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Purity Ring

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三田 格   Jul 23,2012 UP

 人生を物語として理解する。それによってどんな自分でも受け入れられる。これがフロイトだとしたら、いままで散々、チルウェイヴを××してきた僕がピュリティ・リングに魅せられてしまったとき、1. ピュリティ・リングはチルウェイヴではないことを証明する(=学問的解決))。2. フロイトを否定し、マルチな主体を示唆したドゥルージアンになる(=哲学的解決)。3. この件に関しては黙っている(=政治的解決)。4. これまで僕がチルウェイヴに関して書いてきた痕跡をすべて消去してもらう(=経済的解決)。5. 記憶喪失になる(=生物学的解決)。6. どうしてこれがいいと教えてくれたんだよと、赤塚りえ子に抗議する(=行動あるのみ)。7. 泣く(=感情あるのみ)。8. オウム真理教に帰依する(=信仰あるのみ)......といった選択肢からどれかを選ばなければならない。複数のドメインを使い分けることやネット上に別な人格を作り出すことが当たり前になっている昨今、2. はもはや自明のことに思えるので、このレビューに要求されている字数を満たせるのは、しかし、1. だけだろう。3. から8.を選択して原稿料に相当するような報酬をくれる人がいるとしたら、資本主義や共産主義はなんだったのかということになりかねない。そんな感じも悪くないけれど。

 かつて僕はチルウェイヴをダフト・パンクの延長線上にあるサウンドと捉えた。つまり、シカゴからはじまったディスコ・リコンストラクトが下部構造の基本にはある。ダフト・パンクはいわばシンセ-ポップ・リヴァイヴァルの立役者だし、チルウェイヴの定義が初期にはシューゲイザー・ディスコであったこととも通じている。しかし、ミュンヘン・サウンドの影響下からはじまった80年代のシンセ-ポップがソフト・セルやユーリズミックスを筆頭にブルー・アイド・ソウルの再定義を試みるという変化を辿ったように、チルウェイヴもいい加減、ディスコ・リズムからは離れて16ビートを意識したようなものになっていくか......どうかは橋元さんがこれからじっくりと考えてくれるんじゃないでしょうか。

 ブレイズとのスプリットに続いてリリースした7インチ・シングル「アンガースド」1曲で、一気に期待の新人No.1に這い上がってしまったカナダの男女デュオ、ミーガン・ジェイムス(ヴォーカル)とコリン・ロディック(楽器+ドノヴァンみたいなラップ?)はヒップホップのビートをいかにもシンセ-ポップとして聴かせてしまうトリートメントに長け、ポップ・ミュージックに新しいフォーマットを確立したといえるかもしれない。これまでチルウェイヴに関して言われてきた様々な気分をちゃんと腰を揺らせて聴かせてくれるのである。ペット・ショップ・ボーイズを評して「踊れるザ・スミス」とか、ニュー・オーダーを差して「ジョイ・ディヴィジョンのディスコ・ヴァージョン」といった言い方が80年代にはなされたけれど、これはいわば「踊れるグライムス」であり、「ヒップホップと出会ったナイト・ジュエル」といったことになるのだろう。〈4AD〉への移籍が決まって再リリースされた"ベリスピーク"などはスネアとハンドクラップだけでかなり粘っこいグルーヴが編み出され、ヒップホップといってもエレクトロニック色の強かったサウス系がそのまま援用されていると思えるぐらいである。こうなったときに、こういったものもチルウェイヴと呼ぶか......どうかは橋元さんがこれからじっくりと考えてくれるんじゃないでしょうか。http://thepurityring.tumblr.com/

 シンセサイザーによる飾り付けがとても可愛らしい"サルツキン"、冒頭からスクリュードさせた"ロフトクライズ"、ストロウベリー・スウィッチブレイドを思わせる"ファインシュライン"、そして、やはりバロック風のエレクトロとでもいえる"アンガースド"に止めを刺すだろうか。ふたりは元ゴブル・ゴブルのメンバーで、ポスト・クラシカル風のポスト・ロック『ニオン・グレイヴヤード』を3年前にリリースしたこともある。ビヨークを薄めに薄めたようなコケティッシュかつラブリーなヴォーカルは『神社』と題された再デビュー・アルバムを舌足らずに歌い抜け、新しい風を呼び込んでいく。

 デンマークからニック・コル・エリクセンによるタラゲネ・ピジャラーマはザ・フィールド以降のシューゲイザー・ハウスに連なるニュー・エイスで、一時期路線を変えていたアークティック・ホスピタルも4作目の『ゴーイング・サン』で同傾向に回帰してきたばかり。"オーシャン"1曲でコンパクトと契約が決まったというのも頷けるほど、爽やかな音の広がりとイメージの豊かさは群を抜いている。それだけでなく、タイトル曲ではフランクフルト系のクールなアンビエントにもトライしている......けれど、ピュリティ・リングを聴いてしまうと、やっぱりもうちょっとリズムに工夫が欲しいかなー。

三田 格