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Djrum

AmbientBroken BeatModern ClassicalTechno

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Portrait With Firewood

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小川充   Sep 27,2018 UP

 恐らくレコード・ショップのポップあたりから広まったと思うが、2010年代前半あたりにアンビエント・ベースというサブ・ジャンルがあった(いまでも使われているのかは不明だが)。要はポスト・ダブステップやベース・ミュージックの中でもアンビエント・テクノやIDM的な音楽性を持つもので、ブリアルあたりを起源にフォー・テットなども作品によって含まれ、デュラム(日本ではDJラムと表記されることを見かけるが、本来はDJとRumを区切らない続きの単語で、Jは発音しないのでデュラムないしはドゥラムとなる)ことフェリックス・マニュエルとか、トラヴィス・スチュワート(マシーンドラム)とプラヴィーン・シャーマによるセパルキュアなどが代表的なアーティストとされた。最近はこのあたりの音も以前ほど取り上げられず、世間的には落ち着いてしまった感じであるが、デュラムに関して言えばコンスタントにEP制作をおこなっており、2017年の“ブロークン・グラス・アーチ”はカリンバを用い、民族音楽とミニマルを取り入れた好作品であった。カップリング曲の“ショウリール”は彼らしくドラムンベース的なリズム・アプローチもあるのだが、チェロを用いたポスト・クラシカルで美麗な側面も見せていた。そして、アルバムとしては2013年のファースト『セヴン・ライズ』以来、5年ぶりとなるセカンド・アルバム『ポートレイト・ウィズ・ファイア』がリリースとなった。「ブロークン・グラス・アーチ」EPには“ショウリール”はパート1と2が収録されていたが、このアルバムでは“パート3”が収録され、そこでチェロを演奏していたゾージア・ヤゴジンスカがゲスト・ミュージシャンとして参加。そのほかにマルチ・デザイナー&フォトグラファーでもあるローラ・エンパイアがヴィーカリストとして参加している。

 『ポートレイト・ウィズ・ファイア』はフェリックス・マニュエルのミュージシャンとしてのパーソナルな顔を、いままでよりずっと強く意識した作品集となっている。これまであまり掘り下げてこられなかったが、彼はDJ/ビートメーカー/プロデューサーであると同時にピアニストでもあり、キース・ジャレットやアリス・コルトレーンなどに影響を受け、古典的なジャズ・ピアノのトレーニングを受けてきた。DJとしてヒップホップ、ドラムンベース、ダブステップ、テクノ、ハードコア・ブレイクビーツなどをプレイし、そうしたエッセンスを感じさせるソリッドなビートは彼の大きな武器のひとつであるが、一方で聴かれる抒情的でセンチメンタルなピアノ、モダンなシェイプを持つクールなピアノはそうしたジャズの素養からくるもので、サントラ風のシネマティックなサウンドスケープだったり、アンビエントで秀麗な要素もピアニストとしての音の取り組みから繋がっている(以前〈レジデント・アドヴァイザー〉のミックスをしたときのインタヴューで話していたが、彼はかなりのレコード・コレクターでもあり、その中には数多くのジャズや、ほかにクラシックやサントラなども含まれるそうだ)。

 1曲目の“アンブロックド”からピアニスト、フェリックスとしての演奏が展開され、ゾージアのチェロとの即興的な絡みを見せる。“クリエイチャー・パート1”でも彼らふたりの神秘的な演奏に音響の造形を交える。フェリックスはこのアルバムを作るにあたり、セルビアのパフォーマンス・アーティストであるマリーナ・アブラモヴィッチからの影響を述べているが、この曲などはまさにコンセプチュアル・アートを音楽に置き換えたような作品と言えるだろう。パート1の美しく観念的な世界は、パート2ではヘヴィでインダストリアルなビートに飲み込まれる。フィールド・レコーディングやサンプリング、ヴォイスなどを交えたグリッチ・アート的な世界は、アルカとかアンディ・ストットなどの作品に通じるものも見せる。中国の二胡や日本の胡弓などの古典楽器のようにオリエンタルな音色のチェロに始まる“ブルー・ヴァイオレット”や、ローラのヴォーカルをフィーチャーした“ウォーターズ・ライジング”はデュラムならではのアンビエント・ベースだが、本作ではこれまで以上にアコースティックな楽器とエレクトロニックなプロダクションの融合に腐心し、またそれを生かした音響を目指していることが伺える。ローラの歌は“スパロウズ”ではワードレスなヴォイス・パフォーマー的な場面があり、終盤にはフェリックスのピアノ即興演奏が展開される。そして、アルバムの最後は鉄琴の音色が幻想的な“ブラッド・イン・マイ・マウス”で締めくくられる。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『エイジ・オブ』にはチェンバロやバロック音楽を取り入れた場面が見られたが、楽器の音色や使い方などを見ても、本作でのフェリックスにはダニエル・ロパティンに重なる部分があるようだ。アルバムを通して室内音楽やスポークンワードなどのモチーフを取り入れ、『セヴン・ライズ』の頃とはまた違った世界を生み出したデュラム。彼の美の概念を形にしたアルバムとなった。


小川充