ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns 大友良英「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を振り返って
  2. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  3. KMRU - Kin | カマル
  4. 大友良英スペシャルビッグバンド - そらとみらいと
  5. Milledenials - Youth, Romance, Shame | ミレディナイアルズ
  6. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  7. 坂本慎太郎 - ヤッホー
  8. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  9. Loraine James ──ロレイン・ジェイムズがニュー・アルバムをリリース
  10. Dolphin Hyperspace ──凄腕エレクトリック・ジャズの新星、ドルフィン・ハイパースペース
  11. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  12. Deadletter - Existence is Bliss | デッドレター
  13. Dual Experience in Ambient/Jazz ──『アンビエント/ジャズ』から広がるリスニング会@野口晴哉記念音楽室、第2回のゲストは岡田拓郎
  14. ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯
  15. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  16. Cardinals - Masquerade | カーディナルズ
  17. Jill Scott - To Whom This May Concern | ジル・スコット
  18. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2026
  19. HELP(2) ──戦地の子どもたちを支援するチャリティ・アルバムにそうそうたる音楽家たちが集結
  20. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界

Home >  Reviews >  Album Reviews > Plaid- Reachy Prints

Plaid

ElectronicaTechno

Plaid

Reachy Prints

Warp/ビート

beatkart Tower HMV Amazon iTunes

木津毅   May 23,2014 UP

 いつだったかプラッドのライヴを観たときに、夕暮のなかを鳥の群れが飛んでいく映像を使っていたのをよく覚えている。それは彼らが鳴らす情緒的な電子音の戯れにじつによく溶け合っていたが、映像を見ているわたしたちの記憶のなかにもその風景はすでにあったはずである。ノスタルジックな感慨を抱かせる以前に事実として記憶を喚起させる。自分のなかでプラッドというと、鳥のシルエットがオレンジ色の背景を漂う姿がいつも浮かんでくる……それはプラッドがライヴ用に「作った」映像なのか、自分が実際に見た風景なのか、いまではもうわからない。

 誰もが円熟と言っているプラッドの10作め『リーチー・プリンツ』にはなるほど、新しいものがない代わりに彼らがこれまで長い時間をかけてきたものがよく練磨されており、聴いているわたしたちの25年の記憶をどこまでも曖昧にしていく。考えてみればオウテカの『エクサイ』もそうだったし、ボーズ・オブ・カナダの『トゥモローズ・ハーヴェスト』もそうだった。90年代の〈ワープ〉を特徴付けた、IDMのオリジネーターたちの作品群が内的な歴史を意識させるものにならざるを得ないのは、それだけ彼らの功績が大きかったということだろうし、20年という時間はじゅうぶんに長かったということなのだろう……リヴァイヴァルが決定的なものとなる程度には。『リーチー・プリンツ』には覚えやすく耳触りのいいメロディがふんだんに収められていて、それはブラック・ドッグ・プロダクションズから分断されるものではない。プラッド時代に移ってからでも、いつ聴いても心地いい『レスト・プルーフ・クロックワーク』や『ダブル・フィギュア』……から、滑らかに連なっていてる。ハープの音色が導入となる“オー”から、三連符の繰り返しが緩やかに高揚へと誘う“ホークモス”、華麗なオーケストラが展開される“リヴァプール・ストリート”まで、その優美さはますますきめ細かくなってはいるが。基本的にはリスニング向けに作ってあるが、“テサー”のようなずっしりとしたビートの曲にはダンスの感覚がないわけでもない。
 そして本作のテーマはまさに「記憶」であるという。アートワークでは自身のレントゲン写真に慣れ親しんだ環境の風景が重ねられているそうだが、それはまさに「自分」の「頭のなか」で起こっていることだと示すイメージである。それこそは20年前にアーティフィシャル・インテリジェンスが提唱したものであり、あらためて視覚化されているというわけだ。『リーチー・プリンツ』を聴いていると、この四半世紀の電子音楽のサウンドの冒険、ベッドルームでの戯れが浮かんでは消えていくようだ。わたしたちの「頭のなか」のエレクトロニック・ミュージックの記憶が、そこでこそ響き合っている。それがノスタルジーになってしまう前に、侵すことのできないドリーミーな領域を守り続けるように。

木津毅