Home > Interviews > interview with Still Corners (Greg Hughes) - 青い時間のはじまり
Still Corners Strange Pleasures Sub Pop / Traffic |
跳ねない。それがスティル・コーナーズのひとつの特徴だ。リズム、旋律、パフォーマンス、そして心も。急激な動きを嫌うように、テッサのウィスパー・ヴォイスはリヴァービーに烟るグレッグの音の底へとゆっくり沈んでいく。この感覚をどこかで知っているなと思う。気怠く、物憂く、蘭の匂いが立ち込めている――
スティル・コーナーズの音楽は、ステレオラブやブロードキャストなどによく比較されているが、そこにサウンド・キャリアーズやコットン・ジョーンズ、ビーチ・ハウスなどを補助線として引くと、彼らのなかのコズミックな感覚やクラウトロック志向のわきに、スモール・タウン・ミュージック的な、フォーキーで温もりあるUSインディ・ポップの系譜、そしてそれらをつなぐように新旧のシューゲイズ・バンドの姿などが浮かび上がってくる。さらに当人らが影響源だとあかすジョルジオ・モロダーを加えれば、ばっちりとスティル・コーナーズの肖像が立ち上がるだろう。成熟と耽美と、わずかな瑞々しさからなるドリーミー・ディスコ・ポップ。〈メキシカン・サマー〉も〈4AD〉も、エメラルズも〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉も存在する後期2000年代の座標軸の上で、彼らの音はにぶく輝いている。現実を離って遠くへ行くための、しかし人肌の記憶は捨てきれないというような、「誰ぞ彼」=たそがれ時の青い時間が立ち上がってくる。
2011年、ロンドンで活動するこの4人組は『クリーチャーズ・オブ・アン・アワー』というフル・アルバムでデビューした。そのころのビビッドな存在感は、時とトレンドの推移とともに少しくすんだようにも思える。だが、セカンド・アルバムとなる今作『ストレンジ・プレジャーズ』では、グッと作家性を上げてきた。詞の上質なヤンデレ感もより強度を増し、サウンドはリッチに、クリアに。もともと持っていた世界観をよく磨いている。文脈や時代性に依らず純粋に作品を眺めるならば、間違いなく本作のほうがいい。傍目には地味な変化かもしれないが、艶の出た各楽曲をわれわれは長く愛でていくことができるだろう。
"ベルリン・ラヴァーズ"なんか5分くらいで作って、テッサと僕なんかその曲を作り終わったら部屋中でダンスしはじめちゃったりしたんだからね!(グレッグ・ヒューズ)
■『ファイヤーファイルズ』(シングル)のアート・ワークはまさに60'sのサイケデリック・バンドの諸作品を彷彿とさせるものでしたが、音の方はというとレトロなシンセ・ポップやインダストリアル的ですらあるビートが参照されていて、前作と今作の特徴や差異をくっきりとあぶり出すように思いました。実際のところ、このシングルはどんな作品だと認識していますか?
グレッグ:数年前にスコット・キャンベルに会ったんだけど、僕らは彼の作品に一発で惚れ込んじゃって、それから僕らのカヴァーをやってもらいはじめたんだ。彼にこの曲を送って「ここから感じるものを表現して!」って言ったんだよ。思うに、この歌のカラフルなヴァイブスをうまく捉えてるよね。
"ファイヤーファイルズ"はこのアルバムの他の曲と同様に前作『クリーチャーズ・オヴ・アワー』以降に書いた曲なんだけど、以前のものよりポップで視野が広がった感じで、でもみんなで話しあったりして狙って作ったものじゃないんだよ。そんな感じにはしたくなかったし、自然に生まれてきたまんまだね。
■とてもリズム・コンシャスなアルバムだと感じました。しかし、ダンス・アルバムにしたという意識はありました?
グレッグ:そうだね、僕らは踊るのが好きだし、僕がいきなりいろんなビート素材をたくさん作って、そこから曲を作ったりするんだ。"ベルリン・ラヴァーズ"なんか5分くらいで作って、テッサと僕なんかその曲を作り終わったら部屋中でダンスしはじめちゃったりしたんだからね!
■ゲート・リヴァーブのようなエフェクトをめいっぱい効かせたりと、80'sっぽいサウンドを参照するのはなぜなのでしょう?
グレッグ:好きなリヴァーブを使ってるってだけだと思うよ。べつにそれが特別なサウンドだと思わないし、好きで選んでるからそれについての理由なんて考えたりもしないし。実際にアルバムで使ってるリヴァーブは、すべてサウンド的に厚みのあるプレート・リバーブだね。僕的にはほんとに全部、リヴァーブだらけにしちゃいたいくらいだから、今回それにかなり近い感じにできたね。
取材:橋元優歩(2013年5月10日)
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