「!K7」と一致するもの

Sonarsound Tokyo - ele-king

もうかれこれ1ヶ月以上経ってしまいましたが...... 文:木津 毅

 ニュースでは嵐が来ると繰り返していたし、東京へ向かうバスは雨風で揺れまくっていたのでヤな予感しかしなかったが、それでも新木場に向かったら、同様にそれでも新木場に集まったひとたちがいて少しばかり安心する。今年は悪天候に見舞われた<ソナーサウンド・トーキョー>だがどうにか開催され、「アドヴァンスト・ミュージック」の祭典は水浸しの会場で始まった。さすがにひとは少なかったかもしれない、が、アクトレスが登場するフロアの期待をたしかに感じた僕は、すっかり景気のいい気分になり、1杯目のアルコールを口にする。


Actress

 ソナーについての放談で斎藤辰也が言っていた、「そのフェスだからいく、と思わせるような何か」が悪天候によって奇しくもテーマになっていたように思う。それでも新木場に集まったひとたちは何を持って帰っただろうか? ただ踊って発散したひともいただろうし、もちろんそれとてじゅうぶんに価値のあることだ。ただ、僕があの2日間を思い出したときにじわりと湧き上がるのは、「これから何かが始まるのかも」という予感のようなものだ。
 僕の記憶のなかのこれまでのライヴよりもBPMが落ち着いていたLFOの安定したプレイ、"LFO"が投下された瞬間のフロアの興奮も良かった。カール・ハイドが"ダーティ・エピック"をやったときのアンニュイさも感慨深かった。エイドリアン・シャーウッドのダブはさすがの貫禄で、そのずっしりとした低音に震えた。が、ニコラス・ジャーの思ったよりもヘヴィで迫力のあるバンド・セット(その分、これからの音源であの浮遊感がどうなるのかがちょっと不安でもある)や、ダークスターが何とか後半で辿り着いていたメランコックな高揚感(前半は演奏が噛み合ってなくて危うかった)や、プールサイドのトーフビーツに集まったキッズたちのちょっと遠慮がちなダンスと笑顔......をより鮮明に思い出す。サブマーズは"あげぽよ"どころかスムースでクールなダウンテンポ、ヒップホップだったし、アディソン・グルーヴのベースラインは思っていた以上に折衷的で面白かった。彼らははっきり言って、まだまだ途上中だという印象を残したが、しかしながら、それらが一堂に会することによって、そんな風に世界中に散らばった「アドヴァンスト・ミュージック」の可能性をたしかにフィジカルに感じられたのだ。たくさんのアクトのなかで僕が出会わなかった予感たちと、出会ったひとも当然いただろうと思うとなんとも落ち着かない。


Karl Hyde

 ちなみに僕のベスト・アクトは、迷うことなくアクトレスだ。ひどく抽象的なサウンドの隙間で意表をついて大胆に挿入される仕掛けや、断片的なループが出現しかけたかと思うと違うループが気がつくと背後で蠢いている、そんな風にクリシェを軽やかにかわす展開はスリルそのものだった。後半は思っていた以上にダンサブルなテクノへとなだれ込みそれもたまらなかったが、前半の繊細な音の配置と位相こそ、アクトレスがその日披露した「予感」だったように僕には思えた。

 ソナーは今年も、現在と、そこから続いていく未来を感じるためのグルーヴが胎動するイヴェントだった。結局丸々2日間大いに楽しんでしまった僕は気がつくと何度も酒を飲んでいたようで、膝に疲労と財布に侘しさを残したが、後悔も反省もとくにしていない。

文:木津 毅

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ずぶ濡れダンス 文:斎藤辰也

 初日の夜は大雨が会場に降り注がれたので、プールのあるテラス・ステージでは踊りながら天然シャワーで汗を流すことができた。屋内のバー・スペースからテラスをはさんで対岸の小屋でプレイするサファイア・スローズを観たとき、ロッカーにしまわないでおいたマウンテン・パーカーに鼓舞され、僕は天然シャワーのなかに文字どおり踊り出た。音量は控えめだったものの湿ったハウスのリズムがたしかに胸に響き、やわらかいシンセサイザーと深いリヴァーブにつつまれたサファイアの声が夜空を満たしてゆく。円柱型のストーブの火が消えてしまうたびに、暖まるつもりもないけども見知らぬひとと協力して火をつけた。プールは妖しく緑色にライトアップされており、泉をかこむ妖精のような気分のなか数人のオーディエンスとともに雨のなかを漂いながら踊った。
 僕はもっとみんなにテラスに出て踊ってほしかった。たしかに、終わったあとはずぶ濡れすぎて人にぶつからないように歩かなければならなかったが、踊っていれば服は乾くのだ。事実、そのあとも友人たちに遭遇しLFOやシャーウッド&ピンチで踊り明かしたので、ずぶ濡れだったズボンもさっぱり乾いた。

 ひとつ言わせてほしい。好き勝手に踊るのは、とても快いことだ。かつてゾンビーは言った――「1992年に、きみはどこにいた?」。当時まだ幼稚園にもいなかった僕にはいまになってレイヴがとても羨ましい。アンディ・ストットのライヴもその気持ちを強くさせるものだった。音楽の鳴るところで好き勝手に踊ること。それは音楽から「作品」としての額縁を外す(あるいは、額縁をつけない)楽しみ方でもあり、そこにいる他者おのおのの存在の発露を認めながらそのなかのひとりでいる自分をも同時に認める遊びであるように僕には感じられる。最近はそんなことを強く感じながら音楽の鳴る場所で踊っている。鳴っていなくても鳴らして踊っている。

 2日目の真昼。昨夜は大雨に見舞われていたテラス・ステージで、頭上には嵐と雨後のしらじらしい青空が拡がり、足元には飛びこみ禁止のプールが堂々と日光を浴びている。すっきりしないエセ・リゾート気分をトーフビーツ情報デスクVIRTUALのオープニング・ナンバーで解放させ(空には航空機が飛んでいた!)、以降もスクリューとトラップのビートで客の脚をふらつかせた。田中宗一郎にバトン・タッチする頃にはテラスも笑顔で溢れかえっていた。
 テント風の会場が似合うエキゾチックなングズングズ(Nguzunguzu)は、ラウンジ程度の音量の低さを考慮してか前半は4つ打ちの堅実なプレイに徹していたが、後半になると、ミステリアスなメロディに彩られた自作曲をはじめR&Bやサウス・スタイルのヒップホップでようやく弾けてくれた。しかし別の機会に体感した彼らのDJプレイは、レゲトンをプッシュしまくり、観衆をダンスへと積極的に鼓舞する爆発力があったし、それこそが彼らの本領といえるものだろう。ぜひこんどは音響の豊かなヴェニューでプレイしてほしい。

 そして、なにより僕が待ち望んだ時間がやってきた。夕焼けもどこかに潜み、あたりも暗くなった18時すぎ、ダークスター(Darkstar)がメイン・ステージに登壇し夜の帳を降ろした。ロンドンでの出会いから待つことちょうど2年。まさかほんとうに日本でしかもこんな大舞台で観れるとは思っていなかったので、おおきな拍手で迎えられる彼ら3人の姿に、胸と目頭があからさまに熱くなってしまう。ショーの間はずっと3人の黒い影だけが青い逆光のなか浮かぶ美しい演出が施され、ただ3人がそこにいること/そして音楽が演奏されていること――そのシンプルな情景が暗闇のなかにはっきりと立ち現れていた。
 新譜同様にきめ細かくたゆたうシンセ・ドローンでショーははじまったが、歪んだベース音やノイズが重ねられ、これがライヴであることが宣言された。すこしの静寂をおいて、調子の外れたギターがフェイドインし、"アルモニカ"のビートがフロアに響きわたる。つづいて、ジェイムス・バッタリーのすこしおどけた甘いヴォーカルがは歌いだす。ため息がでるほど美しい瞬間だった。
 前作『ノース』からは歌の目立つ3曲"ゴールド""デッドネス""ノース"が演奏されたものの、そのほかはすべて新譜『ニュース・フローム・ノーウェア』からの選曲で、しかし"タイムアウェイ"と"ア・デイズ・ペイ・フォー・ア・デイズ・ワーク"というプロモーションされた2曲は演奏されず、逆に"ヤング・ハーツ""ホールド・ミー・ダウン""ユー・ドント・ニード・ア・ウェザーマン"などアルバム後半のエレクトロニカ/インストゥルメンタルのテイストの深い、意外な展開を見せた。

 といっても、思い返せば意外だったというだけで、じっさいショーは滑らかに運ばれたし、途中ジェームス・バッタリーが「メイク・サム・ノ~イズ」と囁いておどけてみせたが、曲と曲のあいだの静寂さえ彼らの演奏だ。『ノース』と『ニュース・フローム・ノーウェア』はいま並べてみてもそのサウンドの違いに驚かされるが、ライヴではどちらの楽曲も違和感もなく自然につながれていて、それは静寂となによりジェイムス・バッタリーがもたらした成果であろう。歌うことは演じることだとバッタリーは本誌に語ってくれたが、彼の歌声は抒情的な脚色もなければエゴも感じさせない。白くてまっさらな役者である。バッタリーをダークスターというキャンパスの真ん中に据える(メンバーとして迎えた)ことで、ジェイムス・ヤングとエイデンは好きなように色(サウンド)を塗り変えて楽しむことができているというわけだ。そのことがよくわかる繊細だが力強いライヴだった。たのしそうに歌うバッタリーは愛らしくもあり魅力的で、歌唱力も以前よりレベル・アップしていた。なんの嫌みもない彼の存在は、バンドや会場の緊張をほどよくほぐしてくれる。ルックスも格好いい。
 音響が不十分だったこともあってかアンサンブルがちぐはぐになりかける場面も少なくなかったが、バンドの佇まいは2年前よりも堂々としたし、3人が各々で携えたサンプラーやキーボードやエフェクターの数も増え、ライヴをつよく意識した姿勢が印象的で、そのふくよかなサウンドの裏にバンドとしての意欲が燃えているのが感じられる熱い演奏だった。これまでライヴでの試行錯誤をつづけていたことをユーチューブなどで追いかけていたが、彼らはたしかに逞しく成長しているし、これからそのサウンドを塗りかえ続け、僕たちを驚かせる便りをくれるに違いない。〈フジロック〉に行かれるひとにはぜひダークスターを観てほしい。


Darkstar

 そして、〈ビートインク〉のスタッフさんのご厚意で、開演前の彼らにサウンドについて補足の質問をできました。以前のインタヴューではどこかぶっきらぼうな印象もあったかもしれませんが、対面した彼らの気さくさが伝わればこれ幸いです。エイデンはわざわざビールを運んできてくれました。通訳は岩崎香さんです。

ジェイムス・ヤング:ここに座りなよ。

ジェイムス・バッタリー:そうだよ、座ってリラックスしなよ。

ありがとうございます。(ビールを開けて)では、チアーズ。

全員:チアーズ。

J.バタッリー:日本語でなんていうの?

KANPAI(乾杯)と言います。

J.バタッリーんー! もういちど、乾杯!

ふふふ(笑)。『ele-king』にはすでに編集長によるインタヴューが載っているので、今回は補足的な質問をさせてください。ダークスターははじめ、ヤングとエイデンのふたりのユニットで、すこし風変りだったとはいえどダブステップのトラックを制作していましたね。もしダブステップを通っていなかったら、どんな音楽でデビューしていましたか?

J.ヤング:ダブステップという言葉は嫌いで、認めてはいないんだけど......、そうだね、はじめは、きっとヒップホップかな?

エイデン:グライムを作ってたよ。

J.ヤング:そうだね、MCたちのためにグライムのトラックを作っていたと思う。

その面影もないくらいにスタイルを刷新した新作『ニュース・フローム・ノーウェア』では、ハープシコードやチェロのようなトラディショナルな楽器が使われていますが、初めからそういう構想があったのですか?

エイデン:ハープシコードじゃなくて、アーモニウム(Armonium)なんだよ。

あ、ハーモニウムだったんですか(聞き間違える)。

J.バタッリー:ちがうちがう、アーモニウムだよ。ペダル・オルガン(ハーモニウム)じゃなくて。

J.ヤング:そうそう、アーモニウムっていうのは、プルルルルルルルルっていうやつ(手で筒が回るジェスチャーをしながら、唇を高速で震わせる)。

え(笑)?

エイデン:そうそうそう。

なるほど......、え、なんなんですか(笑)?

J.ヤング:(自分で堪えきれず失笑)ふふふふ......!

(一同、10秒爆笑)

J.バタッリー:本当は「テン、テンテン、テンテンテン」って弾く楽器だよ(笑)。

エイデン:そうそう。ペダル・オルガンもプルルルルルルルルっていうんだよ(笑)!

はい、よくわかりました(笑)。"アルモニカ"という曲名も楽器からなんですね。

※筆者註:英語/日本語圏での一般的な呼称はアルモニカ(Armonica)。

エイデン:真面目に答えると、たくさんの楽器がリチャード・フォンビーのスタジオにあったから、あるものすべてで遊んだんだ。クールなシンセサイザーに、オルガンとか、サーズ(saz)っていうトルコの楽器も使ったね。

もしそういった楽器がなかったら、どんなサウンドを作っていたのでしょうか?

J.ヤング:とてもシンセティックなものになっていたと思う。

J.バタッリー:リチャード・フォンビーと組むことにした理由のひとつには、彼が楽器をたくさん持ってるからというのもあるんだ。僕たちはすこしだけピアノやギターを持ってはいるけども。あと、レコーディングした邸宅にあったたくさんの家具も使ったよ。グラスの音もあれば、ドラムサウンドとして椅子をバンバン叩いたりもしてね。

ビーチ・ボーイズは『スマイル』で野菜をかじる音をパーカッションとして用いましたし、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』ではトイレット・ペーパーの芯の音も入っているらしいんですけど、そういうことを思い出すエピソードですね。そこで質問です。好きなビートルズのアルバムはなんですか?

J.バタッリー:『サージェント・ペパーズ』(即答)。それか『ホワイト・アルバム』。それと...『ア・ハード・デイズ・ナイト』が......(ずっと呟いている)。

エイデン:『リヴォルヴァー』も好きだな。

J.ヤング:"エリナー・リグビー"って『リヴォルヴァー』だっけ? たぶん『リヴォルヴァー』がいちばん好きだな。それか『アビー・ロード』。

なるほど。『ニュース~』では古いテープ・エコーの機材も使われているとのことですが、クラシカルな楽器の使用もふくめ、まさしく1967年頃のロック・バンドの実験的なレコーディングと似た感触がサウンドにあらわれています。やはりというか、初期よりも後期のビートルズのほうがお好きなんですね。

J.ヤング:お父さんは熱心なファンなんだけど、僕はそこまでファンじゃないんだ。でも、もちろんビートルズはことはとても評価しているよ。ずば抜けて実験的だから。

J.バタッリー:僕はファンだよ(服につけた『サージェントペパーズ』の色褪せた缶バッジを見せてくれる)。ビートルズのなによりも好きなところは、新しくて他とは違うものになるよう努めていたことだよ。だからこそ、彼らのようなサウンドを作る必要はないんだ。それが彼らの哲学でもあるわけだしね。

エイデン:『マジカル・ミステリー・ツアー』の映像はとても面白いよね。

みなさんは、おなじく熱心なビートルズ・ファンでジョージ・ハリスン推しであるゾンビーと仲が良いですよね。そこで質問です。「Where Were U in '92」?

J.ヤング:うん......、あ、僕がどこにいたかってことかな? ハイスクールがはじまったばかりだったよ。

J.バタッリー:フットボールをしたり、自転車をこいだり、軍隊みたいな秘密基地のようなものを樹のあいだに作ったりして遊んでいたよ。

レイヴには参加してなかったんですね。

エイデン:僕はレイヴしてたよ! 9才で、レイヴしてたんだ。

(一同爆笑)

えー、それは本当ですか!?

エイデン:ジョークだよ。煙草を吸ったり酒を飲んでたね。いや、これもジョーク(笑)。煙草を吸いだしたのは12才のときだね。

J.ヤング:12才......!

不良ですね。不良すぎる......(笑)。

(一同笑)

エイデン:だからもう禁煙したよ。煙草は吸わない(煙草を吸いながら)。

J.バタッリー:僕はいつでも吸ってるよ。毎日だ。よくないよね(笑)。いつの日かやめようと思うよ。癌で死んだときにやめるかな。

どうか死なないでくださいね。新作のタイトルは「どこでもないところからの便り」という意味ですが、じっさいみなさんは定住する家をきめていないと聞きました。それはなにか理由や目的があってのことなのでしょうか?

J.ヤング:そう、スーツ・ケースのなかに住んでるんだ。理由はすこしだけあって、基本的にツアーの事情とお金の事情だ。たとえばいまはこうして日本にいるけども、月末にはロンドンへ戻らなくてはいけかったりするから。

ということは、ロンドンが一応のホームではあるのですか?

J.ヤング:いや、僕にとってはそうでもないよ。

J.バタッリー:ロンドンは2番めのホームだな。僕にとってのホームは、ヨークシャー地方にあるリーズだよ。とはいえ、多くの友だちがいるし、ロンドンもホームのようなものだね。10年も住んだし。

エイデン:人生のほとんどをロンドンですごしたけどね。

J.バタッリー:いまはこうして日本にいる。東京で生活できるなんてナイスなことだよ。

それはなによりです。今回はわざわざ日本にきてくれてありがとうございました。

文:斎藤辰也

Josephine Foster & Victor Herrero - ele-king

 ブラッド・ラッシング――「血の轍」ではなく、「流れ」とでも訳せばいいのか、大地と系譜にねざした、というよりも、そこに忘れ去れたまま眠るものを手ずからこつこつ掘り起こすようなフリーフォーク(......なのか?)でじわじわと注目を集め、昨年われわれもつい何かとひきあいにだして悦にいる英『ザ・ワイヤー』誌の表紙も飾ったジョセフィン・フォスターの来日公演が渋谷〈WWW〉であった。生地・コロラドからスペインはアンダルシア州のカディスに移ったジョセフィンは、日本でも4月11日の神戸から、関西、北陸、中部とこまめにまわり、本日の東京公演が10本目である。私はうっかり今日と書いたが、ここでいう今日とは4月23日である。まだ寒さののこるころだ。風も強かったので厚手のパーカーが手放せない。会場には定刻についたが、みなさんそのような恰好をしていらっしゃる。会場には鳥の声のSEが流れていた。ほどなく、この日の共演者、灰野敬二がフィンランドの民族楽器、カンテラを手に姿を見せる。方形のボディに弦を張ったカンテラを懐に抱えこみつま弾く灰野の掛けた椅子の前には円形のテーブルがあり、その上にSGが置かれている。横倒しにたギターを通常の奏法ではなく演奏するテーブル・ギター、弾き語り、あるいは薄い金属製の円形の底部の外周を長さのちがう金属の棒がとりかこむ、鳥かごに似たウォーターフォン(底は空洞になっていて、そこに水を入れると音が変化する)など、多くのスタイルのなかかでも、身体と楽器の関係がより露わなアコースティックな手法を選んだのは、共演者であるジョセフィン・フォスターを慮ったものだったのだろう、灰野の演奏は断章的ではあったが、それ以上にこの後に続く彼女の音楽につながるいくつかの導線をこの空間にしるしづけるようだった。



写真:三田村亮

 ジョセフィン・フォスターの演目は『ブラッド・ラッシング』を中心に旧作をおりまぜたものだった。オペラの素養のある彼女の歌声はだからといってクラシック的なかたまったものではなく、高音で気持ちよくゆらぎ、言葉とぴったりと寄り添い、空間を満たすのではなく、居合わせた者の耳をそばだてさせる。ジョセフィンの作品に欠かすことのできない盟友、ヴィクトル・エレーロと、シカゴに渡り、彼の地でジョセフィンと親交をもったドラマー、田中徳崇にヴァイオリンからなる演奏陣は、ときに片足を踏み台に乗せてともするととつとつともくもくと進みがちな彼女の歌のアクセントになっていた。とくにフラメンコを独自に消化したヴィクトル・エレーロのガット・ギターは合奏にフォークロアのニュアンスをもたらし、彼がシューベルト、ブラームス、シューマン(『ア・ウルフ・イン・シープス・クロージング』)からエミリー・ディキンスン(『グラフィック・アズ・ア・スター』)、ガルシア・ロルカとラ・アルヘンチーナ(『アンダ・ジャレロ』)へと、枚数を重ねるごとに地面に近づいていく彼女の作品の伴奏(走)者であることをうかがわせる。その遍歴が『ブラッド・ラッシング』に受肉したことは"ウォーター・フォール""パノラマ・ワイド""ブラッド・ラッシング"などの収録曲を生で聴き改めてわかった。



写真:Kazuyuki Funaki

 曲の構造はシンプルで編曲が凝っているわけでもない。種々の意匠はあるけれどもささやかである。その声の特徴にも関わらず、アマチュアリズムにニアミスしそうな無名性への志向。それはフリーフォークの仮構されたフォークロアを元の位置に置き直そうとするかのようである。それで記名性が薄らぐわけではないが、何かの系譜の突端でいま新しく音楽を生み出す感覚がめばえる。それは伝統を確認するということではない。それなら土産物屋のワールド・ミュージックで十分だろう。あるいは同好の士に訴えるか。この日のジョセフィン・フォスターはどちらでもなかった。彼女にとっては比較的大きめな会場のせいもあっただろう。ここではカフェでお客さん数人で膝つき合わせて演るような近さは保てない。ムードに流されなければ、彼らの粗さもみえてくる。悪い意味ではない。私たちはつくりこまれていない音楽を聴きながら、音楽のつくりこまれていなささを意匠として聴くことをおぼえたが、それがなければ演奏は自身と他者と空間と歴史との即時的な対話とならざるを得ない。ロルカがスペインの古謡を採譜、編曲したように、あるいはデレク・ベイリーの『インプロヴィゼーション』(工作舎)におけるフラメンコのギター奏者、パコ・ペーニャとの対話を思わせるごとく。ほとんど即興のように。というと即興の定義を広げすぎだとおっしゃるかもしれないが、本編が終わったあと、灰野敬二をまじえて行ったアンコールでの演奏者が一体化するというより場を共有しながら交錯し合うようなセッションのゆらぎは、バサラ(灰野敬二、三上寛、石塚俊明によるバンド)を彷彿させた、と終演後、楽屋で灰野敬二にいうと、彼はすこし間を置いて、「それは褒め言葉だね」といった。



写真:Kazuyuki Funaki

The Flaming Lips - ele-king

 ロッキー・エリクソンの半生をかなり生々しく描いているらしいドキュメンタリー『YOU'RE GONNA MISS ME』にはずっと興味を引かれつつ、まだ見ていないし、これからも見ないほうがいいのかもしれない。精神病院を出たエリクソンが5つ以上のスピーカーからノイズを流しながらサングラスをかけたままテレビを観る場面の強烈さが相当らしく、「サイケデリック・その後」の人生に覗き見感覚で接することは......60年代の遺産の暗部にダイレクトに触れる覚悟がなければ許されないような気が僕はしている(そして、その覚悟はまだない)。ただ、だからこそエリクソンの場合、その人生を経た音楽作品、すなわちオッカーヴィル・リヴァーのサポートを得た復帰作『トゥルー・ラヴ・キャスト・アウト・オブ・イーヴル』のシンプルな力強さは胸の奥の柔らかいところを一瞬にして掴むものであったし、そしてまた、刑務所で録音されたというそのボロボロの音の弾き語りを聴く度にいまも、音楽から逆流して彼の人生に想いを馳せずにいられない。

 サイケとは言いつつ、2000年代以降の表面的なイメージとしてのザ・フレーミング・リップスは、大勢のヌイグルミを従えて夜毎楽しげな宴を繰り広げている愉快なバンドといったところだろう。もちろんその楽しさはウェイン・コインの実存主義的思想(「きみの知っているひとはみんな死ぬ」)に裏打ちされたものであるが、その哲学自体、バンドのドキュメンタリー『フィアレス・フリークス』によるとメンバーのスティーヴン・ドロゾがドラッグで死にかけた経験に基づいていることがわかる。30年前、ただのジャンクなサイケ・バンドとしてその後の可能性を感じさせずに登場した彼らは気がつけば、いくつかの最悪なバッド・トリップを経験しながら、多くのアメリカのインディ・バンドにとっての精神的支柱のような存在にまでなった......ブッ飛びながら、逸脱しながら、フラフラと表現活動を続けるモデルとして。
 だから、ザ・フレーミング・リップスはひとつのゴールを過ぎたバンドとして、抱かれたイメージと期待に応えながら楽しく活動し続けることだって選べたはずなのだ。が、彼らはそうしなかった。攻撃的で、実験的、ダークだった大作『エンブリオニック』の時点でたしかに新たな道を選んでいたし、先のコラボレーション・シリーズにしたって豪華なゲスト陣とは裏腹にマニアックめの内容だったが......この『ザ・テラー(恐怖)』に至っては、バンドのイメージをひっくり返し、その「楽しさ」に躍っていたファンすら遠ざけかねない不穏な一枚である。トリップはまだ途中、その最中。「サイケデリック・その後」にまでは辿り着いていない、そのエグさがドロリと流れ出ている。
 いくつかの曲において悪夢的で閉所感があり、またいくつかの曲においてスラッシーで強迫観念的、そして全編を通じてメランコリックで瞑想的。多くのひとに愛された『ソフト・ブレティン』や『ヨシミ・バトルズ・ザ・ピンク・ロボッツ』のポップさは解体され、切なく美しいメロディはしかし着地点を定めぬまま部屋の上のほうを漂うばかり。男女のエレクトロ・デュオであるファントグラムを招聘した"ユー・ラスト"に至っては、13分に渡って重々しい反復を繰り返しながらずぶずぶと沼に沈んでいき、そして抽象的なアンビエントで酩酊させて終わる。いくつかのダーク・アンビエントな作風やエレクトロニックな意匠は近年のUSアンダーグラウンドの潮流とも結果的にはシンクロしていると言えるし、実際OPN辺りと比較する向きもあるのだが、この驚くべき変化はきわめて内的な動機によって促されているように思える。
 ウェイン・コインが長年連れ添ったパートナーと別れたことが本作に大きく影響しているそうだが、そのことがここまで痛ましい表現を導いてしまうことに動揺する。僕にとってウェインは、あるいはフレーミング・リップスは、どちらかと言えばつねに自覚的で、ユーモラスで、強い存在だったからだ。だがここで彼は、"ザ・テラー"で「やっぱり、みんな孤独」と言いながらその次曲の"ユー・アー・アローン"で「僕はひとりじゃない/孤独なのはきみ」と口走ってしまう錯乱を隠さない。クラウト・ロックめいた反復と激しいビートが不安感を煽る"オールウェイズ・ゼア、イン・アワ・ハーツ"は、「いつも心にあるのは 暴力と死の恐怖/いつも心にあるのは 愛、そして苦痛」といつ告白から始まりつつも、どうにかして「生きる喜び、それが何ものにも勝る/何ものにも勝るんだ」となかば自分に言い聞かせるように終わっていく。
 ドリーミーな音だと形容できるのかもしれない、が、心地よいとは言えない。何かただならぬ狂気がこのアルバムにはあり、そこに踏み込むことこそがバンドにとっての、サイケデリアの新たな領域となっている。ザ・フレーミング・リップスは完成などしていなかった......ここで「恐れ知らずのフリークスたち」は、人生の苦痛と悲哀に震えながら酩酊することを選んだ。そう......恐れ知らずにも。

Djrum - ele-king

 インダストリアル系の暗いフィーリングを含みながら、甘美なソウル/ジャズがベース・ミュージックを通過したダウンテンポで再現されている。ということは、これは初期のポーティスヘッドやマッシヴ・アタックではないのか......と思いつつも、この手の音が好きな人間の気持ちを惑わせるものがDJラムのデビュー・アルバム『セヴン・ライズ』にはある。
 ダウンテンポという曖昧なサブジャンル名は、90年代当初はトリップホップと呼ばれていた。が、名前としてあまりにも評判が悪かったので、いつの間にかダウンテンポという実にいい加減な名前(アップテンポというサブジャンルはない)に置換されながらも、UKからその周辺諸国にあっという間に広がった。たしかにテンポを落としたダンス・ビートには、より多くのアイデアを組み込める。よってこのサブジャンルは、名前のいい加減さとは裏腹に、その後多くのマスターピースを生んでいる。

 ブリアルが登場したとき、やかましいリスナーは、こんなことはかつてマッシヴ・アタックがやっていたじゃないかと言った。ある意味ではその通りだが、初めて聴くに世代にしたら新鮮だったことだろう。DJラムの『セヴン・ライズ』にいたっては、セイバーズ・オブ・パラダイスの『ホーンティッド・ダンスホール』やナイトメアズ・オン・ワックスの『スモーカーズ・デライト』なんかも連想されるだろう。"Comos Los Cerdos"などはクルーダー&ドーフマイスターのダブステップ版だ。つまり、インダストリアルの側に侵入しながら、ヒップホップやソウル、ディープ・ハウスの側に留まっている。イラレヴェントに続くアンビエント・ベースの叙情詩だと言えよう。

 音楽を聴くときに、部屋を暗くして蝋燭に火をともすような年齢でもないが、どうも昔から僕はこの手の音楽に惹かれる。朝は早いし、夜更かしが好きなわけでもないのだが、メランコリックな音響に弱い。
 この4月は、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉が立て続けに新作を出したので、悪魔的な消費の欲望に駆られる自分を抑えるのに大変だった。ダークな恍惚に耽っている場合ではない、身をわきまえろ、そう言い聞かせながら台所の鍋に火を入れたものだ。
 『セヴン・ライズ』はサンプリングを基調とした音楽だが、ソースはつねに中古レコードにある。彼はレコード店をマメにまわって、掘って、探し続けているそうだ。ダウンテンポは、このような昔ながらのレアグルーヴ文化を継承しているジャンルでもある。サウンドから聞こえる温かさは、ネタの質というよりも、彼の音楽への関わり方からも来ているのだろう。明日の朝の起床時間など気にせず、心おきなく夜に耽りたい人に向いている。

NISENNENMONDAI - ele-king

 ノルウェーの〈スモールタウン・スーパーサウンド〉から作品を出したり、先日のソナーサウンド・トーキョーにも出演したり、海外にも多くのファンを持つ、女性3人による超クールなミニマル・ロック・バンド、「理工学系女子サウンド」代表、にせんねんもんだいの新作『N』が、彼女たち自身の〈美人レコード〉からリリースされる。
 そして、坂本慎太郎が主宰する〈zelone〉からは、新作の1曲+"appointmen"の新録ヴァージョンによる12インチのアナログ盤が出る。しかも、この、「理工学系女子サウンド」の裏方には、石原洋+中村宗一郎(ゆらゆら帝国~オウガ・ユー・アスホールでの仕事で知られる)がいる!
 6月2日には、アルバムの発売に先駆けて、渋谷の〈渋谷O-NEST 〉にてライヴもある。行きましょう。

■新作CD 『N』、7月2日(火)発売!

にせんねんもんだい
『N』
bijin records
曲目:
1. A
2. B-1
3. B-2 
価格: 1,800円 (税別)

■12inch vinyl:「NISENNENMONDAI EP」Produced by 石原洋

2013年夏発売予定
にせんねんもんだい
「NISENNENMONDAI EP」
zelone records
曲目: SIDE A: B-1 (You Ishihara Mix)
SIDE B: appointment (You Ishihara Mix)
価格: 1,200円 (税別)

■CD完成記念LIVE
6月2日 (sun)@渋谷O-NEST

■NISENNENMONDAI EUROPE TOUR 2013

JUNE 14 FR-Notre Dame de Monts@West Side Festival
JUNE 15 FR-Paris@Maroquinerie
JUNE 16 NL-Rotterdam@Worm
JUNE 17 BE-Kortrijk@De Kreun
JUNE 19 NL-Tilburg@013-Incubated night
JUNE 20 GER-Hamburg@Cloud Hills
JUNE 21 GER-Schiphorst HH@AVANT GARDE FESTIVAL
JUNE 22 GER-Berlin@Urban Spree
more info: nisennenmondai official HP: https://www.nisennenmondai.com/
official twitter: https://twitter.com/nisennenmondai0
official tumblr: https://nisennen.tumblr.com/

zelone records official HP:www.zelonerecords.com
official twitter: https://twitter.com/zelonerecords
official face book: https://www.facebook.com/zelonerecords


interview with Little Boots - ele-king


Little Boots
Nocturns

Hostess / On Repeat

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 観られる商売というのは、偏見との闘いでもある。このリトル・ブーツに向けられる偏見たるや、彼女の名を知る人の9割くらいに心当たりがあるのではないだろうか。筆者ももちろん例外ではなく、彼女について調べる前は「ニュー・ディスコ・シーンのお人形ディーヴァ」というくらいの、失敬な先入観を抱いていたのだから人のことは言えない。リトル・ブーツことヴィクトリア・ヒスケスは、そもそもはUKのダンス・ポップ・ユニット、デッド・ディスコでの活動からキャリアをスタートさせた。そののちホット・チップのジョー・ゴッダード・プロデュースによるシングル『スタック・オン・リピート』のクラブ・ヒットによって脚光を浴びるようになり、2009年のデビュー作『ハンズ』はゴールドディスクを獲得、世界レベルのヒット作となる。エレクトロ・ポップのスターとして、シーンの名だたるプロデューサーたちと仕事をする彼女は、しかし、その美しい容姿を前面に押し出すように売り出されたこともあり、一見アーティスティックなヴィジョンなどほとんど持ち合わせてはいないようにも錯覚された。デビュー・アルバムのジャケット・デザインなどを思い浮かべれば、それも無理からぬことと納得してもらえるのではないだろうか。「トーキョーはどう?」「スシ食った?」「ネイルかわいいじゃーん」というインタヴューに終わったらどうしよう......彼女について調べる前はそんなふうに思っていたことも事実だ。しかし、もちろん、まったくそんなことはなかった!

 質問中にも出てくるが、彼女には自分の演奏動画をビデオ・ブログのようにウェブにアップしていた時期がある。自室でのシンプルな弾き語りがメインだが、これらの映像を観れば、リトル・ブーツというアーティストが才能ある表現者であり歌い手であるということがよくわかるだろう。彼女がお人形などではなくて、クリエイティヴなモチヴェーションに溢れた人だということが伝わる。テノリオンを使いこなしたり、シンセばかりでなく新しいガジェット類に並々ならぬ関心を寄せているのも興味深い。それに加えて、頭の回転のはやい人だ。問いかけには非常に早口でよどみなく応対し、かつ明瞭な回答をくれた。勉強熱心で、さまざまな事柄について自身の意見をはっきりと持ってもいる。何より自分にとって音楽がどのようなものであり、これから何をしていきたいのか、どうするべきかということが、しっかりと見えている。今作はメジャーでの活動の反省から、自分自身が制作上の決定権を持てるようにレーベルまで興した。驚くべきバイタリティと信念だ。リトル・ブーツは、必ずやあなたの想像するリトル・ブーツの上を行く。まずはどうぞ、彼女の言葉をきいてみてほしい。

わたしにとっては、ダンス・ミュージックも歴史を理解しながら聴く対象だから、けっして子どもじみた態度ばかりで向かい合っているわけじゃない。100パーセント、オリジナルと同じものを作ることはできないけど、いい意味で昔をリサイクルしていまのかたちに出力することがすごく重要だと思う。

2009年、まさにニュー・ディスコやコズミック・ディスコがユース・カルチャーを席巻しているさなかに、象徴的に現れてきたアーティストのひとりがあなただったと思います。ご自身ではこのムーヴメントをどのように見ておられましたか?

ヴィクトリア:たしかにあのときは新しいカルチャーだったと思うんだけど、エレクトロとかと少し違って、ブレイクスルーしなかったジャンルって気がするかな。いまでもちゃんと走っていて、いいアーティストたちがたくさん生まれてるの。たとえばマジシャンとかトッド・テリエとか。こうやって持続してるのを見てると、ブレイクスルーしなかったのはいいことだったんじゃないかなって感じる。

なるほど。たとえばイタロ・ディスコとかバレアリックみたいなものも、きちんと再解釈されたからこそ長く生きれる力が生まれた、という面はあったかもしれないですよね。そうしたオリジナルの時代の音はどう思いますか?

ヴィクトリア:そういう古い音楽は自分にとっても大事だし、大好きなものなの。チージーな曲もあるけど、単純にとてもいいポップ・ソングが多いと思う。日本はどうかわからないけど、イギリスではディスコとかハウスにクロス・オーヴァーしているシーンがいまでもすごく盛んで、だから、こういうジャンルはなぜだか終わらないなって感じるわ。そんななかで今年はダフト・パンクも新作とともに戻ってくるし、ディスコ・フレンドリーな1年になるんじゃないかな。今朝も『ヴァイス』を読んでたら「この夏はディスコの夏か?」って見出しが出てて、すごくいま感じてることに共鳴してたから、やっぱり今年はディスコとかダンス・ミュージックが盛り上がると思う。

楽しみです。わたしの上司くらいの世代だと、それこそセカンド・サマー・オブ・ラヴなんかをリアルに経験していたりするわけですが、我々はそれを知らないでこの波に乗っているわけですよね。

ヴィクトリア:当時はきっと、ぜんぜん解釈が違ったんじゃないかな。その頃のシーンってゲイの人たちとか黒人とか、政治的なマイノリティの問題も多く含まれたものだったんだと思う。きっと、もっとずっと革新的なものだった。だからこそ自分は歴史についても学んでいるし、当時の状況を押さえながらディスコを吸収してるの。わたしにとっては、そういう頃の音って歴史を理解しながら聴く対象だから、けっして子どもじみた態度ばかりで向かい合っているわけじゃない。でもその世代の人たちは、いまのシーンにはちょっと違う感情を抱いているかもしれないわね。100パーセント、オリジナルと同じものを作ることはできないから、いい意味で昔をリサイクルしていまのかたちに出力することがすごく重要だと思う。

すごくポジティヴなご意見だと思います。歴史性もきちんと踏まえつつ、一方でいまのアーティストが雑食的であることもいいところだと思うんですが、プリンス・トーマスとかリンドストロームも、フュージョンが入ってたりとかしますよね。あなた自身には雑食的な部分を感じますか?

ヴィクトリア:ファースト・アルバムはエイティーズっぽいものにもろに影響を受けた作品だったと思うんだけど、2作めはひとつの時代を表現するアルバムではなくて、もっと大きくいろんなものを取り込みたいなって考えていたから、昔のディスコからハウス・ミュージック、モダンなダンス・ミュージックはほんとにいろいろ、トリップ・ホップまで入れたつもり。クラシックな音楽の上質なテイスティングができるアルバムにしたいと思ったの。いいアーティストってすごくいろんな音を聴いていることが多い。リンドストロームだってすごく聴いてると思う。自分もそうやっていろんな味を出せるようになりたいな。
 じつはリンドストロームとは共作をしたの。いつか何かのかたちで外に出そうと思ってるわ。

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メディアからの注目が高まってくると、レコード会社からの意向でなぜかレディ・ガガのプロデューサーと組むような流れになってしまって、いつのまにかわたし自身によるクリエイティヴ・コントロールを失うことになっていて......。だから、いまは最初に自分が立ってた場所、自分がやりたかったことに戻っているという気がするわ。


Little Boots
Nocturns

Hostess / On Repeat

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今作は〈DFA〉のティム・ゴールズワーシーやハーキュリーズ・アンド・ラブ・アフェアのアンディ・バトラーが参加してるということなんですが、彼らっていうのはどちらかというとインディ的なマインド・立ち位置で活躍している存在だと思います。なので、彼らを起用したことには、あなたがやりたいことをより自由にやれるようにという意図や、攻めのアルバムにしたいという気持ちがあったからではないかと感じるのですが、いかがでしょう?

ヴィクトリア:ほんとにそのとおりで、自分のやりたいことをもっと追求したかったし、すごく自由さを求めていたの。だから彼らとやることにした。最初に自分が音楽をやりはじめたときは、ホット・チップのジョー(・ゴッダード)と作ってたんだけど、メディアからの注目が高まってくると、レコード会社からの意向でなぜかレディ・ガガのプロデューサーと組むような流れになってしまって、いつのまにかわたし自身によるクリエイティヴ・コントロールを失うことになっていて......。だから、いまは最初に自分が立ってた場所、自分がやりたかったことに戻っているという気がするわ。

そもそもは、自宅での演奏を、ビデオ・ブログのように動画でアップするところからキャリアがはじまってますよね。いまのあなたもすごく輝いていると思いますが、わたしはその頃の動画もとても素敵だと思います。すごくD.I.Y.な......シンプルなシンセの弾き語りとか、ホット・チップのカヴァーなんかもテノリオンだけを使う、とてもミニマルなスタイルでしたよね。だけど、あなたがとっても表現力豊かなアーティストでありシンガーなんだなということが伝わるんですよ。あの頃というのは、やっぱりあなたにとってもひとつの原点として認識されているのでしょうか?

ヴィクトリア:そう、ほんとに自分のルーツだと思ってる。自分でも大切な場所。だけどいまそこに戻れるかというと、戻れるわけではないわ。失ってしまったものもいろいろとあるから。まさにそのD.I.Yな精神を取り戻すために自分でレーベルを作ったり、いまみたいな活動をしているんだけど、前回のレコード会社に入ったときにはほんとにコマーシャルなキャラクターにさせられてしまって。それに、当時、名もない女の子がパジャマでああいう動画をアップしてたのはおもしろかったかもしれないけど、もう名の知れてしまった自分がまたあれをやっても楽しんでもらえないと思うしね。だから戻れない場所ではあるけど、大事な場所、そんなとこかな。

よくわかる気がします。音楽産業にとってはCDやレコードの販売枚数も大切だと思うんですが、音楽それ自体にとっては、こういうインターネットを舞台にした投稿動画文化が照らし出していく新しいリアリティだったり、うねりだったりというものがとても大きな影響をもたらしていると思います。こうした動きについてお考えがありますか?

ヴィクトリア:いまはイギリスの音楽業界も、自分がデビューしたときと比較しても全然違う世界になっているかな。でも、だからこそ自由度が生まれてきていて、新しいかたちで何かを表現したり届けたりしなければいけないという精神が強くなってきている気もする。自分自身もそんななかで自由にクリエイティヴィティを発揮できるようになったし、どうやったらみんなにおもしろいものが届けられるのかって考えるようになったわ。いろんなかたちで表現できるようになったし、そうした行為に対してもいろんな数字が関係してくるとは思うけど、そういうことを抜きにして人々におもしろいものを届ける、それがすごく重要なことじゃないかなと思ってる。

うーん、なるほど。先ほど、自分がいかにコマーシャルにキャラづけされてしまったかというお話をされてましたが、まさにこれまで流通してきたあなたのヴィジュアル・イメージなどからは、あなたがとてもしっかりと自分のやるべきことについて自覚した、自立したアーティストなのだということが伝わりにくい気がしますね。だから今日はお話がきけてほんとによかったです。

ヴィクトリア:ドウモアリガトウ。そうなの、わたしのイメージということに関してもまったく異論はないわ。

ふふふ。じゃあもうちょっと時間があるのでアルバムの話に戻りたいんですが、たとえば"ビート・ビート"とかはすごくファンキーなソウル・ナンバーで、先ほどおっしゃっていたようにいろんな音楽性が取り込まれている。音楽的な幅も広がっているし、アダルトな、まさにタイトル通りに「夜の」感じがあるんですけれども、音のコンセプトの傍らには、ファッション的なコンセプトもあったりしたんですか?

ヴィクトリア:ファッションと音楽はわたしのなかでは重要な結びつきをしていることは確かね。ただ、どんな場合でも音楽が先。音楽があって、ジャケットのアートワークや、ステージで着るものなんかが決まっていくの。この曲の自分のなかのヴィジュアル・イメージとしては、LAで――昔のね――女の子がローラー・スケートをしている感じだった。

なるほど。イクイップメントについてはどうでしょう? 動画だとお部屋にJUNOとか置かれてるのが映ってますし、先ほどのテノリオンやコルグのモノトロンなど、シンセ好きで新しいインターフェイスにもとても興味を持たれている様子がうかがわれますね。最近気になっているものとか、今回とくにこだわって使用したものなどがあったら教えてください。

ヴィクトリア:日本でいま開発中の「ポコポコ」っていう機材があって、首都大学東京の生徒さんが作ってるんだけど、それがとってもおもしろいの。1年前ぐらいから彼らとやりとりしているんだけど、それをライヴで使えるようにいろいろ試してるところ。昨日も彼らと会っていて。ボタンがいくつかあって、そのボタンが3Dで浮き出てくるんだけど......(携帯で撮った映像を見せてくれる※)、それぞれが光ってね、このボタンで音のプログラミングができるの。見てて楽しい機材ね! ただ、開発段階だからライヴには使えない。ライヴに持っていける日が楽しみだな。日本は機材面ででもつながりが深くて、日本のほうでもわたしがこういうアーティストだということを知っていてくれるから、ほんとに話や雰囲気が合うの。ポコポコを通して、また新しい音を皆さんに届けたいと思っています。

※パッドのついたサンプラーの、パッド部分が3Dで飛び出すようなイメージでした。ごく3秒ほどの記憶ですが......。

では最後に、そんな日本について。ダンス・ミュージックにはとても人気がありますが、日本人は比較的踊らないとか、クラブに行ってもDJばっかり見ているとか言われたりもします。何を隠そうわたし自身がその筆頭かもしれないのですが、クラブで踊るためのアドヴァイスをいただけませんか?

ヴィクトリア:あはは! そうね、クラブに行く前にすっごくきついお酒を飲むこと(笑)。まあそれはジョークだけど、クラブ・カルチャーについて言うと、クラブに行く時間っていうのは、仕事もしていない自分の時間、楽しむべき時間だと思う。その場所と音楽に身をゆだねること。もちろん、そのためにはいい音楽といいDJである必要があるんだけど! 今回のわたしのアルバムは、クラブでかけるだけじゃなくて、パーソナルな時間帯に浸ってもらうこともできる作品になっていると思うからそんなふうにも楽しんでくださいね。

Chart - JET SET 2013.05.13 - ele-king

Shop Chart


1

!!! - Thr!!!er (Warp)
2010年の『Strange weather, isn't it?』に続く約3年ぶり通算5枚目のフル・アルバム。これまでになくタイトでポップな仕上がりとなった会心作!!

2

J Dilla - Lost Tapes, Reels + More (Mahogani Music)
ローカル・レベルでMoodymannやAndres、Amp Fiddlerあたりとも強く結び付いていた事は周知の事実ですが、その関係もあってか今回もMahoganiからのリリース。今回もアナログ・オンリーとの事!

3

Vampire Weekend - Modern Vampires Of The City (Xl)
2010年の『Contra』に続く3枚目のフル・アルバム!!Us/Xl盤アナログ、ダウンロード・コード封入!!

4

Factory Floor & Peter Gordon - Beachcombing / C Side (Optimo Music)
70年代後期のNy地下シーンで活躍、DfaからのEpリリースも記憶に新しい御大Peter Gordonとのコラボレートを展開したUk気鋭トリオFactory Floorによる話題の最新Ep!!

5

Bibio - Silver Wilkinson (Warp)
2011年の『Mind Bokeh』以来となる4枚目のフル・アルバム!!今回もUk/Warpからのリリース。ダウンロード・コード封入です。

6

Yatha Bhuta Jazz Combo - S.t. (All City)
ごぞんじ大人気クリエイターOnraと、その友人で、Roy Ayersのカヴァーでその名を広めたBuddy Sativaが組んだ話題必至のユニットがアルバム・リリース!!

7

Rsd - Perfect Timing (Zamzam Sounds)
Ukダブ・マスターたちとエレクトロニック・ニューダブ勢の音源を並列にリリースするUs重要レーベルZamzam Soundsから、Smith & Mightyの片割れRob Smithが登場です!!

8

Coyote Clean Up - 2 Hot 2 Wait (100% Silk)
デトロイト在住のクリエイター、Christian Jay Sienkiewiczによるソロ・プロジェクト、Coyote Clean Upのファースト・フル・アルバム!!

9

Roger Eno / Plumbline - Endless City / Concrete Garden (Hydrogen Dukebox)
ごぞんじBrian Enoの弟Roger EnoとPlumblineによる、2006年以来となる久々のコラボ作が限定アナログ・リリース

10

Phoenix - Bankrupt! (Glassnote)
説明不要のフレンチ・ロック最高峰4ピース。グラミーを獲得した2009年の『Wolfgang Amadeus Phoenix』以来となる、全世界注目のニュー・アルバム!!

Robedoor - ele-king

 ローブドアのアクトを初めて観た日の記憶は決して忘れることなどできまい。

 ローブドアは〈ノット・ノット・ファン〉主宰としてして知られるブリット・ブラウンがレーベル発足と同時にアレックス・ブラウンとともに活動をはじめたデュオだ。(ちなみに彼らは兄弟ではない。たまたまふたりともブラウン姓というだけである。)あらゆるフォーマットで膨大な量のリリースを積み重ねてきた彼らの(改めて「ディスコグス」を見ると本当に驚くべき軌跡だ。)サウンドは結成から現在まで首尾一貫してブリットのヴィジョンを、彼に言わせるところの「Caveman's Rock(洞穴人のロックとでも訳すべきであろうか......)」を具現化することにある。

 初期の彼等のサウンドは2000年代を象徴するサンの贖罪とも言える「僕もわたしも演奏はできないけどこれならできるかも!? ドローン・ミュージック」......的ムーヴメントの影響下にあったことは否定できないものの、ブリットが持つ世界観の特徴のひとつである非常にドライな虚無感がそれを単なるエクストリームな表現に終わらせないものに仕上げている。

 2007年に発表された『ランカー・キーパー』(〈リリース・ザ・バッツ〉)と2008年の『エンドレスリー・ブレイジング』(〈ウッジスト〉)は初期のデュオ編成での作品群のなかでもアカ抜けたセンスの光る2枚だ。

 話は再びあの晩に遡る。そう、初めて観るローブドアのアクトに僕は完全に消し飛ばされた。それは久々に感じる芸術行為がもたらす最高の恍惚状態。いわゆる自分が誰で何処にいて何をしているのかが認識できなくなる文字通りのアレだ。サイケ・クラウト、ラーガ・フォークロア、Dビート・クラスト、インダストリアル・ノイズ、ドゥーム・マントラ等々、いくら自分の好物だからといってそれを全部一皿に盛りつけたら普通は激不味になるのがセオリーだが、彼等のサウンドは初めて体験するそれらの奇跡の共存であった。

 ゲド・ゲングラスを新たなメンバーとして迎え入れたことはローブドアにとって大きなターニング・ポイントとなった。トリオ編成として発表した音源『レイダーズEP』(2009年)、『バーナーズLP』(2010年)、『ペイガン・ドラッグスEP』(2009年)はどれも後にマジで死ぬほど聴いた。人工の楽園であるLAに巣食う闇(例えばのマンソン・ファミリーからポール・シンメルのヘルター・スケルター展までに連続する暗黒LA史をイメージして頂きたい)をテーマにしたソング・ライティングや象徴的な言葉選びの退廃的なリリックも秀逸だ。

 その晩の彼等のライヴ・セットは当時リリース間近であった『バーナーズ』からの選曲であったと記憶している。プリミティヴなビートのなかにもダビーなグルーヴを含むゲドのドラミングはブレイクごとに振り上げるスティックとともに僕の魂を高揚させ、アレックスのクソ・カシオ・キーボードと安物ペダルが紡ぎ上げる在り得ないハーモニーはSunn O)))Beta Leadアンプのコーンをブッ飛ばさん限りの音波となり僕の全身の血液を逆流させ、そしてブリットの情熱的なギターと呪術的なヴォーカルが僕の脳髄を麻痺させた。前年からの精力的なツアーを経た彼等はバンドとして最も熟した状態にあったことに間違いはない。

 2011年に発表した『トゥー・ドーン・トゥ・ダイ』でこれらのサウンド・スタイルはひとつの完成を迎える。クソッタレ・ロス市警の乱入で惜しくも対バンできなかったこの年(......というか日本で考えれば夜中に民家の点在する丘の上のスケート・パークで無許可かつ超爆音でパーティを催していれば当然なわけで......その辺りがLAクオリティー)も彼らは圧倒的なパフォーマンスを披露してくれた。大曲"パラレル・ワンダラー"のライヴ・セットはレコーディングを遥かに凌ぐ完成度であったことをここに明記しておこう。また、この頃から彼等は新たなサウンド・スタイルの模索を開始する。同時期にゲドの家のポーチを寝床にしていた僕は、彼等が毎週バカバカしいほどの機材を机に並べ、暗闇でキャンドルを灯し、ワイン瓶とジョイントを廻しながら試行錯誤するなかにコッソリと紛れ込み、儀式的様相を呈する彼等の模索を存分に満喫していた。ブリットのヴィジョンである「ケイヴマンズ・ロック」はよりサイファイ色を帯び、嗜好はインダストリアルに傾倒しはじめていた。僕はこの素晴らしいトリオが新たなフェイズに移行していくのを非常に楽しみにしていた......が、残念ながら同年ゲドはローブドアを脱退することとなる。

 昨年の夏頃、僕はブリットに「多分近々LAに行くのでそっちでくさ代を賄うためにローブドアのテープを作らせてくんろ。それが駄目ならせめて最近の〈NNF〉のレコードの間にあしっどを挟んでこっちに送ってくれたまえ」......というような旨を伝え、半ば脅迫でゲットした音源を聴きながら白熱していた。再びデュオ編成となったローブドアの新境地は僕の予想を遥かに越えていた。凄まじく土臭いマシン・ビート、ブレることのないヴィジョン、衰えるどころか増していくネガティヴィティー......その後のLAでの対バンではメタル・パーカッションとマシン・ビートを大々的にフィーチャーした新たに獲得したバンド・フォームを披露してくれた。

 この度、三田氏が大絶賛するカンクンのリリースが記憶に新しいフランスの〈ハンズ・イン・ザ・ダーク〉よりドロップされたこの『プライマル・スフィア』には彼等が昨年から築き上げた新生デュオ・ローブドアとしてのトラックが収録されている。彼等の新たなサウンドを耳にする度に高まるミュージシャン、ブリット・ブラウンへの尊敬の念。それはヒップなレコード・レーベルのオーナーとしての彼とは完全に断絶していると言っても過言ではない。もちろん、インダストリアルというタームにおいては(なんせ紙エレキングで声高に言っちゃってるからね......)今日的な風潮を感じ取れる作風かもしれない。しかしながら僕は彼ほど自身のヴィジョンをストイックに追い続ける、いや、もとい、自身の「洞窟」を掘り下げるアーティストを他に知らない。

 おそらくこの音源も含め、ローブドアが大々的なブレイクを遂げることはないであろう。何故ならばその「洞窟」の深い闇のなかには日の光など届く筈はない。しかし勇気があるなら松明の明かりを頼りにひたすら下っていくといい。道はひとつだから迷うことはないだろう。気がつけば天にはこの世のものではない星空が輝き、その先にふたりがあなたを待っているだろう。

Jake Bugg - ele-king

 僕は酔っていたが、ステージの彼は醒めていた。未成年だから飲むわけにはいかないにしても、フロアの興奮と熱狂に対して、ジェイク・バグは始終、理性的だった。デビュー・アルバムのジャケの写真の、力のある眼差しのように、彼はしゃんとして歌った。はしゃいでもいないし、乱れることもなかった。イキがってもいなければ、自分を大きく見せようともしなかった。うつろでもなく、泣いてもいなければ、ドリーミーでもなかった。
 ジェイク・バグは、そういう意味では、季節に酔って登場した、歴史的なロック・バンドたちとは違う。

 そして、僕は、とにかく、この感動的な夜を終えて、無意識だったにせよ、なんだかんだと言いながら、自分やいろいろな物事が、いかに311というトラウマから逃れたがっていたのかについて、あるいはロマンティックな抵抗について、思いを馳せていた。これはまったく予想外の展開だった。大災害が起きたあとなので、無理もないと言えば無理もないのだろうが、ジェイク・バグの迷いのない音楽を聴いたあとでは、そんなところにまで思いが広がった(結局のところ、マイブラがバカ受けしたのも、チルウェイヴもジェイムズ・ブレイクも、みんな似たようなものだろう......ネガティヴな意味ではない、ひとつの認識だ)。
 それほど久しぶりに、浮つくことのない、足下をしっかり見ている、自分を見失わない音楽、というものと直面したような気がする。

 僕はいまでもドリーミーな音楽を好む。悪夢のトリップはごめんだが、手のひらを返してサイケデリックを否定するつもりはない。色のついた液体も飲んでいる。ドリーミーな抵抗精神を忘れるつもりなども毛頭ない。が、しかしこの晩は、ドリーミーではないことの素晴らしさ、しらふの快感、現実を生きることの悦びを噛みしめた。ベンゲルではなく、ファーガソン監督の素晴らしさを思った。金や時間や健康や体力や記憶や視力や......いろいろなものを失っても、さまざまな思いを飲み込みながら、今日もまた灰色の1日を生きることの、バランスを失わないことの深い意味に思いを巡らせたのである。三上寛と話したときのことを思い出す。

 ジェイク・バグには、ひとりのギター弾きとして、ひとりの歌手として、僕なんかが思っていたよりもずっと素晴らしいスキルがあった。はっきり言って、うまい。間違いなく、一生懸命に練習しているのだろう。そして、アンコールの"ブロークン"はブリリアント過ぎた。それでも、フロアがロックンロールに酔って、熱狂の度合いをどんどん上昇させようとも、彼はギターを替えても演奏のテンションは変えなかった。
 熱狂でも興奮でも陶酔でも過剰でもない。まどろんでもいなければ、ハードコアでもない。もっと、より根源的なもの、シラフの良さ、平温で歌われる"トゥ・フィンガーズ"、最後に歌った平温そのものの"ライトニング・ボルト"のような逆説的な高揚が、きっといま必要なのだ。なんだか妙な感動の仕方をしてしまった。ニヤつきのない、大人びた若い青年の音楽に。(彼は1994年2月生まれである)

interview with Still Corners (Greg Hughes) - ele-king


Still Corners
Strange Pleasures

Sub Pop / Traffic

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 跳ねない。それがスティル・コーナーズのひとつの特徴だ。リズム、旋律、パフォーマンス、そして心も。急激な動きを嫌うように、テッサのウィスパー・ヴォイスはリヴァービーに烟るグレッグの音の底へとゆっくり沈んでいく。この感覚をどこかで知っているなと思う。気怠く、物憂く、蘭の匂いが立ち込めている――

 スティル・コーナーズの音楽は、ステレオラブやブロードキャストなどによく比較されているが、そこにサウンド・キャリアーズやコットン・ジョーンズ、ビーチ・ハウスなどを補助線として引くと、彼らのなかのコズミックな感覚やクラウトロック志向のわきに、スモール・タウン・ミュージック的な、フォーキーで温もりあるUSインディ・ポップの系譜、そしてそれらをつなぐように新旧のシューゲイズ・バンドの姿などが浮かび上がってくる。さらに当人らが影響源だとあかすジョルジオ・モロダーを加えれば、ばっちりとスティル・コーナーズの肖像が立ち上がるだろう。成熟と耽美と、わずかな瑞々しさからなるドリーミー・ディスコ・ポップ。〈メキシカン・サマー〉も〈4AD〉も、エメラルズも〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉も存在する後期2000年代の座標軸の上で、彼らの音はにぶく輝いている。現実を離って遠くへ行くための、しかし人肌の記憶は捨てきれないというような、「誰ぞ彼」=たそがれ時の青い時間が立ち上がってくる。

 2011年、ロンドンで活動するこの4人組は『クリーチャーズ・オブ・アン・アワー』というフル・アルバムでデビューした。そのころのビビッドな存在感は、時とトレンドの推移とともに少しくすんだようにも思える。だが、セカンド・アルバムとなる今作『ストレンジ・プレジャーズ』では、グッと作家性を上げてきた。詞の上質なヤンデレ感もより強度を増し、サウンドはリッチに、クリアに。もともと持っていた世界観をよく磨いている。文脈や時代性に依らず純粋に作品を眺めるならば、間違いなく本作のほうがいい。傍目には地味な変化かもしれないが、艶の出た各楽曲をわれわれは長く愛でていくことができるだろう。

"ベルリン・ラヴァーズ"なんか5分くらいで作って、テッサと僕なんかその曲を作り終わったら部屋中でダンスしはじめちゃったりしたんだからね!(グレッグ・ヒューズ)

『ファイヤーファイルズ』(シングル)のアート・ワークはまさに60'sのサイケデリック・バンドの諸作品を彷彿とさせるものでしたが、音の方はというとレトロなシンセ・ポップやインダストリアル的ですらあるビートが参照されていて、前作と今作の特徴や差異をくっきりとあぶり出すように思いました。実際のところ、このシングルはどんな作品だと認識していますか?

グレッグ:数年前にスコット・キャンベルに会ったんだけど、僕らは彼の作品に一発で惚れ込んじゃって、それから僕らのカヴァーをやってもらいはじめたんだ。彼にこの曲を送って「ここから感じるものを表現して!」って言ったんだよ。思うに、この歌のカラフルなヴァイブスをうまく捉えてるよね。
"ファイヤーファイルズ"はこのアルバムの他の曲と同様に前作『クリーチャーズ・オヴ・アワー』以降に書いた曲なんだけど、以前のものよりポップで視野が広がった感じで、でもみんなで話しあったりして狙って作ったものじゃないんだよ。そんな感じにはしたくなかったし、自然に生まれてきたまんまだね。

とてもリズム・コンシャスなアルバムだと感じました。しかし、ダンス・アルバムにしたという意識はありました?

グレッグ:そうだね、僕らは踊るのが好きだし、僕がいきなりいろんなビート素材をたくさん作って、そこから曲を作ったりするんだ。"ベルリン・ラヴァーズ"なんか5分くらいで作って、テッサと僕なんかその曲を作り終わったら部屋中でダンスしはじめちゃったりしたんだからね!

ゲート・リヴァーブのようなエフェクトをめいっぱい効かせたりと、80'sっぽいサウンドを参照するのはなぜなのでしょう?

グレッグ:好きなリヴァーブを使ってるってだけだと思うよ。べつにそれが特別なサウンドだと思わないし、好きで選んでるからそれについての理由なんて考えたりもしないし。実際にアルバムで使ってるリヴァーブは、すべてサウンド的に厚みのあるプレート・リバーブだね。僕的にはほんとに全部、リヴァーブだらけにしちゃいたいくらいだから、今回それにかなり近い感じにできたね。

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僕らのサウンドは「ドリーミー」というよりは「ムーディー」と言った方が正確かもしれない。「ドリーミー」って僕的にいうとソフトでやんわりとした感じ、ほかにもチルアウト的な意味合いが強いし。(グレッグ・ヒューズ)


Still Corners
Strange Pleasures

Sub Pop / Traffic

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今作も男女の恋愛関係が繊細な感覚でシネマティックに描かれています。ですが前作が手に入らない愛を求めるような作品だったとすれば、今作は愛を失うことをおそれる作品という対称があるように思われました。あなたがたの場合、詞作は音に大きく影響を及ぼしたりするのですか?

グレッグ:素晴らしい質問だね! 前作は手の届かない愛について、今作は愛を失いたくない思い、どちらの解釈も正しいよ。メロディと歌詞は相互に絡み合ってお互いを映し出し、聴く人々を惹きつける輝きを放ちながら、雰囲気やヴァイブスをいっしょになって作り出していくものだと思ってる。

"ビギニング・トゥ・ブルー"という曲がありますが、あなたがたの音はまさに「ブルー」ではなく「ビギニング・トゥ・ブルー」だと思います。ご自身たちではどう感じますか?

グレッグ:僕にとってこの歌は、現在の関係性が以前のものとはまったく違うことを悟ってしまう瞬間みたいなものを歌ったもので、それってかなり哀しい感じだよね。だから僕は今回「ブルー」を「ブルーになる」という意味で使ったんだ。たぶんこれはマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』からとったんだと思う。マイルスが自分のレコードにどんなタイトルをつけるか悩んでたときにバンド・メンバーのひとりが「ブルーっぽい(kind of blue)感じのサウンドだよね」と言ったって話を読んで、メランコリックな雰囲気がそのアルバムには漂ってるし、その表現は間違いないって思ったよ。

今作のコンセプトやモチーフは自然に生まれてきたものなのですか? 今作までのあいだにとくにハマっていた音楽や作品などがあれば教えてください。

グレッグ:「コンセプトを持ってない」ってことがこのアルバムのコンセプトかな。その方がアルバムが楽しくなるし。僕がまず曲を上げてテッサがそれに手を入れたり歌を被せたりしながら、メンバーで新しいアイデアがないかを出し合うんだ。よさげなアイデアを誰かが出したらそれをもうちょっと詰めてく、みたいな。もしかしたら今回はいつもよりちょっとだけ荘厳な感じを目指したのかもしれないね。

リヴァービーな音作りはあなたがたの音楽性の重要な部分を占めていますが、それはドリーミーと呼ばれるゆえんでもあると思います。どのくらい「ドリーミー」ということを意識されていますか?

グレッグ:僕らのサウンドは「ドリーミー」というよりは「ムーディー」と言った方が正確かもしれない。「ドリーミー」って僕的にいうとソフトでやんわりとした感じ、ほかにもチルアウト的な意味合いが強いし。僕らの曲みんながそんな感じだとは思ってないけど。もちろん、僕が曲を書いたからってその曲のことをいちばん知ってるってわけじゃないしね。

ステレオラブやブロードキャスト、またビーチ・ハウスらと比較されるのはどのように感じますか?

グレッグ:それはすごいね、どのバンドもすごく好きだよ。それに加えてカン、ジョルジオ・モロダー、それにモリコーネなんかもそのなかにいれてもらえたら、ね。

テッサには何かロール・モデルとなるような歌い手がいますか?

テッサ:ジョニ・ミッチェル、エリザベス・フレイザーそれにケイト・ブッシュはもうずっと好きだわ。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの新作はどう思いましたか?

テッサ:すごく好きだよ。前作につづいて素晴らしいよね!

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