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Forgotten Punk

Forgotten Punk

#2:アナキストに煙草を

野田 努 Feb 02,2010 UP

 もうひとつ僕の感想を言えば、まあ......、最近はたいてい缶ビール(大量に家に積まれている)を飲みながら読んでの感想なので、たいそうなことではないのだけれど、先述したように、「より人生に近いレヴェル」から綴られるという"言葉"についてだ。ザ・クラッシュもザ・スペシャルズも、自分の人生に照らし合わせながら言葉を吐いているだけだとも思えるし、ここ10年における日本のラッパーの面白さもそれに尽きるのだ。

 以下、少し長いが本書において重要な箇所を引用してみる。

 ――が、かと言って、何らかの形で強制的な平等化がおこなわなければならないと考えた人間に、私はたいして共感を覚えないのである。それはあまりにも安易な道であり、もっとも極端な形では、ポル・ポトとクメール・ルージュによって採用された方法だった。彼らはイヤー・ゼロを宣言し、すべての人間を極度に悲惨で貧しく無学な農民に貶め、その未来に狂喜しない者を皆殺しにしたのである。すべての人間を平等に悲惨な状況に追い込むことを目指すいかなる革命にも、私は大きな懸念を感じる。(略)心の奥底で私は俗物なのである。個人の権利と自由について情熱的な関心を抱いてはいるが、同時に人生が提供してくれるものを享受することに目がない。まわりにある本や音楽やヴィデオテープが好きだし、12年もののスコッチ、ヴィンテージ・ワイン、上質なチーズ、イチゴとクロテッド・クリーム、晴れた午後に飲むカクテル、グスタフ・クリムトの絵画やヘルムート・ニュートンの写真を愛し、ドラッグも手に入る限り最上のものを選ぶ。美しく奔放な女性に魅かれ、彼女たちが私に魅かれることもたまにある。血統書付きの猫や金魚や日本のアニメが大好きだ。
(略)が、同時に私はカネに対する執着心が全然ない。まったく非商業ベースの独創的なアイデアを追求するために、赤貧でもやっていけるだろう。が、共産党員やナチ幹部や議長にそうしろと言われたからといって、不味いペーストを塗ったトーストで食いつなぎ、白黒テレビを見ながらセメダインを嗅ぐ生活はしたくないのだ――

 ザ・ストリーツがファースト・アルバムでやったことと言えば、リズラとプレステとクラブ三昧の「俗物」である自分の日常を語ることでしかなく、しかしそれがゆえ重要な指標になりえたとも言える。あの頃はセカンド・サマー・オブ・ラヴの残滓もまだあったし、自分をふくめてポップ・カルチャー全体が"ムーヴメント"=大きな物語というオブセッションを抱えていた。数年前に三田格と宇川直宏の〈マイクロオフィス〉で続けていたトークショーのテーマも「ムーヴメントのなさ」がテーマだったし、先日の田中宗一郎とのトークショーでもこのことは話題になった......というよりさんざん迷子になりながら、結局のところこのことについてアーでもないコーでもないと話してきたように思っている。一部の方々には後ろ向きな考えであると思われたかもしれないけれど、僕はものすごーく前向きに、とりあえずいまは、そんなもの(大きな物語)にこだわらなくても良いじゃないかと話したつもり。あるいは、もしそれをこれからまた新しく話すのなら、くどいようだけれど、「より人生に近いレヴェル」からはじめたいと思っている。要するに、地に足が着いた言葉で。

 それともうひとつ興味深いと感じたことがある。ファレンがセックス・ピストルズにおいてもっとも感心したのが(史上初めてイギリス訛りでロックンロールを歌ったことと)、そして例のアメリカ・ツアーの最後のステージでジョニー・ロットンが吐いた有名な台詞――「Ever get the feeling you've been cheated?」(だまされていたという気分を味わったことがあるかい?)――だったということ。それがファレンのような古典的なモダニストからすれば「ポスト・モダンの狡猾な詐欺」に見えたという、これもまあ、当たり前と言えば当たり前の話か。ジョニー・ロットンだって一生懸命だったし、大変だったんだろう。しかし当時のロットンが覚えた「だまされた」という感覚は、セックス・ピストルズそれ自身が持っていたポスト・モダニズムに由来する。それはセンセーショナルに売り出されたピカピカの商品でもあったのだ。そして、商品であることを自ら止めたのがポスト・パンクなのだから、あの時代とのアナロジーで語られる現在のシーンを嘆くのもどうかと思う。

The Deviants
The Deviants
Disposable

 さて、冬の3時半は日の角度から言って夏の6時半だ。稲垣足穂のように黄昏に生きる人間として、また今日も冷蔵庫を開けて缶ビールでも出すか......。忘れられたパンクのひとつであるザ・デヴィアンツの『ディスポーザブル(使い捨て)』でも聴きながら......。

 最後の最後にもうひとつ引用。

 ――もし革命の最初の構想が個人を解放して自分の夢を追い、自分の可能性を追求する自由を与えることだとすれば、その革命がたちまち夢を制限して、可能性を阻む場合、何を達成できるのだろうか? この葛藤に身を投じることはアーティストの義務かもしれないが......(略)。

 葛藤がそのまま音に出ているのが、例を挙げれば、そう......もう言わなくてもわかるでしょ、彼ですよ、彼。ファレンの翻訳を僕に教えれてくれたのも彼だった。

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