僕が心と呼んでいるものには
どんなものが詰まっているんだろう
"ブライト・リット・ブルー・スカイ"
赤ワインと餃子、それだけではない。スパゲティと唐揚げもあった。エレベーターから出てきた彼はよろめきながら、コップでワインを飲み干し、餃子を手づかみで貪り、次にスパゲティと唐揚げを同時に口に入れた。箸もフォークもなかった。
ステージが思うようにいかなかったらしい。機嫌も悪かった。猫背で、うつろな目をした彼に挨拶した。握手はしなかった。紙eke-kingの最新号を渡す。受け取り、ぼそりと「グライムス」とだけ言った。「ジュリア・ホルターも載ってる」と教えると初めて笑顔を見せた。「友だちなんだ」と彼は言った。
アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティの作品を初めて聴いたのは2004年のこと。3枚目のアルバム『ザ・ドルドラムス』がその作品だった。アニマル・コレクティヴが主宰していた時代の〈ポー・トラックス〉からのリリースで、当時の僕はアニマル・コレクティヴをよく聴いていた。欧米のメディアでも注目が高まりつつある時期だった。先を行くライターたちは『サング・トングス』と同時に『ザ・ドルドラムス』を持ち上げはじめた。僕はそれに乗せられて買った。
取材のため、橋元から『スケアード・フェイマス』(2007)と『ウォーン・コピー』(2003)の2枚を借りた。餃子にぱくつくアリエル・ピンクを前に、とりあえず『スケアード・フェイマス』をテーブルの上に出す。「それどうしたの?」と彼はびっくりしたようだった。「日本で売ってるの? 信じられない」、そんな感じだった。
![]() Ariel Pink's Haunted Graffiti - Mature Themes 4AD/ホステス |
取材の2時間前。恵比寿のガーデンホールの舞台では、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティが演奏していた。彼らの音楽を聴きながら、僕は1970年代初頭のサイケデリック・ロックを思い出した。たとえばデヴィッド・アレンの『バナナ・ムーン』(1971)だ。あの時代特有のキラキラした夢のサウンド。やわらかいトリップ。しかし、アリエル・ピンクのサイケデリアにおいて、あんな風な楽天主義はない。
いまいちど、ポップの意味を問うてみる。ポップとは......現実に対する大衆からのユートピア的な抗議なのか、現実との妥協の果てに生まれ、想像力を矮小化する消費物なのか。『バナナ・ムーン』は前者である。『マチュア・シームス』はそのどちらでもない。アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティの新作は、ポップにおけるディストピア的な抗議である。
――ちなみに取材日は、彼の34回目の誕生日だった。
印象深かった誕生日はないね。10歳くらいの頃から、敢えて誕生日を覚えないようにしている。そう決めたことだけを記憶している。僕の両親はあまり宗教心とかがないんだ。
■お誕生日おめでとうございます。誕生日と言えば、いままでで印象深かった誕生日はありますか?
アリエル:(実に素っ気なく)ないね。10歳くらいの頃から、敢えて誕生日を覚えないようにしている。そう決めたことだけを記憶している。
■ははは......
アリエル:僕の両親はあまり宗教心とかがないんだ。
■『スケアード・フェイマス』のインナーでは、アモン・デュールIIの『地獄』(1970)のジャケをコラージュしていますよね。
アリエル:そうそう、あのカヴァー、僕自身の写真をアモン・デュールの上にかぶせたやつね。
■どうしてこの忌まわしいヴィジュアルを使おうと思ったんですか?
アリエル:これがすごく良いアルバムだからだよ。僕の銀行の口座のパスワードはみんな「Amon Duul II」さ。
■はははは。で、アモン・デュールの何が好きですか?
アリエル:『楽園に向かうデュール』(1970)とか、「Eternal Flow / Paramechanical World」(1970)とか。あと〈キャプテン・トリップ〉ってレーベル知ってる?
■もちろんです。〈キャプテン・トリップ〉をやっている人も知ってますよ。
アリエル:へー、君の知り合いが経営してるの? あとは〈スカイ・レコーズ〉もいいよね。
■〈スカイ・レコーズ〉も良いですよね。ちなみに、ケヴィン・エアーズ、デヴィッド・アレン、シド・バレットの3人のなかでは誰が好きですか?
アリエル:(即答)デヴィッド・アレン。
■それはなぜ?
アリエル:彼はみんなの良いところを集めたみたいなんだ。3人のなかでいちばん何をやっているのかよくわからないしね。彼はシド・バレットやケヴィン・エアーズと同じくらい素晴らしいけど、ケヴィン・エアーズは保守的すぎるし、シド・バレットは商売っ気がなさすぎる。でもデイヴィッド・アレンはすべてのバランスが取れているんだ。もっとも、彼がいちばんイカれてるけどね。
■はははは。新作はメロディが際立っているというか、前作以上に心に残るメロディがありますよね。
アリエル:ああ、そうだね。
■70年代初頭の、いわゆるプログレッシヴ・ロックと呼ばれていた音楽と70年代初頭のA&M系のソフト・ロックのようなものが混じり合っているような印象を持ったのですが。
アリエル:うん、そう思う。でも......そうだね。
■その頃の音楽でとくに好きだったのは?
アリエル:デヴィッド・アレンの『バナナ・ムーン』。
■ちょうどインタヴューの前、あなたのショウの後に僕たちは『バナナ・ムーン』の話をしていたんですよ。
アリエル:ああ、『バナナ・ムーン』は大好きだね~。「♪well big bad businessman~"(と、ゴングの"Pretty Miss Titty"を歌いだす)
■はははは。
アリエル:ほかには......ピーター・ハミルだね。ヴァンダー・グラフ・ジェネレイターの諸作、もちろんカンも大好きだよ。ほかにもいろいろあるな、ザ・シャッグスもお気に入りだよ。
■ガールズ・バンドですよね。
アリエル:そうそう、アパラチア山脈出身のさ。とくに2枚目のレコード『The Shaggs' Own Thing』がまたいいんだ。"マイ・キューティ"とか、"マイ・パル・フット・フット"、カーペンターズのカヴァーの"イエスタデー・ワスモア"とか......1枚目のアルバムじゃなくて、2枚目のアルバムのほうが好きなんだよ。それともちろん、アリス・クーパー!
[[SplitPage]]シェーンベルク、ジョン・ケイジ、シュトックハウゼンなんかの前衛的な音楽も、何度も何度も聴いていればポップ・ソングみたいになってくる。曲を覚えて、曲を聴きながら次にどんな展開がくるかを覚えるようになると、それはその人にとってのポップ・ソングになるんだ。
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■アリス・クーパーは良いですよね! ところで、ゴングあたりの音が今回のアルバム『マチュア・シームス』に大きく影響を与えているんでしょうか?
アリエル:いや、こういう音が好きなのはずっと昔からだよ。90年代に買い集めていた〈キャプテン・トリップ〉の再発盤が僕にとってすごく大切だった。〈キャプテン・トリップ〉から出ているCDを聴いているうちに僕も自分で音楽を作ってみようと思うようになったんだ。だからいままで僕が作ったすべてのレコードがそういった音楽に影響されているとも言えるね。〈キャプテン・トリップ〉は、その時代の音楽(1970年代初頭のクラウトロック)に対する日本人への再評価にも繋がっているんだよ。
■へー、ところであなたはどっかの取材で、「前作(『ビフォー・トゥデイ』)が本当のファースト・アルバムである」というような言い方をしていたそうですね。たしかに『ビフォー・トゥデイ』はあなたが初めてバンド・サウンドで録音したアルバムですが、となると『ザ・ドルドラムス』などの以前の作品、もしくは今回のニュー・アルバムはどのような位置づけになるんでしょうか?
アリエル:僕が言ったのはつまり、どのレコードもファースト・アルバムみたいに感じるっていうことなんだ。僕が新しいアルバムを作って、その作品によって僕のライヴに来てくれる人が増えると、そういう新しいファンにとってはそれが初めて僕のことを見る機会になる。だからそれが初めてみたいに感じるんだ。僕はいつも(自分の)音楽を聴くとき、それを初めて聴いているつもりで聴くんだ。人びとが僕の音楽を初めて聴くときを想定してね。だから、どのアルバムもファーストみたいな感覚なんだよ。今回のアルバムだってファースト・アルバムみたいに感じるよ、ただ今回は"Round and Round"ほどの大きなヒット曲は出ないだろうと思うけどね。
■ある種のMOR(中道路線)、さっき言った70年代のソフト・ロックはどれほど意識しましたか?
アリエル:君がソフト・ロックと呼んでいる音楽は、僕にとっての実験音楽だね。たとえば、トッド・ラングレンがホール&オーツのプロデュースをしたのなんかは、僕にとってはソフト・ロックではなくてエクスペリメンタル・ミュージックだ。ソフト・ロックはエクスペリメンタル・ミュージック的な発明なんだよ。スティーリー・ダンはいろいろな要素を加えてスムーズな音楽を作ったソフト・ロックの発明者だね。
■ほほー、なるほど。いまあなたの言った「実験的」というタームを別な言葉で置き換えるとどのようになるんでしょう? 一般的にソフト・ロックというのは中道路線と言われますが、あなたからしたらそれは誤解で、よりエクストリームなものだということでしょうか?
アリエル:そうそう、その通り。ソフト・ロックはエクスペリメンタル・ミュージックの発明なんだ、ポップ・ロックと同じようにさ。ポップ・ロックと言われている音楽、例えば60年代のものとかも......僕はビートルズでさえ多少前衛的だと思うんだよ、ま、ちょっとだけだけどね。それこそキャプテン・ビーフハートなんて、60年代にすごく前衛的なことをやったり、いろいろなことを発明していて、それを続けていた。
■つまり、あなたはそういったエクスペリメンタルな音楽に影響を受けながら、それをポップに変換しているわけですね? あなたにとってポップとはどのようなものなんでしょう?
アリエル:いや、違う。僕自身はエクスペリメンタルに比重を置いているんだ。だから僕のやっているのがポップだと思う人たちは、僕の音楽と比較している対象を間違っている!
■なるほど。しかし、さっきもあなたも認めたように、今回のアルバムではあなたはわかりやすい、どこかで聴いたことあるようなメロディを意識されている。例えば"マチュア・シームス"などは僕は1~2回聴いただけでメロディを覚えてしまいました。そのわかりやすさ、覚えやすさを「ポップ」と呼んでもいいんじゃないかと思えるのですが。
アリエル:それは誤解だよ! メロディを覚えるというなら、例えばシェーンベルク、ジョン・ケイジ、シュトックハウゼンなんかの前衛的な音楽も、何度も何度も聴いていればポップ・ソングみたいになってくる。曲を覚えて、曲を聴きながら次にどんな展開がくるかを覚えるようになると、それはその人にとってのポップ・ソングになるんだ。ポップ・ソングっていうのを3つのコードで3つのヴァースがあって、3つのサビがあって......ていうものだと考える人たちもいるけど、僕にとってはそういうことじゃない。アヴァンギャルドはポップという要素を長いあいだ吸収してきているから、単純でキャッチーでわかりやすいものが必ずしもポップとは言えないと思う。
■あなたにとってシュトックハウゼンもバート・バカラックも同じようなものであると?
アリエル:僕にとってはどちらも前衛的だね。どちらも芸術性が高いし、それがアヴァンギャルドのひとつの定義でもある。
[[SplitPage]] ブルース・スプリングスティーンは言ってることが極端すぎる。エクスペリメンタルな精神というモノを知らない。パティ・スミスは大嫌いだね。僕にとってはでたらめばっかりで、ベタで、そして陳腐に感じられるんだ。
■なるほど、あなたの音楽に対する考えはわかりました。それでは歌詞に関してはどうでしょう? 『ビフォー・トゥデイ』がホステスから出たので、僕たちは初めてあなたの歌詞を読むことができたんですが、そうとう捻くれてますよね。たとえば金持ちを小馬鹿にした"ビバリー・キルズ"とか、政治をからかった"レヴォリューション・ライ"など相当屈折した歌詞で興味深いと思ったんですが、言葉の面で影響を受けた人物などがいれば教えてもらえますか?
アリエル:うーん......(しばらく沈黙)筋が通っている人たち......ドストエフスキーとか......。僕自身は物語っていうものにとても興味があるよ。うーん、僕はときどき歌詞を書かなきゃいけないけど、あまりそれについて深くは考えないんだ。だからあんまり深読みし過ぎて背景について考えすぎるのもどうかと思うけど......でもトーマス・ラガーディやピーター・ウィッセルゼフ(註:読み方間違っているかもしれません。このふたりの名前をご存じの方、教えてください)とかが好きだよ。
■知らないですね。その人たちは小説家ですか?
アリエル:哲学者だよ。
■思想家が好きなんですか?
アリエル:良い文章を書く作家なら誰でも好きだけど、とくにしっかりと論理立った主張をして論証をする人が好きだよ。自分自身はまったくそういうタイプじゃないけれどね。
■では、三田格的な質問ですが、フロイトとドゥルーズでは?
アリエル:(即答)フロイト!
■ほんと?
アリエル:ははは、こう見えても僕は保守的なのさ。
■強い父親を倒して逞しく成長していくアリエル・ピンクはまったく想像できないんですけど(笑)。
アリエル:僕は(精神分析家の)ジジェクみたいなんだ、悪魔の擁護者に回ってしまうんだよ。まぁはっきりとしたことは言えないけれど、そういう意味では僕はドゥルーズであるとも言える。ただ僕は究極的には、(フロイトのエディプス・コンプレックスをさして)人間はみんな性に傾倒しがちだと思うんだ、とくに男性はね。
■性に絡めていくのが良いんですか?
アリエル:僕らが最初に出てくる性的な問題を避けて、エディプス・コンプレックスを避けるようにするというのはいいことだと思う。僕自身は、ユングなんかよりもフロイトのほうがずっと信じられるんだ。僕にとってのユングは抑圧さ、性的にも抑圧されている。ユングはデヴィッド・クローネンバーグの映画(『危険なメソッド』)みたいに、「これはエディプス・コンプレックスについてであって性についてじゃない、性がすべてじゃないんだよ、フロイト!」って言うことができないから抑圧されているんだ。でも実際のところ、性っていうのは僕たちの人生にはじめから刷り込まれているものだろ?
■ははは......。
アリエル:僕がよく言うことなんだけど、みんなでたらめだらけなんだ! そしてでたらめな奴ほど説得力があるんだよ。とはいっても、良い議論っていうのはそれ自体価値のあるものだけどね。
■『危険なメソッド』は日本ではまだ公開されていないんですよ。ちなみにクローネンバーグではそれ以外の作品も好きですか?
アリエル:全部好きだよ、『ヴィデオドローム』、『クラッシュ』......。だけど『危険なメソッド』がとく好きだね、僕が観たなかでいちばんクローネンバーグらしい映画だと思う。それに彼の映画のなかでもとくに個人的な内容だ。映画のなかで提起されている問題は歴史上の物語のなかで上手く語られていて、彼自身すごくその物語に没頭してこの映画を作っていたんじゃないかと感じられるね。
■今回のアルバムにおいて、歌詞の面での変化はありますか?
アリエル:ないね、僕は歌詞のことをあまり気にしたことがないから。いつもぎりぎりまで歌詞を書かない。そのことを考えもしないで待っていて、本当にぎりぎりのところで決まった歌詞に落ち着くんだけど、それが僕のなかの世界を表現するいちばんいい方法だと思うんだよ。だからあまり歌詞のことは考えないけど、それがたぶん、いちばん良いやり方だと思っている。
■アルバムのタイトルが「Mature Themes」となったのは?
アリエル:バンドがそういう風に決めたからさ。ホントは『Farewell American Primative(昔ながらのアメリカ人よ、また会う日まで)』というタイトルにしたかった。でも、たまたまニール・ヤングとダン・ディーコンが、同じ月にタイトルに「アメリカ」って言葉の入るレコードをリリースしたんだけど、そういうのと関係があると思われたくなかった。宣伝上よくないしね。
[[SplitPage]] 音楽が必ずしも多くのことをできるとは思っていないよ。現代では、革命は音楽とは別なところで起こっている。コミュニケーションや情報といったところでね。僕は僕自身らしくいて、自分の主張をもっと多くの人に届けるってことだね。
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■ブルース・スプリングスティーンやパティ・スミスについてはどう思いますか?
アリエル:ブルース・スプリングスティーンは言ってることが極端すぎる。エクスペリメンタルな精神というモノを知らない。
■パティ・スミスは?
アリエル:大嫌いだね。
■ええええええ! 何故? どうして?
アリエル:僕にとってはでたらめばっかりで、ベタで、そして陳腐に感じられるからさ。
■えー、日本人の僕からするとああいう人がいるアメリカって良いなーと思うし、だいたいああいう風に矢面に立ってくれるミュージシャン、彼らのような存在こそアメリカの音楽文化における誇りでしょう?
アリエル:んんん......
■あなたは前作で「革命なんて嘘さ、革命するくらいなら逃げろ」と歌っていますが、「音楽で社会を変える」という発想があなたにとって陳腐に感じられるのですか? それとも彼らのやり方が好きになれないんですか?
アリエル:彼らのやり方だね。人びとの「革命」というものへの考え方を改悪していると思う。そもそも革命っていうのは理解するのが難しい概念だよ。僕の意見では、革命というのはとてもマルクス的なんだ。そもそもマルクスの共産主義っていうのは、革命を呼び起こすことで、それを果てしなく続けることだ。だからある意味、僕にとって共産主義というのは継続的な革命なんだ、アナーキズムともよく似ている。だからすごく難しいことだとは思うけれど......でも、僕らが革命っていう概念を複雑化させるのはいいことだと思うよ。
■あなたにとってスプリングスティーンやパティ・スミスは単純過ぎるんですね?
アリエル:そうだよ。逆に言えば、そもそも革命なんてしょっちゅう起きている必要はない。僕が思うに、マルクス主義は、ひたすら革命を作り出すものとして理解されている、パティ・スミスがやっていることがそうだよ。もしかしたら僕がマルクスを誤解しているのかもしれないけどね。だけど、僕がマルクスに賛同するのは、ある意味では社会の発展するままに技術が発達して、より高度な産業的な社会へと向かっていけば、そこには共産主義的な傾向が生まれるという観点においてなんだ。社会が発達するほどに共産主義的傾向が強くなるとしたら、いいことだ。それによってもっといろいろな場所のたくさんの人に利益がおよぶようになるからね。そうだろ? 誰も搾取される対象がいないっていうのが理想だ。そう言う意味では共産主義は道理にかなっているとは思うよ。
■うーん、もっと話したかったけど、もう時間なんで、最後の質問です。あなたが思う、音楽にできうる最善のこととは何だと思いますか?
アリエル:音楽が必ずしも多くのことをできるとは思っていないよ。現代では、革命は音楽とは別なところで起こっている。コミュニケーションや情報といったところでね。僕に何ができるかってことでいうと、僕は僕自身らしくいて、自分の主張をもっと多くの人に届けるってことだね。僕に注意を向けてくれる人たちもいるから。そして、議論や会話が生まれるんだ。もっとも、革命は1曲の神秘的なパワーから生まれることはない。そういうのはただの幻想さ。
「アメリカは自分たちを変えることに夢中になっている人の文明である」という言葉がある。取材でもっとも印象に残ったのは、言うまでもないことだが、僕が「ブルース・スプリングスティーンやパティ・スミス」という言葉を言ったときの彼の苦虫をかみつぶしたかのような表情、彼があまりにもストレートに彼ら社会派に「ノー」を言ったことだった。
『マチュア・シームス』は、『ビフォー・トゥデイ』とは比較にならないくらいに悪意に満ちている。収録曲のすべては耳のなじみの良いポップ・ソングだが、言葉は気が滅入るほどネガティヴで、狂っている。「夢のような防弾チョッキをまとってふらふら歩いてる/海向きの船は精子まみれの脳みそにちょうどいい」「バカット・ジャグジーワッドが君のケツを愛撫する/自殺団子が睾丸爆弾を投下する/テクニカラーで蹴っとばせ/相談はママにしろ/ユングやジークムント・フロイトみたいに/ブロンドを掌握した爆弾&死のフェラチオ/ペニス付きの女たちがシャブで大興奮だ」"キンスキー・アサシン"
歌詞だけ読めば三上寛......とういか、フロイトを弄んでいるのだろうけれど、『マチュア・シームス』は音だけ聴いていると、取材で言っているように甘々のMORテイストさえ強調する、キッチュなポップ・ミュージックだ。もしこのアルバムにキャッチコピーを付けるなら、「ジョン・ウォーターズが作詞したカーペンターズ」といったところだろうか。バッド・テイストやシニシズムを繰り返しているわけではない。アリエル・ピンクはたぶん、いや、明らかに新自由主義にも毒づいている。「やってられないよ、冬は悲しい気分になるから隠れてるんだ/身を切るような寒さに心が病みそうだし頭がおかしくなりそうだ/でもそれはぼくじゃない/北朝鮮こそがぼくだ/さようならアメリカ人/君のお金なんだから必要なときに使いなよ」"フェアウェル・ アメリカン・プリミティヴ"
そして、アルバムの最後に収録された"ノストラダムス・アンド・ミー"だ。あらゆる方角に毒をまき散らしたあと、この男はぬくぬくと心地よい夢に惑溺していく。ゆっくりと......恍惚のなかを......「間もなくこの忌々しい世界も/果てしない過去によって転覆させられるだろう/さようなら バイバイ」......。
新世代(ミレニアルズ)からの抵抗である。コンセプトとして、実に興味深い"問題作"(と呼ぶに相応しいアルバム)の登場だ。
















