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Sleater-Kinney

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The Hot Rock

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All Hands On The Bad One

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 要するに、少年ナイフね。
 という乱暴な印象が長い間わたしの認識だった。このばばあはライオットガールというより、スリッツと少年ナイフの年代なのである。
 UKでは、USでライオットガールが出て来るずっと前からいろんな女たちがライオットしていた。政界ではマーガレット・サッチャーが男性閣僚に怒鳴り散らして暴れていたし、ケンジントン宮殿では皇太子妃ダイアナが不倫相手とテレフォン・セックスに興じて王室に中指を突き上げていた。「バンドマンの恋人やグルーピーでいるのはもう嫌。これからは、アタシたちが自分でやる」とライオットガールそっくりのことを言ってスリッツやレインコーツ、スージー・スー、ポリー・スタイリンらがパンク界に進出したのは70年代後半のことである。それが米国では90年代初頭だったというのだから、そのタイムラグは何なのだろうと思うが、わたしは米国には行ったこともないし、別に死ぬまで行かなくてもいいと思っているのでよくわからない。

 まあしかしスリーター・キニーが少年ナイフと違うのは、ベースレスな点だ。わたしは女を楽器に例えるならベースだと思っている節があり、トーキング・ヘッズのティナやINUの西川成子、わたしが十代の頃にやってたバンドにさえ佐藤姿子という肝の据わった女性ベーシストがいたのでそういう思考回路なんだろうが、ベースはバンド・サウンドの土台であり、夜道を照らす明かりのように進路を導き、圧倒的グルーヴ感を引き出す。まるで女そのものではないか。が、スリーター・キニーのサウンドにはベースが存在しない。女がいねえ。となればこっちが本物の少年ナイフなのだろうか。
 1997年の『Dig Me Out』は前作2枚のパンク臭さが抜けてロックに近づいたアルバムと言われている。ベースレスのダブルギターなだけにメロディアスなエモさがあるが、同時に粋なスカスカ感もあり、どこかトーキング・ヘッズあたりも髣髴とさせ、アルバム・ジャケットはキンクスのもじりだが、いかにもアメリカンである。
 1999年の『The Hot Rock』では「エモくてスカスカ」から表現法が拡大し、内省的な知性も見せる。ツイン・ギターでツイン・ヴォーカルのコリンとキャリーの絡み方が複雑になり、恋人だったという彼女たちの人間関係の進化が垣間見えるようだ。が、このアルバムはパンキッシュなものを求めるファンには評判が悪かったそうで、『All Hands On The Bad One』ではシンプルなロック・サウンドに戻っている。シングアロング的な曲が並んだ同作は、英国でも「彼女らが米国で最高のロック・バンドと呼ばれる理由がわかった」(byガーディアン)と絶賛された。『Dig Me Out』よりサウンドにどっしり感と粘りが出て、キンクスっぽいのは寧ろこっちだ。
 昔、カート・コバーンが「少年ナイフを聴いていると泣けてくる」と言っている映像を見たことがある。&スリーター・キニーを「US最高のバンド」と呼んだのも男性評論家たちだった。女子がいたいけにもギターを弾いて男世界でがんばってるからそのメッセージ性がUS最高に値する。というのであれば、それは評論ではなくポリティカル・コレクトネスだろう。        
 折しも2014年はフェミニズム流行りだった。エマ・ワトソンが国連本部でフェミニズム演説をし、テイラー・スウィフトは近年のフェミニストたちはPRが下手だったと指摘し、カール・ラガーフェルドはパリコレでモデルたちにデモ行進をさせた。英国版『エル』誌はフェミニズム特集号まで出している。
 欧米メディアはエマやテイラーを「新たなフェミニズムの象徴に相応しい、賢く美しい女たち」と絶賛し、「太った女はランウェイを歩かせたくない」発言で欧州で袋叩きにされたシャネルのカール・ラガーフェルドはスーパーモデルたちにプラカードを持って歩かせて「ヒップ」と称賛された。
 このばばあもこの歳になるとフェミニズムの盛り上がりは何回か見てきてるんだが、どうも現代のフェミニストはセレブ系ビューティー(『アナ雪』の姉ちゃんの方が人気があるのもそうだ)+パワーを持つ女でなれば当の女たちから支持されないようで、フェミニズムの世界もいよいよキャピタリスティックだ。それはまるで80年代の「マテリアル・ガール」が「フェミニスト・ガール」になって復活したようで、個人的好みを言わせてもらえば、わたしはブルーズのないフェミニズムを信じない。

         *******

 んなことを考えながらスリーター・キニーの再発版を聴いていると、「弱々しく迷わなければ女が全てを手に入れることは可能」というキャピタリスト・フェミニズムと、多くのものを持たない三人編成のスカスカしたサウンドとの落差には、妙にしみじみとしたものがあった。

 そのしみじみ感は、再結成した彼女たちの新譜を試聴させていただくにあたり、ブルージーな詫びさび感へと発展したのだったが、それについてグダグダ言うのは新年に持ち越したいと思う。

ブレイディみかこ