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Grouper

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The Man Who Died In His Boat

Kranky/p*dis

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野田 努   Feb 14,2013 UP

 2008年の『死せる鹿を引きずりながら(Dragging A Dead Deer)』と同時に録音された未発表曲集が本作『帆船のなかで死んだ男(The Man Who Died In His Boat)』なので、厳密に言えば新作ではない。が、アルバムは、当時リリースされなかったことが理解できないほど圧倒的な魅力を携えている。アルバムのスリーヴにはリズ・ハリスではない女性の写真がスリーヴには使われているので、勘違いしないように。さらにもうひとつ、同様に、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。もちろん、歌詞を分析しなくても、彼女の音楽は伝わるのだけれど。
 とはいえ、『帆船のなかで死んだ男』は、『A I A』の2枚ほど抽象性が高いわけではない。この音楽をドローン・フォークとジャンル呼びした場合の「フォーク」の部分がわりとしっかり残されている。彼女のトレードマークである、あのくぐもった音響──フィールド・レコーディング、テープ・コラージュ、エフェクト、ある種沈痛なるダブ・サウンド──はこのときすでに深く鳴っているが、『A I A』以上に歌の要素がはっきりと残っているが大雑把な特徴である。

 作品は、彼女が10代のときのある経験にインスパイアされている、というようなことがレーベルのプレス・リリースに書かれている。

 彼女は波打ち際に打ち上げられた帆船を見つけた。数日間、それは、そのまま取り残されていた。あるとき、彼女は父親と一緒に帆船に近づき、なかを見た。地図やコーヒーカップや衣類が散らばっていた。彼女は自分が目撃者として侵入することに後ろめたさを感じた。新聞を見ても、ことの真相を知る手がかりはなかった。とにかく、帆船は転覆することなく陸にたどり着いた。男はどうにかして、そこを抜け出した。結局のところ帆船も、乗り手のない馬のごとく、家に帰った......

 僕が聴いたときに思い浮かべたのは、たとえばこうだ。海が広がっている。空は暗い雲で覆われている。一艘の帆船が揺れている。それから、ずっと、雨のなか、穏やかな風のなか、揺れている。舵を握りながら、男は死んでいるが、帆船は生き物のように揺れている。海流に動かされ、風に押されながら、決して、岸に着けない。太陽が出たところで、帆船はただ揺れている、たとえ夜空が満天の星空であろうと......

 帆船のなかの男がどうして死んだのか、理由を探索することは、もはや重要ではないだろう。それがいかなる理由であれ、帆船のなかで男は死んでいるのだ。彼女に取材したとき、彼女は『A I A』の2枚のコンセプトについて話してくれたが、繰り返そう、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。しかし、もちろん、歌詞を分析しなくても、我々には痛みを感じる自由がある。音楽が、慰めのためにだけにあるものではないことを、グルーパーはまたしても教えてくれる。

 ところで、ザ・バグ(UKのベース系のプロデューサー)が、グルーパーをフィーチャーして新作を出すという話はその後、どうなったんでしょう? (後述:2014年の『Angels & Devils』にインガ・コープランドとともにフィーチャーされた)

野田 努