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野田 努   Oct 06,2011 UP
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E王

 ウォールズのセカンド・アルバム『コラクル(かご舟)』を聴いて笑ってしまった。欧米および日本で圧倒的な人気をほこるケルンのミニマル・テクノのレーベル〈コンパクト〉がリリースする新作は、チルウェイヴと〈コンパクト〉のものの見事な融合と言える。まあ......このレーベルはパンダ・ベアのソロ・シングルを出しているようなところもあるし、そもそも現在のインディ・シーンにおいても広範囲にわたって影響力のあるレーベルのひとつなので、いまさら特筆すべきことではないけれど、しかしこうした"音"を聴くと、いかに現在のシーンが互いに接続し合って、いわばリゾーム状に広がっている感じがよくわかる。チルウェイヴないしはシンセ・ポップ、ポスト・ダブステップ、あるいはドリーム・ポップでもヒプナゴジック・ポップでも呼び方は何でもいいのだけれど、インディ・シーンのこの絡み合うような広がりは、機会の均等化の表れとも言える。30万枚売れるアーティストは生まれづらくなったかわりに、30万人の作り手が音楽でなんとか生計を立てられるような、社会主義的な資本主義の実践と言えやしないだろうか。昔ながらのスター崇拝者には気の毒な話だろうが、シーンは独占的で支配的な世界から逃れていくように進展しているのである。

 ウォールズの『コラクル』は、IDM色が強かった前作『ウォールズ』とは打って変わって、ティーンガール・ファンタジーの『7am』のように、今日的な意味においての折衷的かつ社交的な音楽性を有している。ミニマル・テクノとアンビエント、チルウェイヴとクラウトロック、ドリーム・ポップとエレクトロニカといったものの交錯点で鳴っている音楽で、それが〈コンパクト〉レーベルらしくダンスのグルーヴを持ちながら展開される。ふたりのメンバーは昨年、カリブーの「スウィム」でリミックスを手掛けているが、本作もまたテクノにおけるポップの新しい可能性と言えるだろう。
 明るいメロディと直線的なビートによる幻覚症状があの手この手で繰り広げられる。ソウル・ミュージック的なテクスチャーはなく、そしてヴォーカルのレイヤーにもべたつくような叙情はない。人間主義を回避しながら、ひたすら優しく、気持ちの良いところへと向かうのは最近のインディ・シーンの傾向のひとつである。
 オープニング・トラックの"イン・アワ・ミドスト(僕らのまんなかで)"は、まさにカリブーやフォー・テットのようなインディ・ポップとしてのミニマル・テクノだ。曲をリードするヴォイス・サンプル、クラウトロック風に覚醒したドラミングとベース、デトロイティッシュなシンセサイザーのメロディが重なる。"ヒート・ヘイズ"や"ヴェイカント"といった曲では、シガー・ロスを彷彿させるような、いわばイーサリアル系(空気のような電子音)の展開をみせる。ふわふわのアンビエントとモータリック・サウンドによる"エクスタティック・トゥルース(忘我的真実)"~さざ波のようなアンビエント"ドランクン・ガリオン(酔っぱらった船)"へと続く終盤は楽しい音のサーフィンのシメとしては申し分ないでしょう。
 アナログ盤にはおまけにCDも付いている。

野田 努