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interview with Franz Ferdinand

interview with Franz Ferdinand

腐る直前の甘く芳醇な……俺たち。

――フランツ・フェルディナンド、インタヴュー

橋元優歩    通訳:染谷和美   Aug 21,2013 UP

シニカルというのは、本当に生きることの意味を探しはじめたからこそ出てくるものだとも思うし、僕らのような無神論者がほかになにを信じて生きていけばいいのか――生きていくために必要な、信じるべき対象を探しているという部分が出ているのかもしれない。

そうですね。ところで、先ほどアルバムの大きな性格として「前向き」ということをおっしゃっておられましたが、私もすごくポジティヴなマインドを受け取りました。はじめの2曲なんかも、ほんとに10年前のファーストのときのような活力がありますね。その一方で、歌われている内容自体は、失恋というか、やぶれた関係のようなものがわりとテーマになったりもしています。こうしたテーマは自然に出てきたものなのでしょうか?

ハーディ:そういう音楽が僕は個人的に好きなんだよー。音楽だけ聴いているとアップで楽しいんだけど、詞のほうは逆。シリアスっていうんだろうか。ちょっと惨めなところがあったりね。例で言えばザ・スミス。ジョニー・マーのギターだけ聴いていればすごくエネルギッシュで、だけどモリッシーの歌の内容をきくと、そういうことばっかりじゃないというね。そういう組み合わせの曲の方が僕は好きだし、つい歌いたくなるのもそういう音楽だ。でも僕らのアルバムの詞がずっとそんな感じだからって、壊れた関係や別れってことばかり頭に残るんじゃなくて、音楽に身を任せて気分を上げて踊れるようになってると思うから、そういう両面を楽しんでもらえればなって思うよ。

すでに活動も長いわけで、最初の作品の頃から比べて、人間性に深みが出るというか、苦くなったり影ができていくような部分もあるのかなと思いまして。最後の曲では「恋人が友人に変わる」場面が描かれていたりしますが、それをきれいな思い出としてスッキリ処理しないでくれと呼びかけるくだりは、10代、20代の無邪気さからは遠いものですよね。フランツ・フェルディナンドがどんなふうに年を重ねてきたのか、時間の経過を少し感じさせるように思いました。

ハーディ:この曲は恋愛関係の終わりというよりは、死というか、「葬式」を歌ってもいるんだ。だから、関係の終わりではなくて命の終わりなんだよね。そのなかで、死んだ人が、「こういうことだけはしないでくれ」っていうことをあげつらっている曲なんだ。ポップ・ミュージックは流さないでくれ、とか、自分にそぐわない神話や美談を作り上げないでくれ、とかね(笑)。
アレックスも、べつに自分の葬式を想定しているわけではなくて、別のキャラクターを想定しているんだと思うんだけど、たしかに僕らにも多少シニカルなところは出てきたのかもしれないよね。それはべつに悪いことではないと思ってる。シニカルというのは、本当に生きることの意味を探しはじめたからこそ出てくるものだとも思うし、僕らのような無神論者がほかになにを信じて生きていけばいいのか――生きていくために必要な、信じるべき対象を探しているという部分が出ているのかもしれない。それがタイトルにもつながっていくんじゃないかな。

だけど、まず自分たちが楽しむということ自体がなかなか簡単なことではないんだよ。

なるほど......"フレッシュ・ストロベリーズ"では、「僕らは摘みたての新鮮なイチゴだけど、そのうち腐って忘れ去られるだろう」っていうようなことが歌われてますね。これはもしかすると部分的には自分たちの境遇や、長くアーティストを続けることの比喩だったりするのかなと思いました。

ハーディ:ははっ、そうだね。

いえ、比喩として(笑)。それで、バンドにとって年を重ねることと、クリエイティヴの幅を広げていくこととは、対立することなくうまく結びついていると思いますか? フランツ・フェルディナンドはどのように年をとっていくのでしょう?

ハーディ:あの曲は、腐る直前のあの甘さ......じつはそこがいちばん味わい深く貴重な魅力を秘めているということを歌ってるんだ。それはとても重要なことでもある。
 バンドとしては、これまで学んできたものがあるからいまがあると思っているし、年数を積んできただけのものはあるつもりだよ。たとえば、創造性をうまく保っていくためにはスケジュールに踊らされていてはいけない。スケジュールからも解放され、ツアーからも解放され、お互いからも距離を置いて自分だけのスペースを持つことがどれだけ大切かということを過去の経験から学んだ。そしてこのアルバムを作る前にそういう時間をしっかり設けたということが、この作品の出来につながっていると思うし、そうしないとアイディアが生まれてくる新鮮な感覚が持てなくなってしまうんだよね。書きたいことがなくなってしまうというか。
 でもがんばってツアーなんかをしてきたから――その経験のなかから書くべきことが生まれているとも言えるわけだよね。それがいいかたちでいまの作品には出てると思うんだ。

"スタンド・オン・ザ・ホライズン"なんかはめずらしくストレートに弱みやエモーションを見せている曲だと思うんですが、これは気に入っていますか? わりと湿っぽいことも、そう湿っぽくはしないのがフランツ・フェルディナンドだと感じるのですが、それはバンドとしての姿勢というか、哲学のようなものなんでしょうか?

ハーディ:ああ、"スタンド・オン・ザ・ホライズン"ね、ありがとう! 僕のフェイヴァリットだよ、この曲は。そうだな、ダンス・ミュージックをギターで演じるというのがやっぱり僕らの根本にあるわけだから、音的に高揚感を持たせることは意識しているよ。歌詞のテーマはその都度変わるけれども、ちょっとしたメランコリーのようなものはどうしても出てしまうことがある。だから音によってそこを引き上げようということは、意図的に行ったりはするね。

フランツ・フェルディナンドは優れたバンドであるとともに、優れたエンターテイナーであるからこそ、ここまで人々に受け入れられるようになったと思うのですが、人を楽しませることと、自分が楽しむこととでは、基本的にはどちらが大切だと考えますか?

ハーディ:まずはやっぱり自分たちが楽しむことを大事にしているかな。そうじゃないと続けられないものね。だけど、まず自分たちが楽しむということ自体がなかなか簡単なことではないんだよ。4人の好みもバラバラだしね。そのあたりのチェック・リスト的なものが無意識にあって――たとえば誰かはこれが好きだけどポールはそれでは納得しない、とかってふうにね――そうやってそれぞれの嗜好をすり合わせながら曲を作っていくという過程自体が、広く受け入れられる音楽性を作っていくのかもしれないよね。というか、そうならざるを得ないということに近いかもしれないよ。

取材:橋元優歩(2013年8月21日)

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