ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  2. 二階堂和美 - 潮汐
  3. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  4. 『90年代ニューヨーク・ダンスフロア』——NYクラブ・カルチャーを駆け抜けた、時代の寵児「クラブ・キッズ」たちの物語が翻訳刊行
  5. interview with Flying Lotus フライング・ロータス、最新EPについて語る
  6. Yoshinori Sunahara ──74分のライヴDJ公演シリーズ、第二回は砂原良徳
  7. RPR Soundsystem with Dreamrec ──ルーマニアからミニマル・アンダーグラウンドの至宝がリキッドルームにやってくる
  8. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  9. 早坂紗知 - Free Fight | Sachi Hayasaka
  10. Teresa Winter, Birthmark, Guest,A Childs - Teresa Winter, Birthmark, Guest,A Childs | テレサ・ウィンター、バースマーク、ゲスト、エイモス・チャイルズ
  11. 大友良英スペシャルビッグバンド - そらとみらいと
  12. Dolphin Hyperspace ──凄腕エレクトリック・ジャズの新星、ドルフィン・ハイパースペース
  13. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  14. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  15. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2026
  16. KMRU - Kin | カマル
  17. Jeff Mills with Hiromi Uehara and LEO ──手塚治虫「火の鳥」から着想を得たジェフ・ミルズの一夜限りの特別公演、ゲストに上原ひろみと箏奏者LEO
  18. Columns なぜレディオヘッドはこんなにも音楽偏執狂を惹きつけるのか Radiohead, Hail to the Thief Live Recordings 2003-2009
  19. “JAPANESE DUB” Talk&DJ ——ダブの時代、内田直之がダブを語るトーク&DJ
  20. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて

Home >  Reviews >  Album Reviews > Owen Pallett- In Conflict

Owen Pallett

Indie Pop

Owen Pallett

In Conflict

Domino / ホステス

Tower HMV Amazon iTunes

木津毅   Jun 03,2014 UP

 名が知られるにつれ当然変えざるを得なかったわけだが、このひとのアーティスト名はやっぱり「ファイナル・ファンタジー」でしかなかったんだなといまでも思う。最近、かつて彼が異常なほどプレイしていたのがシリーズの「6」だと知ってからはなおのことだ。「6」は僕もずいぶんプレイした。小学生のときはよくわかっていなかったが、あれは幻獣と呼ばれる「あちら側」の世界の住人と人間とのあいだに生まれた少女が主役の物語で、そのセカイから疎外された彼女に幼き日のオーウェンが同調していたのだろう、というのは短絡的な想像だろうか。しかし、ファイナル・ファンタジー時代の“メニー・ライヴス -> 49MP”などはまさにゲーム世界を連想させる大仰さと華麗さがヴァイオリンの旋律によって炸裂していて僕は大好きなのだが、ライヴ演奏でそれが再現されるとき、挿入される叫び声も含めて全部自分でやってしまうのには感心を通り越して呆れてしまった。すべては自分の内側で完結する世界、そこで繰り広げられる壮大な物語。カナダの田舎町で育った大人しそうな青年は、そこでこそ自分を解き放っていたのだろう。

 アーケイド・ファイアのライヴ・メンバーをはじめとして、ベイルート、グリズリー・ベアにR.E.M.と客演は挙げればキリがなく、最近では間もなく公開されるスパイク・ジョーンズ『her』の映画音楽も手がけているオーウェン・パレット。ヴァイオリンの演奏やストリングスのアレンジメントを生かし見事に北米のインディ・シーンの超重要人物となっている彼だが、自身の作品においてはどうも職人の仕事、という佇まいになっていかない。いや、ゲストの数が増えなんとブライアン・イーノも参加しているオーウェン・パレット名義での2作め『イン・コンフリクト(葛藤のなかで)』は、全体としてよくまとまったバンド演奏が聴ける、「人数」を感じさせるものとなっていて、楽器が増えたオーケストラのアレンジもシンセ・サウンドの使い方もずいぶんこなれてきている。だが、極端に抽象的で難解な歌詞を伸びやかに、どこか達観したように歌うオーウェンの声を聴いていると、この音楽の作り手の抜き差しならぬ何かが込められていることがすぐさま察せられてしまう。

 そう思えば、彼のこれまでの歩みはまさに、「ファンタジー(幻想)」からオーウェン・パレット自身へと分け入っていく過程だったのかもしれない、というのもまた短絡的だろうか。前作『ハートランド』は架空の世界の神たる自分と、(おそらくは別れた恋人である男性を反映させた)ルイスというその世界の登場人物との対話という、どこか自己セラピー的な様相を孕んだコンセプト・アルバムだったが、『イン・コンフリクト』にはそのような入り組んだ装置もなければ、ファイナル・ファンタジー時代のディープな妄想世界もない。ライナーノーツによれはアルバムのテーマは「狂っていること」だそうだが、代わりにあるのは、危うい精神状態に置かれた人間による秩序のない独白である。たとえばタイトル・トラックの最後、「失うものは何もない、失うものは何もない、失うものは何もない」、そう繰り返す人間を前にしてぎょっとしないのは難しい。

 しかしライナーノーツではその狂気について「肯定的にアプローチしている」と説明されていて、なるほど、そう言われれば聴いていて受ける感触はどこまでも優美で、開放的と言ってもいいだろう。イーノがシンセを弾いているという“ザ・リヴァーベッド”などはアップテンポでヴァイオリンがドライヴするアルバムのハイライトと言える一曲だが、「落胆は君を威圧する下へ下へ下へ」と一節にギクリともする。が、そこにはたしかにスリリングな音楽的疾走があるのだ。もっとも不穏な“ザ・パッションズ”ですら、歪んでいながらも気が遠くなるほど美しい光景で終わっていく。同性愛者としての生の不安、錯乱めいた繰り言、次々に頭のなかに浮かんでは消えていく膨大なイメージ。そうした素材を集めるオーウェンはしかしヴァイオリンをあくまで華麗に鳴らしながら、思わずうっとりと聴き入ってしまうほどエレガントなチェンバー・ポップを作り上げてしまう。
 これを聴いていても、わたしたちはこの複雑極まりないオーウェン・パレットの内的世界を理解できるわけではない。が、たとえば昨年ザ・ナショナルのブライス・デスナーがクロノス・カルテットと組んでやっていたストリングス作品のアカデミズムと比べてみても、オーウェンはもっとポップなフィールドで、何よりも自分の感情を響かせようとしている。『イン・コンフリクト』はだから、現代を代表するアレンジャーの粋が詰まった作品という以上に、ひとりの表現者の狂おしい内側の震えに共振するスリルそのものである。

木津毅