ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 忌野清志郎さん
  2. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  3. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  4. Columns 対抗文化の本
  5. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  6. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  7. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  8. dazegxd ──ハイパーポップとクラブ・ミュージックを接続するNYのプロデューサーが来日
  9. PHYGITAL VINYL ──プレス工場の見学ができるイベントが開催、スマホで再生可能なレコードの製造体験プログラム
  10. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  11. Tanz Tanz Berlin #3:FESTIVAL WITH AN ATTITUDE ―― 'FUSION 2011'体験記
  12. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  13. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  14. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル
  15. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  16. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  17. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  18. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  19. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  20. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第三回 アロンソ・ルイスパラシオス監督『ラ・コシーナ/厨房』

Home >  Reviews >  Album Reviews > Djrum- Seven Lies

 インダストリアル系の暗いフィーリングを含みながら、甘美なソウル/ジャズがベース・ミュージックを通過したダウンテンポで再現されている。ということは、これは初期のポーティスヘッドやマッシヴ・アタックではないのか......と思いつつも、この手の音が好きな人間の気持ちを惑わせるものがDJラムのデビュー・アルバム『セヴン・ライズ』にはある。
 ダウンテンポという曖昧なサブジャンル名は、90年代当初はトリップホップと呼ばれていた。が、名前としてあまりにも評判が悪かったので、いつの間にかダウンテンポという実にいい加減な名前(アップテンポというサブジャンルはない)に置換されながらも、UKからその周辺諸国にあっという間に広がった。たしかにテンポを落としたダンス・ビートには、より多くのアイデアを組み込める。よってこのサブジャンルは、名前のいい加減さとは裏腹に、その後多くのマスターピースを生んでいる。

 ブリアルが登場したとき、やかましいリスナーは、こんなことはかつてマッシヴ・アタックがやっていたじゃないかと言った。ある意味ではその通りだが、初めて聴くに世代にしたら新鮮だったことだろう。DJラムの『セヴン・ライズ』にいたっては、セイバーズ・オブ・パラダイスの『ホーンティッド・ダンスホール』やナイトメアズ・オン・ワックスの『スモーカーズ・デライト』なんかも連想されるだろう。"Comos Los Cerdos"などはクルーダー&ドーフマイスターのダブステップ版だ。つまり、インダストリアルの側に侵入しながら、ヒップホップやソウル、ディープ・ハウスの側に留まっている。イラレヴェントに続くアンビエント・ベースの叙情詩だと言えよう。

 音楽を聴くときに、部屋を暗くして蝋燭に火をともすような年齢でもないが、どうも昔から僕はこの手の音楽に惹かれる。朝は早いし、夜更かしが好きなわけでもないのだが、メランコリックな音響に弱い。
 この4月は、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉が立て続けに新作を出したので、悪魔的な消費の欲望に駆られる自分を抑えるのに大変だった。ダークな恍惚に耽っている場合ではない、身をわきまえろ、そう言い聞かせながら台所の鍋に火を入れたものだ。
 『セヴン・ライズ』はサンプリングを基調とした音楽だが、ソースはつねに中古レコードにある。彼はレコード店をマメにまわって、掘って、探し続けているそうだ。ダウンテンポは、このような昔ながらのレアグルーヴ文化を継承しているジャンルでもある。サウンドから聞こえる温かさは、ネタの質というよりも、彼の音楽への関わり方からも来ているのだろう。明日の朝の起床時間など気にせず、心おきなく夜に耽りたい人に向いている。

野田 努