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Forgotten Punk

Forgotten Punk

#10:Last night DJ saved my life

野田 努 Mar 29,2011 UP

 デリック・メイは怒っていた。3月17日、テレビでBBCを点けっぱなしにしながら原稿を書いていたら、連日トップ・ニュースとして報じている「JAPAN DISASTER」においてアナウンサーが「それにしてもなぜ福島の人たちは怒らないのでしょう」と口走った。こんな発言を聴くと「こうした事態になっても日本人は暴れることなく落ち着いて......」という褒め言葉も皮肉に思えてくる。いや、実際には怒っているのにもかかわらずその声がマスメディアでは報じられていないだけだろう。感情も制御されているようだし、いずれにしても3.11以降、夜は余震に起こされ、福島原発からは相変わらず放射性物質が漏れているようだ。コンビニに行っても食物はないし、雨には濡れるし、水道水を使わないわけにはいかないし、奇妙な自粛ムードが日本を支配している。静岡で毎年夏におこなわれる安倍川の花火大会の中止までもがこの時期に発表された。
 デリック・メイが怒っていたのは、海外のニュース番組の報道についてだった。「あれを聞いたら誰も日本に来なくなる」と、地震から1週間後の成田に降りた彼は言った。「もう人が住む場所じゃないという感じで、とにかく大袈裟なんだ。そこで生活している人たちがいるというのに失礼だろ、このマザーファッカーめ!」と僕に向かって怒鳴った。
 実際の話、海外のロックのライヴ公演はことごとく中止になっている。来日が予定されていたDJのキャンセルも相次いでいる。ほとんどの場合、4月も見通しが立っていないところが多く、ゴールデンウィークのスケジュールも揺らいでいる。「こんなときに日本に行くなんて、さすがに熱い男ですね」とベルリンにいる浅沼優子さんは感心していたけれど、海外メディアの報道を見たうえでこの時期に来日するのはそれなりに強い気持ちがいることだと思う。
 アメリカからの成田行きの便は搭乗者が少なくことごとくキャンセルになっているので、デリック・メイはキャンセルを恐れ、スケジュールを前倒しにして入国した。彼はそれから宇川直宏に電話してDOMMUNEの出演を直訴した。あの番組を観ていた人には不自然に感じたことだろうけれど、WADAさんのDJが終わって僕と門井隆盛くんがマイクを持ってDJブースにいたのも、簡単にデリック・メイの心境を話してもらってからDJプレイに移りましょうと本人を交えて打ち合わせたうえでのことだった......が、しかし、あのように見事に裏切られた、というわけである。「さっさと出ていけ!」はないでしょう、いくらなんでも(笑)。
 そして......およそ2週間ぶりにお客さんが入ったDOMMUNEには、クラブ・カルチャーの最良の雰囲気があった。その晩はバーテンをやっていた豪邸住まいのメタルに「クラブって良いな!」と肩を叩くと、前の週末の彼のパーティにもたくさんの人が集まったと自慢された。依然として楽観できる状況にはまったくいないけれど、こういうときは音楽好きで良かったとつくづく思う。とにかくわれわれには集まる場所があるのだ。

 最初に僕に突破口を見せてくれたのはキラー・ボング(aka.ブラック・レイン)だった。僕は心底驚いた。3月20日のDOMMUNEのDJブースに立ったあの天才は、破壊されたこの世界においてさらなる破壊を試みた。慈愛の言葉があらゆる場面で飛び交い、そして自粛ムードという緊張感に覆われたこの世界において、あのプレイは誰にでもできることではない。もちろん3月13日のラリー・ハードをはじめとするすべての出演者、ムードマン、七尾旅人、ノブ、クラナカ、ロブ・スミスのプレイはまったくもって心がこもったものだったし、20日のシミラボとRAU DEF、PUNPEEとPSG、S.L.A.C.K.といった若い力もみんな美しかった。僕はその場にいなくても、ほとんどすべてを聴いていたし、それぞれの場面でずいぶんと感動したものだった。ただ......、そう、ただ、キラー・ボングだけは何か違うところを見ていた。
 それは人間の不条理への呪いのようにはじまった。エフェクトがかけられた抽象的な音の不穏な渦巻きからビートが聴こえる。しばらくするとファラオ・サンダースがけたたましく吠えている。悲しみがすさまじい勢いで押し寄せる。ターンテーブルの上には不気味極まりない骸骨、歯模型、あるいは悪魔の人形が置かれている。骸骨がぐるぐるとまわるなかで、彼のなかの激しい感情が音になって暴れている。口当たりの良い音ではないし、「これはいま聴きたくない音だな」というツイートもあったが、実は僕は、そのときもっとも聴きたかった音だった。待っていたのはこれだ! という感じだった。彼のラディカルなダブミキシングによって無秩序にうごめいている音を聴いていると、不思議なことに"自由"が見えてくる。自由......それは命と同じように尊いものだ。
 キラー・ボングの集中力が途切れることはなかった。彼は目を閉じて、始終音のみに集中していた(飲み物を差し出しても気がつかないほどに)。やがてシンク・タンクがミックスされ、それからウータン・クランとヘア・スタリスティックスの溝を埋めるような彼のミックス・ショーは、コンガのビートがファンクのうねりに絡みつくディアンジェロの"スパニッシュ・ジョイント"を最後のクライマックスとして、そしてフェイドアウトしていった......。それはアヴァンギャルドがこの瞬間(滅びた街々、汚染された環境、買い占めパニック、錯綜する情報などなど......)に向き合ったときの、素晴らしい声明に思えた。容赦のない怒りが噴出し、そして絶え間なく溢れる願いが氾濫した。音楽はときに隠された真実を引きずり出すのだ。

 僕はあの濃密な1時間半の、キラー・ボングの破壊的なミックス・ショーが道を作ってくれた気がしている。あれがなければ多様であるべき感情表現すらも、あるいは自由であるべき表現さえもいまよりも不自由なままだったかもしれない。Last night DJ saved my lifeが起きたのだ(もちろん誰もがDOMMUNEを見ているわけではないが、こうしたささやかな亀裂やさざ波がいずれ大きく広がり物事を動かすことはある)。
 ああ、そういういえば、あの日の僕は風邪で喉がガラガラで、実に聞き苦しい声で、視聴者の方にはたいへんな失礼をした。「何を悲痛な声で......」とキラー・ボングには笑われたけれど、このタイミングで風邪を引くというのも我ながら情けない。いまも身体がだるいなーと思いながらこの原稿も書いている。テレビではBBCが東電本社の前のデモをレポートしている。「こんな事態になっても人びとは無関心なようです」とイギリス人のレポーターは伝える。それから場面は浜岡原発へ......。震災のコメントでマユリちゃんや湯山玲子さんも言ってるけど、この災害を原発というものを考え直す良い機会にしなければならない。チャリティーも大切だが、これもまた未来に向けての重要な事柄。ヨーロッパでは、これは大袈裟な報道の恩恵とも言うのか、脱原発の世論が高まっている。すぐに停止というわけにはいかないだろうけれど、スイスは国民の健康を第一に考え、原発計画を凍結させ、UKも原発は必要としながらも老朽化した原発は閉鎖、イタリアでも原発再開を1年間凍結、ドイツでは25万人のデモ......。なにはともあれ、とにかく早いところ放射能の漏洩だけでも止めて欲しいわ、ホントに。

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