロディ・プロシェはさらっとこんなことを言っているのだった。
 「次の録音が待ちきれない。とてもハッピーだと思える地点にいるの。だけど、もしケヴィンからインスピレーションをもらえなくなって、彼やPondのメンバーと一緒に仕事できなくなったら、私は同じぐらいインスピレーションをくれる他の誰かを見つけるわ」

 個人的には、今年はStealing SheepやHaimのようなDIY色の濃い女の子バンドにこそ活躍して欲しい。(DIYレトロの括りなら、男の子デュオのFoxygenもクールだし)。
 37年の時を経て再び確認しておけば、DIYとは、自分でやれ。ということである。

Sports-Koide - ele-king

2/13(wed) @CAVE246
2/22(fri) @SOUL玉TOKYO 【B.A.D.Psychedelic】
3/16(sat) @GALAXY 【SLOWMOTION】
3/19(tue/祝前日) @EN-SOF TOKYO【Just Do It !】
6/22(sat) @旧グッゲンハイム邸 【SLOWMOTION】

インディポップチャート


1
cero / わたしのすがた (カクバリズム)

2
片想い / 踊る理由 (カクバリズム)
https://www.youtube.com/watch?v=y5LFv5-xWtU

3
藤井洋平&The VERY Sensitive Citizens of TOKYO / ママのおっぱいちゅーちゅーすって、パパのすねをかじっていたい (FUSHA RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=E81MpqInSxI

4
あだち麗三郎 / ベルリンブルー
https://www.youtube.com/watch?v=f3O9f95SDc4

5
VIDEOTAPEMUSIC / Slumber Party Girl's Diary (ROSE RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=5xhDysPUVyo

6
伴瀬朝彦 / 田園都市ソウル (MICROPHONE RECORD)
https://www.youtube.com/watch?v=uu3sBbcfUrE

7
倉林哲也 / kit
https://www.youtube.com/watch?v=A_HZ4XzePKM

8
mmm / 無題 (kiti)
https://www.youtube.com/watch?v=Se5WsIt7wzo

9
NRQ / The Indestructible Beat of NRQ (MY BEST! RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=2ZBR0ssQ334

10
HESSLE AUDIO / 116 & RISING (hessle audio)
https://www.youtube.com/watch?v=7EcTFcr7Ygg
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