Home > News > RIP > R.I.P. Dieter Moebius
楽器の音色というものは、それが管楽器であれ弦楽器であれ電子楽器であれ、たいていの場合、官能的ないしは叙情的、陶酔的ないしは感情的なものである。しかし、ディーター・メビウスなるパイオニアは、情緒を排した物質的とも言える電子音の奏者ならぬ操者だった。聴き手に媚びていないというよりは、いったい誰がこのサウンドを受け入れるのかというほどの恐れを知らぬ1971年の『クラスター』は、2006年にようやく再発され、エメラルズやOPNがシーンで頭角をあらわす頃クラシックの仲間入りをしたほどだった。90年代のテクノの時代でさえ『E2-E4』の陶酔こそ再評価されたが、初期クラスターの電子ノイズにまでは耳はいかなかった。
ロマンティストのレデリウスとユーモアリストのメビウスによるクラスターは、クラウトロックにおいてクラフトワークと双璧を成すエレクトロニック・ミュージック・バンドだったが、クラスターはクラフトワークより破戒的だった。彼らは70年代に8枚の名盤を残している。その8枚のなかにはブライアン・イーノとの共作『クラスター&イーノ』、元ノイ!のミヒャエル・ローターを加えた3人のプロジェクト、ハルモニアの『ハルモニア』と『デラックス』の3枚が含まれている。
個人的には1980年代に故コニー・プランクと一緒に作った3枚の作品──『ラスタクラウト・パスタ』『マテリアル』『ゼロ・セット』にも特別な思いがある。たとえば『ラスタクラウト・パスタ』における素っ頓狂なレゲエを聴いて欲しい。レゲエをただリスペクトし、ただコピーすることしかできない者には無理な音楽である。それは、レゲエをリスペクトして、だからこそそれを破壊/解体することができる者のみが創出できる領域で鳴っている。メビウスのこうした挑戦的な姿勢は、2012年のPhewさん、小林エリカさんとの3人によるプロジェクト・アンダークの『Radium Girls 2011』でも発揮されている。
ディター・メビウスが今週月曜日(20日)の朝、他界したと報じられた。1944年生まれだから、71歳だった。
メビウスの電子音楽からは、予定調和や常識に縛られないことの喜びを感じる。実験的でありながら茶目っ気もあり、売れようが売れまいが彼は作り続けていた。そしていま、世界のいたるところで、電子音楽のもうひとりの先駆者に対する哀悼そして敬意が表されている。