ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Black Country, New Road 脱退劇から一年、新生BCNRのドキュメント | ブラック・カントリー・ニュー・ロード (interviews)
  2. interview with Lankum トラッド・イン・プログレス | ──アイリッシュ・フォークの最前線に立つランクムの驚異の新作 (interviews)
  3. Optimo Music ──〈オプティモ〉からアナーコ・パンクのコンピが登場 (news)
  4. interview with Shuhei Kato (SADFRANK) これで伝わらなかったら嘘 | NOT WONKの加藤修平、日本語で歌うソロ・プロジェクトSADFRANKを始動 (interviews)
  5. Kassel Jaeger - Shifted In Dreams (review)
  6. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  7. Columns talking about Yves Tumor イヴ・トゥモアの魅力とは何か | Z世代のyukinoiseとarowが語り尽くす (columns)
  8. 燻裕理 ──日本のアンダーグラウンド・ロックのリジェンドがソロ・アルバムを発表 (news)
  9. interview with Genevieve Artadi 〈ブレインフィーダー〉イチ押しのシンガー・ソングライター | ジェネヴィーヴ・アルターディ (interviews)
  10. Alva Noto ──アルヴァ・ノトの新作『太陽の子』は演劇作品のための音楽集 (news)
  11. Pardans - Peak Happiness | パーダンス (review)
  12. Thomas Köner ──ポーターリックスの片割れによる名ダーク・アンビエント作がリイシュー (news)
  13. WE LOVE Hair Stylistics ──入院中の中原昌也を支援するコンピレーションがリリース、そうそうたる面子が集結 (news)
  14. JD Twitch(Optimo Music)が日本の80年代の尖ったシンセ・ポップを集めたコンピレーションをリリース (news)
  15. The Vision (Robert Hood) ──祝30周年、ロバート・フッド93年のハード・ミニマルな作品が〈トレゾー〉からリイシュー (news)
  16. Jitwam ──ソウルフルでジャジーなダンス・ミュージック、次世代を担うプロデューサー、ジタムの来日ツアー情報 (news)
  17. R.I.P. Wayne Shorter 追悼:ウェイン・ショーター (news)
  18. Todd Terje ──ノルウェーからニューディスコの立役者、トッド・テリエがやってくる (news)
  19. JULY TREE ──渋谷に音楽をテーマとした小さなギャラリーがオープン、第一回目は石田昌隆の写真展 (news)
  20. interview with Sleaford Mods 賢くて笑える、つまり最悪だけど最高 | スリーフォード・モッズ、インタヴュー (interviews)

Home >  Reviews >  Live Reviews > Jake Bugg- @渋谷クアトロ

Jake Bugg

CountryFolkRock & Roll

Jake Bugg

@渋谷クアトロ

May 9, 2013

野田 努
photos : Yuichi Ihara  
May 11,2013 UP
E王

 僕は酔っていたが、ステージの彼は醒めていた。未成年だから飲むわけにはいかないにしても、フロアの興奮と熱狂に対して、ジェイク・バグは始終、理性的だった。デビュー・アルバムのジャケの写真の、力のある眼差しのように、彼はしゃんとして歌った。はしゃいでもいないし、乱れることもなかった。イキがってもいなければ、自分を大きく見せようともしなかった。うつろでもなく、泣いてもいなければ、ドリーミーでもなかった。
 ジェイク・バグは、そういう意味では、季節に酔って登場した、歴史的なロック・バンドたちとは違う。

 そして、僕は、とにかく、この感動的な夜を終えて、無意識だったにせよ、なんだかんだと言いながら、自分やいろいろな物事が、いかに311というトラウマから逃れたがっていたのかについて、あるいはロマンティックな抵抗について、思いを馳せていた。これはまったく予想外の展開だった。大災害が起きたあとなので、無理もないと言えば無理もないのだろうが、ジェイク・バグの迷いのない音楽を聴いたあとでは、そんなところにまで思いが広がった(結局のところ、マイブラがバカ受けしたのも、チルウェイヴもジェイムズ・ブレイクも、みんな似たようなものだろう......ネガティヴな意味ではない、ひとつの認識だ)。
 それほど久しぶりに、浮つくことのない、足下をしっかり見ている、自分を見失わない音楽、というものと直面したような気がする。

 僕はいまでもドリーミーな音楽を好む。悪夢のトリップはごめんだが、手のひらを返してサイケデリックを否定するつもりはない。色のついた液体も飲んでいる。ドリーミーな抵抗精神を忘れるつもりなども毛頭ない。が、しかしこの晩は、ドリーミーではないことの素晴らしさ、しらふの快感、現実を生きることの悦びを噛みしめた。ベンゲルではなく、ファーガソン監督の素晴らしさを思った。金や時間や健康や体力や記憶や視力や......いろいろなものを失っても、さまざまな思いを飲み込みながら、今日もまた灰色の1日を生きることの、バランスを失わないことの深い意味に思いを巡らせたのである。三上寛と話したときのことを思い出す。

 ジェイク・バグには、ひとりのギター弾きとして、ひとりの歌手として、僕なんかが思っていたよりもずっと素晴らしいスキルがあった。はっきり言って、うまい。間違いなく、一生懸命に練習しているのだろう。そして、アンコールの"ブロークン"はブリリアント過ぎた。それでも、フロアがロックンロールに酔って、熱狂の度合いをどんどん上昇させようとも、彼はギターを替えても演奏のテンションは変えなかった。
 熱狂でも興奮でも陶酔でも過剰でもない。まどろんでもいなければ、ハードコアでもない。もっと、より根源的なもの、シラフの良さ、平温で歌われる"トゥ・フィンガーズ"、最後に歌った平温そのものの"ライトニング・ボルト"のような逆説的な高揚が、きっといま必要なのだ。なんだか妙な感動の仕方をしてしまった。ニヤつきのない、大人びた若い青年の音楽に。(彼は1994年2月生まれである)

野田 努